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ある猫について  作者: 若葉
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その一

よく晴れた週末の黄昏、高らかな空に広がる茜雲を遠く見上げながら、なだらかな坂道をゆるゆると下ってゆく。

何もかもがひどく緩やかであり穏やかである。鳥の声やら子供たちの笑い声やらが遠く聞こえてくる。平静すぎて、殺伐とした日常がまるで嘘みたいにすら思われる。


坂を下りきると、すすきやら葦やらぶた草やら何やら生い茂る土手がある。

十数段のコンクリートの階段を昇ると小綺麗に舗装された遊歩道があり、やはり草の生い茂る下り斜面となる。そこからちょうど丁の字に大きな川が横たわっている。

右から左へ、東から西へと海へ向かって南下しながら、さして澄んでもいないが、格別どろどろに濁っている訳でもない、そんな平凡で、だけれども割りと大きな、十数メートルクラスの川がさらさら流れているのである。


徒歩で十分ほどの下り坂を降り、川の流れに沿って右手から左手へ、上流から下流へと遊歩道を歩く。

川側の斜面に生い茂る土手草の隙間を縫うように流れる太い川面が見える。夕方の川面に映る赤い日差しがキラキラと揺らめいていて、私の視線をしばし釘付けにするのであった。

とぼとぼ歩き、小一時間も行くと大きな川をまたぐ立派な橋がかかっている。

橋の途中から、それはもう見事な赤い夕陽が見えるのである。

橋の欄干にもたれ掛かりながら、ゆっくり沈んでゆく夕陽を眺めて、しばし嘆息を漏らす。

赤く色付く雲の流れに乗って赤トンボの唄や、春の小川、いつかきた道やらふるさと、七夕の曲やらと四季折々のひどく懐かしいメロディーが遠くどこからともなく流れてくる。

やがて残照を残し遠く地平線に夕陽がじわじわと沈んでゆく。

すっかり太陽は沈み、夕陽の名残が微かに揺らめきながら溶けるように消えてゆく。

まるで一つの映画を見終わった後のように訳もなく満足である。


さて、と呟きながらクルリと踵を返す。

やけに足早に帰路を急ぐのだ。


家に着く頃、丁度青く浅い夜が街を包み込んでゆく。

門扉を開けながら、遠く色付いてゆく街並みを振り返り、柄にもなくやけに優しい穏やかな心持ちを覚えるのだ。

一日が過ぎてゆく。

次第に深さを増してゆく群青に溶けてゆく。

人々の暮らしが点々と付く柔らかな明かりの内に息づいている。

目を細めながら、何も考えないまま、ただじっと見つめている。


なんの楽しみもないおじさんの、密やかな週末の楽しみである。


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