ロマンチックさ<(圧倒的に越えられない壁)<不気味さ
夕陽に紅く染まるさして人気のない公園──
……と言えば告白するにはうってつけのいい感じの状況の様だが、なにぶんすぐそこには商店街。時間的には夕方のタイムセールだ。
しかも視界の中に告白の相手はいない。
いるのは変な隣人だけであり、そいつはやたらと期待を込めた目で見てくるだけでなく、隙あらば急かしてくる。
しかし、背に腹は代えられぬ……!
大蔵は覚悟を決めて息を吸い込んだ。
「バラさんっ……! いや、榊原 光さん!!」
(!!!!)
キタ───────!!!!
榊原は高鳴る鼓動で口に両の手をあてて息を飲み、瑞穂はガッツポーズをとりかけた。
……正にその時だった。
絶妙なタイミングでソレはやってきた。
──……ギャア、ギャア
近付く……不穏なカラスの声と羽音。
「僕は……っ僕はあなたが……!!」
──ギャアギャアギャアバサバサッ
──みーずほー
「…………ん?」
大蔵がモダモダ溜めている間にも、その音は近付いてきたばかりでなく……瑞穂はなんだか自身の名前を呼ばれた気がした。
しかも、デスヘルムトに。
いっぱいいっぱいの大蔵は気付いていないが……気のせいではない。
──バサッバサッ!!
「──なん……だと……!?」
音の方を見上げた瑞穂の視界には、衝撃の光景。
「……僕はあなたが好」
「ふ……っうっわあぁぁぁぁぁぁ!!!?」
──バササササー!!!
大蔵の「き」の音を掻き消したのは、大量のカラスの力強い羽音と瑞穂の雄叫び。
それと共にデスヘルムトは現れた。
──空 か ら 。
カ ラ ス 群 が 運 ぶ 、 ブ ラ ン コ に 乗 っ て 。
「「────!?!?!?」」
叫び声をあげた瑞穂以外のふたりは、唐突で訳のわからないデスヘルムトの登場に……最早声すら出ない。
「…………ふっ」
カラスブランコを待機させたまま、デスヘルムトは悠然とブランコを降り、瑞穂に近付いた。
貴公子の様な格好で。
「迎えに来てやったぞ(キリッ)」
「……………………!!」
めちゃめちゃキメ顔でデスヘルムトはそう言うと、瑞穂に手を差し出す。
これには瑞穂もただただ口をパクつかせた。
「どうした? ……ふっ……感激過ぎて、言葉も出ぬ……か」
瑞穂は『首がもげるんじゃないかな?』位の勢いで首を横に振るも、そんな行為などデスヘルムトには通用しない。
なんせ、デスヘルムトの中では瑞穂は『ツンデレ』なのだから!
『ツンデレ』の『否』……それ則ち、『是』!!(※デスヘルムト調べ)
「ふん……素直じゃない。 ふふ、照れているのだな?」
デスヘルムトは頬を染めつつ瑞穂の腕を取る。
しかし瑞穂は更に高速で首を横に振りつつ、隙あらば逃げる態勢をとろうとした。
(イヤァァァァ!! コイツ……私を乗せるつもりか!!
無理無理ムリムリぃぃッ!!)
待機しているカラスブランコ──
高いところは苦手だし、そうでなくても勘弁して頂きたい。
ハッキリ言って、意味がわからない。
ロマンチックでもなければファンシーでもなく……悪夢を具現化したとしか思えない不気味な様相。
「仕方のないヤツだ」
「──え」
ヒョイ、とデスヘルムトは瑞穂を回収しお姫様抱っこをすると、そのままカラスブランコに座った。
「(あああァァァァァァ)!!!!」
大蔵と榊原の耳には、声にならない瑞穂の叫びが聞こえた気がした。
「「…………」」
為す術なく、ふたりは夕闇に融けるように遠ざかっていく大量のカラスの羽音と、悪夢の様なシルエットをただ見つめていた──
が、我にかえる大蔵。
このパターンが非常に多いが、そもそも彼は常識的な一般人であったはず……の人なので仕方ないのだ。
作者の力量を問わないで頂きたい。
「はっ!? ……そうだ! バラさん!!」
「は……はいっ!!?」
名を呼ばれ、ドキリとした榊原は返事を返し……おずおずとその場から現れた。
「バラさん……その猫耳……」
「あっ! こっこれは……」
「ちゃんと僕が言えなかったから……呪いが解けてないんだね?!」
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇとぉぉ……」
先程のカラスブランコを見てしまっては今更違うとも言えない。アレで、なんで大蔵が瑞穂の言葉を信じたかは、とてもよく理解できた。
ちなみに榊原のつけている猫耳は、カチューシャタイプではなく、パッチン止めでつけるタイプ。
髪の毛に隠してしまえば生えてるかのように見え……ないこともない。
(そんな場合じゃないけど……猫耳のバラさん可愛い!)
大蔵は萌えた。
とても萌えた。
──いいからお前はさっさと告白しろ。




