第24話 君の匂い
皆さんこんばんは、星月夢夜です。
最近充実した毎日を過ごしています。
ですがやりたい事が多すぎるので
充実の範疇を越えそうで恐怖です。
では、本編スタートです。
その日、街では何かのお祭りが開かれていた。人々が笑い、踊る。そんな喧騒の中、女の子は男の子の手を引いて街の中心部へと急いでいた。
「ほら早く!」
小柄な2人は行き交う人々の間をすり抜け、目的の場所へと向かう。中心部に行くにつれて人の数はだんだんと多くなり、まるでちょっとした壁に囲まれているかのようになっていった。それでも構わず、女の子は先へ進み続ける。
「なぁ、これじゃ見えないよ」
「見るの!」
後ろで男の子が苦言を呈しているのも聞かず、女の子は歩く。周りの人々は2人の右側にある道に沿うようにして立ち、何かを見ているようだ。
「あ!」
そんな時、女の子が前方に人と人との隙間を見つける。ここからでは、道にあるものは大人たちの背に阻まれて見えそうにないが、あの隙間を通って道に近いところに出られれば見られそうである。
「あそこ!」
「何? どこ?」
後ろの困惑は露知らず、嬉しさなのか女の子が歩く速さを上げた。そうして2人は見つけた隙間に小さな体を滑り込ませて、道がよく見える1番前に到達した。
「わあ!」
「……!」
視界を遮るものが無くなった2人の目に飛び込んできたのは、どうしようもなく、眩しく輝くものだった。
意識が起きてゆっくりと目を開けていくと、目の前には白が広がっていた。いや、正確に言うと枕の白色が視界をほとんど埋め尽くしていた。確か仰向けで寝たはずだが、寝ている間に枕に顔を埋めていたようだ。
「……?」
私はゆっくりと上半身を起こす。何か夢を見ていたような気がするが、内容があまり思い出せない。妙に明るく、騒がしかったような……分からない。まあいい。夢の内容に囚われていても仕方がない。この館での生活も今日が4日目だ。ここまできてやっと慣れてきたような、そんな気がする。
(……着替えるか)
意識がはっきりしてきた頃に、私はベッドから降りて服を着替える。それと同時に、まず今日やることを考える。
(昨日で館の住民全員に会うことができた。まあキグロだけ会ってはいないが……挨拶はできたからよしとしよう。つまり、これからは本格的に皆の"欠点"を見つけにいくことになる)
ここでの生活が始まった最初の日に、私とレンが目標のような感じで掲げたもの。それは、皆の"欠点"を無くすために皆の"欠点"を知ること。今は私、レン、マミさん、フラン、ソウキ、エルグ先生、ノイン、ニルの8人の"欠点"を知っている。つまり、あと18人。
(まずは、全住民に会ったという報告とこれからのことを考えるためにレンのところへ行くか)
身支度を整えながら、今日最初に行く場所は決まった。
(そういえば、昨日はレンと会っていないな。今まで関わることが多かったから、なんだか不思議な感じだ。レンの方で、何か進展はあっただろうか)
そんなことを考えつつ、私は着替えを済ませて自分の部屋を出ると、早速レンの部屋がある東館へ向かう。おそらく今までとは変わるであろう今日からの生活に、決意と不安を抱えながら。
西館を抜けて玄関前を通り、東館へ赴く。昨日この東館の2階で、ライクのマジックをノインとフィーチェと見たのを鮮明に思い出せるな。思わず顔が綻びつつ、1階にあるレンの部屋へと足を進める。
(……着いた)
右側の1番奥、そこがレンの部屋だ。1日ぶりにその扉をノックする。応答がなくいないかと思ったが少しして扉が開き、中からレンが顔を見せた。レンは訪問してきた私を見て、少し驚いた表情を浮かべる。
「! レイン、おはよう」
今思ったが、こんな朝に訪ねてきてしまって大丈夫だったかとなんだか申し訳なくなった。
「おはようレン。朝からすまない、少しいいか?」
「あぁ、入ってくれ」
そう言って扉を開けたまま、レンが部屋の中へと入っていく。レンにとっては何気ない行動かもしれないが、信頼してくれているようでなんだか嬉しくなる。勘違いかもしれないが。
レンの部屋の中に入り、私とレンはいつものように部屋の左側にあるソファに対面で座る。ふと部屋の中を見ると、なんだかキッチン前のカウンターやベッド付近にある書類の数が増えている気がする。レンは私がそんなことを考えているとは知らずに、前で足を組んで眼鏡を押し上げた。
「それで、何の話だ? 何か進展があったか」
いきなり本題に入ろうとするところはレンらしい。
「あぁ。昨日で、住民全員と会うことができたんだ。と言っても、キグロだけは姿を見ずに挨拶だけだったが」
「あの人はそんな人だ。気にすることはない」
「はは、ノインにも似たようなことを言われたよ」
やはりキグロの印象は皆同じ感じなんだな。次に彼の部屋に行く時は、必ず姿を見たいものだ。
「それで、今日からは皆の"欠点"を知りにいくことになる。だから、その作戦をレンと話し合いたいと思ってな」
「作戦か……」
私の言葉を聞いたレンが顎に手を当てて、何か考えるような仕草を見せる。
「前のミラのように、正面から聞いても教えてくれる奴は少ないだろう。住民にもよるが、隠したいと思っている奴も一定数いるからな」
それを聞いて、私はエルグ先生の言葉を思い出した。"欠点"はその人の最も嫌なものになっている。もし先生のその仮説が本当だったとしたら、自分の最も嫌なものを見られるのは誰しもが嫌なはずだ。
「それに、いきなりそんなことを聞いてこちらの印象が悪くなるのも避けたい。特にレインのはな」
思わず首を傾げる。
「なぜ私の?」
レンが眼鏡を押し上げた。
「他の住民に性格が知られている俺と違って、レインの性格はまだあまりよく知られていないだろう。だからこそ、悪い印象は持たせたくない。今後の行動に影響が出るからな」
なるほど。私には考えもつかなかったな。
「それと、俺みたいに見た目だったり、あとは行動なんかに現れる"欠点"を持っている住民も少なからずいるはずだ。そういった奴らは、行動を共にすれば分かる可能性が高い」
「つまり今後は、まだこちらが"欠点"を把握していない住民の皆と行動を共にする、が作戦の内容と?」
レンが頷く。
「簡単に言うとそんな感じだな。だが、ただ一緒にいるだけでは駄目だ。行動を共にする中で、その住民と対話することが必要不可欠だろう。そこで、と言ってはなんだがレインの出番だ」
突然のレンの言葉に驚く。
「私の出番?」
「あぁ。先も言った通り、レインの性格は住民たちにはまだよく知られていない。住民の中には、レインと話したいと思っている奴やレインのことを知りたいと思っている奴もいるだろうと、俺は思っている。レインが住民たちに対して思っているようにな」
確かに私はこの館に住む全住民のことを、もっと知りたいと思っている。それは"欠点"云々でなはく、ただ単純にその人のことを知りたいという紛れもない本心だ。もしそれと同じようなことを皆が思ってくれているとしたら、それほど嬉しいことはないな。
「だから、これからレインには他の住民たちと積極的に対話をしてほしい。新しくここへ来たレインにしかできないことだ」
「……分かった。元々、皆ともっと話したいと思っていたところなんだ。挨拶程度しか言葉を交わしていない者もいるからな」
私の返事を聞いたレンはふっと笑う。
「そうか。流石はレインだな」
レンの表情の変化に、つられて私も笑みを作る。今日からは館の住民と会うではなく、館の住民と対話して住民のことを知る、が私の目標になる。それもただその住民のことを知るだけでなく、皆の"欠点"が何かを探らなければならない。上手くやれる保証はないが、皆と話したいと思っていたのは事実であるし、レンに期待を寄せられている以上頑張らないとな。
「……よし。作戦が決まったところで、レイン、腹は減っていないか?」
ふとレンがそう問うてくる。
「減っているぞ。起きてからまだ食べていないからな」
「そうか。なら、一緒に朝飯でもどうだ?」
私は頷く。
「あぁ、構わない」
今度は私の返事を聞いたレンが頷くと、そのまま立ち上がった。私もレンに続いて立ち上がり、2人で部屋をあとにして食堂へ向かうことに。朝の食堂に誰かがいればいいなと、そう思いながら。
これからすべきことが決まり、ひとまず私とレンは食堂へとやって来た。中に入ると、早速食堂ならではの良い匂いが漂ってきた。これによって一気にお腹が空いてくる気がするな。
「レイン」
そんなことを思っていると、不意にレンに名前を呼ばれてレンを見ると彼は顎で食堂の右奥を示した。
「……サミュ?」
その方を見ると、右側の1番端の席にサミュが1人で座っていた。昨日の朝に座っていた場所と全く同じ。どうやら、あそこがサミュの定位置のようだ。声をかけようと思ったが、昨日はサミュが私の存在に気付いておらず少し驚かれてしまったから、今日はサミュが気付くように前から行こう。するとそれが功を奏し、私が話しかける前にサミュが気付いてくれた。
「サミュ、おはよう」
「レインさん、レンさん、お、おはようございます……!」
そう言って、サミュはもじもじと指を絡ませる。なんだか光景が昨日と似過ぎていて、昨日の朝に巻き戻ったみたいだ。
「サミュはもう朝は食べたか?」
「いえ、まだです。あの、もしよければ、お2人とも一緒にどうですか……?」
「いいのか?」
私が聞くと、サミュは笑みを浮かべながら頷いた。
「は、はい。せっかくですし……」
「ありがとう」
サミュの厚意に甘え、私とレンはサミュの向かい側の席に座る。その時、ちょうどよく食堂奥の扉からターシャが姿を見せた。
「レインさん、レンさん、サミュさん、おはようございます」
そう言い、ターシャは柔らかな笑みを見せてくれる。
「おはようターシャ」
「おはよう」
「お、おはようございます……!」
私たちがそれぞれ挨拶を返すと、ターシャがさらに深い笑みを見せる。
「朝食の方、今からお作りしますので、少々お待ちくださいね」
「あぁ、いつもありがとう」
ターシャはその場で会釈をすると、食堂奥の扉の中へ戻っていった。ターシャが朝食を作ってくれるまでの間、さっきレンと話した対話の作戦をサミュと行う、まさに絶好の機会だ。昨日は朝食後カイに会いに行く用事があったために早めに離脱したが、今日は思う存分だ。
「そういえば、サミュは普段何かしていることはあるのか? この館の住民たちは、皆何かしらの職をしているようだが……」
「え、えっと、職業というほどでは、ないんですけど……普段は自分の部屋で、香水を作っています」
「香水?」
私が思わず聞き返すと、サミュが小さく頷いた。
「サミュは香水を作る、いわば調香師だ。とても良い匂いだと、館内では評判だ」
レンの言葉にサミュはぱっと顔を赤らめ、おどおどし始める。
「そ、そんな……! 調香師だなんて……! た、ただの趣味ですから……」
そう言って顔を下に向けて、またもじもじと指を絡め出すサミュ。レンの言葉がだいぶ効いているようだ。
「それは凄いな。なぁサミュ。サミュがよかったら、ぜひ一度私にも見せてくれないか?」
「そ、それは構いませんが……この後は、少し……」
「? 何か用事が?」
サミュは頷く。
「実はこの後、ララちゃんとティアゼちゃんと、私の部屋で香水を作る約束をしているんです」
ララとティアゼとか。サミュはてっきり1人が好きなのかと思っていたが、そうやらそうではないらしい。だが確かに、3人はなんだか気が合いそうだな。
「それなら、レインも混じったらどうだ」
その不意なレンの提案に驚く。
「私も?」
「あぁ。見るだけでなく、実際に作るというのはいい機会だろう。もっとも、サミュがよければ、だが」
レンの言うことは一理あるな。
「え、えっと、私は構いませんが……それなら、材料のお花を、もう少し採ってこなきゃいけませんね」
「一緒に行くよ」
サミュが驚いた表情を浮かべる。
「え……! そ、そんな、レインさんのお手を煩わせるわけには……」
「とんでもない。もとは私が無理を言って参加するんだ。それくらいは手伝わせてくれ」
私がそう言うとサミュは少し考えるように目を伏せ、その後私を見て小さくゆっくりと頷いた。
「……わ、分かりました。レインさんが、そこまで仰るなら……え、えっと、じゃあ今からでも大丈夫ですか……? 多分、ターシャさんが来られるまでには、間に合うと思うので……」
「あぁ、構わないぞ」
私の返答を聞いたサミュがゆっくりと立ち上がる。私もそれに続くように立ち上がった。
「レン、ここにいてくれ」
「もちろん、そのつもりだ」
そうしてレンと別れて、私はサミュと共に香水の材料になる花があるという庭園へ向かう。花を摘むのにどれくらいの時間がかかるのか分からないが、早くもサミュと2人になれる時がやってきた。なんだか密偵みたいで悪いことをしているような気分になるが、全ては皆の"欠点"を無くすため。そう自分に言い聞かせて、私は歩みを進めた。
再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。
今話からレインの館生活4日目になります。
そして、レインの目標がここから変わります。
住民たちの"欠点"を探る、という名目ですが
これからやっていくことはただの会話です。
そして、おそらくレインの無自覚得意分野になります。
次話より、住民たちを深掘りしていくことでしょう。
それでは、本日もお世話をしてくれている家族と
インスピレーション提供の友達に感謝しつつ
後書きとさせていただきます。
星月夢夜




