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第24話 湧き上がる怒り×飛竜と生きる民

 そんな中でも、目が良いからつい気になる事が。サラマンダーの首に首輪のようなものが付けられている。トリスタンから醸し出されていたような禍々しい闇が揺らめく。


 なんだ、あれ?対魔物拘束具でも見たことがないぞ。物理的に拘束できるものはあるけど、魔法とかで飛竜を拘束するのはなかったはず。


 そして初めて見る俺でもわかるくらいに、サラマンダーはボロボロだ。体中には傷があり、あばら骨が少し浮いている。翼は切れ目があちこちに入り、何処か苦しそうだ。


「ひどいっ……ひどすぎる!」


「本当にひどい……」


 サラマンダーを見て泣きそうに顔を歪めるエステルさんを、フレイ君が優しく肩を抱きしめた。その表情は怒りに震え、今までに感じたことの無いような殺意に満ちた瞳でアダムスを睨みつけていた。近づくことも憚れるくらいに、瞳には炎が宿っていた。


「アダムス様、連れてきました」


「ご苦労。下がってよいぞ。操作は俺が直々にしてやる」


 男は手に持っていた何かをアダムスに手渡した。禍々しい光を放る宝玉のようなものだった。


「見ての通り、サラマンダーだ。まぁまだ成長段階の大人と子供の間くらいの小さめの奴だがね。これでも手に入れるのは苦労した。飛竜調査隊や騎士団の連中の監視を搔い潜り、随分と大金と犠牲を払った。どうだね?飛竜が好きな君たちにミネルバにとっては会えて嬉しいんじゃないか?」


「貴様っ……サラマンダーをどうやって……」


「どうやって……か。随分と抽象的じゃないか。どうやって手に入れたのか、どうやって制御しているのか、どっちの事を聞いているのかね? まぁ前者については答える気はないため、後者については教えてやろう。これはある特殊な力を使った拘束具だ。マナや魔法ではない特別なものだ。こいつが意にそぐわないような事したら……こうだ」


『ャアアアアアァァァァァァァっ!!!!』


 アダムスが宝玉にマナを流し込むとサラマンダーに付けられた首輪が光、同時に苦しみの叫びが木霊する。鼓膜が破れそうになるほどの苦悶の咆哮。聞いているだけでもどれほどの苦しむかは想像に容易い。


 数秒で止まったが、その僅か数秒でサラマンダーの瞳からは更に光が消えた。


 この下衆共はこれを使ってサラマンダーを。特に飛竜に対して思い入れはないけど、はらわたが煮えくり返りそうだ。


「どうかね? 素晴らしいだろう! 特別製だからね、飛竜の馬鹿力や上級魔法を持ってしても壊れる事はない。これがあれば飛竜は操ることができる! 飛竜との共生を謳う君たちにとっては嬉しい情報じゃないか。力だよ。力があれば飛竜は制御できる!!! これの仕組みはまだ言えないが─」


「どうでもいい」


 アダムスの声をかき消したのはフレイ君の怒りに声だった。静かな声だけど、怒りと憎しみ、そして側にいるだけで生きた心地がしなくなるような鋭い殺意が、たった一言に凝縮されていた。エステルさんを抱きしめる手はこの上なく優しいけど、その反対の剣を握る手はうっ血してしまいそうなほどに強く握りしめられていた。全身からマナと明確な殺意が漏れ出ていた。


 言われたアダムスは不快そうな表情を浮かべ、睨みつけるがフレイ君は意にも返さず、エステルさんを見つめた。殺気は消え、ただ優しくて申し訳なさそうな瞳に変わっていた。


「エステル……ごめんね。ちょっと我慢できそうにない。何があっても俺に付いてきてくれる?」


「もちろんだよ、フレイ。あの日と同じ、断られてもどこまでも付いていってやるし! サラマンダーを助けてあげて」


「うん、俺達の役目だから頑張ろう」


 ぎゅっと抱きしめ合う2人に、雨雲の切れ間か陽の光が差し込んだ。美しくて、胸の奥底から熱くなるような神秘的な光景。見ている俺たちもつい笑顔になれたよ。


「おいおい、やめてくれよ。ガキどものくだらない甘酸っぱい青春なんて見せられても、吐き気がするだけだ。なんだ? 物語の主人公にでもなったつもりか? 兄の様に英雄でもなったつもりか? 人を殺して英雄になれるなら俺だって英雄だと思うがね」


 アダムスの挑発に周りにいた取り巻きや騎士崩れが声を上げて加勢する。罵倒が飛び、小馬鹿にするような喋り方で煽ってくる。でもフレイ君は動じない。変わらない。


「どれも見当外れだ。俺の本心には掠ってもいない」


「はぁ?」


 決意を固めた目でアダムスを睨み返す。火花が散るような睨み合いをすること数秒。ふいに視線を外し、2人で俺達の前に出た。全員の顔を見渡し。


「悪いな……お前らに嘘をついていた。どうかここで知った事は口外しないでほしい。サラマンダーの事は俺に任せてくれ。これは俺たちの役目だから。頼む、信じてくれ」


「まだ短い関係だけど、私たちを信じて!」


「サラマンダーの事は任せるけどさ……なにが嘘なの? いまいち状況が飲み込めてないんだ」


 どこで嘘をついていたのか全然わからないし、フレイ君とエステルさんだけで話が進んでいくのが納得できない。一体何をしようとしているのか。


 そして2人は俺をまっすぐ見た。どこか申し訳なさそうで、気まずそうに。でも確かな強い意志と覚悟が宿った瞳だ。


「スターリースカイ……特にお前には申し訳ないと思っている。本当なら真実を知りたいというお前には、話しておくべきだったのかもしれない」


「ごめんね……言えなくて」


「2人ともなに言ってんの? ……いったい何が」


「改めて言うけど、ニックが言っていた通り……『俺たち』は本当に知らないんだ。【飛竜とは心を通わせられる】けど、バハムートは飛竜じゃないから【心を通わせられない】。お前が知りたい真実を俺たちは知らない。でも協力できる。生きて帰ったら、みんなで話し合おう」


「…心を通わすって…まさか」


 『飛竜と心を通わす』。それってあの伝承の─。


 俺の言葉を待たずしてフレイ君は前を向き歩き出した。


「おやおや何か秘密でもあるのかい、フリューゲル君。お兄さんに聞かせてごらん!」


「俺に兄は一人しかいない。それも……世界で一番カッコいい、兄さんだ」


「甘酸っぱい青春に、英雄願望に続いて、次はブラコン話か……気持ち悪い。虫唾が走る」


「俺もアンタに対して同じ事を思っている。意見が合ったな」


 そう言うとアダムスに向けて、剣をまっすぐ向ける。


「でも言いたいことは山ほどある。英雄がどうたら言ってるけど、英雄なれるとも思ってないし、なりたいとも思ってないけど……人間は誰しもが自分の人生において主人公だ。兄は人を『殺して』英雄になったんじゃない。人を『救って』英雄になったんだ。そこをはき違えるなクズども。単にあんたらは、兄が気に入らなくて、現状に嫉妬しているだけ。醜い欲望に溺れた哀れな人間……英雄になる資質なんてない」


「貴様……ミネルバの分際で─」



「俺達はミネルバじゃない」


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