021-英雄の正妻
時に無知とは、大きな傷を招く。
無邪気にノーザンライツを生ける英雄だと思っていた私は、ある日その全てに裏切られた。
ノーザンライツは決して無敵などではなかったし、知らずに使っていた年代を現す歴――――A.N.が、After Nothern Lightsだと知った時の衝撃。
国教である獣神教の他にもう一つ、ノーザン・ライツを崇める者たちがいた事。
そして、彼の機体...
英雄に映ったそれは、その目で見て...何より恐ろしかった。
それでも、私の脳裏に焼き付いた彼は、どこまでも英雄だった。
恐ろしいのに、ヒロイックに映る。
不思議な感傷だ。
『Q6:ノーザン・ライツの死後、王国の戦争犯罪人に選ばれた者を以下の中から答えよ』
「あ、これは簡単だ....」
私は今日も課題を進める。
歴史の課題において、私に答えられないものは少ないと言っていい。
だから私はいつも、これを最初にやる事にしている。
一番難しいのは数学.......流石にむずかしい.....
『Shin:お暇かな?』
その時、外して置いていた携帯端末が、ホログラムのポップアップを表示する。
ほら来た。
忙しいようで忙しくない時に、あの男は連絡を寄こす。
来るも来ないも自由だとシンは言うけれど、行かなかったらどうなるかちょっと怖くなる。
慌てて着替えて、寝癖を無理やり整える。
耳出し帽を被り、いつものジャケットを着込む。
荷物が入ったポーチと携帯端末を持ち、
「お母さーん、ちょっと遊びに行ってくる!」
「気を付けてね」
家を飛び出した。
既に迎えは来ている。
『ハッチを閉めますよ』
「はい!」
あのちょっとおかしい人....フィーアさんではなく、今日はルルシアさんだった。
シャトルに乗り込むと同時に、シャトルは浮上して加速を開始した。
「.....こんにちは」
「はい、こんにちは。どうですか、隊の居心地は?」
「...悪くない、です」
無難に答えてみる。
なんて返されるか、戦々恐々としていると、ルルシアさんは操縦桿から手を離して、
「なら良かった、可愛い後輩さん」
と言った。
ルルシアさんは、建国の偉人だと聞いているけれど、どうしてシンさんの妻なんだろう?
正直、不釣り合いなカップルに見える。
あの軽率に映るシンという男は、ルルシアさんに合っているとは思えなかった。
勿論言えるわけがないので、私は別の質問をする。
「......ルルシアさんは、この国をどうしたかったんですか?」
「...ストレートな質問ですね、まるで記者みたい...けれど、あなたのその問いには、中身がある。....薄っぺらい質問じゃないって、分かります」
ルルシアさんは困ったようにしながらも、答えてくれた。
私も、何でこの質問をしたかは分からない。
でも、ルルシアさんはバカにしたり、怒ったりせずに続きを口にした。
「....あなたは、最愛の人っているかしら?」
「....」
考える。
大事な人はいる、でも最愛の人は...まだ、いない。
「私にとってその人は世界の全てで、皆を導いてくれるリーダーだった。でもその人には、その人の戦いがあったんです、結果彼は死んだ」
「もしかして....ノーザン・ライツの事ですか?」
「あはははは!」
唐突に、ルルシアさんは笑い声を上げた。
どうしたんだろう、そう私が思った時、ルルシアさんは目じりに浮かんだ涙を拭いて、言った。
「シンの事ですよ、ノーザン・ライツは、シン・クロカワという人の偽名の一つに過ぎません」
「冗談がうまいんですね」
シンがノーザン・ライツな訳がない。
あんな軽率で、人生をノリで生きてそうな人が。
「.....あれでも結構変わったほうなのですよ? 前はといえば、口を開けば資源、次に戦争、そんな人でした。女っけもなくて、私は困ったものです――――もしかして、言い寄られてはいませんね?」
「....はい」
流石に気色悪いので、私は彼に誘われても断るだろう。
....多分?
だいいち、あんなのにときめかないし。
「....とにかく。私はあの人を失って....いえ、失いかけて、あの人は眠りについたのです。10年も眠ったあの人をアテにする事は出来なかった、だから――――長老たちを頼ったんです、頼ってしまったんです」
その結果元老院が出来て、民意のコントロールはルルシアさんの手を離れたらしい。
「ですから、今の国の現状は、私の弱さの帰結です。......私が、嫌いになりましたか?」
「いえ、別に....」
突然こんな質問をした私の方が悪いのだし。
私は頭を下げる。
「ごめんなさい、あなたに会えたと思ったら、突然こういう質問をしたくなって....」
「それはあなたが、現状に不満があるからでしょう? 変えたいと思っていると思っているから、そういう話をした」
「......そう、かもしれないです」
その時、アラートがコックピットから響く。
外を見ると、シャトルがゆっくりとアバターへと入っていくのが見えた。
オートパイロットだったんだ.....
「シンはそんな現状を変えたいと思っているのですよ、さあ、あなたも自分の役目を果たすのです」
「....はい」
最後の言葉に妙な引っ掛かりを感じつつ、私はシャトルから降りるのだった。
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