22 心のままに
「少し外を歩こうか」
そう言われて、花が咲き乱れる庭園に出てきた。ここはおば様が好きな花が沢山植えられていて、まるで植物園のように色鮮やかだ。婚約が決まってここに来るたびにこの綺麗な庭園の奥にあるガゼボでお茶をするのが大好きだった。
シルは私の手をそっと引きながら、懐かしいガゼボに足を踏み入れた。ここから見える景色はあの頃と何も変わらない。
私、このままで本当にいいの?
シルに求められてここまで来たけど、このまま何事もなかったように結婚出来るの?ずっとずっと好きな人だもの。嬉しくないはずない。でも、ヘスティア様とのこともおじ様からの課題という話も、以前と違う態度も何も私は知らない。
それに、私自身子供を産んで三年間も平民暮らしをして貴族社会から離れて生活をしていたわ。おば様たちは歓迎して下さっているみたいだけど、これから本当にやっていけるのかしら。
──私のせいで、シルが悪く言われない……?
足を引っ張ることだけは嫌っ!
どんどんと悪い方向に思考が落ちていく私の手をぎゅっと握り締め、シルはその指先にキスをした。
その行為にキュッと胸が締め付けられた。
「アンジュ。どうか、聞いて欲しい。今まで僕はアンジュに甘えてばかりでちゃんと愛情表現を伝えてこなかった。それでもアンジュならわかってくれると思って驕っていたんだ」
「そんなこと──」
「あるよ。言葉でも行動でももっと示すことは出来たはずだ。でもしなかった。そのくせアンジュ以外どうでも良くて離したくなくて、アンジュから誘われた時に嬉しくてまだ早いと思いながら、もしこのまま誘いに乗ってしまえばアンジュはもう僕のものだと思った」
「……え」
なんか、シルの口から次から次へと知らなかった暴露話が溢れてくる。
うえぇえええ、初耳なんですけど!?
あの頃の態度のなかにそんな素振りひとっつもなかったと思うのだけど??あ、だから反省してるのか。
だからって、それ誰もわからなくない!?
私が驚いて言葉を発せずにいるのを引いたとでも思ったのか、自嘲気味にシルは言葉を続ける。
「……今のアンジュにとっては迷惑でしかないよね。こんな身勝手で独り善がりな感情なんて。それでも、他の誰にも取られたくないから、アンジュが本当はまだ僕のことを認めていないのだとしても頷いてくれたことを良いことに結婚を強要してる」
「そ、そんなことないわ」
「……良いんだ。それを承知で連れてきたのたから」
ほんとのほんとにそうじゃないのよ!?
だからそんな悲しそうな顔しないでよ……。
「僕は諦めが悪いから。アンジュを見つけたからには例え何があろうともう手離せない」
「シ、シルヴェスト……様」
ねぇ、なんだかどんどんお顔が近づいてくるのだけど!?私が好きなその顔に見つめられて、頬を大きな手で包まれて、動けるはずがないのよ!
「アンジュ。……僕なんかに捕まっちゃってごめんね」
「シル……っん」
「良かった。まだ僕の顔、好きでいてくれてるみたいで。……これからは行動でも言葉でもちゃんと気持ちを伝えていくから、アンジュに振り向いてもらえるようにもっと努力するから……そのときはまた以前のようにシルって呼んで……?」
(心のなかではいつでも呼んでてごめんなさいー!!)
間近で大好きなシルに見つめられて久しぶりのキスをされ、パニックになった私はそんなそんなどうでも良いことしか考えられなかった。
でも、次の発言で一気に目が覚めた。
「──ヴェスターのこともアンジュ同様たくさん愛を伝えるよ。……例え僕の血を継いでなくとも、愛する人の子どもだ」
「!!そ、それは違っ──」
「大丈夫。いつか僕らに子どもが出来ても、ヴェスターを冷遇したりなんてしないし、伯爵家の長男としてしっかり育てて見せるから。だから、安心して?」
だから。違うのよ。
ねぇ、どうしてそんな盛大な勘違いが出来るの!?
何からどう説明すべきかわからず、私は口をパクパクさせながら、結局口を閉ざして静かに首を縦に振ってシルに抱き締められながら途方にくれたのだった。




