人と道具
小説家になろうデビュー作です。
よろしくお願いします。
Cグループ本拠地にて―――
Cグループは、どのグループよりも早くすべての工程を終え、桜水をかけることができる段階にまで来ていた。
しかし、ここに来て数十分膠着状態が続いている。
それはなぜか……。
巨人カブに、桜水をかけることが躊躇われるからである。
巨人カブの幼子に桜水をかけると、副作用を伴いながらも強制的に体が大きくなる。
副作用というのは、その幼子が宿すあらゆるエネルギーを強制的な成長に使うことであり、成長後、弱った幼子は死に至る。
これすなわち、巨人カブの命を自分たちの試験突破のために「使う」ことを意味する。
「かふぅ?」
「ねえ、やめようよ。かわいそうだよぉ」
Cグループの一人が、そんな声を上げる。それに同調するような声もいくつか上がる。彼女たちは巨人カブの幼子を離そうとしない。
「何言ってんだ! ここで落ちたいのかよ!」
これに対し、試験に合格するために必死な声が多く上がる。
これと同じようなことが、桜水を手に入れた各グループで起きていた。
十奇人控え室にて―――
「さあ、ここが重要なところです」
クルーズは、意見をぶつけ合う受験生たちを画面越しに見て、これまでよりも真剣な面持ちをする。
「まったく超絶趣味の悪い試験だぜ」
フェンリルは、パイプ椅子の背もたれに寄りかかり、後方の足のみでバランスを取る。
この第一次試験は、戦闘力や知力、体力を試すのはもちろんのこと、各グループのチームワーク等、戦士に必要な総合的な要素が問われている。
しかし、それらはどれも主旨に非ず。
この試験の主旨、それは、珍獣を「道具」として見ることができるかどうかである。
「この試験に合格し、八併軍に入れば、珍獣を『武器』として『使う』ことになります。彼らを私たち人間と対等な命と認識していては、満足に特殊装備を扱うことなんてできませんからね」
今回のこの試験を組み込んだのは、クルーズである。
彼は、珍獣に対して「無」でいられる人間こそ、八併軍の戦士にふさわしいという考えを持っていた。
珍獣とは、人に利用される「道具」なのだ。
◇
「聞いてもいいですか?」
「なにをだ?」
レイアは、タツゾウと並んで歩く。
「先程のあなたらしからぬ発言についてです。なぜ、私をフォローするような発言をしたのですか?」
彼女は銀髪の青年に、彼の発言の真意について尋ねた。
「フォロー? 俺は事実を言ったまでだぜ」
タツゾウは、真っ直ぐ向いたままで顔をしかめる。
「それに、リーダーを一人にするようなチームは先には進めねえ」
彼の発言に、レイアはフッと笑う。
初めて見た彼女の綻んだ表情に、メンバー全員が唖然とする。それらの様子を、ファナだけは後ろから不満げに眺めていた。
「他人を理解するというのは難しいですね。ソラトも、あなたも、私の常識では測れない。六助さんが言いたかったこと、今ならなんとなく分かる気がします」
レイアは、自分とタツゾウに向けて送られた六助の言葉を思い出し、さらにあの事件の日に自分が目にした出来事を思い返す。
仮試験の際、雨森ソラトはなぜ武器を手にしなかったのか。
六助がなぜ険悪な自分たちを叱ったのか。
半人半骸の男が、なぜ偉人を殺すことを求めるのか。
そして、ソラトがなぜ自分を助けに来たのか。なぜタツゾウは彼について来たのか。
それぞれの過去や価値観に基づく行為。
それらが簡単には理解できないことを、彼女は思い知る。
「先程は、薄気味悪いなんて思ってしまい、すみませんでした」
「そんなこと思ってたのかよ!?」
レイア達一行は、桜水を余分に持っていると思われる、Aグループのアジトを目指して山を下りているところだった。
レイアが予想する試験の終了まで、残り1時間半を切った。
「よお、ちょっと止まれよ」
森の中で、どこからか突然声を掛けられる。
「これが欲しいんだろ?」
木の裏から出てきたのはクロハだった。
彼女の手には2本の桜苗木が握りしめられていた。
「ええ、それを奪いに今から行くところでした」
レイアは、クロハにありのまま目的を告げる。
「さっきの続きをしたいんだ。そしたら1本くれてやる。私と戦え留年寺」
クロハがレイアに決闘を申し込む。
クロハの表情は、強敵を前に血をたぎらせる戦闘狂のものであった。
「麗宮司です。以後、私の名前を正しく認識していただけたら幸いです。良いでしょう、その申し出受けます」
レイアは決闘の申し出を承諾し、一団の元を離れ、クロハに近づいていく。
「手出し無用です。一対一の申し出ですので」
メンバーにそのことだけを伝え、左腰に据えた木刀を前方に構える。
クロハは、桜苗木を1本、タツゾウの方へ放り投げる。飛んできた苗木を、タツゾウはキャッチした。
「じゃあ先に行ってるぜ」
「ええ、あとはお願いします」
レイアは、残りのことをタツゾウに託し、目の前の相手に集中する。
「隙が見当たらねえな」
「そう言うあなたは、隙だらけですね。しかし、わざと見せているような気もします」
両者が、互いに出だしを読み合う。
レイアは木刀を体の前に据え、自分の間合いに入ってきた瞬間に、一太刀浴びせることができるように構える。
対面のクロハは、隙の無いレイアの構えとは対照的に、両腰に携帯している電気ショックガンに手も掛けず、上方に大きく伸びをするという隙だらけのムーブをする。
「悠長ですね。決闘の相手に対する敬意が欠落しています」
「敬意ならある、あんたは実力者だからな」
クロハは、レイアの指摘を受けるも、今度は前方に伸びをしながら答える。
先に動いたのはレイアだった。
彼女は、構えはそのままに右足を一歩踏み出す。
レイアの動き出しを見て、クロハは、両手を両腰の電気ショックガンの持ち手に掛ける。
次にレイアは、左足を進める。クロハの握る手にも力が加わる。
あと一歩。それはレイアが、相手の胴を断つことができるギリギリの距離。そしてそれは同時に、クロハが電気ショックガンを放つ距離でもあった。
(次の一歩が勝負です。これで決まるかどうか……)
(撃つタイミングはいくらでもあるが、撃つだけじゃ意味がねえ。こいつが反応できない距離で、尚且つ私がやられない距離)
冷たい夜風が二人の間を吹き抜けた瞬間、ここまで動かなかったクロハが一歩を踏む。
直後に、二丁の電気ショックガンを前方に構え、同時に放つ。
パアアン!!
その二射撃をレイアは、一方を、木刀をほんの少し傾けて軌道を逸らし、もう片方を顔のみを逸らして躱す。彼女の構えは崩れなかった。
そしてすかさず、神速の一太刀を相手に振るう。
ブオン!!
クロハはその斬撃を後方に跳び上がることで回避し、空中で一回転をしながら木の枝に登る。
両手が塞がっていながらも、抜群のバランス感覚で体勢を崩さない。
「凄いですね。私が斬るよりも早かった。それに両手が塞がっていながら、そこまで動けるとは……」
「あれ反応するんだな。あんたの構えが崩れたところで追い打ち掛けようと思ったのに、崩れないのかよ。剣筋も見えねえし、焦ったわー」
お互いに、その一瞬の攻防で相手の実力を見極める。
(やはり、かなりのやり手ですね)
(やっぱ、こいつ強え)
しばらく見合った後、クロハが突然切り出す。
「やっぱやめたわ」
「はい?」
クロハの発言に、レイアは不意を突かれたような声を出す。
「ここで決着着けるの、もったいない気がしてきた」
「決闘とは、戦士が誇りをかけて行うものです。決着がつくまで続行しなければなりません」
レイアは、クロハの発言に憤りを含んだ声色で返す。
彼女には、戦士の決闘を途中で放り出すという行動が許せなかった。
「私、決闘とは一言も言ってないけどな」
「屁理屈です」
クロハは、木から地に飛び下りる。
「あっそう、私は帰るけど。続けても良いけどね、ついて来られるなら」
そう言って、彼女はレイアに背を向ける。
「じゃな、突破しろよ留年寺。そうじゃないと、ここでやめた意味がねえから」
「なっ!」
クロハは駆け出した。森の中をクネクネと曲がりくねりながらも、高速で移動する。
レイアも必死に追いかけるが、既に見失いそうであった。
クロハが、切り立った地形で木に飛び移ったあたりで完全に見失ってしまった。
「はぁはぁ、決闘を放棄するとは……」
レイアは、息を切らしながら辺りを見回す。しかし、そこにはクロハの影も形もなかった。
「あと、私は麗宮司です……」
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