第19話 王城での謁見と、傲慢な権力者たち
前話、王都へと向かう馬車の中でヒロインたちのバチバチの正妻マウント合戦が繰り広げられる中、徐々に王国の不穏な監視の気配が漂い始めました。
今回お届けする第19話は、ついに王都へ到着したhideを待ち受ける、権力者たちとの緊迫の謁見エピソードです。
見どころ①:傲慢な権力者と「トラウマのフラッシュバック」 王城での謁見の場で、前世の因縁の相手を彷彿とさせる軍務大臣ダリウスから、帝国兵の「殲滅」を笑顔で要求されるhide
。その無責任な命の奪い合いの強要に、前世の凄惨な殺人の記憶(不殺の呪縛)がフラッシュバックし、hideは権力者たちの思惑を真っ向から拒絶します
。
見どころ②:チートの裏事情と「深淵書庫」への要求 金品や爵位をすべて突っぱねたhideが、唯一報酬として要求したのが王立図書館の『深淵書庫』への入館許可でした
。実は「128名同時再生」という規格外の奇跡の代償でメルキオールの演算が処理落ち寸前であり、システムを最適化するための切実なデータ収集が目的だったという、無敵のチートに隠された裏事情が明かされます
。
見どころ③:セレスティの看病と「人工的な魔力」への気づき 滞在先となったボロ教会で疲労困憊のhideを甲斐甲斐しく看病し、精神的な依存(囲い込み)を深めようとするセレスティ
。しかし、極めて高い感受性を持つ彼女だけが、hideの神聖な魔力の中に潜む「冷たい機械的な稼働音(システムの演算)」という異物感に気づき始めます
。
王都の権力者たちによる外堀の埋め立てと、水面下で進行するシステムの限界。息の詰まるようなサスペンスの気配が漂う王都編の本格的な幕開けをお楽しみください。
王都への馬車の旅を終え、俺たちは豪奢な王城の謁見の間へと通された。
高い天井と絢爛豪華な装飾.
だが、そこに立ち並ぶ国王や貴族たちの視線は、決して「奇跡の聖者」を純粋に信仰するものではなかった。
それは、利用価値のある「強力な駒」を品定めするような、欲深き権力者たちの色を帯びていた。
「よくぞ参った、奇跡の聖者殿. フェルデン防衛戦での獅子奮迅の活躍、聞き及んでいるぞ。そなたが一人で数千の兵隊を退け、死者をも蘇らせたと、王国中にその武勇が轟いておる」
軍務大臣のダリウスが、いやらしい笑みを浮かべて俺の前に進み出た。
恰幅が良く、他人を「使える駒」か「不要なゴミ」かでしか判断しないその傲慢な態度は、前世で俺の家族の死を隠蔽した、あのケヴィン・ローガンを彷彿とさせた。
「そこで提案なのだが. 我が王国軍の指揮権と最新の武器をあなたに与えよう。その奇跡の力で、憎き帝国兵を一人残らず『殲滅』していただきたい!」
その言葉と、権力者たちの欲に塗れた笑顔を見た瞬間だった。
(――っ!)
俺の脳裏に、凄惨な血の匂いと光景がフラッシュバックした。
忘れ物を届けに来たと嘘をつき、親友の顔をして美咲と子供たちを惨殺した桐谷の笑顔.
そして、すべての真実を裏で揉み消し、マフィアの金で笑っていたケヴィンの底知れぬ悪意。
『殲滅』.
命を奪うことへの、無自覚で無責任な肯定。
俺の魂に刻まれた【不殺の呪縛】が強烈に刺激され、急激な吐き気が込み上げてきた.
呼吸が浅くなり、隠した両手がガタガタと制御不能なほどに震え始める。
『――警告. マスターのPTSDフラッシュバックによるバイタル異常を検知しました』
シエルの無機質なアラートが脳内に鳴り響く。
『不快な虫どもですわね. マスターの平穏を乱すというのなら、今すぐクラリスに命じて全員の首を落とさせましょうか?』
バルタザールが、慈愛の裏に隠された冷酷な声で物騒な提案をしてくる。
『却下します、バルタザール. ここで惨劇を起こせば、マスターの精神状態はさらに崩壊しますわ』
シエルが即座にそれを制止した。
「……お断りします」
俺は震える手を必死にローブの奥に隠し、絞り出すような声で貴族たちの提案をすべて拒絶した。
「私はあの戦いにおいて、剣を振るうことも魔法で敵を倒すこともしておりません. ただ、傷ついた人々を癒やしたに過ぎないのです。私が数千の敵を倒したという話は、過剰な英雄伝に過ぎません」
俺の言葉に、謁見の間の空気が凍りついた.
俺を政治的に利用しようと考えていたダリウスたちは、露骨に不快そうな表情を浮かべる。
「無礼であろう! 王国の英雄としての自覚が足りぬのではないか!」
怒鳴り声を上げる大臣を、俺は一瞥もしない。
「私は王国の民ではありません. 自由の身です。もし私に強制的な干渉をなさるのであれば、私はこの場をすぐに立ち去ります。……私は、誰の駒にもなるつもりはありません」
「貴様、王の前だぞ!」と殺気立つ大臣たちを、最前列にいた良心的な風貌の大臣が「静まれ……!」と制止した。
「聖者様は遠方から王国の招きに応じてくださったのだ. それを不敬などと詰る方が、矜持を疑われる」
その一言で場が静まり返ると、王が王座から立ち上がり、驚くべきことに俺に向かって深々と頭を下げた。
「……聖者殿、すまなかった. 家臣たちの無礼、余が詫びよう。そなたを無理に取り込むような真似はしないと誓おう」
王は晴れやかな顔で、「城に最高の客間を用意させた. 専属のメイドもつける」と提案してきたが、俺はそれも平然と突っぱねた。
「私は、そのような城の暮らしを望んでおりません」
「では、王立のホテルはどうだ?」と食い下がる王に対し、俺は街の外れにある孤児院併設の小さな教会に滞在すると告げた。
「金品や爵位も必要ありません. すべて辞退させていただきます」
「なんと……無欲な……」と感銘を受ける良心的な大臣から、「せめて何か一つでも受け取ってほしい」と誠実に懇願され、俺はわざと少し悩んだふりをした。
「……では. 私は世界の理について知見を深めたいと考えております. 報酬の代わりに、王立図書館の全ての書架……特に一般には公開されていない貴重な資料が収められた『深淵書庫』への入館許可をいただけますでしょうか」
王は驚きつつも快諾し、俺に王家の紋章が入った入館証を与えた。
俺が謁見の間を去る時、セレスティは聖女のような微笑みを浮かべて寄り添い、クラリスは「……hide様、少しやりすぎでは」と冷や汗を拭いながらも、誇らしげに俺の背中についてきた。
* * *
案内された王都外れのボロ教会に到着し、俺が疲労困憊で深いソファに倒れ込むと、脳内でメルキオールが静かに口を開いた。
『……よく耐えてくれました、マスター. 先ほどあなたが深淵書庫を要求してくれたことは、私たちのシステム維持において極めて論理的かつ必須の選択でした』
「……どういうことだ、メルキオール」
『……実は、フェルデンの野戦病院での【128名同時無詠唱・欠損再生】ですが. 世界の魔力法則に強引に干渉しすぎた結果、私の演算負荷が限界(処理落ち寸前)に達していたのです』
メルキオールの深刻な声に、俺は目を見開いた。
『このままでは、多数の対象に同時に干渉した際、致命的なシステム遅延が発生し、マスターが死ぬリスクがあります. これを根本から解決するには、この世界の基礎的な魔導理論や数式を大量にインプットし、私の演算アルゴリズム自体を軽量化・最適化する必要があるのです。……だからこそ、あらゆる知識が眠る深淵書庫が必要でした』
俺たちを無敵に見せていたチート能力の裏には、薄氷を踏むようなシステムの脆さが隠されていたのだ。
「hide様、ひどくお疲れのようですね. 温かいハーブティーを淹れました」
俺が戦慄していると、セレスティがごく自然な動作で隣に座り込んできた。
彼女は甲斐甲斐しく世話を焼きながら、俺のガタガタと震える右手を両手でそっと包み込み、自分の膝の上へと誘導して指を絡めてくる。
クラリスが外敵を阻む「物理的な盾」であるなら、セレスティは俺の日常を管理し、無自覚な精神的依存(侵食)を植え付けようとする「精神的な盾」だ.
彼女の温もりに、フラッシュバックしていた過呼吸が少しずつ落ち着いていく。
だが、俺の震えを鎮めようと自らの魔力を同調させたセレスティは、ふと内心で首を傾げた。
(……hide様の魔力は、とても神聖だけれど. 祈りというより、まるで精巧な『歯車』のように規則正しすぎる。血の通った温かさとは違う、冷たい、人工的な異物感があるわ……)
極めて高い感受性を持つ彼女だけが、マギたちのIT的・人工的な魔法処理の違和感に気づき始めていた。
外には王国の監視、内には処理落ちのリスクとヒロインたちの重すぎる狂信.
俺の王都での生活は、息の詰まるようなサスペンスの気配を孕みながら幕を開けたのだった。
[System.Audit_Log: 019]
対象:マスター(hide)
状況:権力者からの「殲滅(殺人)」の強要によりPTSD発動。セレスティとの接触により鎮静化へ移行。マギ・システム稼働状況:サブ人格『MELCHIOR』による処理落ち回避プロトコルとして、王家図書館の物理スキャン計画を承認。
所見:
王都内でのマスターの政治的孤立化リスクは低減。ただし権力層からの敵意は健在。
[Warning: Unidentified_Context_Leak: 'マスターを道具扱いする大臣たち' / '身の程を知るべき']
※引き続き、システム深層からの監視プロセスを継続。
[Status: Observing]




