裁きの鉄槌
小説家になろうデビュー作です。
よろしくお願いします。
僕とタツゾウは、会場裏の出入り口を抜ける。先ほどまで仮試験の実技試験が行われていた会場は、爆発によって天井から落ちてきた瓦礫に埋もれた状態となっていた。
医療部隊の方たちは、怪我人の救出で忙しそうだった。僕たちが走っていくのに気づく余裕もないらしい。
僕の記憶ではパーマヘアの背の高い男は、僕が来たときに使用したエレベーター、つまり、彼が来たエレベーターのあるところに戻っていくような方向へ走っていった。
「おいお前ら! どこに行くんだ!? 待機するように言われただろ!」
エレベーター近くまで来たところで、ついに見つかってしまった。
「ごめんなさい! 気にしないでください!」
そんなことできるはずもないが、無視は良くないのでそんなことを走りながら言う。
「悪いっすね、迷惑かけます。ちょいと人助けに行ってきますわ」
タツゾウも止まらずに言う。本当に迷惑な連中だろう。
エレベーターへ駆け込む。そして、一階のボタンを押した。
最速で逃げるのなら寄り道はせずに逃亡するはずだ。
「タツゾウ、もう一回聞くんだけど、無理に僕についてくる必要はないんだよ? 僕はやっぱり、君はここで引き返して、入学試験に合格するべきだと思うんだ」
僕の身勝手な行為に彼を巻き込みたくないというのは本音だった。
彼ぐらいの実力があれば、この試験に受かる可能性は十分にあるのではないだろうか。
「いいって、いいって。今このワクワクを抑えて引き返す方が、俺には酷な話だぜ」
タツゾウは試験の時と同様で、とても楽しそうだ。だんだん彼の行動原理が分かってきた。彼が起こす行動には、楽しいことや面白そうなことが優先されるのだ。
正直僕は彼がいなければ、今頃テロリストに一人で立ち向かうという事実に、実感を覚え始め、ビビッて足がすくんでいただろう。
「それはそうとお前、敵を倒す覚悟はできてんのか? お前がどんな経験してきたか知らねえけど、相手は俺たちを殺しにかかってくるんだぜ。こっちもその気で行かねえとやられちまう」
タツゾウが、僕のこれからの戦闘に対する姿勢を尋ねてくる。
彼の言うとおりだ。
試験の時とは違うのだ。敵を、人を傷つける覚悟を決めなければならない。特に僕は弱いのだから。
「うん、分かってる。容赦はしない!」
「おし、大丈夫ならいいんだけどな!」
彼と僕が所持している武器は、タツゾウが試合でも使っていた木刀の大太刀、そして僕はと言うと、キコリ君が使っていた中近両用電気ショックガン、そして何の変哲もない木刀を一本持っている。
こちらの殺傷能力の低い武器に対して、敵はおそらく本物の凶器を使ってくる。
いつもの僕ならそれに気づいた時点で臆して引き返しているが、今回はなぜだか勇気が湧いてくる。仲間がいることで気が大きくなっているのだろうか。
エレベーターの扉が開いた。
「いくよ!」
「おうよ!」
僕たちは外に向けて、また駆け出して行った。
◇
「くそ! 警備は超絶厳重じゃなかったのかよ!」
トラブルの報告を受け、ファストで理の国・首都「イア」への移動中、機内で俺は文句を垂れていた。
大地に轟く雷鳴のような爆発音を聞いた、Dグループの試験会場であるビルの警備員によって、緊急事態の報告がなされた。
内部の詳細な状況は未だ掴めていない。
ついさっき理の国支部から戦士部隊が派遣されたそうだが、到達には時間が掛かる。
警備員の話では、爆発の直後、試験会場の護衛のために派遣されていた八併軍の戦士たちが襲撃を受け、ほぼ全滅と思われる被害が出ているらしい。
「まあ今回は俺たちの大失態ってわけだな。爆発をビルの内部で起こさせてしまった。しかし、実行犯はどうやってあのセキュリティを抜けたって言うんだ? ビルに入る前に危険物の持ち込みがないかもチェックされると思うんだがな」
「ちょっとヤバいかもね。だってDグループと言えば『お嬢様』のいるところでしょ?」
同乗者の一人であるクログロスは、今回の想定外の事態に頭を抱えた。
もう一人の判も事態の重さを十分に認識しているようだ。
この件は「ドラミデの悲劇」に続いて、再び八併軍の民衆からの信頼を大きく揺るがしかねないのだ。
しかし、試験運営関係者たちには、全員に怪しい動きが少しでもあれば報告するようにと言いつけていたのだ。
首都での大きなテロ事件後ということもあり、警戒を怠ったつもりはない。監視の目を搔い潜っての侵入はほぼ不可能に思われる。
考えられることは……、
「受験者がテロの一員か、もしくはテロリストが受験者に紛れたかのどちらかだな」
俺の予想では後者だ。こんな芸当ができる人物に一人心当たりの男がいる。
イアでの爆破テロも、「ノータリン」というテロ集団が行ったとされてはいるが、どうも奴の影がちらついてならない。
「追加でもう一つ。味方に敵の協力者がいる、とかね」
「超絶考えたくねえな」
そんなことあるはずがない。希望的観測から、判の予想を俺は考慮から外す。
「フェンリル、半人半骸の仕業だと思っているのか?」
俺が、心当たりである半人半骸の男について考え、遠くを眺めていると、それを見透かしたかのようにクログロスが尋ねてきた。
「そんな気がすんだよ」
「おやおや? 自分が彼を取り逃がしてしまったことを、後ろめたく思っちゃってるのかな?」
判がつぶらな大きな瞳で、下から俺の顔を覗き込んできた。ウサギ耳のカチューシャが俺の頬に当たっている。こいつはいちいち余計なことを言ってくる。
「テメーも同じ任務受けてたんだけどな! 言うならば俺たちの責任だ、バカヤローが!」
俺と判は以前、国際指名手配犯である半人半骸の男を捕獲する任務に参加し、見事に取り逃がしている。もしも俺たちがあの時捕らえていたら、未然に防げたはずの悲劇も数多く存在する。
そのため正直なところ、判の俺への指摘は正しく、かなり後ろめたい。
「ごめんなさい、クログロスさん。こいつのとんでもない失態で……」
「テメーも責任感じろよな!」
今この高速戦闘機・ファストの機内には俺、判、クログロスの3人の十奇人に加えて、10人の八併軍の戦闘員が搭乗している。
本部には十奇人が一人でも残った方が良いということになり、クルーズが留守番をすることになった。
「過ぎちまったことをクヨクヨ考えても仕方ねえさ。それよりも、今が大事だ。俺たちがいくら英雄と呼ばれていようとも、過去は救えねえ」
おお~、と戦闘員たちが座っている後ろの席から声が上がる。
このような状況下でも、クログロスは非常に冷静で達観している。
いつもデカいが、今日のクログロスは洗練された肉体がさらに磨きをかけたように俺の目に移り、いつもよりも大きく感じられる。彼の存在が頼もしい。
俺たちが現場に着くころには、すでに被害者の救助や爆発の原因究明のための捜索が行われていた。
医療部隊もレンジャー師団も大忙しだ。捜索の結果、この近くに敵はいないことがわかった。
「Dグループを狙った計画的な犯行に思われますね。受験生からは負傷者も多く出ていますし、なにより麗宮司のお嬢様がいません。犯人に拉致された可能性が高いでしょう。被害現場の状況はあらかた整理できました。しかし、一つ問題が……」
現場の捜索を任せられたレンジャー師団の部隊長が、俺たち十奇人三名に事細かに現状を報告した。
被害は甚大で、受験生、アカデミー試験の運営陣、八併軍から派遣された護衛兵、その他関係者等から多数の死傷者が出た。
八併軍において、「ドラミデの悲劇」とイアでの爆破テロ事件で殉職した戦士の数は少なくない。
それに加えて今回のこの事件。これ以上の被害の拡大は避けたいところだ。
アカデミー試験の仮試験は、A、B、C、D、E、F、G、H、I、Jの10グループに分かれて行われ、そのうちのDグループがピンポイントで攻撃されたわけだ。
犯行の手段に爆破があるため、前回のテロとの繋がりを疑わざるを得ない。
「その問題っていうのは一体何なんだ?」
クログロスが部隊長に尋ねた。超絶な厄介ごとでなければ良いんだが……。
「実は、レイアお嬢様の他に二名行方が分かっていないのです。今回の事件の報告をした警備員の話ですと、どうやらイアのさらに都心部に位置する、繁華街の方向へ走って行ったそうです」
「なんだと!?」
クログロスの顔が一気に強張った。
残念ながら超絶な厄介ごとだった。これから俺たちはその二名の救出も視野に入れながら、犯人と戦っていかなければならないわけだ。
麗宮司レイアを一刻も早く探し出さなければならないというのに、全く面倒なことをしてくれる奴らがいたものだ。見事救出に成功した暁には、小一時間たっぷり説教をしてやる。
「どうやら警備員が逃走している何者かを目撃しており、その走って行った方向を彼らに教えてしまったそうなんです」
部隊長がさらっと重要なことを話す。
「おいそいつ犯人の目撃者じゃねーか! そういうことはもっと早く言えよ!」
俺は重要な情報を聞き流さずに拾い上げた。その警備員に訊けば、犯人の情報を得られるかもしれない。
「判、クログロス! まずはその警備員に聞き込みに行くぞ!」
「あー、あんたが仕切らないでもらえる? 不快だから」
「そんな下らないことでいちいち足止めてんじゃねーよ! 超絶殺すぞ!」
「おいおい喧嘩してどうするよ? そうなるんなら俺が指揮を取る。二人ともきちんと従ってくれや」
ということで俺のリーダー権は、判の超絶どうでもいい抵抗によってクログロスに奪われてしまった。まあクログロスなら構いはしないが……、
「俺、フェンリル、判を筆頭に3つの捜索隊を結成して犯人を突き止める。被害の大きさを見るに複数犯・組織だっての犯行の可能性が高い。皆、十分に注意するように」
クログロスが、レンジャー部隊の戦士たちを集めてこれからの行動を告げた。
俺たち十奇人組は、テロ組織「ノータリン」の犯行であると疑っており、先日のテロ事件と連続した犯行であるという見解だ。
俺個人としては、その犯行に半人半骸の男が加担しているのではないかと踏んでいる。
警備員の目撃証言だが、本人も襲撃を受けて気が動転しており、詳しいことまでは覚えていないという。
しかし、スラっとした体型の男が誰かを担いでいくのを目撃したらしい。そいつの特徴が半人半骸の男に近いのだ。
「組織立っての犯行の可能性が高いため、とりあえず逃げた方向で、集団で潜伏できそうな場所を片っ端から捜索する。死のリスクを伴う任務だ! 片時も気を抜くなよ!」
クログロスが全戦士たちに喝を入れる。サングラスのせいで目元は見えないが、彼の憤りと緊張感がヒシヒシと伝わってくる。
「犯人は、この地に訪れてくれた受験生たちを襲撃したんだ。彼らの夢を、努力を、また彼らを励ましてくれた家族・友人たちの思いを踏みにじったんだ! この罪を一体誰が断罪してくれる? 神か? 仏か?」
クログロスは、話しながら彼自身の顔をみるみる赤くしていく。怒りで顔が沸騰しそうだ。
「違うだろ! それをするべきは俺たちだ! 奴らには天罰よりも恐るべき、我々の断罪を受けてもらおうじゃないか!」
普段声を荒げず、いたって冷静な彼がここまで憤慨するとは珍しいが、彼の言うとおりだ。
この行いを俺たち八併軍は許してはならないのだ。
舐めた奴らに十奇人の怒りの鉄槌を食らわせてやろう。
「行くぞ! うおおおおおおおおお!!」
低く荒々しい雄叫びが街中をこだまする。
「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」
続けて戦士たちが叫び出す。
罪人どもに裁きの鉄槌を!!
お読みいただきありがとうございました。




