ハチワレ≒榊原
大蔵がようやく公園へと走り出す最中、それを待つ瑞穂は……ハチワレと格闘していた。
「フニャー!!」
「貴様ッ! 『ぬこちゅーる』が無くなった途端に掌を返しやがって、この獣風情が!! ちっ……2本目を出すしかないか……!」
『ぬこちゅーる』(税抜¥100‐)は1袋2本入りと、少々お高め。
最後の砦である1本は取っておきたかったがやむを得ない。
ハチワレはどうやら半野良のようで、なかなか食べ方が綺麗であることが救いだ。
これが『ぬこちゅーる』ならぬ『がぶちゅーる』的にガツガツこられた場合、内容量的にもたすのは難しい。
……しかし、これも時間の問題だ。
しかも獣の本能がそうさせるのか、はたまた瑞穂が雑だからなのか……榊原には可愛く抱かれていたハチワレだが、瑞穂が抱くととても嫌がる。
(早く来い……! 大蔵ッ!)
(おおけん……)
目的は違えど、ふたりの願いはひとつ。
急げ! 大蔵 賢一!!
走れ! 大蔵 賢一!!
君を待つ女性の為に──!
「──ってな感じですかねぇ……」
アモンは例の鏡を見ながらそう呟きつつ、主……デスヘルムトをチラッと見た。
デスヘルムトは何故か公園には行かず、バルコニー(※勿論作りました)に出ている。
(……なにを始める気だろう)
別に何をしても基本は構わないのだ。
魔族は人間の都合なんざ、お構い無しなので。
ただ……碌でもないことをしそうな雰囲気が、プンプンしているだけである。
「バラさんッ!! ……園部さんッ!?」
部屋を出るのは遅かったものの、走った大蔵が公園に着くのは思いの外早かった。
アラサー瑞穂と違い、20代前半の彼は『走る』という行為からそんなに離れていない上、体力もある。
そのお陰で『ぬこちゅーる』(2本目)はまだ半分近くあった。
……よし、これなら!!
「いいか、ハチワレ……全てはお前の演技力にかかっているのだからな?」
「フニャッ?」
瑞穂はこちらに気付き、走り寄ってくる大蔵に見えないように『ぬこちゅーる』を手元に隠しつつ、悲壮な表情を作る。
「っのべさん! バラさんはッ……!?」
「残念だ……大蔵くん……」
そして瑞穂はハチワレを持ち上げた。
「君が来るのが遅かったせいで、バラさんはこんな姿に……!! ……あっ!」
「フニャッー!!!」
『持ち上げた』と言うだけあって、瑞穂の粗雑さに不満を露にしたハチワレは、蠢いた挙げ句脱走してしまう。
こうなるともう捕まえられない。
(えええぇぇぇぇっ!!?)
動揺する榊原。
──だが瑞穂は諦めない!
諦めたらそこで、試合終了だ!!
「……はい?! 一体何を言ってるんですか!」
「バラさんは……獣の性に飲まれてしまったようだ……」
「はあぁ??!」
「──大蔵くん、あれはバラさんだ。 ……君ならわかるだろ? 突如現れた黒ずくめの美形のナンパを断ったバラさんは、呪いであんな姿にさせられてしまったんだ……」
「えええ?!」
デスヘルムトは黒ずくめであり、『嫁を探している』と言っていた。
今回デスヘルムトとは別の、それらしき人がいると匂わせてみたのだが……大蔵の反応は半信半疑、といったところ。
まずまずの反応だ。
「ヤツは言った。 『真実の愛とやらを見せてみよ……愚鈍な人間よ』と」
「もしかしてそれは……!!」
(!!!!)
……ちゅーである。
この流れはちゅーである。
瑞穂はそんなつもりではなかったが、つい創作的にノリ過ぎてしまった。
瑞穂は「あ、やべ」とちょっと思ったが……
まあ……それはそれでいいような? ……気もする!
けどやっぱり榊原ちゃんには悪いかな?!
こうなってはそれこそ、『案ずるより生むが安し』──
瑞穂はとにかく強引に計画を遂行することを選択。
「ええい! とりあえず愛を叫べ!! それで元に戻るかもしれんだろ!?」
「えぇぇぇぇっ!!? こんな……公園ですよ?! 人はいないけど、商店街が近いのに!!?」
「バラさんは猫だぞ!? しかも逃げてしまった!! 遠くへ行ったらもう捕まらないかも……!!」
こうなるとハチワレが逃げたのはむしろ好機だ!!
瑞穂は更に畳み掛ける。
「あの猫を見ただろ?! あの黒髪ショートボブ……あれは間違いなくバラさんじゃないか!」
「そっ……そう言われてみれば!!」
実は榊原が数匹の猫の中からハチワレを捕まえてきた際、これは使おうと密かに目論んでいた。
(なんでかわからないけど、おおけん、信じてるッ!? ……えっ……ええっ?!)
突如立った、ちゅーフラグに動揺を隠せない榊原。
(とっ……とりあえず!!)
ちゅーフラグのことは一先ず置いといて……場の回収に使おうと考え、100均でついでに買ったパーティグッズを袋から取り出した。
──猫耳である。
瑞穂の話を信じると思ってなかった榊原は、大蔵が心配して来てくれさえすれば、自らコレを着けて出ていき、告白しようと思っていたのだ。
公園で、愛を叫ぶ決意を固めた大蔵。
それを待ちドキドキしながら、猫耳をつける榊原。
焚き付けるだけ焚き付け、ワクワクと成り行きを見守る瑞穂。
──だが、この後3人には予期せぬ展開が待ち受けていた。
そう……デスヘルムトの『劇的な演出』である。




