022-怖気
『今回は本隊との合流の後、敵の移動要塞を攻略する』
「本隊.....?」
『エスクワイア隊の本隊だ、5年以上勤務の精鋭だぞ』
「5年....!」
種族にもよるけれど、狼・獅子獣人の年齢換算であれば相当のベテランである。
私はパイロットスーツがきつく自分を引き締めるような感覚に襲われた。
『何、いつも通りこなせばいいだけだ』
「......」
宇宙空間に発射されたアストランティアを操りながら、私はいつも通り、戦闘機隊をワープさせる装置へと飛び込んだ。
謎の空間を突っ切り、その先に艦隊を見た。
いつもと違って、艦隊は青色のマーカーで表示されていて、味方だとわかる。
『お前か! 新入りってのは!』
『珍しいもんだな! ボスのお気に入りか!』
こっちに向けてガンガン飛んでくる通信に、私は困惑する。
どう返したらいいのか分からなかったからだ。
『――――お前ら黙りな!』
その時、通信で誰かが一喝した。その威圧感によって、通信が一気に静かになった。
その隙に、私はアストランティアを艦隊の真横に静止させる。
『アタシはレンファ、エスクワイア隊第二隊長さ』
「第二.....!」
『そんなに偉いもんじゃないさ、ババアだからね、年功序列ってやつさね』
『おい新入り! 長生きしたけりゃレンファの婆さんには逆らうなよ!』
『怒らせたら、死ぬほど怖いぞ!』
『こっちが黙ってりゃうるさいよ!』
何だか、賑やかな隊だ。
だけど何となく、その輪の中に入る事は出来ないような気がした。
それは、学校の先輩のグループと似たようなものだ。
長い付き合いの中で形成された気安さであり、その気安さに釣られてはならない。
私はあくまで、部外者なのだから。
「......よろしくお願いします、レンファ様、皆様」
『よっし、お前ら! 可愛い後輩は大事にしな!』
『『『『『『オオオオオオオオオオオオ!!!』』』』』』
異様な気迫に、私まで圧倒される。
『確かアストランティアはクリファー同型だったから、燃料補給は不要だったね?』
「....はい!」
『ようし、今からそっちにガイドを表示させるから、指定した母艦に一回降りな。機体から出る必要はない、ワープする時に飛ばないように固定するだけさね』
「....了解!」
私はアストランティアを、指定された母艦の滑走路へ降ろす。
翼を畳み、スラスターを切る。
『全艦隊に通達、240秒後に一斉ワープを開始します。艦隊外部に展開している偵察機及び直掩機は180秒以内に帰投してください』
通信が入り、ディスプレイオーバーレイに味方の機体が着艦していくのが見えた。
「あの.....」
『なんだい?』
「本隊は、どこから来てるんです?」
『グリトニル星系にある、アルテミスっていう要塞からさね』
「Noa-Tun要塞からではないんですね....」
『アッハハハハ、あそこは軍事基地としての役割を終えてるからねぇ』
かつて、Noa-Tun連邦の中央ユグドラシル星系には、Noa-Tunと呼ばれる超巨大な構造物があったらしい。
現在は解体され、その中央部にあった増設前の建造物が残るのみだという。
そして、オーロラとルルシアさん一派の命令により、Noa-Tun周囲は立ち入り禁止に。
てっきり、そこから出撃していると思っていたのだが....
そうじゃないらしい。
『あそこは、シン様の最初にして最後の家さね、軍事拠点ではなく、主力艦の居留地なのさ』
「主力艦.....?」
『戦艦の上、さね。後は自分で調べな』
「ありがとうございます」
私は携帯端末を取り出すが、圏外だった。
既に通信が封鎖されているようだ。
『全機に通達する、これより戦闘宙域――――敵中型要塞前に布陣する! 既に戦闘は始まっている。敵は艦載機発進の隙を突いてくる筈だ、指定時間以内に展開できなければ、その時点で艦載機の展開を打ち切る!』
かっきり240秒後。
艦隊は回頭して、ワープに入った。
私は発進準備を急いで整える。
直ぐに出せなければ後続がつかえる。
『ワープアウト終了まで1分、全艦載機発艦準備!』
もうすぐだ。
そう思ったその時、唐突に激しい振動が甲板を襲った。
「な、何!?」
『デルフィニウムより勧告・ワープ妨害フィールド内に突入しました』
「何それ!?」
『敵の罠です』
直後。
オーバーレイディスプレイにとんでもない数の艦隊が映った。
『何やってんだい、全機出な! このままだと母艦がやられるよ!』
「ま、まずい....」
私は助走無しで滑走路から飛び上がる。
その瞬間、敵が撃ってきた。
『こいつら、ただのテロ組織じゃないね! ワープ妨害フィールドジェネレーターはオリジンテックの筈だよ!』
通信が繋がったままなのか、レンファさんの声が響いてくる。
距離を取らなきゃ。
《有効射程外》
「くっ!」
砲台の射程内にあるとはいえ、艦載機の射程内ではないようだ。
母艦がやられる、というのは正確な表現ではないようで、まだシールドを破られているわけではないらしい。
「デルフィニウム、教えて」
『戦力差が甚大なため、今は回避を優先することを提案』
「.....私はどうなってもいいから、攪乱する手段とか?」
あんな良い人たちが死ぬところを見たくない、というのは私の我儘かな.....
勿論、私だって死ぬのは嫌だけど....
現代に生きる私だからだろうか?
死は遠く、実感がない。
本能が警鐘を鳴らしても、である。
『......新着メッセージ一件』
その時。
デルフィニウムが静かに読み上げた。
私は機体を母艦の後ろに隠して、メッセージを再生した。
『罠にはまったようだな、だが、この戦況をひっくり返せる戦力は、要塞に張り付くしかない、こちらで戦力を追加で送り込む事も出来るが――――もし君にできるのなら、そのアストランティアという戦略兵器の、真の力を――――君に貸そう』
「真の、力…?」
『この動画は、急いで撮ってるんでな、詳細は話せないが…デルフィニウムにコマンドを送ってある。…どうするかは、君が決めるんだ』
訳がわからない。
アストランティアはただの特注機じゃないの?
真の力? それは増援に匹敵するものなの?
それは、私が決めることらしい。
「こういうのは......苦手、かな」
君には能力がある。
君には決定権がある。
君にかかっている。
そんなのは苦手だ。
私は軽小説の主人公じゃないんだから。
『ガリー、何やってんだい! 早く先陣を切りな!』
『婆さん、無理だよ、この弾幕じゃ!!』
この中で、瞬間移動の様に――――速く動けるのは、アストランティアしかない。
だけど、悠長に敵を撃つ暇はない。
でも、どうすれば.......
「で、デルフィニウム.....シンにメッセージを送る」
『どうぞ』
「......助けて、ください」
真の力。
そんなのどうだっていい。
私は弱い、斬り込む勇気なんか、ない。
だって私はまだ、学生なんだから。
オトナじゃないんだから。
『正解だ』
その時。
通信が、コックピットに響いた。
どこから?
私が周囲を見渡したその時。
敵艦隊の中央で、太陽のような光が瞬いた。
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