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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第二章・イア騒動編
24/117

山葵間正

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

「おい山葵間(わさびま)! 聞いているのか! この作戦は、俺たち組織の今後に大きく関わる重要な作戦なんだぞ!」

 うるさいやつが吠えてやがる。


「ちゃんと聞いてるって、要は対象を攫ってこればいいんだろ?」

「気づかれずにだぞ!」

「わーかってるって」


 この俺、山葵間は「ノータリン」というテロ組織に属している(とは言っても、この作戦を行うための一時的な協力関係だが)。

 そしてその組織のリーダー・鹿馬松(かばまつ)に作戦の再確認をされているところだ。


「お前が作戦のカギだ。お前が失敗すれば、全ての作戦がお釈迦になるぞ! それに対象はガキとはいえ強い。決して油断するんじゃないぞ! 分かったか!」

「だから心得てるってよ!」


 しつこすぎてさすがにイライラしてきた。もう何十回も同じことを聞いている。

 この国際的な大犯罪者・半人半骸こと山葵間(ただし)のことが信用できねーってのか。


「大丈夫だ。捕獲の手段はもう考えてある」

 俺には自信がある。この自信は俺のこれまでの「功績」から来るものだ。

 正直今回の作戦も規模はでかいがビビるほどのことではない。それなのに目の前のこいつときたら、他のメンバーよりもビビり散らかしてやがる。


 まず、受験者の一人の顔の皮を剥ぎ取り、それを被ってビルの内部へ侵入する。

 狙うのは身長や体重が俺と等しく、身体的特徴が酷似した人間だ。セキュリティが強固なため、そいつの顔の皮を被り、本人認証を突破するわけだ。


 次に、エレベーターで地下3階に降り爆弾を設置する。

 その理由としては、地下4階には大会の運営陣がゴロゴロいて、動くには障害が多い。しかし、地下3階であれば人が少なく警備の監視の目も甘いからだ。

 警備の人数や配置等の情報は、すでに数人の協力者から頂戴済みだ。


 最後に仮試験が終わったタイミングで起爆する。

 遠隔でも起爆することができるため、俺の持つスイッチ一つで爆発させることが可能だ。

 試験が終わり、全員がほっとし、気を抜いたタイミングで爆破させることで、対象の拉致の成功率を上げることができる。


    ◇


 ボガーン! ドゴーン! ドドーン!


 花火が爆発したような音が上の階から鳴っている。

 激しい轟音の直後、天井から瓦礫が降ってきた。落ちて来たものの中には、人もいた。


「「「うわーーーーーーーーーーーー!!」」」


 会場内の人たちが大声を上げる。そして逃げ出そうとし、走り回る。

 エレベーターの方へ走る人もいれば、会場裏に逃げ込もうとする人たちもいる。

 僕はその混乱の中逃げ遅れてしまい、逃げ惑う人たちに踏みつぶされる。


 ドスン!

 瓦礫が隣に落ちて来た。これは逃げなきゃ死んでしまう。


「おいソラト! 何してんだ逃げるぞ!」

 下の方からタツゾウの声がした。キコリ君とマータギ君も一緒だ。

 どうやら会場裏の方に逃げるらしい。僕は急いで立ち上がり、彼らの方へ走った。


 その混乱の中、逃げている僕の目が一人の男の人を見つけた。

 確か僕が乗っているエレベーターに乗ってきた人だった。

 彼は誰かを担ぎ、走ってどこかに向かっているようだ。


 担がれている人の髪がなびく。艶のある黒と青の美しい髪だった。


「……あれは!」

 連れ去られそうになっている人が判明したのと同時に、あの時は気にもしていなかった男の顔に違和感を覚える。

 あの人の顔……、そうだ!!


『おい、「ゲロ吐き野郎」と「ほんげー」、こんなところで突っ立ってもらっちゃ迷惑なんだけど、どいてくんないかな?』


 バスを降りてすぐに、僕とタツゾウに対し嫌味を言ってきたあの糸目の少年だ。あの少年の顔がある。

 どういうことかは分からないが間違いない。


「急げソラト! モタモタしてたら潰されちまうぞ!」

「うん!」


 僕は急いで会場裏に逃げ込んだ。ギリギリセーフだ。僕が逃げ込んだ途端、入り口が瓦礫で塞がってしまった。

 しばらくの間、天井の崩壊音が続き、そして収まった。


 ここはさっきまで僕がいた治療室だ。ここで試験によって出た負傷者を治療していたのだ。

「全員しばらくの間、ここを動かないように」

 先ほどの女医さんだ。

 僕たち受験生にそう指示した後、彼女と同じ様な白衣を着た人や看護師さんのような人たちと何やら話している。


「本部と連絡が取れません。おそらくさっきの衝撃で通信機も破壊されたのだと思われます。カメラも破壊されていると考えると、あちらからは内部の状況も見えないでしょう」

「ここにいる受験生は70名程しかいません。おそらくですが、その他の多くは……」

「わかっています。しかし、外の状況が確認できない以上下手に動くことはできません。この会場からは出るべきではないでしょう。私たちはあくまで医療部隊です。事件の解決は戦士部隊にお任せしましょう。まず、今私たちが取り掛かるべき事は、この闘技場内にいる受験生たちの救出、救命です」


 彼女らは話し終えた後、バタバタと何かの準備を始めた。救出・救命のための準備だろうか。

 そんな中、医師たちのある会話が僕の耳に入ってきてしまった。


「どうしてこの場にレイア様がいないんだ? これは下手すれば大事になるぞ!」

「きちんと見張らせていたんだが、あまりに突然の出来事なもんだから……」

「この前テロがあったんだぞ! もっと彼女に注意を払うべきだったんだ」

 どうやら麗宮司レイアがこの会場裏にいないらしい。多分、僕が見たものは間違いじゃない。


「タツゾウ、レイアさんってどんな立場の人なの?」

「ん、レイア? ああ、八併軍総督の娘だぜ。麗宮司家は代々、八併軍で優秀な功績をあげていてよ、上の連中にも麗宮司家やその取り巻きの人間が多いらしいぜ。要は八併軍におけるエリート家系なわけよ」

 そうか、だとすると狙われた理由も大方推測できる。


「多分だけど、レイアさんは拉致されたんだと思う。彼女を担いでいく怪しい男の人を見たんだ。きっと、人質にするんだよ」


 あの背の高い男がテロリストで、麗宮司レイアを人質に取るためにこの場にいたのなら、いろいろと合点がいく。

 僕の乗っていたエレベーターに途中で乗り込んだのは、おそらく爆弾を地下三階で仕掛けていたからだ。さっきの爆発は、彼が場内の混乱を招くために起こしたものだろう。

 もちろん、すべて推測に過ぎないが……。


「ホントかよ!? でもよ、だとしたら要求は何なんだよ?」

「わからないけど、多分、身代金とか……」

 僕は、人質を用いた要求の定番を答える。


「やっぱり怪しいよ。バスを降りた時、僕らに声をかけてきた人がいたでしょ? 恰好も髪型も違ったから別人だと思うんだけど、顔はその人のものだったんだ」

「あいつの顔!? いったいどうゆうことなんだ?」

「うーん、どういうことなんだろう……」


 今この場で実行犯の外見を知っているのは僕だけだ。

 他の誰も知らない情報を僕だけが知っている。レイアさんは彼を追ったその先にいる。


「そいつ、レイアを避難させただけじゃねーのか?」

「でも、……嫌な予感がするんだ」


 僕は特に勘が鋭いわけではないが、当たっているような気がする。

 エレベーターに乗る人が、乗っている人に「乗っても良いかい?」と確認なんてするだろうか。ますます怪しい。


 僕は迷った。このまま試験が続行される場合も有り得る。

 そうなればこれから僕が取る行動では不合格へまっしぐらだ。


 そこで考える。

 彼女の夢はいったい何なのだろうか。きっと、何かしら夢を持っているはずだ。

 そして思い出す。自分がなぜこの場所に来たのか。なぜこんなにも自分にそぐわない場所へ来たのか。


 考える、思い出す、最後に決心する。

 彼女の夢を失わせたくない!


 心に焔が灯った気がした。不思議と勇気が湧いてくる。


「僕は行くよ、助けに。その男の人見たのは僕だけだから」

「よっしゃ! 面白そうだな! 俺も行くぜ!」

 タツゾウが目を輝かせて二つ返事でそう言った。彼はこれを遊びか何かと勘違いしているのだろうか。


「タツゾウについてきてもらうのは申し訳ないよ! 試験がまだ終わったわけじゃないのに!」

「試験のことに関しちゃお前も同じじゃねーか」

「そ、そうだけど……」


「でも良いのか? あいつはお前に散々好き勝手言ってたじゃねーかよ! なのに助けるってのか?」

「あははは……、確かにそうだね。でも、彼女なりの考えがあったんだと思うし……、それが助けに行かない理由にはならないよ」

「あっはっはっはっは! そうか! そうだな! なおさら見捨ててはおけねーな。友人の力にぐらいはならしてくれよ!」

「タツゾウ……、わかった、ありがとう。よろしく頼むよ!」


 僕は、コワンを迎えに戻ったあの惨劇の日のことを思い出していた。あの時は一人で助けに行ったのだ。

 しかし今は違う。隣にもう一人、僕と同じような超絶異常者がいる。ただ一人、仲間がいるだけでとても心強い。


「おい待てよ! 何話してんだよ。助けに行くとか行かないとかよ。まさかここを出る気じゃないよな?」

「それはアホけ。やめとけけ。俺達にはまだ試験もあるのにそれは馬鹿け」

 話を聞いていたマータギ君とキコリ君が、僕たちの取ろうとしている行動に反対してきた。

 彼らはまともだ。きっと彼らが正しいのだろう。


「第一、麗宮司レイアが攫われたのかどうかも確証が持ててないんだろう? そんな状態で絶対に行くべきじゃねーよ!」

 マータギ君が僕たちを必死に説得しようとしてくる。


「はっはっはっはっは、いやーでも俺楽しくなってきちまっててよー。それにこいつ、俺がいねーと瞬殺されちまうだろ?」

「うっ、絶対に迷惑は掛けないようにする」

 僕とタツゾウの返しに、二人とも呆気に取られていた。


「それじゃあ、行ってくるね!」

「試験続くようだったら、お前ら俺らの分まで頑張れよー!」


 準備を整え、僕とタツゾウは出口の方へ向かう。

 塞いでいた瓦礫は、医師たちや看護師さんたちの手によって撤去されたようだった。


 ここから先は試験ではない。

 やられたとしても、その場で治療してくれる人たちがいるわけじゃない。

 命の保証はされないのだ。

お読みいただきありがとうございました。

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