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第23話 おやすみなさい

皆さんこんばんは、星月夢夜です。

お菓子が食べたいと買い続けていたら

いつの間にか多すぎになってしまいました。

今は消費するのに必死です。


では、本編スタートです。

 館の外で待っているであろうレヴォルのもとへと向かうため、私は武器庫を後にした。久しぶりに手に持つ剣が、今は妙に重く感じる。


(……)


私はちらっと剣を見る。私がこの館に来た時に持っていた、私が何者かを知るための手がかりになるもの。だが依然として私の記憶は戻らず、これを手にして分かったことといえば、過去に私がこれで人を殺したことがあるかもしれないということだけだった。


(私は、一体誰なんだ)


そんなことを思いながら歩き、気が付くと館の玄関に来ていた。この先にレヴォルがいるはずだった。そして、これから行われる兵隊討伐を考えると剣を握る手に力が入る。あの記憶を持ったまま兵隊を斬るのはいささか皮肉めいたものを感じるが、あの兵隊たちは人間ではなく私たちに危害を加えるものだ。それは、過去二日間で身に染みて分かっている。そう自分を納得させた。


(……よし)


深呼吸をしてから、私は外へと続く扉を開けた。



 館の外は相変わらず別世界だった。恐ろしくなるほど静かで、そして暗い。木々が空を埋め尽くし、月明かりすらほとんどない。そんな場所で、私が歩く音だけが響いていた。


(……レヴォル)


森の中でレヴォルを探す。今までと同じように、館から遠く離れた場所には行っていないはずだ。レヴォルは黒っぽい服を着ているため、暗い森の中ではかなり見つけにくいのだが、彼が普段持っている大きな鎌が目印となっていた。そして昨日と同じように、館から少しだけ行ったところでレヴォルの姿を見つけた。あの鎌を片肩に担いでじっと森の奥の方を見ている。


「レヴォル」


私が声をかけると、レヴォルが顔だけをこちらに向けた。


「……来たか」


レヴォルは私が持つ剣に目を向けた。


「……それが昨日言ってたやつか」


「あぁ、そうだ」


少しの間剣を見ていたが、やがて目を逸らして再び森の奥を見た。


「昨日言ったことを覚えているか」


私が昨晩レヴォルに誓ったことを言っているのだろう。兵隊討伐に参加するがレヴォルの足は引っ張らないと誓い、私のことは助けなくていい。確かにそう言った。


「もちろんだ。私のことは無視してくれて構わない。だが、足手纏いになるつもりはない」


「……へぇ」


レヴォルがちらっと私を見た。


「随分自信があるんだな。剣を使った記憶がないくせに」


痛いところを突かれた。正確にはないわけではなかったのだが、あれはまだ私がやったことであるとは確定していない……はずだった。


「……大丈夫だ。たとえ記憶がなくとも、体が覚えている」


事実、前にリースに薪のための木を斬ってきてくれと頼まれた時に、本当に体が覚えているかのように剣の扱いが手に取るように分かった。もちろんその理由はわからないが。


「……ふん」


レヴォルは鼻を鳴らして目線を正面に向ける。片肩に担いでいた鎌を下ろすと、彼が纏っていた雰囲気が一気に冷めた。いや、尖ったと言った方が正しいかもしれない。


「剣を抜け。来るぞ」


「……!」


レヴォルのその宣言通り、森の奥から兵隊たちが音もなく現れた。頭部から足先に至るまで相変わらず灰色で、体の境界線はもやがかっている。体を前後左右にガタガタと揺らしながら、こちらへ歩みを進めていた。目を凝らすと、その姿は七体確認できる。先程フィーチェに聞いた兵隊の情報と相違ない。


「……あぁ」


私は剣を抜いた。最初に見た時と同じように、その刀身は見惚れるほどに澄んでいた。月明かりも何もないはずなのに輝いて見えるほどに。


「……」


レヴォルが剣を横目で見たが、すぐに前を見た。


「行くぞ。早めに終わらせる」


そう言って、レヴォルは前に飛ぶように駆ける。その姿が一瞬で遠ざかった。それに遅れをとるわけにはいかず、剣を持って森の中を走った。足手纏いにならないと言った以上、有言実行しなければならない。


「……消えろ」


私が兵隊の元へ辿り着くよりも速くレヴォルが鎌を横に薙ぎ払い、前の方にいた2体の胴体を真っ二つに裂いた。切断された2体の上下の半身は数秒空中に留まり、その後煙が散るように静かに離散した。


「……速い」


私は走りながら、思わずそう呟いてしまっていた。兵隊の元へと駆ける速さもそうだが、兵隊たちを薙ぐ速さも驚きのものだった。そんなことを考えている間も、レヴォルの動きは止まることを知らない。


「次だ」


レヴォルの左側にいた1体が、彼に向けて刀身の細い剣を振り下ろそうとした。それを鎌で防ぎ、跳ね返すように弾く。バランスを崩した兵隊の胴体めがけて、再び鎌を薙ぎ払った。兵隊が崩れるように姿を消していく。もう3体目であった。


「……っ!」


そこでレヴォルに追いつき、レヴォルが左側へと寄ったため右側の兵隊に狙いをつけた。少し離れて前後に2体の兵隊の姿が確認できる。私は剣の柄を両手で持ち、自分の心境を一瞬で冷静にさせる。


「……」


途端、世界の動きがゆっくりに感じられた。自分の目の前にいる兵隊が、私に斬りかかろうと剣を抜いているのがよく見える。それよりも速く、兵隊の首めがけて左から右へ剣を振った。瞬間で兵隊の頭部が胴体から離れる。頭部は空中で離散し、胴体はゆっくりと地面に倒れながら消滅した。


「……次」


倒した兵隊の後ろにいたもう1体に狙いを定める。すでに抜いた剣で斜め上から斬ろうとしていた。だがそれすらも遅い。兵隊の右側へとまわり、腰から右肩にかけて斜めに斬りあげる。上体ががくっと折れたように後ろに倒れ、下体と共に消えた。


「……ふん、やるな」


少し離れたところでレヴォルがそう呟くのがわずかに聞こえた。レヴォルは自分の右側にいた兵隊の胴体を再び薙ぐと、勢いそのままにその奥にいた兵隊の両脚を切断し、体が下へ沈んでいくところに真上から鎌を振り下ろした。容赦がない。


「あと1体だ」


レヴォルのその言葉が耳に届くとほぼ同時に、私は最後の1体の胴体を斬った。今までと同じように静かにその姿が消えていく。そうして、私の初めての兵隊討伐が終わった。レヴォルが4体、私が3体。足手纏いにならないと言った矢先に、レヴォルに助けられる形となっていた。


「……体が覚えていると言ったのは、どうやら嘘じゃないらしいな」


レヴォルは今晩の最初と同じように片肩に鎌を担いだ。先程までの冷ややかな雰囲気はもうない。


「……あぁ。なぜかは分からないがな」


「だろうな」


吐き捨てるようにそう言うと、館の方へと踵を返し出した。慌ててその後に続く。先程まで兵隊という謎のものを倒していたとは思えぬほど、前を歩くレヴォルは平然としていた。これが彼にとっては日常なのだろう。そう思うと、胸が締め付けられるような感覚を覚える。


「……なぁ、レヴォル」


「なんだ」


レヴォルは振り返らない。


「明日も……いや、これから毎日手伝わせてくれるか」


「……は?」


今度は足を止めて振り返った。


「……なんで」


「レヴォルの力になりたいからだ」


毎晩、この暗く静かな森の中で兵隊たちを討伐し続けているレヴォル。初めて会った時、彼は言っていた。誰かがやらないといけない。それがたまたま俺だっただけ、と。これは憶測だが、レヴォルはこの兵隊討伐を苦と思っていない。だが、たとえ当人がそうでも負担は必ずあるはずだ。自覚をしていないだけで。


「……」


レヴォルは呆気にとられたような表情を浮かべていたが、ぱっと顔を前に戻した。


「……好きにしろ」


「……! ありがとう」


「……変なやつ」


そう呟いてまた歩き出した。


「そういえばここに来る前、フィーチェに大厄災の日というものを聞いたのだが、レヴォルは何か知っているか?」


レヴォルが振り返らずに話し出す。


「あぁ。大厄災の日っつうのは、年に数回、兵隊の数がとんでもなく増える日のことだ。普段は数体だが、その日だけ100は超える」


驚愕した。


「100……!?」


「あぁ」


なんでもないことのように続けた。


「その日だけは、館の住民たちは何組かに分かれて部屋に籠る。過去1回だけ、大厄災の日に兵隊が館に到達したことがあってな。中には入られなかったが、外の壁を少しいかれたんだ」


レヴォルは後ろをちらっと見る。


「それと、兵隊の数が多すぎて俺だけじゃ対処できねぇから、フィーチェとクロースも狩りに加わる」


フィーチェはともかく、クロースの名前が挙がるのは意外だった。クロースが兵隊討伐をしている姿が、全く想像できない。


「……まぁ、今回はお前を加わるし、大丈夫だろ」


視線を戻し、呑気にそう言ったレヴォル。


「わ、私もか?」


「毎日手伝うんじゃなかったのか?」


言葉に詰まった。実を言えば加わる気だったのだが、レヴォルがあまりにも淡々と言うために驚いただけだ。


「……あぁ、喜んで」


レヴォルは一瞬振り返る素振りを見せたが結局振り返らず、そのまま歩いた。そうして少しの間歩くと、もう見慣れた館が見えてきた。不思議と安心する。


「じゃあな」


そう言って、レヴォルは最後まで振り返らずにひらひらと片手を振って森の中に消えていった。


「……」


私はレヴォルが消えた方をしばらく見ていたが、自室に戻るために館の中へと向かった。私の長かった夜が、終わろうとしている。



 館の中に入った私は自分の部屋がある西館へと向かう。中に入ると、先程までは感じていなかった疲労がどっと押し寄せる感覚に襲われた。久しぶり、かどうかは分からないが剣を振り、それにより疲れが出てもなんら不思議ではない。


「……着いた」


西館1階の自分の部屋に辿り着き、その扉を開ける。普段自分の部屋にはほとんどおらず、ただ寝るだけに使っているようなものだったが、それでも自分の部屋、というものはどこか安心感があった。


「……ふぅ」


私は短く息を吐き、靴を脱いで着替えてベッドに倒れ込んだ。ベッドに体が沈む感触に、自然と意識を手放しかける。


(……)


館での毎日は本当に濃い日々だと思う。沢山の人と出会い、関わり、様々なことを経験し、そして多くの思いを知る。その中にもう自分もいるのだと思うと、感慨深いものがあった。


(……私は……必ず……)


ゆっくりと意識がぼんやりとしていく。彼らのために、私ができることは限られてはいるだろう。だが、その限られた中で食らいついていきたいと思う。この館に巣食う、未知の存在に。


(……)


そうして、私の意識は途切れていった。また1日が終わっていく。

再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。

今晩は「レイン、初めての兵隊討伐」の回です。

3日目にしてもう参加するあたり、流石としか言えません。


色々な場所で明かされる真実。動く住民。

レインには穏やかな日々を過ごしてほしいですが、

どうやらそうはいかないようです。

次回から4日目になります。


それでは、本日もお世話をしてくれている家族と

インスピレーション提供の友達に感謝しつつ

後書きとさせていただきます。

星月夢夜

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