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清楚で天然の母が昔はギャルだった件~おしどり夫婦の馴れ初め物語  作者: アサギリナオト
結 二人の行く末
9/11

 ミツキたちを乗せた黒いワゴン車は、アツシがトキヤに伝えた通り、街外れの廃工場に向かっていた。


 男たちは車内でもナイフをちらつかせ、彼女たちを大人しくさせている。



「……にしても。コイツら、レベル高ぇ~」



「コイツの体とか、マジ別格だわ」



 現在、車内には九人の人間が存在し、かなり窮屈な状態となっていた。


 男が五人と女が四人。


 男たちはミツキを一番の標的にしており、誰がどの順番などと、いかがわしい会話を繰り広げていた。



「やっぱ着くまで我慢できねえわ……。どれ、ちょっと味見――――」



「やめろ」



 男の一人がミツキの体に手を伸ばした瞬間、チカが男に待ったを掛けた。



「あん?」



「私のダチに気安く触れんな。私が先に相手すっから、そいつは最後に取っとけ」



 チカが自分を身代わりに立てようとする。



「チカ……。アンタ、何言って……」



 サキが青ざめた表情で彼女に言った。


 すると男の一人が急にテンション上げ始める。



「良いじゃん、良いじゃ~ん! その子もかなりレベル高いし、俺は全然アリだと思うよ」



 一人が乗り気になったことで、男たちの標的がチカに移った。



「そこまで言うなら、遠慮なく――――」



「――但し。今、私の体に触れたら、その瞬間に全員で暴れて車ごと事故らせてやる」



 彼女の脅しが功を奏し、男たちの動きがピタリと止まった。


 ミツキたち四人に対し、男の数は五人。


 しかし、うち二人は運転席と助手席に座っているため、刃物を使っても全員を取り押さえられる保証はなかった。


 すると運転手の男が、他の男たちに言った。



「今は止めとけ。どうせ向こうに着いたら何も出来ねえんだ。そのガキの言う通り、楽しみはあとに取っとけ」



 ミツキたちを乗せたワゴン車は、あと十分ほどで廃工場に到着する。


 男たちは、それまでの我慢だと自分に言い聞かせた。






 ――――――――――――――――






 トキヤは単車を運転しながら頭を悩ませていた。


 このまま廃工場に乗り込んだとしても、ミツキたちが盾にされるのは目に見えている。



「……」



(仕方ない……)



 トキヤは単車を脇道に停車させ、あるところに電話を掛けた。


 彼には一人だけ、この状況で頼りになる人物に心当たりがあったのだ。


 それは男として恥ずべき行為であるが 、ミツキを守るためなら、どんな手でも使うと言ったのは彼自身だ。


 トキヤは全てを失う覚悟で事の全てを電話の向こうに打ち明けた。






 ――――――――――――――――






 廃工場に到着したトキヤは、エンジンを停止させて単車から降りた。


 ミツキたちの行方を捜して工場内を走り回っていると、彼は未だ電気が通い続けている倉庫のような建物を発見した。



「……」



(あれか……)



 トキヤは素早く建物の陰に移動し、半開きになっていた出入り口の扉から中の様子を窺った。


 すると彼は予想だにしない光景を目の当たりにした。



「桐原……先輩?」



 トキヤは驚きのあまり声を表に出していた。



「よお。来たな、トキヤ」



「先輩が何でここに? もしかして、先輩がコイツらを……」



 アツシの周囲に血だらけの男たちが何人も転がっていた。


 男たちは全員、気を失っており、一方的な戦いだったことが窺えた。 



「ったく、カスが威張りやがって……。暇つぶしにもなりゃしねえ。全員シメんのに五分も掛からなかった」



「はは……。さすがっすね……」



 トキヤはアツシの圧倒的な強さに苦笑いを浮かべた。


 すると建物の奥から物音が響き、彼は本来の目的を思い出した。



「ミツキ……?」



 気付けば、トキヤはその場から走り出していた。


 彼は心の中でミツキの無事を祈り続ける。


 やがて彼は建物の反対側の出入り口まで辿り着き、黒いワゴン車と縄で縛られている四人の女子高生を発見した。



「ミツキ‼」



「「「っ――⁉」」」



 ミツキたちは口の中にゴムボールを押し込まれ、その上から猿ぐつわを噛まされていた。


 彼女たちの衣服に大きな乱れはなく、彼が見る限りでは怪我も負っていない。


 トキヤは安堵の表情を浮かべ、全員の口から猿ぐつわを外した。



「サンキュー、寺澤……。マジ助かった……」



 サキがトキヤに礼を言う。



「トキヤ君……。私……」



 トキヤがミツキの体をギュッと抱き締め、「無事で良かった」と彼女に声を掛けた。


 周りには、さっきよりも多くの男たちが気絶しており、これらは全てアツシ一人の手によって倒されていた。


 さすがのトキヤも、これだけの大人数を一人で相手にすることは出来ない。


 全く恐るべき強さだと彼は思った。


 するとアツシが少し遅れてトキヤたちの前までやって来た。



「先輩。ありがとうございました。先輩がいなかったら、俺――――」



「トキヤ。てめえ、何勝手なことしてんだ?」



 アツシがトキヤを鋭く睨み付けた。



「え?」



「ソイツらは俺が手に入れた戦利品だ。てめえは俺の成果を横から掻っ攫う気か?」



「せ、先輩……。何言って――――」



「トキヤ。俺と、ここでタイマン張れ」



「「「っ――⁉」」」



「てめえが勝ったら、ソイツらは全部てめえにくれてやるよ」



 アツシが提示した条件に、トキヤは愕然とした。


 ミツキたちは、アツシに助けられた手前があるため、文句を言い出せずにいる。



「もし先輩が勝ったら……。コイツら、どうなるんすか……?」



「……言う必要あるか?」



 アツシは決して女性を手酷く扱う男ではない。


 しかし戦いを通じて手に入れた女に夜の世話をさせていたこともトキヤは知っていた。


 部外者の中には、アツシをクズだと罵る者もいる。


 だが仲間内で彼に文句を言う者は誰一人としていなかった。


 それについては、彼が自分流のルールに従っていたことも大きい。


 彼は自分以外の世話の要求を仲間にも許さず、一度に複数の女性と関係を持つこともなかった。


 それ故、彼はフリーのとき以外、例のタイマン勝負でも女性を戦利品として認めなかったのだ。


 この男らしい一面こそアツシの魅力であり、トキヤが彼に憧れた理由の一つだ。


 そして今現在、アツシはフリーであり、ミツキは彼の手中に収まっている。


 トキヤが彼女を取り戻すには、例のタイマン勝負でアツシに勝利する他なかった。



「でも……、それってフェアじゃないっすよ……」



「あん?」



「もし俺が先輩に勝てたとしても、先輩はプラマイゼロになるだけで、何も失わないじゃないっすか……」



 このタイマン方式は、〝お互い〟が大事なものを賭けて成立するガチンコ勝負である。


 つまりプラスやマイナスをゼロにするための戦いではない。



「てめえは俺にデカい借りがあんだろ? てめえが勝ったら、そいつも全部チャラにしてやるっつってんだ」



「……」



「おい! ここで何があったか、てめえらの口から言ってやれ!」



 アツシがミツキたちに向かって、そう言い放った。


 するとミツキが悔しげな表情を浮かべた。



「ごめん、トキヤ君……。私、嘘つけない……」



「……」



「もしアツシさんが来てくれなかったら……。私たち本当に危なかったと思う」



 ミツキは、トキヤに捧げるはずだった大事なものをアツシに守られた。


 そして彼に助けられたのはミツキだけではない。


 チカたちも、かなり危険な状態にあったのだ。


 もしアツシが、この場に現れなければ、ミツキたちは男どもの餌食になっていた。


 そう。


 トキヤはミツキたちの救出に間に合っていなかったのだ。



「くっ!」



 トキヤは顔を俯かせ、拳を激しく地面に打ち付けた。


 彼の怒りは、大切な彼女を守れなかった自分自身に向けられている。



「トキヤ君……」



 ミツキは、そんな彼をとても心配そうに見つめていた。


 彼は自分に向けられる憐みの視線に、さらなる怒りを覚える。


 本来ならば、彼自身にとっても恩人であるはずのアツシですら、今は恨めしく感じていた。


 そう。


 自分にとって一番大切なものを奪い取った彼のことが――――トキヤは心底ムカついていたのだ。



「……ミツキ」



「……?」



「俺は今から、お前や友だちの恩人をぶちのめすことになる……。お前はそれでも、俺を好きでいてくれるか?」



「え?」



「――――悪ぃ、バカなこと聞いた。お前が無事なら、それで良いわ」



 トキヤは覚悟を決めた表情でミツキの側から離れた。


 彼は上着を脱ぎ捨て、思い出のネックレスを首から外し、アツシにメンチを切り始める。



「……やっと、やる気になったか?」



「……」



「ほら……、来いよ」



 アツシがトキヤに向かって、〝おいでおいで〟と挑発する。


 するとミツキが、随分と慌てた様子でトキヤを止めに入った。



「だ、ダメだよ、トキヤ君! その人は――――」



「ミツキ。お前は、もう喋んじゃねえ」



 トキヤは一度も振り返ることなく、アツシの方へと歩いて行った。

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