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ロイドとスカーレット嬢を送り出した後、俺はクロエを再度見つめた。
「クロエ、緊張してる?」
「ご冗談を…。返り討ちにしてやりますわ」
「さすが私の婚約者殿、頼もしい限りだ。そういえばあのレッドベリルは渡さなかったの?」
そういえば、スカーレット嬢がしていたのはルビーのネックレスだったな。
「今日は婚約お披露目ですよ?今回はお兄様に譲らせて頂きました。お兄様の独占欲に横ヤリは入れられませんので…」
「確かに。私も独占欲をアピールする場面で、家族といえど他人の手垢はつけさせたくないなぁ」
俺もエストワールはもちろんの事、母上や妹のアナスタシアであっても断るだろうな。
そこまで弁えているとは…さすがクロエだ。
「そういう事です。レッドベリルはこの後渡すつもりですわ」
「喜ぶだろうね」
クロエからのプレゼントに感動する二人を想像し、思わず笑みがこぼれた。
「……殿下。昔、初恋の話をされていましたよね」
唐突にクロエが聞いてくる。
「したね。でも突然どうしたの?」
「あの時、私の名前を仰っていましたけど、それは小さい頃に遊んだ時から、ということだったのですか?」
「そうだよ。私はあの頃から君を愛している。落ち込んでいる君を励ましたくて、緑柱石のように色々な可能性が君には待っていると伝えたかったんだ。子供だったから言葉足らずになってしまったけどね」
そう言って、俺は苦笑いした。
本当に苦い思い出だ。それでクロエは記憶を失ってしまったのだから。
「そうだったのですね…」
クロエはそう呟く。
寂しそうな顔に一抹の不安がよぎる。
ここでもし仮に…本当に仮に!、婚約関係を白紙に戻したいと言われたり、俺の事は愛せないなどと言われたら…、俺はどうなってしまうんだろう…。
クロエを思いやり、婚約解消に応じるのか?
愛されない事を受け入れ、それでも良き夫として側に置くのか?
レオ王子のようにクロエを孕ませて、一生を縛り付け、俺を愛するように刷り込むのか?
いずれにせよ、俺が渇望する『ありのままのクロエの心』は手に入らない。
いっそのこと…
殺してしまおうか?
そんな考えが浮かぶ。
俺を愛せないクロエなんて要らないが、クロエがいない世界では俺も生きていけない。
君を殺して 俺も死ぬしかない…。
けどそれは最終手段だ。
だから何か不安があれば話を聞くし、要望にも答える。どんな形でもいいから俺を愛していると言って欲しい。
それが例え、嘘だったとしても…。
「クロエは?」
「私ですか?」
「そう。今日、この扉をくぐったら正式に婚約者だ。私が王太子に就き、将来王位を継いだら君はこの国の王妃になる。王族として国民を導かなければならない。それはとてつもない重責だし、孤独が待ってる。四六時中、気を張っていたら狂ってしまうよ…。だから!家族の時間だけは…お互いに寄りかかりたい。家族愛でもいいから、私を愛して欲しい…」
俺は、俺の奥底にある願いをクロエに吐き出した。
今、ここで言わなければならないと思ったからだ。
昔のように言葉を違えたりはしない!
すると、クロエは俺の瞳をしっかりと見据えた。
「殿下の瞳はアクアマリンのようですね…。アクアマリンは海に投げ入れると瞬時に溶け込んでしまうと言われ、船乗りたちの御守になっているそうです」
俺は黙ってクロエの話を聞く。
「同じように、殿下の存在は私の中に溶け込み、私にとって御守になっています。あの頃から…」
「クロエ…」
「それに私、最初で最後に恋する人に全てを捧げようと決めていますのよ。アレク」
「っ!!クロエ!!」
さっきまでの陰鬱な気持ちが霧散する。
それと同時に、クロエに愛されている実感がジワジワと込み上げてきた。
ちょうどその時、予定通り案内係のコールも聞こえた。
「アレクシス・エアスト・ミストラル殿下!クロエ・ウィラー様!ご入場です!」
「さぁ、行きますわよ」
「あぁ。秒で終わらせてやる」
そう言って、俺たちは扉をくぐった。
俺とクロエの入場は、洗練された所作、完璧なエスコート、流麗なお辞儀と、どれをとっても一流だった。
俺の纏う王族としての覇気に、クロエの纏う国母になり得る慈愛のオーラ、全ての喧騒を呑み込み会場全体の目を釘付けにする。
すると自然と拍手が沸き起こった。
入場のインパクトは上々のようだ。さて、彼等はどうする?
視線を送るとエストワールが再び叫んだ。
「クロエ!!私からの寵愛が得られないからと言って、兄上にエスコートを頼むなど…。そんなにも王子妃になりたいのか!恥を知れ!!お前の見え透いた駆け引きなどに誰が乗ってやるものか!!」
…は?
思わず腰に隠し持っていたナイフに手をやってしまった。
折角、入場前にクロエの気持ちを知って上機嫌だったのに。
台無しにしてくれやがって…。
自分でも機嫌が急降下していくのがわかった。
すると今度はキルケニー侯爵子息が叫ぶ。
「スカーレットもだ!田舎貴族は田舎貴族らしくしていればいいものを…。厚顔にもロイド様にエスコートを頼むなんて!まったくつり合っていないのがわからないのか!!お前との婚約など破棄だ!!」
今度はロイドの機嫌が急降下している。
あれは粛清しようとしてるな。
もう、殺るしかないかな?
俺とロイドの異様な雰囲気を感じ取ったクロエが、手に持った扇子をバサッと開き、エストワールに応じる。
俺とロイドは扇子を開く音に冷静さを取り戻した。
危ない危ない…。
あやうく強行手段に出る所だった。
「エストワール殿下。私は一度もあなたの寵愛を請うた覚えは無いのですが?」
クロエの声は静かだがよく通る。
内なる怒りをその声に乗せ、ありもしない罪を吹っかけてくるエストワール達に立ちはだかる。
さぁ、反撃開始だ!
クロエ、首の皮一枚でアレクシスの闇落ちをしのぎました。




