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清楚で天然の母が昔はギャルだった件~おしどり夫婦の馴れ初め物語  作者: アサギリナオト
結 二人の行く末
11/11

「夏川さんだったかな? これからも息子のことをよろしく頼む」


 トキハルがミツキに向かって頭を下げる。


 ミツキは胸の前でアクセサリーをキュッと握り締めた。


「……お義父(とう)さま。私からも一つお話がございます」


 彼女の言葉に首を傾げるトキハル。


「私はもう――トキヤ君の彼女ではありません」


「「「――⁉」」」


 破局の二文字を頭に浮かべながら驚く一同。


 だが続いた言葉に感情が一変。


「私はつい先日、トキヤ君と婚約関係を結びました。よってこれからはトキヤ君の婚約者を名乗らせていただきます」


「「「……」」」


 トキヤは真っ赤な顔で口をパクパク。


 チカとサキは「「はあ……」」とあきれ顔。


 「おお~♪」とテンションを上げるタマ。


 反応に困るトキハル。


 するとミツキが突然トキヤに向かってダイブした。


「――痛っ! ……何だよ、急に?」


 トキヤがミツキの体を受け止める。


 そしてミツキはトキヤの胸に顔をうずめた。


「私、決めた。――――私、トキヤ君の子ども産む」


「「「っ――⁉」」」


「私、トキヤ君に一生付いていく。――もう決めたから」


 ミツキはトキヤにしがみついたまま離れない。


 トキヤは周囲に助けを求めるも。


 全員にそっぽを向かれてしまった。


 返答に困ってしまうトキヤ。


「私、トキヤ君以外の人とは絶対結婚しないから」


「……」


 ミツキの言葉は重い。


 が、悪い気はしない。


 本気なのはトキヤも同じだからだ。


 トキヤは頭をボリボリと掻く。


「……わかった。じゃあ、卒業したら結婚すっか?」


「「「っ――⁉」」」


「だからそれまでは高校生らしく健全なお付き合いをしよう。……なっ?」


 トキハルの手前、トキヤはそう答えるしかない。


「……本当?」


「ああ」


「本当に本当?」


「さすがにこの状況で嘘なんかつかねえよ」


「……」


 ミツキの腕に力がこもる。


「もし、それ嘘だったら……。私、トキヤ君のこと殺しちゃうかも……」


 彼女が口にするとリアルに恐怖でしかない。


 しかし、トキヤは彼女の扱いに慣れてしまっていた。


「そっか。なら安心だな」


「え?」


 ミツキがパッと顔を上げる。


「だって嘘じゃねえもん」


「っ――」


 ミツキが目に涙を浮かべ。


 そして勢いよくトキヤの体を押し倒した。


「お、おい……!」


 ミツキはトキヤに密着しながら嬉し泣きを始めた。


 彼女の頭をよしよしするトキヤ。


 トキハルは息子の婚約話に困惑している。


 以前から応援していたチカたちは素直に喜んでいた。


 これにて一件落着――と言いたいところだが。


「あれ? そういえばアツシさんは?」


 タマがアツシの不在に気付いた。


 トキヤたちが周囲を見渡す。


「もしかして、アツシさん……。アイツらの仲間と間違われて一緒に連れて行かれたんじゃ……」


「「「……」」」


 アツシの見た目は連中とほとんど変わらない。


 トキヤは大いにあり得ると思った。


「父さん。黒いライダースーツを着た大柄な人、どこ行ったかわかる?」


「いや、我々が到着したときにそのような人物は見かけなかったが」


「「「……」」」


 先ほどの最後のひと騒動。


 アツシが他を置いて一人で逃げたとは考えにくい。


 トキヤが彼から最初に目を離したのは。


 ミツキたち四人の縄をほどいていたときだ。


 おそらくその隙にこっそりと姿を消したのだろう。


「(先輩……)」


 自力で病院に向かったのか。


 あるいは救急車で運ばれたのか。


 トキヤはアツシの無事を祈ることしか出来なかった。



 ◇◆◇◆◇



「けどアツシさんったら、工場の外で普通にぶっ倒れてたのよね~」


 話は現代に戻る。


 ミツキが笑いながらリサに言った。


「そのあとすぐに病院に運ばれて、そのまま入院コース。お父さんにはああ言ってたけど。アツシさん、病気のことは嘘じゃなかったの」


「え?」


「しばらく病院で安静にしてたんだけど。容体が急変して結局そのまま……」


「……」


「……って思うでしょ? 実はアツシさん、そのあと本当に奇跡起こしちゃったのよ~!」



 冗談を言ってリサをからかうミツキ。


「……ってことは」


「アツシさん、今じゃすっかり元気になって家族のためにバリバリ働いてるわ。今度、三人目のお子さんが生まれるって話よ」


 アツシは不治の病を克服し、無事に退院を果たした。


 その後、一度は別れを告げた彼女とよりを戻し。


 そのままその女性と結婚したのだった。


「アツシさん、本当はすごく優しい人だから、病気のことはエイコ先生には黙ってたみたいよ」


 エイコが言っていた年下の元カレ。


 それはアツシのことだった。


 アツシは退院後にエイコに謝罪。


 彼女の返事は。


 ビンタ→涙→ビンタ→ビンタ→ハグ→涙。


 ――だった。


 ミツキの話は一応のグッドエンディングを迎える。


 リサは一本の青春・恋愛映画をまるまる聞かされた気分だ。


「そこからはもう何もなかったの?」


 リサがたずねる。


 ミツキは現在に至るまでの流れを軽く説明した。


「お父さん、卒業までは健全なお付き合いだとか言ってたけど、結局二人ともタガが外れちゃって。誕生日を迎えてからは毎日のようにお父さんと――」


「いや、そういう話じゃなくって……。仕事とかは、どうしたの?」


「学生の間はもちろんバイトよ。でも稼いだお金はほとんど避妊具に消えちゃって、中々お金が……」


「だ・か・ら……、そういう話はいいっつってんの!」


 男女から夫婦に至るまでの営みを親に自慢される娘。


 リサはかなり呆れていた。


「お父さんなら高校を卒業して、すぐ警察学校に入ったわよ」


「……えっ⁉」


「お父さん。サラリーマンになる前は警察官だったのよ」


「……初耳なんだけど」


 意外な事実が判明し、驚くリサ。


「まあ、すぐに辞めちゃったけどね。家族との時間が全然取れないからって言って、わざわざ転職してくれたのよ」


 トキヤは双方の両親に頭を下げ。


 警察を辞めることをトキハルに謝罪。


 ミツキの両親に今の仕事を紹介してもらった。


 夫婦円満の秘訣は双方の努力。


 トキヤはミツキのとっての良き夫でいるため。


 家族にとっての良き父親であるために。


 普通のサラリーマンを志したのだ。


「(お父さん……。カッコ良くないとか言って、ごめんなさい……)」


 リサは心の中で深く反省した。


 そのときである。


 外出していたトキヤが帰宅した。


 リサの弟たちも一緒である。


「おかえりなさ~い」


「おう、ただいま。……ありゃ、まだ掃除の途中だったか」


 トキヤが「何か手伝おうか?」とミツキに訊ねる。


「大丈夫よ。少し長話しちゃっただけだから。すぐに片付けるわ」


 そう言ってミツキは部屋から出ていった。


 入れ替わりでリサの三男が室内に駆け込んでくる。


「姉ちゃん。ただいま」


「おかえり」


 三男はすぐに部屋から出ていった。


「おねえちゃ~ん! ちょっとこっち来て~!」


 部屋の外から次男の声が響いてくる。


「は~い!」


 現在、寺澤家には七人家族である。


 子供の数は五人。


 中々の大所帯となっていた。


「リサ。勉強の方はどうだ?」


「けっこう順調だよ。毎回、図書館に行くのは少し面倒だけど」


 寺澤家には育ち盛りの兄弟が多い。


 つまり静かに集中して勉強できる場所がないのだ。


「すまんな~。お父さんの給料じゃ、これ以上大きな家は買えなくて」


「何、言ってんの? 私はお父さんがすごい〝がんばり屋さん〟だってこと、ちゃ~んと知ってるよ」


 さっきミツキに教えてもらったばかりだが。


 リサは以前から知っていたふうを装う。


「そ、そうか……?」


 実の娘に褒められ、照れるトキヤ。


「私、これでも将来お父さんみたいな人と結婚したいって思ってるから」


「え?」


「ふふっ、意外だった?」


 これは決して嘘ではない。


 リサは今のトキヤしか知らない。


 だが彼女は家族想いで優しい父のことが大好きだった。


「り、りさぁ~……」


 するとトキヤがリサの目の前で涙を流し始めた。


「ちょっ、お父さん⁉ 何でいきなり泣いてんのっ⁉」


 トキヤが服の袖で涙を拭う。


「リサ……。お父さんはちゃんと、お父さん出来てるか……?」


「だからそう言ってんでしょ!」


「うぅぅ……」


 トキヤは感動で涙が止まらなかった。


「おねえちゃ~ん! まだぁ~⁉」


「は~い! いま行きま~す!」


 リサが次男に返事を返す。


「ちょっと、お父さん。泣かないでよ、もう……」


 リサは父の側からなかなか離れられない。


 彼女はどうしようかと迷っている。



 ……ここに一つの温かい家庭が存在した。


 一組の男女が努力を惜しまなかった末に生まれた。


 ――(もとい)、今も努力し続けている幸せな家族。


「お父さ~ん! チカおばちゃんたち、もう来てるよ~!」


「……ああ! 今、行く!」


 トキヤは近くにあったティッシュで鼻をかんだ。


 涙と鼻水を拭き取り、リサと一緒にリビングに向かう。


 本日、寺澤家は初詣に出かける予定だ。


 トキヤたちの学生時代の友人たちも一緒である。


 町内きってのおしどり夫婦。


 ――トキヤとミツキの馴れ初め話はこれにて終幕。


 これはついでだが。


 二人の学生時代を知る者は皆、同じことを口にする。


 あの家族はいつまでも幸せであってほしい、と。



                                          (完)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。今後の励みになるので評価などをいただけるとありがたいです。それでは失礼いたします。

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