第23話 優勢は一瞬×紅蓮の飛竜
人数では圧倒的に不利も関わらず、フレイ君の指示もあって戦況は拮抗。疲労は溜まっていくが全員が歯を食いしばって対峙していった結果、こちらは死者はなし。敵の屍が少しずつ増えている。
しかしどこから来たのか増援が到着して、減らした数は元よりも増えている。数人が屍に怖気づいてくれたようで、こっそりとその場から立ち去っているので少しはましだが。
それでも汗がしたたり落ち、呼吸が荒くなっていてきつい。どれだけ戦えばいいのか。
「クソがっ!! たった6人の学生相手に何をちんたらしている!! 貴様らそれでも元騎士団の人間かっ!!!」
これほどまでに苦戦するのは予想外だったようで、トリスタンの怒号が飛ぶが、騎士団崩れの連中の顔はあまり浮かない。
そりゃ最初はたった6人の学生を嬲る小遣い稼ぎ程度の簡単な仕事の感覚で来ていたの、ふたを開けて見れば現役の騎士であるトリスタンが前線にいるにもかかわらず戦況は動かず陣営に犠牲者が出て、命の危険があるといるとなれば、士気が下がるのも当然だろう。
依頼者は上流貴族。ふがいない所は見せられないが、かといってあまり突っ込んでいきたくない。接近戦を避けるあまり遠距離からの魔法攻撃が主になり、対処が少しは楽になってきた。
体力的にはこっちの方がきついけど、精神的には優位だ。
いける!
刹那、戦場よりも遠くの方から光が広がっていくのが視界の端に写った。正体はわからないが本能が危険を知らせ、すぐさま目を向ける。
そこに見えたのは、火属性魔法によるものとは比べ物にならないくらいの熱量と大きさ、段違いの弾速で飛んできている複数の『巨大な火球』。
「まずいっ…! 新手が来たぞっ!!!」
仲間に危険を知らせると同時にマナの出力を上げてスピードを速め、急転回し回避。
遠くから気づいていたため回避は十分に間に合ったのだが、火球が真横を通り抜けていった瞬間、肌が焼けそうになるほどの熱波が襲ってきた。距離にして10メートルくらいは離れていたのに、燃え上がる炎がすぐ側にあるかのように熱い。
(なんだ、今の炎は…?!)
魔法でも魔物の攻撃でも感じたことがないような桁違いな威力。離れていたから余裕を持って回避できたものの。熱いのに、背筋が凍るほどに寒気がしてきた。
「あの炎…クソッ!! 全員エステルのラインまで下がれ!!! マナを使い果たしてでも魔法を使って離れろ!!! スターリースカイ、降りてこい!! そこにいたら狙い撃ちにされる!!」
「下がってぇぇー!!! 早く!!!」
活路が見え始めて、少し余裕のある面持ちで剣戟を繰り広げていたフレイ君の表情が一瞬にして険しくなった。エステルさんも悲痛な叫び様に声を上げているし。明らかに焦っていて、こんな彼らを見たことはない。何に気付いた。なんでこんなに焦っている。あの火球の正体はなんだ。疑問がグルグルと頭の中をループする中、波状攻撃を避けながらエステルさんのいる場所まで下がり、地上に降りた。
地面に降りた途端、地面から揺れを感じる。規則正しく一定のリズムで揺れて、木々が振動する。
もしかして、巨大な生物が地面を踏み鳴らしてこっちに向かってきている?
しかも敵の攻撃が止まった。誰一人とした動かない。
「なんだ……魔物か?」
「そんな生易しい物じゃないよ。でも、あいつらどうやって……」
「どうするかな……いや、なるようになるかしかないか」
俺含めた4人は何かわからず困惑しているけど、それとは比べものにならないくらいに2人は深刻そうな表情を浮かべた。この2人にだけわかる事……もしかして。まさか。いや、それなら説明がつく。嫌な予感がする。
振動が近づくにつれて、騎士団崩れとトリスタンが左右にばらけた。しかも先ほどまで暗い表情は消え、勝利を確信しているかのようにニヤつき始める。中には少し緊張したような、何かにおびえるような表情の者までいる。
いったい何が来るんだ。
「気が変わった……『あいつ』を使う事にした。ミネルバの民がいるんだ……ちょうどいいだろ?」
森の奥から、炎のようなものが揺らめきながらこちらに近づいてきている。雨に揺れた葉や木々は燃え、ミシミシと音を立てて倒され地面を揺らす。
近づくにつれて、その体躯の全容が見え始めた。
体長は4メートル程。リンドヴルムよりも一回り以上は小さい。しかしその体躯の迫力はそれを上回る。
触れただけで斬れてしまいそうな程の鋭い鱗が全身を覆い、背中からは体の倍はあろうかという翼が伸び、長く太い尻尾の先端は槍よりも鋭利で太陽の様に眩いオレンジ色の光を放つ。鮮やかな唐紅の巨体。鋭い眼光と、口から漏れる重低音の息吹には火花が混じる。
飛竜だ。
しかも1人の男が飛竜の前を歩いている。何か持ってる。
全身が唐紅の色彩が特徴で、息吹と共に火花が散るという特徴。間違いない。
飛竜危険度3─【サラマンダー】。
世界で3番目に危険な飛竜だ。そもそも飛竜に会う機会自体は少ないけども、この危険度の飛竜を実際に見るのは初めて。
森から抜けてその全容がようやく見えた。全身から発せられる熱気のせいか、ただいるだけなのに一瞬でここの気温が数度上がった。それなのに鋭くも冷たい眼光で見降ろされた迫力のせいで、体の芯から冷えるような感覚が襲ってくる。
怖い。
まだ距離は離れているのに生きた心地がしない。
これが頂点捕食者と対峙するという事か。




