第42話 集う秘密のメンバー×ありえない仲間
半分は知った顔だけど、あとは知らない人たち。でも全員悪い人ではないというのだけはわかる。
知っているメンツは─。
第三騎士団副隊長『ニック・フリューゲル』。
第三騎士団補佐官『ロジャー・シュヴァルツ』。
ヴァルフリート家当主『アイリス・ヴァルフリート』。
メテウス家当主『ターニャ・メテウス』。
豪華な顔ぶれだ。全員が穏やかな雰囲気けど、その目力はいつにも増している気がする。
そして他の人に目を向ければ全員が、俺の事を見定めているように頭からつま先までを隈なく見ていた。こんなにも人から注目されて経験がないから、少し緊張してしまう。身なりはしっかりしてきてつもりだけど、大丈夫だろうか。不安だ……未来には全く不安はないのに、この人たちの反応が不安だ。
2人の男女は、スカイ国の騎士の証であるライトグリーンの鎧を着ている。どっちも20代だろうけど、男性の方は少し年上っぽい。
その隣に座るは、闇をも飲み込むほどの神々しい輝きを放つ白銀の鎧に、金色の装飾。貴族とはまた一線を画すような鮮やかさと、高貴な雰囲気の女性。
そして一番奥。白銀とは裏腹に光を通さないような漆黒の鎧を纏った女性。血のような朱色のラインが入り、斧と鎖、その周りに竜が飛んでいる模様が刻まれている。スカイ国の国旗ではない。この特徴はどっかで見て、聞いたことがあるよう…。
「ほぉ……彼が例の?」
「良い目をしているね、少年。少しばかり華奢だけど、スピードタイプというなら問題ない」
「ブラッドからの報告によると……剣術や魔法も平均以上。飛行能力も高水準。弓矢の腕は最上級。メンタル少し壊れめの強め。人間性も問題なし。クーちゃん、今度デート……あいつはなんてことを書いてるんだ!!」
報告書を見て、顔を赤くしているのがどうやら『クーちゃん』ことクレアさんのようだ。今の感じだと報告書にデートの誘いを書いてたみたい。あの時しか見ていなかったのだけど、ブラッドさんならやっても仕方がないと思えてしまう。
周りもなんか温かい目で見ながら微笑んでいるし。
「クレアさんとブラッド君は相変わらず仲がいいねぇ~。おじさんにはその若者の青春は眩しいぜ」
「おじさんとか若者とか言ってるが、まだ28で私らと6つしか違わないだろっ! それにあの馬鹿とはただの腐れ縁だ!」
「まったく姉妹揃って素直じゃないし、似てるね。素直じゃないのもまた青春らしい」
言われた男の人は肩をすくめておどけて見せる。
クレアさんは素直じゃないっぽいし、真面目につい読み上げてしまう少しおっちょこちょいな所があるね。ブラッドさんのあのニヤついた表情が、なぜか浮かんできた。きっとそう言う感じが好きなんだろうね。この人に似ている姉妹も少し気になる。
というかブラッドさんの俺のメンタル評価、少し酷くない?『壊れめ』って。自分の体ごと射ったから強くは否定できないけど。
「スターリースカイ君、お疲れさん。今日は組織の幹部と顔合わせしてもらうかなと思って、呼ばさせてもらったよ。紹介していこう。まずさっき怒号を上げていたのが『クレア・ナマユナス』。俺やロジャー、こないだチラッとだけいたブラッドの同期だ。前は第三騎士団にいたけど今は第一騎士団副隊長だ」
「よろしく頼む。今さっきのは忘れろ。これは命令だ」
蒼穹のような青髪。切りそろえられたボブカットから覗く薄紫の瞳は、少しの怒りと少しだけうれしそうなような様々な感情が入り乱れていて、頬は少しまだ赤い。
そりゃデートとうっかりと言ってしまったら、恥ずかしくもなる。しかもみんなの前だし。
副隊長。こんな感じだけど、発せられる覇気は相当なもので。ただ対面しているだけでもかなりの強者だと言うのが本能的にわからされる。
「で、隣に座ってる28の自称おじさんが『ユージーン・シュナイダー』。騎士団偵察部隊最高責任者にして四将の一人だ」
「四将?!」
「よろしくね~。君もスピードタイプなんだったね。俺もスピードには自信があるから今度一緒に鍛錬がてらに遊ぼうぜ」
強者だとは思っていたけどスカイ国のトップ4とは。四将は1人いれば戦況を変えると言われているほどの特異点。まさかそんな人も組織に入っているなんて。
「じゃあ次。白銀の鎧を着ている人は……もしかしたら見たことがあるかもしれないね。『ティア・ステート・アトラス』─スカイ国の王女だ」
「王女?!」
さっきと同じようなリアクションになってしまったが、許してほしい。王女ですか!?庶民が一生に一度会えるかどうかの王族ですよ!というか王様の娘さんですよ!!
騎士団の上層部がいるのは何となく予想はできてた。フリューゲルさんもいる事だし。でも王族。それも王女ときたもんだ。雲の上の存在。この秘密結社、凄すぎないか?まさかそんな大御所がいるとは…というもう大御所しかいない。まずい、怖くなってきた。横にミラちゃんがいてくれなかったら気絶していたかもしれない。
全員とミラちゃんを交互に見る。
「フフン、私を見て安心するならいくらでも見てください」
なぜか嬉しそう。よかった、彼女はいつも通りだ。めっちゃ安心する。
「ご紹介に預かりました。ティア・ステート・アトラス─スカイ国の王女です。以後、よろしくお願いします」
ミラちゃんと同じくらい綺麗な深々としたお辞儀をしてくれた。流石王族、所作一つ一つが芸術の域のように美しい。もう色々と衝撃過ぎて、フラフラしてきた。立っているのがやっと。ここまで来ると逆にどんな衝撃的な事が来ても耐えられる気がしてきた。きっと錯覚だけど。
ここまでのメンバーが揃っているなんてこの秘密結社は、一体どんな闇と戦っているのか。これだけの人たちがいるのにわざわざ秘密にしているなんて…その理由を考えるだけで恐ろしい。世界の闇に触れる…あれは大げさでも何でもないのかもしれない。
「そもそもなぜ王女様が? というか居て大丈夫なんですか? 仕事とかは?」
「組織発足のきっかけの時に、現場にいたから彼女も入ってもらった」
「きっかけ、ですか?」
「それは追々話すとしよう。じゃあ最後……」
そう言うと漆黒の鎧を纏った女性が立ち上がる。
この状況を楽しんでいるのか、ヘルムから覗く表情はにこやかで。いたずらをする前の子供の様に無邪気。瞳の奥には確固たる意志が燃え上がり、発せられる覇気は重厚だ。
「こちら『ベアトリクス・アクエリアス』。【セレスクロニクル】の第一騎士団隊長にして四将の1人だ」
「……はぁ?! セレスクロニクル!?」
衝撃のあまり金縛りにあったかのように固まって動けなくなった。息が止まる。思考が完結しない。だが言われて全てを思い出した。
朱色のラインが入った漆黒の鎧。斧と鎖と竜が描かれた国旗。それらは全てセレスクロニクル国のものだ。
何世代にも渡り争いを続けている関係最悪の隣国。つい2年前だって激戦を繰り広げて、第三騎士団の活躍がなければ壊滅まっしぐらの道を歩んでいたと推測されるほどの戦況になったほどの相手。ここ最近は派手な争いはしていないが、いつ大規模な争いが再発してもおかしくないほどに緊張感が高まっている。
しかも四将の1人。意味がわからない。
長きに渡る争いで、両国民同士で良い感情を抱いているという人は少ないだろう。俺はまだ被害にあったことはないが、家族や大切な人を奪い合った同士。俺が敵に抱いていた黒い感情を、それぞれに抱き合っている事は想像に容易い。
きっとバレたら、想像もしたくないような混沌とした状況に包まれながら俺たちは即刻処刑。崩壊待ったなし。
決して外部に漏らすわけにはいかない真実。心臓を直に握られているかのような圧迫感で、息をするのも苦しい。




