第2話「元気になる薬!!飲んでみよっかな。」
ラハティの村は、静かだった。
好都合だな。
魔法騎士団が動いている事は、知られたくない。
夕暮れの石畳。
木造の家々。
水路に沿って並ぶ屋台の灯り。
ラハティ王国の端にある小さな村だが、活気はある。
少なくとも、表向きは。
レンがトントを出迎えた。
正装ではない、動きやすい旅装だ。
精霊のキックルが肩の上で小さく手を振った。
「トント!!久しぶり!!タイカ先生も!!」
「違うんですよね〜。今は、団長です!」
「すいません、団長。私、嬉しくてつい」
「レン!!久しぶり!!」
「来てくれてよかった。一人で抱えるには、少し重くて」
レンの目が、いつもより暗かった。
ストレス、感じてるな。レンも。
「ザウル、レンの顔色」
「見てますよ、ちゃんと。トントさんの方が顔色悪いですけどね」
「俺は元気だ」
「馬車で三回寝落ちした人が言うと説得力ないっすね」
確かに、寝落ち。なのか、気絶。なのか
紙一重。だな。
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村の集会所で話を聞いた。
ズマルアの商人が最初に現れたのは、三ヶ月前だという。
愛想のいい中年の男で、薬を置いていった。
代金は後払いでいい、まず試してくれと言って。
「最初は誰も飲まなかった」とレンが言った。
「でも村長が疲れ切っていた時に試して、それから広まった」
「他の商品は」
「薬以外にも布や食料を置いていく。価格は相場より少し安い。村としては助かっていた」
俺は薬の現物を見せてもらった。
小さな茶色の錠剤。
特に匂いはない。
見た目はただのサプリメントだ。
「ザウル、これどう見える」
「茶色い粒っす」
「それは見たまんまだろ」
「トントさんが聞いたんすよ」
ザウルが続けた。「で、どうするんすか。匂い嗅ぐだけにしときます?」
「分析のためだ」
「飲むつもりっすね、その顔」
「分析のためだ」
「二回言いましたね。怪しいっすよ、それ」
体を使って、TRYすることが大事なんだ。
錠剤を飲み込んだ。
「飲みましたね」
「飲んだ!!!」
「言い訳すらしなくなりましたね、もう」
「分析のためだ」
「三回目!!」
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三十分後。
「うぉーーーー!!」
「きたーーーー!!」
「何がきたんすか?」とザウル。
「何だこれ、体が熱いぞ!燃えているようだ!あっつ!ヒャッハー!!!!!」
「ヒャッハーって。なんですか!それ!トントさん。さっきの薬、飛ぶやつですか??」
「頭が冴える!腹も減らない!馬車で書いてた論文の続きが、すらすら浮かぶ!」
「テンション高いっすね。トントさん、いつもそんな喜怒哀楽出さないのに」
「これは。これは——
私は今、猛烈に興奮している!!!」
「トントさん、めんどくさいですよ!
俺は表情を戻した。
待て。冷静になれ。
この効果を分析する。
覚醒作用。
食欲抑制。
多幸感。
疲労感の消失。
そして今、全身に広がっているこの——心地よさ。
現世で何度も論文で読んだ。
インターン時代にも何度かそんな患者を見たような。
「……これ、何の薬だったか。名前、なんだっけ」
「自分で言ったやつ、覚えてないんすか」
「いや、確かに、ノルアドレナリンの——いや、違う、もっと前に習った——」
「トントさん、元医師っすよね?」
「医師だ」
「医師なのに薬の名前忘れてるって、それ大丈夫なんすか」
「忙しいんだ!!色々考えることが多すぎるんだ!!」
「言い訳が長くなってきましたね、それも症状っすか」
「……うるさい」
◯薬だ。
「最悪だ」
「どうしたんすか、急に顔色悪くなって」
「自業自得だ。わかってる」
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通信石を取り出した。
エーアイに繋いだ。
「クーリエホークでこの薬を飛ばす。成分分析してくれ」
「……まさか、飲んだの?」
間があった。
「分析のためだ」
「四回目っす」とザウル。
「数えてるのか」
「数えてますよ。記録っす」
「……呆れた。わかった、とにかく送って、分析する」
通信が切れた。
「怒ってましたね」
「怒ってない。呆れてただけだ」
「どっちも似たようなもんっすよ」
「ザウル。最近俺への突っ込みが鋭くなってないか」
「テルメさんがいない分、僕が頑張ってるんすよ」
「二人分か」
「二人分っす。テルメさんの関西弁分も込みで——せやろがい!!」
「似てない」
「練習中っす」
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翌朝。レンに連れられて、村長の家を訪ねた。
五十代の男性。
農作業中に転んで足に裂傷を負った。
三週間前の話だ。
包帯を外した。
傷口が、塞がっていない。
俺は黙って診察を続けた。
皮膚の色。
末梢の感覚。
瞳孔の状態。
手の震え。
全部、一致する。
「毎日飲んでいますか、あの薬を」
村長は少し目を逸らした。「飲まないと、体が動かなくて」
レンが息を呑んだ。
俺は立ち上がった。
免疫低下。
末梢神経障害。
離脱症状の兆候。
傷が治らないのは、体が修復に使うべきエネルギーを、薬の代謝に全部使っているからだ。
これ、ヤバイやつでは??!!??
と、いうか完全に黒。 ブラック。だ。
ズマルア。一体、何をしているんだ。
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村長の家を後にした。
レンが隣を歩いている。しばらく、何も言わなかった。
「国が、汚染されているということ?」
「そうだな!!可能性があるな!!」
なぜか、ハイになっている。
「でも、ズマルアとはもう貿易関係がある。物資も、経済も繋がっている。急には——」
「そうか、そうか」
首をブンブン振り回しながら話を聞いていた。
「トントさん、目が変っす」とザウル。
「俺の目はいつも変だ」
「いつもより変っす」
「いつもより?普通の方の俺の目はどんな目だ」
「それ、自分の目を聞いてどうするんすか」
「気になる」
「今、聞くタイミングじゃないっすよね、それ」
「お前、ツッコミの精度上がってる気がする」
「テルメさんに鍛えられてるんで」
「会ってないだろ、テルメとは」
「魂で繋がってるんすよ、ボケ、ツッコミ仲間として」
「魂の連携!あぁ、繋がりたい!!」
あぁ。なんか、楽しいぞ。
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「トントさん、大丈夫ですか??なんか、ヤバイっすよ!!」
ザウルが、風魔法で薬効を吹き飛ばした。
「ああああぁ。いや、なんか、もうちょっとやってても良かったのでは???悪くない、悪くないよ!!」
思わず声が漏れた。
「トントさん、ダメ、ゼッタイ!!」
ザウルが手をバッテンにして、トントにキツめに言った。
レンはそんなトントを横目に見ながら、キックルと共にため息をついた。
「ザウル、今、俺、何か変なこと言ったか」
「言いましたよ」
「何を」
「もうちょっとやってても良かったのでは、って」
「……俺、医師だったよな」
「そうっすよ」
「医師が、薬物の継続使用を肯定する発言をした」
「したっすね」
「最悪だ」
「五回目っす、その台詞」
「数えるな」
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しばらくして。。
トントはかなりスッキリした頭で、通信石を握った。
「エーアイ、分析結果は」
「まだ。送ってもらった分、今ちょうど見てる」
「頼む」
「……ところで、今日のあなた、調子おかしくない?」
「調子悪い。色々忘れる」
「歳のせいじゃないの」
「前世は四十六だったが、今は十四だ。歳のせいじゃない」
「薬のせいでしょ、それ」
「……そうだな」
ザウルが横で笑った。
「自覚あるの早いっすね、今回」
「学習したんだ」
「学習が遅いんすよ、いつも」
「お前、本当にテルメの分まで喋ってるな」
「二人分の仕事してる男っす」
「給料二倍にしてほしいのか」
「給料って概念、俺たちにあるんすか」
「……ない」
「無償労働確定っすね」
精霊が見返りを求めてきている気がする。
これが資本主義か!
権利の主張。
なんか、現世チックだな。 やるせない。
それにしても。
この薬、飛ぶなぁ。
強烈な覚醒と、依存性を感じる
これ、作ったやつ。
まさか。。。
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第2話 了
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