13 すれ違って……る?
シルとお茶会をしたり、商会の仕事をしたり、ヴェスターに説明したり。何だかんだとやることが多くてあっという間に時間が過ぎていく。
──気付けばもうまもなく一週間が経とうとしていた。
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いつものように商談帰りに私の家にやってきたシルは、今日も今日とて贈り物とそして、花を持ってやってきて真剣な表情で問うてきた。
「明日、領地に帰ることになる。アンジュ……アンジェリア嬢にとって、これからのことを考えるには短い時間だったというのは承知の上でもう一度問わせてくれ。……どうか僕の妻になってくれないだろうか」
どう答えるのが正解か、未だに答えは出ていない。
それでも、これだけは告げるべきだろうと覚悟を決めた。
「……その答えを伝える前に一人紹介したい人がいるのです」
「紹介したい……人?」
ピシッと空気が止まったような気配がしたけど、それがどうしてなのかはわからなかった。
少し間があってから同意を得たので、私はユリにヴェスターを連れてくるように指示を出した。
カチャ。
扉が開くと恐る恐るという感じでヴェスターが覗き込む。
手招きするとたたたっと駆け寄ってきて抱きついてきた。
「ママー!」
「マ、ママ……?」
「ええ。私の息子のヴェスターです」
私はヴェスを抱き上げて片腕に抱えると、手が震えそうになるのを堪えて、しっかりとシルに向き合った。
「むすこ」
呆然としながら私と息子に交互に視線を向けるシル。
名前も、瞳の色も、明らかにシルの……シルヴェスト様の特徴だとバレバレな気がするけど、いざ目の前にすると、そのことを口にするのが躊躇われる。
子を宿すようなことをしていたのだし、きっとヴェスが私とシルの子どもであるとわかってしまっただろう。
「そうです。私が貴方の妻になるということは……その、つまり息子も当然一緒に行くことになります。ですが……そんなの伯爵家はお許しにならないでしょう……?それでも、まだ求婚なさいますか?」
婚前交渉をしただけでなく、意図的に子を孕んでそのまま逃げ出した婚約者。そんな醜聞だらけの人間など、由緒正しき伯爵家の嫁には相応しくないわ。それに、勝手に後継者を産んでいたなんて、それこそ、私だけ縁切りをして子どもだけ奪われかねない事態だ。
──もしそうされたら、私は今度こそヴェスを連れて遠くに逃げるつもりだ。
どれくらいの時間が経ったのか。
一瞬のようにも永遠のようにも感じる沈黙の時間を破ったのは、私の頬に触れるシルの震えた指先だった。
「許されるというなら、僕はアンジュと共にいたい。だから、求婚は取り下げない。勿論、子どもも一緒に来て良い」
「シ、シル……」
ほんとに……?そんなことが可能なの?許されるならって言うけど、許されないのはどう考えても私の方じゃない!
動揺して身を引こうとしたけど、頬に触れる指先が、空いた右手を掴むシルの手が、私が逃げることを阻止する。
「──その子が例え誰の子であろうと、アンジュの子どもなら僕にとってはかけがえのない存在だ」
「──へ」
今、シルは何て言った……?
「ヴェスターと言ったね。僕の名前は、シルヴェスト。君のママの夫になる者だ」
「おっと……?」
「そう。ヴェスターにとってはパパになるってこと。仲良くしてくれると嬉しい」
「パパ……?ボクの……?」
「そうだよ。これからは僕がママとヴェスターのことを守る。だから、僕のお家に来て欲しいんだ。良いかな」
「……ママ、いっしょ?」
「そう。ママも一緒だ」
「ん。いいよ!」
「……っありがとう」
目の前ではほのぼのと親子の会話をしている。
でも、ちょっと待って。さっきの呟きをそのままの意味で捉えるなら。
──一体、シルはヴェスが誰と誰の子どもだと思っているっていうの!?──




