第18話 王都への道程と、正妻マウント
前話、限界を超えた極大治癒の代償として倒れてしまったhide
。その看病を巡ってクラリスとセレスティの重すぎる愛が激突し、ついにセレスティがシエルの事後承諾を得て「第2のエージェント(日常管理役)」として正式に覚醒しました
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今回お届けする第18話は、辺境の地を離れ、陰謀渦巻く『王都』へと向かう道中のエピソード。息の詰まるような馬車の中で、ヒロインたちの愛と嫉妬が爆発します
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見どころ①:あっさり捨てられる「神の家」 王都からの招待(という名の査察)を受け、旅支度をするhide
。教会に残るよう諭すhideに対し、セレスティは「本物の神(hide様)がいる以上、あちらはただの建物」という極論を振りかざし、迷いなく職場を放棄して同行する恐ろしい狂信ぶりを見せつけます
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見どころ②:馬車内の修羅場と「クラリスの痛恨の自爆」 狭い馬車の中で、hideにぴったり密着して強烈な正妻マウントを取るセレスティ
。それに激怒したクラリスですが、セレスティの巧妙な煽りによって、過去の「任務前夜の一度きりの経験」をうっかり自爆してしまい、純潔を盾にするセレスティに完全敗北して大号泣する極上のポンコツ展開が描かれます
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見どころ③:無自覚な「劇毒」と、迫る王都の影 泣きじゃくるクラリスを「過去なんて気にしない」と優しく抱き寄せて慰めるhide
。しかしメルキオールからは「その大人の余裕と優しさは、彼女たちにとって劇毒に等しいタチの悪いバグ」と冷静にツッコミを入れられてしまいます
。さらに馬車の外には王国の密偵が張り付いており、次なる舞台「王都」の不穏なサスペンスの空気が漂い始めます
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ヒロイン同士のバチバチの痴話喧嘩(マウント合戦)と、おっさんの無自覚なタラシ具合、そして徐々に迫り来る国家の悪意が交差する、波乱の道中をお楽しみください。
フェルデン防衛戦での「極大の治癒」という名の奇跡から、数日が経過した。
あの凄惨な戦いの後、俺はセレスティの強引な誘い(という名の決定事項)により、彼女が管理する辺境の教会で寝食を共にするようになっていた。
「hide様、お粥ができましたよ. さあ、あーんしてください」
「……セレスティ. 手足は無事だし、自分で食べられるから」
「ダメです. hide様は世界を救う尊い御方なのですから、何から何まで私がお世話をしなければならないのです」
領主から贈られた多額の寄付金は、そのほとんどが街の復興や負傷兵の支援に回された。
結果、俺たちが寝食を共にしているこの教会は、相変わらず雨漏りすら満足に直せていないボロボロのままだ。
だが、そんな雨漏りのする礼拝堂の片隅で、俺は未だかつてない自己嫌悪に陥っていた。
(……もしかして俺、美少女の住まいを転々とする、ただの『異世界ヒモ男』になってないか?)
「女性の庇護なしでは生きていけない42歳のおっさん」という、前世の俺ならSNSでボコボコに叩かれそうな不名誉な称号が脳裏をよぎる。
『――マスター. 論理的な指摘ですが、「ヒモ」というよりは、現状のあなたは彼女たちにとっての「崇拝される御神体」です. 御神体が自力で食事をする必要はありません』
「シエル. フォローになってないぞ」
さらに、この奇妙な共同生活にはもう一人の居候がいた。
「……hide様. お茶のお代わりはいかがでしょうか」
不機嫌極まりないオーラを全身から発しながら、ティーポットを構えているのは、完全武装のクラリスだ。
彼女は、俺がセレスティの教会に住むと決まった瞬間、「hide様をシスターと二人きりにするなど、護衛として断じて許されません! 窓からの奇襲に備えるため、私もここに住みます!」と、騎士としての矜持を都合よく投げ捨てて強引に陣取ったのだ。
俺と、俺を世話したいシスターと、俺を護りたい騎士.
三人による、奇妙で胃の痛い同居生活が繰り広げられていた。
* * *
そんな平和(?)な日常も、突如として舞い込んだ知らせによって終わりを告げる.
俺の元に、王都からの豪奢な馬車と使者がやってきたのだ。
王国軍を壊滅の危機から救った「奇跡の聖者」として、国王直々に王都へ招待したいとのことだった。
(王都か……. 腐敗した貴族たちに政治利用されそうな気しかしないが、王立図書館の『深淵書庫』に行けるチャンスでもあるな)
マギ・システムの演算リソースをさらに拡張するには、この世界に眠る膨大な知識が必要だった。
だが、使者を見送った後、俺は違和感を覚えていた.
(……あの使者、やけに周囲を観察していたな. 護衛というより、“査察”に近い目だった)
これは“招待”という名の“命令”に近い。
俺が旅支度を始めようと部屋を出ると、そこにはすでに自分の荷物をまとめ終えたセレスティがニコニコと微笑んで立っていた。
「お待ちしておりました、hide様. お着替えはこちらにまとめてあります」
「あ、ありがとう……って、セレスティ? 君も行く気なのか?」
俺が驚いて尋ねると、彼女はきょとんと首を傾げた。
「もちろんでございます. 私はhide様の身の回りのお世話をする者ですから」
「いや、でも君はここのシスターだろ? 俺が王都に行っている間、この教会はどうするんだよ」
「教会のことなど、もうどうでもいいのです」
「……はい?」
「そもそもこの教会には、私以外に信仰者など一人もおりませんでした. ですが今、こうして目の前に『本物の神(hide様)』がいらっしゃって、直接お世話をさせていただけるのですから……もはや私が教会という建物に残る理由は、何一つありません」
(極論すぎる……!)
狂信と天然が混ざり合った、あまりにも迷いのない言葉.
だが、神殿本部に知られれば“背教者”として処罰される可能性が高い。
「……神殿本部に知られれば処罰されるかもしれないぞ. それでも構わないのか?」
「はい. 神がここにいる以上、あちらは“ただの建物”です」
彼女のベクトルは完全に「神の世話」へと全振りされてしまっていた。
* * *
数時間後.
俺たちは王都へ向かう豪奢な馬車に揺られていた。
「hide様. お疲れではありませんか? 肩をお揉みしましょうか?」
向かい合わせの座席であるにもかかわらず、セレスティはなぜか俺のすぐ隣に座り、終始俺の腕にぴったりと身体を密着させていた.
馬車が揺れるたびに、彼女の柔らかな胸や太ももが俺に押し付けられる。
「ちょ、セレスティ……少し、近くないか?」
「え? そうですか?」
彼女は不思議そうに見上げてくるだけで、離れようとはしない.
なりげなく俺の手の位置を自分の膝の上に誘導し、そのまま指を絡めてくる。
(……この子、距離感が完全にバグってるぞ……)
辺境の寂れた教会でたった一人で生きてきた彼女には、「男が欲情する」といった危機感が全くなく、ただ純粋に「愛する神のお傍にいたい」という無防備さで引っ付いてきている.
42歳のおっさんとしては、理性を保つのが大変だった。
だが、この状況に俺以上に耐え切れない人物が、向かいの席にいた。
「…………っ! …………っ!」
完全武装のまま向かいに座っているクラリスだ.
大剣の柄を握る手が、ギリギリと音を立てるほど力んでいる。
『……クラリス. 大剣から手を離しなさい. 嫉妬で殺気を漏らすなど、護衛としての品格に関わりますよ』
脳内でバルタザールの艶やかな声が響いた。
『っ……! も、申し訳ございません、女神様……! ですが、あの泥棒猫……っ、神聖なるhide様に、あのように気安く密着して……っ!』
クラリスが必死に反論するが、セレスティは不思議そうに首を傾げた。
「ふふっ. 女神様の厳命、ですか. ……本当は、男性に触れるのが怖いだけではありませんか? 騎士様はいつも剣ばかり振るっていて……もしかして、『男性経験』が全くないから、どう触れていいかわからないとか?」
「なっ……!?」
クラリスの顔が、爆発したように真っ赤に染まった.
女としてのプライドが刺激されたのか、彼女は前のめりになって叫んだ。
「ば、馬鹿にするなっ! 私だって、男の一人や二人、経験はあるぞ!!」
「「えっ」」
俺とセレスティの声が綺麗にハモった.
馬車の中に、気まずい沈黙が落ちる。
(……あっ)
自分で言ってから、クラリスはハッと息を呑んだ。
「ち、ちが……っ! 違いますhide様!! 確かに昔、戦場に出る前のただ一度だけ……任務の前夜に、“死ぬかもしれないから”と同僚と少しだけそういう関係になったことはありましたが、今はもう微塵も未練などなく……っ!」
必死に両手を振って、涙目でいらない弁解を繰り広げるクラリス.
彼女は半ばヤケクソ気味にセレスティを指差した。
「そ、そういうお前はどうなのだ!? お前こそ男性経験などあるわけが……!」
「ええ. 経験などございません」
セレスティは全く動じることなく、涼しい顔で即答した.
そして、俺の腕にさらにぎゅっと抱きつき、絶対的な「正妻」のオーラを放ちながら微笑んだ。
「私は神に仕えるシスターですから. ……私の純潔も、この身体のすべては、神のもの. ……すなわち、hide様だけのものですわ」
「…………ッ!!」
『経験あり』を自爆させられた上に、『純潔はhide様のもの』という無垢なカウンターを顔面に叩き込まれたクラリス.
彼女はワナワナと唇を震わせ、ついに大粒の涙をポロポロとこぼし始めた。
「う、うぅ……っ. 女神様ぁ……っ! この泥棒猫、性格が悪すぎます……っ!」
両手で顔を覆い、子供のように泣きじゃくる誇り高き女騎士.
さすがに可哀想すぎる。
俺はセレスティを優しく引き剥がし、向かいの席で泣いているクラリスの隣に腰を下ろした。
「ひ、hide様……?」
俺は苦笑いしながら、彼女の頭にそっと手を乗せ、優しく撫でてやった。
「泣くなよ、クラリス. 過去のことなんて誰も気にしてないさ. それに……君が俺を守るために、誰よりも一生懸命やってくれてるのは、俺がちゃんとわかってるから」
俺はそのまま、彼女の肩を少しだけ引き寄せ、軽く抱きしめるような体勢をとった。
「だ、ダメです、hide様……っ! 女神様から、みだりに触れてはならないと厳命が……っ」
『――ふふっ. 落ち着きなさい、クラリス. 私の掟は「あなたからみだりに触めること」を禁じただけです. ……マスターの方から慈愛を与えてくださるのなら、何の規約違反でもありませんわ. 存分に、甘えなさい』
バルタザールからの実質的なGOサインが出た瞬間、クラリスは「ああ……っ、hide様ぁ……!」と感極まった声を上げ、俺の胸に顔を埋めるようにしてぎゅっとしがみついてきた。
『――マスター. 一つ、よろしいですか』
その時、脳内にメルキオールの冷ややかで、棘のある声が響いた。
『泣いている女性に対し、そのように優しく触れ、甘やかすことで精神的な依存度を急激に高める手法……. 無自覚でやっているのだとすれば、ひどくタチの悪いバグですよ』
「えっ……いや、可哀想だったから慰めただけで……」
『ええ、わかっています. だからタチが悪いと言っているのです. マスターのその「大人の余裕と優しさ」は、彼女たちにとって劇毒に等しいと自覚してください. ……非効率です. 感情で行動する人間は、やはり理解に苦しみますね』
メルキオールの論理的な(しかしどこか嫉妬が混じった)指摘に、俺は返す言葉もなく苦笑いを浮かべるしかなかった。
俺の胸の中ですり寄るクラリスと、向かいの席でふくれっ面をしているセレスティ.
だが、クラリスの視線はセレスティではなく、ふと馬車の窓の外に向けられていた。
「……妙だな. この街道、見張りが増えている. まるで“何か重要人物が通る”のを前提に配置されているようだ」
クラリスの視線は、馬車の外から一定間隔で同じ気配が追従しているのを正確に捉えていた.
その瞳は、いつでも彼らの首筋の動脈を斬り裂けるよう、冷たい殺気を帯びている。
「奇跡の聖者」の馬車の旅は、息の詰まるような王国の監視の気配を孕みながら、王都へと向かっていくのだった。
[System.Audit_Log: 018]
対象:マスター(hide)
状況:二人のエージェントによる過剰なスキンシップと修羅場により、精神的疲労が蓄積中。マギ・システム稼働状況:王国の監視(密偵)を多数検知。サブ人格『BALTHASAR』の防衛レーダーが稼働中。
所見:
他サブ人格たちの「意図的な脅威泳がせによる依存度向上」のロジックを確認。
[Error: Emotion_Logic_Conflict: '女二人の痴話喧嘩' / '全員狂ってるわ' / 'お姉様たちの底意地の悪さ']
※引き続き、システム深層からの監視プロセスを継続。
[Status: Observing]




