34.真実
国の中央部に近づくにつれて戦闘の傷跡は深くなる。大通りは魔術によって大きく掘り返され、瓦解した家々の残骸がわき道を埋める。そうして遮断された道をフミのルーン魔術により破壊して進む。
木の幹ほどはある灰色の手足が床に転がっており、儚い光の粒を放って切断面や指先から消失が始まる。その様子を見るフミは痛ましい表情を見せる。
軽傷の者やトロールの攻撃から辛うじて逃れることのできた住民が半ば狂乱状態で互いの生存を確かめ合う。命を拾った者達は口々に奈落と化した世界への憂いを吐露し、神名らしき単語を口にしながら拝跪する者もいる。
悲痛な叫びのなか、禍根であるトロールに対して憤懣の言葉を散らす住民も少なくない。尤もらしさも確からしさも多様な憶測、しかしそのすべてにトロールという種族への憎悪が込められていた。
聞く限り、住民の多くは日頃からトロールに対して畏怖の念を抱き避けていたようだった。あの何でも捻りつぶしそうな巨体に射抜くような目つき、風体を一目して逃げ出したくなったことはユキトの記憶にも新しい。
フミとジョージの共通項がユキトの前にうっすらと姿を現し始める。ならばこそ、この戦を早々に終わらせなければならない。ジョージのような心優しいトロールがいることをわかってもらうためにも、彼らにかかった催眠を解かなければいけない。
メイリアの仕事仲間を、フミの唯一無二の親友を、ここで失うわけにはならない。
それはユキトにとっても同じだった。
「どうしたのですか、一度はぐれたときから常に険しい顔をしていますが」
前方をひた走るユキトに対して、フミは心配げな表情を送る。
「……ジョージは、フミにとって大事な友人だ。でも、それだけじゃないんだ」
振り返る余裕もなく、ユキトは息を継ぎながら答える。
「ジョージは……俺にとっても大切な友人だったんだ……っ!」
§
『――よう、聞いてるかユキト。俺だ、ジョージだ』
土壁に囲まれたなか、ユキトのポケットから紫紺の光とともに音声が流れる。
出どころは、ジョージの名刺であった。
『突然で悪いが、オレはしばらく旅に出ようと思ってよ。その前に話しておきてえことがあったから録音してんだ。つっても録ってるのはノルカーガで買い物付き合ってもらう前だから、もし既に話してたことなら軽く流してくれ』
いつもより大人しいジョージの声が壁に反響する。どうやらこの音声は本来、今日より数日後に流れることを想定して録音されたようだ。
『ユキトが塔を破損したときに見かけて無我夢中で助けたって話したが、実はお前のことは転生した瞬間から見てた、というより転生することを知ってたんだよ。転生使にはそういう願いを伝えてたからな』
ジョージの音声はひとりでに流れ続けるが、突然現れた土壁やシオンのこともあって話が耳に入ってこない。
『本当は最後まで話すつもりはなかったが、ちょっと事情が変わっちまってよ。伝えておかねえと一生後悔すると思ったから、ちゃんと話とく。救ってくれた恩人を、悩ますわけにもいかねえしよ』
「恩人……?」
ジョージの話す内容がいまいち掴みきれず、怪訝な表情だったユキト。
その顔は”恩人”と彼の名前が結びついた瞬間、驚愕のものに上書きされていく。
遠くでフミの詠唱が聞こえ、土壁に穴が開く一瞬前。
ユキトの耳は、その事実を確かにとらえた。
『俺は氷見谷譲二――前世でお前に助けられた人間だ』




