第13話 特化型×今はまだ見せない奥の手
「そっか……なら、俺も『大切な人』の期待に応えるために本気を見せないとね! 頑張ってくれるよ!」
「いってらっしゃい。一瞬たりとも見逃しませんよ」
俺は単純な人間だ。さっきまでの緊張は、彼女からの応援により消えた。むしろ今はやる気に満ち溢れている。人生最高の行射をしてみせる。
それにしても彼女は俺の扱いがうまい。
試験用の弓矢を受け取り、位置へと向かう。試験用のものとはいえ、この弓矢も悪くない。
優しいそよ風が頬を撫で、陽の光が温かく包み込んでくれる。そして、大切な人が見ていてくれる。弓を射るには、これ以上ない良い日だ。
「準備はできたな。では、始め!」
開始の号令と共に弓を構えると同時に、何の溜めもなく矢を放った。
糸を引いたように矢は直線に伸びていき、的に深く突き刺さる。少し音を置き去りにして、『パンッッ─!』と空気を割き、高く重厚な命中音が肌を揺らす。
その音に少しだけ周囲がどよめく。
「なんだ今の音……」
「あんな速い弾道見た事ねぇよ……! 同じ試験用の弓矢なのに何だこの違い!?」
「むしろ今の矢の軌道、気持ち悪いくらいに真っすぐじゃなかったか?」
周囲のざわめきをかき消すように次の矢を放つ。もう次の矢はセットし終わっている。
矢はみるみると吸い込まれるように的に向かい、ビキッ!と鈍く重い破裂音に近いような音が木霊する。先に射った矢の筈に放った矢が突き刺さり、その身を少し引き裂いて、まるで2つの矢が連なっているように見える。
『継ぎ矢』。
普通は狙ってもできるものではない、奇跡的な出来事とされる。
一瞬の静寂の後に一気に歓喜の声が湧き上がった。
「おぉー!! スゴイ!!」
「偶然にしてもできるなんてな……初めて見た。マナや魔法を使っても制御が難しくてほとんど成功しないっていうのにスゲェな、おい!」
「今回の受験者は粒ぞろいだな。セットも速いぞ!」
偶然?違うね。それに驚くのもまだ早いよ。
言葉が飛びかう中、1歩下がってから次の矢をセット。弓を引き搾り、指に力を入れる。
だがその時、一陣の風が吹いた。髪をなびかせ、土埃が舞い上がらせる。
でもこの程度の風は俺にとって、そよ風と同じだ。風の動きが──見える。
指を弾き、矢は放たれた。一陣の風を切り裂き、糸を通すように的に向かい、そのまま先の矢の筈に命中。
重厚音と共の一射前の矢の筈に突き刺さり、継ぎ矢となった。
その衝撃で最初の矢は破裂音と共に弾け飛ぶ。
(いいね! 完璧に狙い通りだ!)
狙ってできたとはいえ、彼女のおぜん立てを無駄にしないために少し緊張していたから、ほっとした。今までの人生で一番緊張したかも。
笑みを浮かべた瞬間、先ほどの倍以上の割れんばかりの歓声が巻き起こった。1回見れるだけでも稀な光景を2連続で見れたのだから、こうもなるだろうね。
歓声に混じり信じられないという驚愕の声が飛んでいく。喝采の波が包み込み、大地を震わせた。声の波で肌が震えるなんて初めてで、なんだかヒリヒリする。
でもそんな事よりも彼女だ。チラッとミラちゃんを見れば、満足そうに微笑んでいて静かに頷いてくれた。その表情が本当に綺麗で可愛くて、胸のあたりがじわりと熱くなる。この顔が見れただけで、この腕を振るった甲斐がある。
もしかしなくとも、ミラちゃんは俺の暗い気持ちを拭き飛ばそうとしてくれたのかな。本当に感謝してもしきれない。恩人だ。
「ありがとう、ミラちゃん」
「私は何もしていませんよ。ただ応援していただけです」
そう言いつつもその表情は少し得意げで、満足した様子だった。言葉と表情のギャップが良い!
「にして全てが完璧でしたね。構えも、セットの早さも、命中精度も。風すらも関係なく狙った場所に当たる。鍛錬を積んだとはいえ、ここまで行くと魔法よりも魔法ですね」
「エッヘン! 百発百中です!」
胸を張って答えるけど、弓矢の腕は誰にも負けない。
俺の矢は、狙った場所には『必ず』当たる。
生きる決意を決めたあの日、まずは自分の事を知ろうと思った。どんな才能が有り、何ができて、どうすればその強みを生かせるか、敵に届くのか。自分自身を研究した。
その結果わかったのは剣術や魔法の才能はほどほどだけど、弓矢の才能は自分でも引くほどに飛び抜けていたという事。物語の主人公じゃん、と思ったくらいだ。さらには風のマナを持って生まれたからか、特に何もしていなくとも風の動きも読めし、どう利用すればいいかも本能的に理解できた。
これを生かさない手はない。
その強みを中心に、その日から死に物狂いで鍛錬を積んだ。他をおろそかにせずに、長所を極限まで伸ばす。魔法をこの弓矢の腕を強化、サポートするために学んだ。
結果が、今さっきの光景という事だ。狙った場所に絶対に当たる。
そしてそんな事もあってか…今はまだ明かせない『奥の手』も─。
ここまで来れたのも、ミラちゃんが心の支えになってくれたからだ。どんなに辛くとも大切な人がいてくれるから頑張れた。あのかけがえのない時間を過ごしていなかったら、こうはならなかったと確信できる。
「本当に、よく頑張りましたね」
そう言って、優しい手つきで頭を撫でてくれた。穏やかで慈愛に満ちたスカイブルーの瞳が、陽の光に照らされて俺をまっすぐ捉える。
撫でられ心地が最高に良い。なんか日向ぼっこをしているかのような心地良さ。
何よりもミラちゃんに褒められたのが嬉しすぎる。もう死んでもいいかな?と思ってしまうほどに有頂天になれてしまう。
「エヘヘ、ミラちゃんのおかげだよ~ありがとう」
撫でるのも好きだけど、撫でられるのもいいね。ずっと撫でられていたし、ずっと撫でていたい。なんだかこんなに幸せ事が続くなんて、明日は雪でも降ってくるんじゃないだろうか。
「でも…」
フッと撫でる手を引っ込めて俺の耳に口を近づけ、誰にも聞かれないように呟く。
「それが前座になるくらいの『奥の手』……隠してますよね? どんなのかはわかりませんが」
その声色はどこか嬉しそうで、心が躍っているみたい。
しかし流石ミラちゃんだ。誰にも感づかれ事すらない事を気付いている。一番最初に気付いたのがミラちゃんなのが、たまらなく嬉しくてついにやけてしまった。
敵を討つために、誰にも見せていない俺の奥の手に気付くなんて。
「……ミラちゃんには敵わないなぁ。いつか見せてあげるね」
「フフフ、楽しみしてますよ。約束ですからね」
俺とミラちゃんだけの誰の耳にも届かない約束の言葉。また生きていく理由が増えた。
でもこれを見せる時は、俺はもしかしたら生きてはいないのかもしれない。できるだけ頑張ってみる事にする。
「……」
「どうかしましたか?」
「ミラちゃん、お願いがあるんだ」
生きるために、手は尽くそう。




