表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/41

第5話 変わらない×ユニークスキル

「スターリースカイ君とそのご友人君と御者さん……はじめまして。私はアイリス・ヴァルフリート。僭越ながらヴァルフリート家の当主を務めています。以後お見知りおきを。スターリースカイ君の事はミラからよく聞いています。お会いできるのを楽しみしていました」


 まさかの当主。凄い!俺達と同い年くらいだろうにそんな重役を。確かにそれならこれほどの風格も納得。きっと俺が経験することの無い苦労や重圧があった事だろう。心から尊敬する。

 というか俺の事を話してくれていたんだ!嬉しすぎる。泣きそう。すでに泣いてるけど。


 それに続くように赤髪の少女も口を開く。


「ターニャ・メテウスだ。メテウス家の当主でアイリスお嬢様の付き人だ。ヴァルフリート家の分家の人間だと思ってもらえればいい。よろしく」


 こちらも年齢のわりにどこか近寄りがたいオーラを纏っている。きっと貴族ならではの修羅場を潜ってきたのだろう。遠くの知らない世界だからこそ、想像すらできないが。



「初めまして! エドガー・アクセル・スターリースカイです! こちらこそよろしくお願いします!」


「ライナー・ベルクマンです。8歳から10年間、こいつと一緒にグランバレー孤児院でお世話になっていました。ありがとうございました」


「あら? それは奇遇ね」


「ふぇ?」



 なぜ急にグランバレー孤児院の事を話題に出したのかも、それが奇遇になるのかも全くわからない。誰か俺にもわかるように説明してくれ。



「グランバレー孤児院の経営者はヴァルフリート家だ。要するに、行く場所がない俺たちに居場所をくれたのがこの人達だったって事だ」


「そうだったんだ! ありがとうございました!」


「いえいえ。礼には及ばないわ。貴族として当然の事をしているまでだし、始めたのは祖父母で私は引き継いだまで。じゃあ挨拶も済んだことだし、ベルクマン君は孤児院での事で少し私達とお話ししましょうか。どうぞ馬車の中へ。ミラ、ゆっくり楽しんで」



 そう言うとそそくさとその場から離れていった。その背に向かって軽く頭を上げるミラちゃん。相変わらず礼儀正しく、姿勢が綺麗な礼だ。近衛兵と騎兵も離れ、ライナーも行く直前に軽く肩を叩いてくるし。アッという間にその場には俺とミラちゃんの2人きりになった。


(妙に緊張してきた!! 何から話せばいいの!?)


 再会の時の事を心待ちにはしていたものの、どんな話をするのかは何も考えていなかった。どうしよう。いやどうしようもない。でもその瞬間は唐突に訪れた。


 ヴァルフリートさんが馬車に入った瞬間、ミラちゃんはゴーグルを外した。


 蒼穹のような綺麗なスカイブルーの瞳と交錯。その目はあの時と同じで嬉しそうに輝いていて、全てを包んでくれるような慈愛に満ちている。あの日と何も変わることなく、見ていれば吸い込まれてしまうのではないかと思うほどに透き通っていて、あの日のかけがえのない時間が一気に流れ込んできてまた泣きそうになってしまった。


 いや、普通に耐え切れずにどんどん涙がこぼれている。


「お久しぶりです──エドガー君」


 その言葉を聞いた瞬間、心の中がじわじわと熱くなり氷のように固まっていた寂しさが溶けた。


 止まっていた時間が再び動き出す。



「久しぶりだね、ミラちゃん! 元気そうでよかったよ!」


「エドガー君も元気そうで。私もまた会えて嬉しいです。でもよく気付きましたね。10年で色々変わっていますし、顔はほとんど隠していたし、髪だってこんなに短くなっているのに」


「確かに変わってる所もあるけど大して変わってないよ! ミラちゃんはミラちゃんだよ! それに大切な人だもん。すぐわかるよ」


「……フフッ、変わってないですか。ありがとうございます。エドガー君もあの頃と変わってませんね」


 あの時と変わらない嬉しそうな微笑みで、また俺を受け止てくれた。

 本当に元気そうなのが嬉しくて仕方がない。髪は短くなって、様々な事を乗り越えたようで顔つきも精悍になっている。そんな事は些細な変化はあるものの、あの時と何も変わることなく。


「しかし人前で『ちゃん』はやめてください! 恥ずかしいじゃないですか!」


「へへっ、ごめんごめん。嬉しくてつい」


「全くもう。でも……そこが貴方らしくて、ホッとしてしまいました」


「俺も凄くホッとしてるよ。今はヴァルフリートさんの所にいるんだね」


「えぇ。色々ありまして、アイリスお嬢様に拾っていただきまして。エドガー君も見てくれましたね。さっきの『あの力』を」


 思い出されるは、空を走るように宙を舞い、人の何十倍も巨体である飛竜リンドヴルムを揺るがす姿。人の限界を超えた身体能力と、見たこともないマナの動き。魔法学で様々な術を見てきているが、どの強化系魔法にも当てはまることがないものだった。


 でも1つだけ考えられるものがある。


「察しの通り、【ユニークスキル】が発現しました。名を【フォース・オブ・リミットブレイク】。人類の限界を超えた身体能力と回復力を得ることができます」



 【ユニークスキル】──この世で同じ能力は2つとない、1人にのみ発現する唯一無二の能力。特殊なマナがエネルギー源となり、動かし方も異なる。どういう仕組みか、発現条件は何か、ほぼ全てが解明されていない特殊な力。

 それ故にユニークスキル発現者は【エニグマ】と呼ばれている。


 畏怖や尊敬の念でそう呼ばれることもあれば、嫌な事に蔑称として呼ばれることもある。なんて酷い話だ。


 スカイ国内にいる発現者は10人前後…らしい。らしいというのは、ユニークスキル発現者が希少な存在のため情報のほとんどは国に隠匿されているため、国の上層部以外はその詳細を知らないからだ。あくまでも噂話という事だ。


 ただしそんな一般人の俺にも伝わってくるユニークスキル発現者の情報がある。


 スカイ国第三騎士団副隊長であり、2年前のセレスクロニクル国との戦争においてスカイ国を救った英雄『ニック・フリューゲル』と、たった一人で戦況が変わると謳われる四将の一角にしてスカイ国最強の騎士『ライアン・ハルベルト』だ。この2人は騎士団に所属し、幾度もスカイ国を救ってくれた功績があり、一般市民の間にも知れ渡る存在となっているのだ。


 噂によれば、フリューゲルさんはマナと武器を融合させ、驚異的な武器を生み出すことができ、ハルベルトさんは自然の摂理を操作できる、とされている。機会があればこの目で見たい。


 でもまさか、彼女が発現者になっているとは思いもしなかった。


「あの日から2年後、マナ発現と同時に覚醒しました。その報告を受けたヴァルフリート家の先代当主……すなわちアイリス様の父親によってヴァルフリート家に引き取られました。引き取った理由は名目上、同い年のアイリス様の遊び相手兼付き人という事でしたが実際には、自分たちのステータスのため。貴族の世界とは不思議なもので、エニグマと関わりがあるというだけでステータスとなるみたいです。エニグマとなった私は、『普通の人生を送る』という夢は叶わなくなってしまいましたが……」


 あの日に交わした約束が掠めていく。スカイブルーの綺麗な瞳が申し訳なさそうに揺らいだ。胸の奥がぎゅっと締め付けられるように苦しくなった。


 このままにしておけない。してはいけない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ