第33話 彼の言葉にこそ意味がある×大切な人の背中
「チッ、本当に可愛げの欠片もない奴だ。なぜここだとわかった?」
「バレないよう通信するなど、ヴァルフリート家の技術を使えばわけありません。まぁエドガー君が貴方を警戒していなければそんなものを使う事はなく、『以前の様に』完全犯罪が成立していたでしょう。彼を見くびっていた結果です」
「……殺せ。ユニークスキルだろうと構わん! あの見た目だ、処理機にもならん!! 殺せっ!!! アダムス様、よろしいですね?」
「下らんことを聞くな! 見ているだけで萎える。ユニークスキルしか価値のない下賤で、男みたいな見た目の女もどきが俺の前に姿を見せるな!! 完全犯罪? どんな証拠を持ってるかは知らないがどうでもいい。もみ消すだけだ。さっさと消えろ!!!」
心底欲望に塗れた人間の皮を被った獣のようで。
いや……獣に失礼ですね。
「噂通りのルッキズム。アナタ方のような欲望に振り回される獣未満の気色悪い人間から、どう言われようとなんとも思いません。大切な人から『可愛らしい』と言ってもらえているのでそれだけで十分です。それにそんな事よりも、よくも私の大切な人を……! その身をもって因果を食らえ!!!」
数は圧倒的に劣勢。数時間に渡り、シンギュラリティを発動しながら走り続けて、体力的には人生で経験したことがないほどに疲労が溜まっている。叶う事ならフカフカのベッドに横になりたい。状況を見ればかなり厳しい。
しかし、精神的にはこれ以上ないくらいに最高潮を迎えている。大切な人を助けられたのです。全身に力が漲ってくる。頑張るなんてわけない。
負ける気など一切しない。
──
「しっかり意識を持ってね!! 応急処置をするから痛いだろうけど頑張って! ミラさんも来てくれたんだから!」
「ハートフィールドさん……ありがとう……」
一度寝転んでしまうと緊張の糸が切れたのか、途端に今までの疲労とダメージが押し寄せてきて立ち上がる事も、体を動かす余力もない。全てを出し切った。
雨は止み、夕陽が差し込んできても地面はずぶ濡れ。そんな場所に寝転んだのは初めてだけど、意外と悪くないかもしれない。
鎧を外され、ハートフィールドさんのヒールが始まった。少しぼんやりと暖かくなってきたと同時に、傷口が焼けるような感覚がしてくる。熱いし痛い。でもその痛みに反応するだけの力も残っていない。ボロボロだ。
数秒後、地響きが背中から伝わり、戦闘音が雷鳴の様に戦場を駆け巡る。衝撃波で空気が揺れ、風が頬を撫でていく。
首を傾けてチラッと見れば、天からの陽の光りが照らす中で戦場を駆けるミラちゃんの姿が。複数人を相手にしても一歩も引かず、互角どころか圧倒している。
しかも傷ついて血を流しても瞬時に回復し、何事もなかったように突き進む。前に話してくれたユニークスキル【フォース・オブ・シンギュラリティ】の能力。
その活躍は一騎当千。
戦場に舞い降りた勝利の女神、なんて少し子供っぽい表現かもしれないけど大げさではなく心底そう思ってしまう。それほどまでに動きは可憐で、その全てが美しい。世界で唯一無二の輝きを放っている。
目が離せない。
さっきまであんなに疲れていた表情は、嬉しそうに生き生きとしていて。動きもリンドヴルムの時とそう変わらない。一体どこからそんな力が湧いてくるのか。日ごろの並々ならぬ鍛錬の結果なんだろうね。
出会った時は、寂しげで今にも消えてしまいそうな程に儚げで。触れてしまえば、その瞬間に消えてしまうのではないかと思うほどだった。でも決して折れない強い意志を持っていて、その絶望に正面から戦っていた。自分の事で大変なはずなのに、俺に近づいてきて優しく包み込んでくれた。その心の強さは今も変わらない所か、もっと強くなっている。
「凄いね、ミラちゃん……どんどん強くなって。昔も今も未来でも、ずっと憧れの存在だよ」
傷の痛みも、血の気が引いていって冷たくなっている体も、彼女を見ているだけでそんなことは全て忘れてしまうほどに些細な事に変わっていく。
「またデートに行くんでしょ! 行きたい場所とかある? 少しならアドバイスができるよ」
ヒールしつつ結界魔法を張り、他のメンバーのサポートをしているのにさらには俺の意識を確認するために話しかけてきてくれるなんて。ハートフィールドさんも大概だな。強い人だ。
「ありがとう。行きたい場所……そうだね……。あぁ……『一緒に星空が見たい』。田舎から出たのは初めてだから、他の場所の星空スポットがわからなくて、悩んでたんだ……」
「星空! いいね!」
「あの日に肩を寄せあって見た星空は、今でも鮮明に瞼に浮かぶくらいに綺麗で。世界がどんなに過酷でも、どんな困難な状況でも……何も変わることなく綺麗なまま。俺達にとって、特別な光景なんだ」
「それなら任せろし! スカイ国内の星空スポットならめっちゃ押さえているから、教えてあげる! 少しずつ傷が塞がってきたよ!」
「本当? どっちの事もありがとう。その時はまたお世話になるよ。逆にハートフィールドさんも、なんか……ない? 俺、恋愛とかはよくわからないけど、フレイ君とは同室だし、人を見る目は自信があるから多少はアドバイスできると、思うよ…?」
「べ、別に私とフレイはそんな仲じゃないし! 恋愛なんて……そんな、まさか……だし!」
俺はミラちゃんから目が離せないのでハートフィールドさんの表情はわからないけど、この声色からしてあたふたしているのは間違いない。これほどまでに好意というのが分かりやすい人も早々いない。
「ていうか、スターリースカイ君こそどうなんだし。ミラさんの事、好き?」
「あぁ……好き、か。恋愛感情的なものは自分自身でもよくわからないけど─『生涯を共にする異性は彼女がいい』。それが今の俺の答え……かな」
「フフ、それも立派な愛だし。これから自覚していけばいい。今はまだそれでもいいし」
「ハハッ……マークにも、同じような事を言われたよ」
きっとこれからこの特別な感情は変化していく。その行く末がどうなろうと、大切な人という事は不変である。




