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020-ラーメン(n)郎

経済的にかなり余裕ができた私は、お母さんにはそれを黙って家にお金を入れていた。

当然お小遣いも自分で捻出する訳だけど、これまでよりずっと好きに出来るようになった。


「ふんふん、ふ〜ん♪」


私は上機嫌でストリートを歩く。

被害の少なかった首都南区の服屋で、新品のジャケットを買ったからだ。

星空をモチーフにしたもので、ベージュ色の生地にショッキングピンクや蛍光イエローの星形があしらわれている。

誰が見るものでもないけど、可愛いものは自分で買って、自分で満足するものだ。


「次はどこに行こうかな」


連絡が来るまで仕事は無い。

だから、私は南区のモールを練り歩く。

ウィンドウに並ぶ商品は、私の目には映っても背景でしか無い。

足を止めれば、そこはゲーム屋だった。

オリジンテックを学んだ人々が得られたものは少ないと聞くけれど、その中の数少ないものが「ゲーム」だ。

ノーザン・ライツが時間潰しに遊んでいたという、降ってくる石を同じ列に固めて消すゲームは、何度も作り直されて現在も人気だ。


「...あ」

「やっほー、アザミ」


その時、ゲーム屋の自動ドアを開けて、一人の少女が現れた。

クラスメイトのフォーザンだ。

私たちより大きな身長を持つ熊獣人で、そのくせ気弱だから、クラスではあまり馴染めていない。

私にはよく話しかけてくれるんだけどね。


「アザミも新作、買いに来たの?」

「いや、ちょっと見てただけ」

「そうなんだ...」


フォーザンは熊獣人用のヘッドフォンを付けると、さっさと行ってしまった。

私もヘッドフォン、買い直そうかな?

そう思ってゲーム屋に入ったけど、狼獣人用のヘッドフォンは売り切れていた。

次回入荷が未定だというので、私は諦めて店を出た。


「.........」


生活は、インフラの維持が困難になったとしても終わる事はない。

この先どうなるか、誰にもわからない。

もし国が首都の復興を放棄すれば、私たちもどこかに移り住むしか無い。

めんどくさい国だけど、こういう時に頼りにして、委ねてしまうのは私たちが平民故だからだろうか?


「帰ろうかな」


私がそう思って道を引き返そうとしたその時。

角を曲がって、仮面をつけた男が現れた。

シンだ。


「...おっ」

「こんなところで何を...?」

「市場調査さ」


彼は聞いたところで真面目に答えてくれる事はない。

それを分かっているからこそ、私はそれを無視して歩き出す。


「ちょうど腹が減ってるんだ、一緒に食べに行かないか」

「...なんで知ってるんですか?」

「退役兵の爺さんの息子がやってる店だ、10年前に一度、腕は知っている」


この時、私は期待していた。

どんな高級な料理屋なのかと。

シンの知り合いがやっているのであれば、確実に美味しい筈だと。







「大将、カタメヤサイマシマシアブラマシカラメスクナメニンニクマシマシでな」

「そ、その言葉は...もしや...」

「ら、ラーメン屋...」


行った先は、ラーメン屋だった。

それも、屋台のような構造で移動可能なもの。

10年前には存在していなかったものの、オーロラから知識を受け継いだルルさんたちが広めていったものの一つだと教わった。


「お客様、以上でよろしいですか?」

「この子にはソノママでいい」

「了解でーす!」


訳のわからない事を言うシン。

何やら自信たっぷりの様子だけど...

私たちは錆びついた椅子に座って、カウンター席で麺が来るのを待つ。


「お待ち!」


どん、と凄い音を立ててシンの方に、要塞のようなラーメンが置かれた。

最初に目に入るのは、器に入り切らない野菜の量だ。

もしかして私も、あんなのを食べさせられるんだろうか...

そう思っていたけれど、


「お嬢さん、お待ち」

「あれ...?」


普通の量だった。

もしかして、さっきの呪文が何か関係している?

関係者しか知らない符牒のようなものなのかな?

とにかく食べる。


「おいしい...」


健康に悪そうな味付けだけど、決して美味しくないわけではなかった。

バランスの悪そうな各要素が見事に噛み合っている。


「...うん、美味いな。こういうのは前に一度きりだが、適当な仕事でないのが美味さの秘訣か」


シンは何か呟きながら食べている。

獣人語じゃないので、私には意味が分からなかった。


「ふぅ...」


意外と重かったラーメンをなんとか完食した私は、既にシンがそれを食べ切っている事に気づく。

凄い速度だ...


「会計を頼む」

「へい!」


あれよあれよといううちに、私たちはラーメン屋から出て、喧騒と人通りの中へと戻っていた。

あの店の周囲に漂っていた静寂は今や何処にもない。


「それじゃあな」

「待っ...」


シンはそう言うと、まるで蜃気楼のように姿を消した。

黒髪を探せば、人混みの向こうに消えていた。

お礼を言う暇も与えないその様子に、私は何か畏怖のようなものを感じ取っていた。

メッセージで素早くお礼を言うと、私は帰りのバス停を探してその場を去るのだった。

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