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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第二章・イア騒動編
28/117

正しい進歩

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

『ってな訳だから、取引が終わるまで待機だ』


 ガチャン。ツー、ツー、ツー。

 鹿馬松は能天気に現状を説明して、こちらの返事も待たずに電話を切った。ずいぶんとせっかちな奴だ。


 俺の中で疑問だった事はただ一つ、鹿馬松がどのような手段を使って、理の大統領邸宅に忍び込み、大統領を拉致したのかということだけだった。

 それだけがどうしてもわからなかったのだが、奴の部下からその秘密を暴露させたところ、その内容を聞いて俺は心が震えあがった。


 ()()()()が動いたのか!

 ゾクゾクが止まらない。鳥肌も分かりやすく立ってしまっている。

 どうやら鹿馬松の奴は「とある筋」を利用し、大統領の拉致を行った、いや行わせたらしい。すごいのは奴ではなく、「あいつら」だ。


「ふふ、ふふふふふ、アッハッハッハッ、まったくどんな条件で依頼したんだよ。あいつらを動かすたぁ、鹿馬松の奴もやるじゃねーかよ」


 だが、鹿馬松は確実に「あいつら」に利用されている。あの連中がただ奴の目的に協力しているとは思えない。

 ぶっちゃけ鹿馬松はそこまで大した男じゃないが、こういった人を動かす力や、他人を自分に協力させる力には長けているらしい。現に、俺や「あいつら」も奴の作戦に協力し、奴の野望実現に手を貸す形になっている。


 しかし俺は、鹿馬松の目的が達成されようがされまいが興味はない。

 自分が楽しければそれでいい。今回のこの件の協力の依頼を引き受けたのも、そこに俺の「楽しみ」が垣間見えたからだ。


「なあお前、この俺たちの作戦を阻止しに、十奇人は現れると思うか?」

 俺は、拘束され身動きもできずに黙りこくっている美少女に問いかける。


「残念でしたね。必ず来ます。当然です」

 麗宮司レイアは、嫌悪感を隠すことなく表情に出しながら答える。

 家庭で、捕虜にされた時ですら気丈に振舞えと教えられているのだろうか。姿勢を崩すことなく、ピンと背筋を伸ばし、目を瞑り、弱音一つ吐くことなく、必要以上に口を開かない。


「そうか、なら良かった。そうでなかったら俺は、契約違反で鹿馬松を殺さなくちゃいけねえところだった」

「なぜ、十奇人が来て喜ぶのですか? あなたたちからすれば、一番厄介な敵のはずですが」


 その通りだ、普通はな。当然、鹿馬松も十奇人が来ることを望んではいない。

 おかしいのは俺だ。よく自覚している。そう、とてもよく……。


「殺したいんだ。英雄」

 俺の発言に、彼女は表情を変えることなく、目を細め、鋭利な眼光で睨みつけてくる。


「言っただろ。そういう連中を殺すことに生きがいを感じてんだ。俺はよ」

「あなたは国際的な犯罪者であっても、戦士ではない。あなたが彼らに勝てるとは、私には到底思えません」

「誰が真正面から戦って殺すと言ったよ。戦闘狂と勘違いすんじゃねーよ。殺人狂と思ってくれや。どんな手段でも芸術的に殺せればいいんだ」


 その俺の言葉を聞き、彼女はまた静かに目を瞑り、静物と化した。

「ああ。早くぶっ殺してえなあ。それだけで良いんだ。世界やら国家やらはどうでも良いからさ」


 天井を仰いだその瞬間、下階から数発の発砲音がこの5階にまで響いてきた。


    ◇


 階段を駆け上がる。

 僕には勇気がなかった。戦う友人を見捨てて、自分一人だけで逃げ出す勇気が。


 上の階に来てみて分かったことがある。

 ここは元々病院だったらしい。ドアが開いている部屋を覗いてみたところ、医療用のベッドがあり、その側に点滴等の機材が立ち並んでいた。


 廊下にはズラリとドアが並んでいて、グルっと一周できるようになっている。窓ガラスは割れ、破片がそこかしこに散らばり、床にもヒビが入ったりしている。今にも倒壊しそうだ。

 階段を上って左側から201、202、203……、といった具合に一つ一つの部屋には番号が振られてある。おそらく僕たちがいた1階は、受付などの窓口だったのではないだろうか。


 テロリストの多くは、タツゾウを捕えるべく1階の方に集中しているようだった。2階にも3階にも人は見受けられない。

 タツゾウは無事だろうか、レイアさんはどこにいるのだろうか。


「おい、俺たちは行かなくて良いのか?」

「5階には誰も行かせるなって言われただろ。もしもの時のために、俺たちはここで待ち構えておく必要があんだよ」


 3階から4階に上がる階段の踊り場で、5階に上がる階段の前に、テロリストが二人で見張りをしているのに気づいた。

 あの口ぶりからして、きっとレイアさんは5階にいる。


 でも、ここからどうしたものか。どうやって、上の階に上がろう……。

 僕は視線を下に落とし、自分の腰に携帯してある一丁の電気ショックガンを見つめる。

 ブンブンブンと頭を振る。


「ダメだダメだ、ちゃんと考えなきゃ」

 自分の力を信じない方が良いことは、僕が一番知っている。

 僕がこの電気ショックガンを彼らに放ったところで、それが当たるはずないのだから。


「うーん……」

 ダメだ。全く思いつかない。

 僕の視線は再び電気ショックガンへと向けられる。これを……、使うしかないのだろうか。

 電気ショックガンを取り出し、その引き金に右手の指を掛ける。


「ふぅ、ふぅ……」

 大丈夫。当たっても気絶するだけだ。相手が死ぬことは無い。

 タツゾウだって頑張ってるんだ。僕だってこれくらい……。


 非殺傷武器とはいえ、今、僕は初めて人間に武器を向けている。

 震える右手を左手で押さえ、照準がブレないように固定する。


 パン!

 結果は見え透いていた。僕の放った弾は、二人の見張りの間を通り抜けて壁にぶつかった。

 外してしまったのだ。


「ひいいいい!」

 階段の踊り場から踵を返し、全力で3階に向かって駆け戻る。


「誰だ!」

「おい、追うぞ!」


 ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!

 追ってくるテロリストを目の端に捉え、僕の心臓は鼓動を速める。

 近くの部屋に逃げ込んだが、そこからの逃げ場がないことに気付く。


「どどど、どうしよう!」

 僕が咄嗟に選んだ選択は、室内のベッドの下に身を潜めることだった。


「どこに行った?」

「さあ。だが3階にはいるはずだ。手分けして、部屋一つ一つ探すぞ」

 外で二つの足音がコツコツと聞こえ、もうこのまま少しも出られない気がしてくる。


 コツ、コツ、コツ、コツ。

 一つの足音が近づいてきた。

 ゴクリ、と唾を飲み込む。息を止め、微動だにせず、自分の発する音を全て断ち、必死に存在感を消す。


 ガチャン。

 隣の部屋のドアが開く音がした。口を押える。

 コツ、コツ、コツ、コツ。ガチャ。

 遂に僕の部屋に入ってきた。僕の視界からは足だけが見えている状態だ。


 神様お願いします。非力な僕にお慈悲を! これから必死に努力しますから、決して怠けませんから、頑張りますから!


「出てこい! どこにいるんだ? 俺らのこと舐めてんだろ?」

 全然そんなことありません。怖くてたまらないです。

 ドクンドクンと心臓が大きく脈打つ。


「手足もいで尋問でもするか」

 その言葉に大きく身震いする。

 どうかお願いします、早くこの部屋から出ていってください……。


「さてと、ベッドの下も見ねーとな」

 ひいいいいいいいいい!! うわああああああ!! いやああああああ!!


 ドックンドックンドックンドックンドックン。

 初めに両足が震えだす。次に両手が震えだす。最後に冷たい汗がドバドバと出てきた。


 目の前の敵は膝を地面につき、今にもベッドの下を確認しようとしている。

 僕は無意識のうちに、電気ショックガンを持つ右手を前に差し向けていた。


 パン!

「うおっ!」

 ベッドの下を覗き込んできたテロリストの額に命中する。ほぼゼロ距離での射撃だったため、いくら僕であっても外しようがなかった。


 ビリリリリ!

「ぬうううううう!!」

 テロリストは額を押さえて痙攣し、やがて気絶した。

 僕は人を攻撃した。明確な意図を持って、彼を攻撃したのだ。


「ごめんなさい……」


 はたして、これで僕は、レイアさんが仮試験会場で言っていた「八併軍の戦士」に近づけたのだろうか。この進歩は、正しい進歩なのだろうか。

 再び「正しい」について考えてみたが、難しすぎてすぐにやめてしまった。


「おーい、そっち見つかったかー?」

 急がなければ。もう一人が異変に気付いてこっちに来てしまう。その前に上の階に上がってしまおう。


 いざ、運命の最上階へ。


    ◇


 銀髪の青年は、数多の弾丸を躱し、または捌きながら薄暗いフロアを疾走する。

 彼の右手には先端にかけて曲がった大きな木刀が握りしめられている。


 パアン、パアン、パアン!

 カン、カン、カキーン!

 銃弾の軌道を予測し、銃声のタイミングに合わせて右手を振るう。

 木製の大太刀が発砲された数発の銃弾を弾いた。


「どうしたどうした! 俺はまだまだ行けるぜ! かかってこいやー!」

 タツゾウは動きながら相手を挑発する。


 ここに至るまで、すでに彼は5人のテロリストをノックダウンさせている。

 テロリストたちは、彼を外へ逃がさぬよう数人で玄関を塞ぎ、また上の階へ上がらせないよう数人で階段を塞いでいる。

 他のメンバーで、侵入者を中心とした円を描くように取り囲み、円の内側で奮闘する彼を360度あらゆる角度から狙い撃つ。


 パアン! パアン! カキーン!

「これでどーよ!」

 ブオン!

 タツゾウは、複数の迫りくる銃弾を見事に捌き切り、正面にいる敵に斬りかかる。


「ぶおっ!」

 胴体を真横から激しく打ち付けられたテロリストは、大太刀の勢いあるスイングに当てられ、後方に大きく吹き飛んだ。


 タツゾウは続けて近くにいたもう一人を、今度は大太刀を上段に大きく振りかぶり、力強く振り下ろす。

「ぶっ!」

 頭を真上から強打する。そのまま敵は地に伏した。


「ここまでだ!」

「動くな! 手を上げろ!」

「観念しろ! 侵入者!」

 しかし、彼の快進撃もここまでだった。


「さすがに無理っぽいな」

 四方八方から十数の銃口を自身の肉体に向けられる。さしものタツゾウでも、これはさすがに逃げられないと分かる。

 彼は木刀を地面に置き、ゆっくりと両手を上げた。


「おい、こいつを縛り上げろ」

 彼らの中でリーダーらしき男が、その他の人間にそう命令する。

「はい」

 三人がかりで取り押さえられ、両手両足を縛られその場に横たわる。


「5階に連れていけ! いつもだったら殺しているが、ここでのトップはあの男だ。奴の指示に従う」

 このまま殺されるわけじゃねーのか、と彼は少し胸を撫でおろす。


「おい! もう一人はどこだ?」

「ほえっ? 何のことだよ?」

 一人の男が怒号を浴びせるとともに、タツゾウの胸ぐらを掴んで持ち上げ、問い詰める。

 その詰問に彼はとぼけてみせるが、白々しく見え透いた演技である。


「シラ切ってんじゃねーぞ!!」

 テロリストは先ほどよりも大きな声で威圧する。しかし、彼が怯む様子はなく、飄々とした態度でニヤニヤ笑うだけだった。


「てめえ、あんまり舐めてっとここで殺すぞ!!」

「だめだ。やめろ、手を離せ」

 完全に頭に血が上っている部下に対して、リーダーらしき男が落ち着いた声で諭す。

 部下は不満げな顔でタツゾウを地面に下ろすと、彼を両足が縛られたままの状態で直立させた。


「いったん上に上がるぞ。一人先に上がって、山葵間に報告しろ」

 部下にそう命令した後、その男はタツゾウの方を向く。鋭く目つきを変えて彼を睨みつけた。

「もう一人の居場所も必ず吐いてもらう」

 そう言って男は「運べ」と部下達に言い放ち、自分は数人の部下と一緒に、何かを話しながらさっさと階段を上って行ってしまった。


「はぁー、吐かせるのはカエルだけにして欲しいもんだぜ」

 数人に抱えられながらタツゾウはボソリと独り言をつぶやいた。

お読みいただきありがとうございました。

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