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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第三章・アカデミー試験編
50/117

クロハVS残菊

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

「ぬうらあーーーーーー!!」

 残菊の雄たけびが、開戦の合図となる。

 両手を大きく広げ、一直線にクロハに向かって掴みかかろうとする。


 しかし、クロハは彼のたくましい腕を足蹴(あしげ)にして、跳び上がることで掴み攻撃を回避した。

 そして、空中で二丁の電気ショックガンのターゲットを残菊の背面、その両腕の付け根辺りに定める。


 パアン、パアン!

 彼女の放った弾は、見事狙った部位に命中する。

 バリバリバリバリ!!

 電流が、残菊の身体を流れる。


「ぬおーーーっ! 効かんわーーー!!」

 残菊が、自分の体に付着した弾を振り払う。

 クロハの撃ち込んだ電撃は、彼の肉体にまるでダメージを与えていなかった。


 一発当たれば並大抵の人間であれば気絶する電撃である。仮試験で、多くの受験生がその電撃を浴びて、例外なく倒れていった。

 しかし、この男は二つの電撃弾を浴びておきながら、全くダメージを受けてない様子でその場に立っている。


「へえー、少しはやるじゃん。楽しめそう」

 クロハは、残菊の後方少し離れた位置に着地する。

 これにはさすがの彼女も、相手の実力を多少認めるざるを得なかった。


「俺の肉体に、そんな子供だましの電撃が通るかよ! むしろ、体の調子が良くなった気がするぜ!」

 ブオン!

 残菊は、着地してきたクロハに、間髪入れずに渾身(こんしん)の右ストレートを顔面に打ち込もうとする。


 クロハは、電撃が効かないと分かり、自分が手に持つ二丁の電気ショックガンを放り投げる。

 ヒュン、ガシッ!

 自分の顔めがけて飛んできた大木のような腕を、クロハは顔を右方向に逸らして躱し、左肩と左腕を駆使してガッチリとホールドする。


「なっ!」

 残菊は彼女の予想外の行動に、思わず声を出す。

 彼の強力な殴打攻撃に対して、これまでの敵は後方に引いて危機を回避していたのに対し、今目の前にいる女が接近を恐れず、その場に留まったからだ。


 クロハは、自分の方に突進してきた残菊の勢いを利用し、彼の胸ぐらを掴んで腰を落とす。

「死ねや」

 投げの態勢に入り、残菊の足を地から離す。

「おおお!?」


 ブオオオン!!

 巨体を地面に叩きつけずに、宙に向かって投げ飛ばす。

 残菊の巨躯は、空中で一直線の軌道を描いて飛んでいく。


 ズガーーーン!!

「ぬおわっ!! がはっ!!」

 クロハが投げた先には、大きな岩石が一つ。残菊は、その岩石に強く打ちつけられた。


「ゴホゴホッ、こんなのは初めてだぜ。俺が投げられただと!?」

 残菊は、自分が宙へと投げられたことに未だ実感が湧いていなかった。

 数多の強敵を打ち砕いてきた自分が、容易く投げられ打ちつけられたのだ。それも見た目か弱い女子にだ。


「俺のパンチは当たれば即死だぞ? なぜ距離を取らねえんだ?」

 残菊は、クロハの動きに抱いた疑問をそのまま問う。彼には、その捨て身とも言える戦法が理解できなかった。

「当たる気がしねえのに、後ろに引く意味なんてねえだろ」

 クロハは、「お前こそ何を言っているんだ」というような表情でその問いに答えた。


 残菊の頭に血が上っていく。

 これまで感じたことのない屈辱が、彼から冷静さを奪った。


「チックショウが! ぜってー殺す!」

 残菊は先程と同様に、腕を大きく広げ、掴みの態勢に入る。

「掴めば、捕えれば俺の勝ちだ!」

 殺気を体全体から溢れさせ、瞳孔(どうこう)を開いて少女に迫る彼の姿は、狩りをする肉食動物を連想させる。


 しかし、相対する少女は獲物となる草食動物の器ではなかった。

 ヒュン。

 クロハは、残菊の掴み攻撃に対して、今度は跳び上がるでも後方に下がるでもなく、逆に残菊の間合いに一瞬で侵入してきた。


「はあっ!?」

 またしても予想外の彼女の動きに、残菊は動揺する。


 ボガーン!!

 クロハの左拳が、残菊の顎を下から突き上げる。

「ぶっ!」

 もろに食らった残菊が、後方へ仰け反る。


 尚もクロハの攻撃は止まらない。続けて右拳で、残菊の顎を側方から殴りつける。

「うっ!」

 なんとか立った状態をキープしている残菊だが、脳震盪(のうしんとう)を起こし、足元がふらついている。すぐにでも倒れてしまいそうな状態であった。


 クロハは、大きく跳び上がる。

 闇夜に舞う彼女の姿は、美しく、まるで森の妖精のようであった。


 しかしその実、それは悪魔だった。

 よろめいている残菊に、空中で時計回りに回転し上空から迫る。

 回転の勢いを利用し、上体を倒しながら、重心を右足に乗せて振り上げる。


 ドッゴーーーーーーン!!


 クロハ渾身の後ろ回し蹴りが、残菊のこめかみ辺りにクリーンヒットした。

 彼の身体は、蹴られた方とは逆方向に飛んでいき、木に叩きつけられた。その場で座りこみ、白目をむいてピクリとも動かない。


「転送されないってことは、死ななかったんだな」

 クロハは、残菊の身体がこの場に留まっているのを見て、まだ息があることを確認する。

「さっきの奴らから、早く桜水を強奪するか。ジュガイ・残菊、微妙だったな」

 クロハは、放り投げた電気ショックガンを拾い、その場を後にした。



「ちょっと時間掛かってるね~。残菊君、大丈夫かな~?」

「どんな心配してるんだよ。あの残菊君が負けるわけないだろ」


 ランチョとベシモは、残菊と別れた後、森に生っていた木の実を口にしながら、山をゆっくりと歩いて下りていた。

 歩みが遅い理由には、戦いを終えて戻ってくる残菊と合流する目的があり、二人の頭には「残菊の敗北」という概念は存在しなかった。ランチョにしても心配こそすれども、彼の勝利を疑ってなどいないのだ。


「みーつけた」


 ゆえに、後ろから掛かった思いがけない声に、ベシモは食べていた木の実を落とし、振り返ってその場に立ち尽くしてしまった。

「そんな……、残菊君は?」

 ベシモは、起こっていることが飲み込めず、独り言のようにつぶやく。


「あれ~、さっきの子だ~? なんで~?」

 ワンテンポ遅れて振り返ったランチョが、木の実を食べる手を止めずに首を傾げる。


「ジュガイ・残菊なら、来ないぞ」

 残菊を完膚(かんぷ)なきまでに叩きのめしたクロハは、電気ショックガンの引き金の部分に人差し指を引っかけ、両手でクルクルと回しながら歩み寄ってくる。


 彼女は、桜水を奪い返すため、徐々に彼らとの距離を詰めていく。

 嗜虐的(しぎゃくてき)な笑みを浮かべ、呆気に取られている彼らを追い詰めるように……。


「あの残菊君を……。あ、ありえない! 嘘だ! 君は噓をついている!」

 ベシモは、自分たちが狩られる側になったということを認識し始め、膝をワナワナと震わせる。

「どうやって逃げてきたの~? 残菊君を()くなんてすごいね~」

 ランチョは、持ち前の鈍さを発揮し、絶体絶命のピンチに陥っていることに気付かない。


 クロハは、回していた左手の電気ショックガンを、銃口がランチョに向いた状態でピタリと止める。

 パアン!

 発砲した弾が、ランチョの首筋に付着する。


 バリバリバリバリ!

「の~ん!!」

 ランチョは、付着した首筋の部分に手を当て、取り外そうとしたが、間もなく気絶した。


「なあ、桜水持ってんだろ? 早く渡せよ」

 クロハは、倒れているランチョを素通りし、後ずさりするベシモに高圧的に語り掛ける。


 取り残されたベシモは、顔を青ざめ、クロハに対して半身の態勢を取り、腰に携帯している電気ショックガンに手を当てる。

「わあ、ああ、来るな!」

 クロハとの距離を取り、隙を見て逃げ出すか、または発砲しようと画策したのだ。


「今なら気絶で済ませてやる。これ以上粘るんなら消すぞ?」

「ひいっ!」

 クロハは、ベシモの魂胆を読んでいた。


「ダセーなお前、虎の威を借る狐ってやつ?」

 そして、最大限相手を侮辱する。


「は、はい! どど、どうぞ! 転送だけは、転送だけは勘弁してくださいいい!!」

 ベシモは、へっぴり腰で2本の桜苗木を両手で差し出す。彼はクロハの圧に負け、抵抗することをやめた。


「うーわ……、一番ないわー」

 クロハは、心底幻滅した表情を彼に向ける。

 パアン!

 その表情を変えずに発砲する。


 彼女は、地面に転がった桜苗木を拾い、気絶しているランチョとベシモには一瞥(いちべつ)もくれずに、そそくさとAグループの元へと帰っていくのだった。


    ◇


 Dグループの桜水獲得を目指す第三班の残留組は、山頂付近を隈なく捜索し、桜水が発見できなかったことから、全て他のグループに奪取されたことに薄々気付き始めていた。


「おい見ろ! あの倒れてる奴ら!」

 メンバーの一人が指をさして仲間に知らせる。

 その先には、うつ伏せに倒れたランチョと、仰向けに倒れたベシモがいた。


「おい起きろ! 何があったんだ?」

 タツゾウが、ベシモの身体をゆする。

「ん、んん……」

 ベシモの目が半分開く。彼は今の状況を把握すべく、辺りを見回す。


「なっ、お、お前らは!」

 彼は上半身を起こし、自分がこれまで気絶していたことに気付く。

 そして、タツゾウたちの姿を見て焦り出す。


「桜苗木を見ましたか? 桜水が出る植物です」

 レイアが、片膝をついて倒れているベシモに質問する。


「み、見てないね……」

 ベシモは、団体行動を行わずに勝手に動いたにもかかわらず、その上桜苗木も奪われるという失態をレイアに知られたくはなかった。


「そうですか……」

 レイアはそう言うと、そのまま静かに立ち上がった。

 ドンッ!

「ぶうっ!」

 彼女は立ち上がった直後、ベシモの顔面を蹴り飛ばした。


「嘘ですね。手に僅かですが、桜水が付いています」

 一同は、ベシモの手を見る。彼の両手には、ほんの少しの量ではあるが、目立つピンク色の樹液が付着していた。

「今ので、あなた及びあなたたちが信用に値しないことが分かりました」

 レイアは冷たい眼差しで見降ろし、彼女らしい冷気を帯びた言葉で突き放す。


「第一班には多くの失格者が出ました。あなたたちが協力していれば、もっと犠牲を減らせたはずです。ジュガイ・残菊の勝手な行動で、第三班もずいぶん掻き乱されました」

 残菊、ベシモ、ランチョの罪状を彼女は淡々と述べる。


「今後、あなたたちは何もしないで構いません。戦力外なので。もし下手に動くようでしたら、次は同じDグループであっても消します」

 戦力外通告と転送警告を済ませると、レイアは二人を放置したまま上へと登って行った。



「ダメだ。完全に気絶してる。こりゃー当分起きそうにないな」

「これが無礼者の末路ですか。ざまあないですね」

 木の根元で座り込み、ピクリとも動かない残菊を発見したタツゾウは、彼の状態を確認する。ビンタを連発するが、全く反応を示さない。その横でファナは嘲笑(あざわら)う。


「あの争のジュガイ・残菊が、こんなことになるなんて信じられないな」

 メンバーの一人が、気絶している残菊の姿をまじまじと見つめる。


「彼が強いことに疑う余地はありません。相手は相当の手練れですね。大方察しはついていますが……」

 そう言うレイアの頭には、Aグループの一団との争奪戦時に手合わせした、可憐な少女のことが思い浮かんでいた。


「やはり、遅かったというわけですか……」

 レイアは、桜苗木が引っこ抜かれたであろう、桃色の跡を見てそう呟く。

「レイア様の責任ではありません。テキパキ動かない彼らの責任です」

 ファナはレイアの気を沈ませまいと、責任を他のメンバーに転嫁(てんか)する。


「テキパキ動いただろ!」

「何言ってんだよ!」

「私も頑張ったわよ!」

 彼らは、ファナに総バッシングを浴びせる。事実、彼らの中に怠けていた者などおらず、長時間の活動で体力も随分と削られていた。


「いいえ、ファナ。どんな状況であれ、作戦の失敗は指揮者の責任です」

 レイアはファナの方を向いて淡々と述べる。

 表情にこそ出さないが、彼女は自分がリーダーシップを取っていながら、一次試験突破に必要な桜水を獲得できなかったことに、自責の念を感じていた。


「そんなことはありません、レイア様……」

 ファナは、レイアの感情の機微を感じ取り、フォローの言葉を探そうとする。


「そうだな、お前のせいだ」


 タツゾウが、その場の空気を最悪なものにした。メンバーたちはその発言に驚愕して固まる。

 ファナは瞳孔の開き切った眼でタツゾウを見据え、彼の元へ木刀を手に、殺意をいつにも増して溢れさせながら迫っていく。


「そんで、俺らのせいだ」


 ファナが、木刀を片手で地面に引きずる殺人鬼染みた歩みを止める。

 レイアは、自分のことを「嫌いだ」と言っていたタツゾウが、フォローの言葉を投げかけてきたことに驚き、怪訝(けげん)な表情を向ける。


「急いで取り返そうぜ! 時間もあんまりねーしな!」

お読みいただきありがとうございました。

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