お着替え前<<<お着替え後(※ムト様のテンション)
お洋服を選びながら、我らが乙女魔王子、デスヘルムトは思った。
「ウム……なにか劇的な演出が欲しいな……」
女子(瑞穂)が感激する、劇的な演出……
そもそも美形で魔界の王子(※激強)であるデスヘルムトは、魔界に「モテモテ王国」というルビを振ってしまってもいいくらいの存在である。
魔界の王子、デスヘルムト!!
そんな彼だ。
自ら女性の気を引こう等とは一度足りとも思ったことがない。
女は彼がなにをしたって大概喜ぶものだったが……それでも以前、とても感激されたことがあった気がする。
「──そうだ!」
それを思い出したデスヘルムトだが、その方法には無理があった。
何故ならここは魔界ではない。
しかも力は封じられている。
「…………だが、あれなら……?」
思案の末デスヘルムトは魔界でのエピソードに代わる、1つの方法を思い付いた。
「ふふふ……これならば人間の言う『ロマンチック』に間違いない……! 瑞穂もさぞや感激し、もう余の隣にいる引け目なぞ一蹴されること請け合い!!」
そもそも瑞穂はそんなこと一言も言っていないよ?!……とは誰もツッコまない。
何故ならばここは彼の自室だからだが、ツッコまれたところで聞かないことは間違いない。
都合のいい台詞しかちゃんと拾わないのが、魔王子イヤーの特徴なのだ!!(2回目)
デスヘルムトがご機嫌でお着替えに勤しんでいる中……アモンの方を気にしながらウジウジ悩みつつスマホを弄っているヘタレ・大蔵に、電話がかかってきた。
「あっ! バラさん……」
『もしも…………キャッ?!
……ああっ!! 榊原ちゃあぁぁぁん!(※少し遠くで)
(ズリズリ! バシッバシッ! バサバサッ!)』
「どうしたのバラさん?!
もしもしッ! もしもしッ?!……」
なにかが起こっている!!
……まんまと大蔵はそう思った様子で、どこからどう見ても焦っている。
「そうだ! アモンさん……あれっ?!」
ポータブルサイズの鏡でなにもかもを知っているアモンは、大蔵にツッコまれる前に素早く身を隠していた。
アモンは実は有能なのだ!
そして悪魔なのだ!
こんな面白い展開に水を差す訳がないのだ!!
『バラさんが大変だァー!!
大蔵くん! 公園! 泉公園! 商店街近くの……!』
「ちょっ……園部さん?! 一体なにが」
唐突に切れる通話。
かけ直すも繋がる気配はない。
そしてアモンの気配もない。
「──くそっ!」
そう吐き捨てて、大蔵は部屋を飛びだ
──バアァァァァンッ!
「どうだ────!!!!」
……そうとした所に、デスヘルムトが部屋から飛び出してきた。
漫画の貴公子風(※ものすご間違ったオサレ)の出で立ちで。
「で……デスヘルムト様?」
おもわず足を止める大蔵。
「ちぃっ……なんて間の悪い方だ!」
アモンも姿を現す。
「アモンさん?! アンタ今までどこに……」
「アモン!! 賢一!!!」
「「──はいっ!?」」
デスヘルムトはなんだかんだいっても魔界の王子……発する言葉にはそこはかとない圧が存在する。
強い口調で名前を呼ばれたふたりは同時に返事をし、デスヘルムトの方へ向いて直立した。
しかし、デスヘルムトは……ふたりに声掛けしたにも関わらず、何も言わない。
「あの……デスヘルムト様?」
「………………どうだ?」
「「は?」」
「──っ服! 余の装いはどうかと聞いているのだ!!」
「「えぇぇぇぇぇ……?!」」
──ウザい。
とてもウザい。
「あっ、いや、とてもよくお似合いですが……」
「しかし随分気合いが入ってますね? デスヘルムト様……」
「フッ……決めるときは決める……それが漢と言うものだ」
そのデスヘルムトの言葉に、大蔵は急激に我にかえった。
「こうしてる場合じゃない……っ! 申し訳ないんですが、僕急いでるので!!」
「……む?」
そして大蔵は、今度こそ部屋を飛びだした。
榊原が待つ、公園へ……!
──しかし、そこには瑞穂もいる。
つまりデスヘルムトの目的地でもあるのだった。




