表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四十七個の宝玉  作者: 黒灰 賢二郎
25/25

25

 室田 剛志 side



 俺は、物心がついた頃には虐待を受けていた。


 父はストレスの発散に躾だと言って俺を殴り付け、母は俺を放置した。


 近所の人の通報で九死に一生を得たらしいが、よく覚えていない。


 そして施設へやって来た。


 そこで草太と出会ったんだ。


 俺はそれまで家の外へは出してもらえず、家の中だけが俺の世界だった。

 その世界で俺は、最小で最弱だった。


 しかし、施設にやって来てからは、俺よりも小さい草太がいた。

 友達もいなかった俺は、嬉しくなって草太を引っ張って外に遊びに行こうとした。


 しかし草太は胸を押さえて苦しみだした。


 すぐに施設の人が来て、事なきを得たが、俺はショックだった。そして草太は永く生きられないことを教えられる。


 俺よりも弱い奴がいる、俺が守らないといけない奴がいる。


 俺はそれから草太といつも一緒にいて、懸命に世話をした。


 だけど思い返せば、世話をされていたのは俺の方だったな!


 そして俺は草太の頭の良さ、人間の良さを知る。

 あいつの言う通りにすると、何もかもがうまくいくのだ。


 草太は廻りの人のやってほしい事、やってほしくない事を見極めるのが上手かった。


 だけど、それを利用しようとはしない。本当に心のこもった対応をする。

 だから、いつも廻りの人に好かれるのだ。




 俺はもう、草太のいない世界は考えられなくなっていた。


 俺と草太の努力のかいもあって草太は、寿命を延ばしていった。

 俺は草太がずうっと生きていられる、と思うようになっていた。 


 しかし現実は違う。

 たまに軽い発作を起こす草太を医者は、そう永くない、と言ったらしい。


 施設の先生から覚悟しておくように言われた。


 それからだ、「ありがとな(・・・・・)」と挨拶の後で言うようになったのは。


 友達でいてくれてありがと(・・・・)、俺を導いてくれてありがと(・・・・)、いつも一緒にいてくれてありがと(・・・・)、言いだしたらきりがない。

 それをすべて詰め込んでの「ありがとな(・・・・・)」だった。


 もし、俺がいない時に草太が発作で亡くなったりしたら、後悔しないようにと施設の先生が勧めてくれた。






 そして中三の夏休み、あの世界へ行った。


 あっちの世界でも草太の活躍は凄まじかった。

 俺はすごく鼻が高くなったよ!


 だけど俺はへまをしてしまった。

 ジョニー・カーラントの銃弾を受けてしまった。


 朦朧として頭が回らない中、草太がしきりにいつもの挨拶を言えと言う。


 「お前、起きたら説教だからな、分かったよ、おやすみ、そして、ありがとな(・・・・・)


 そして俺は眠りについた。








 起きたらすべてが終わっていた。


 夜のトンネルの中で、目を覚ました俺は最初、ここがどこだかわからなかった。


 二十八人のクラスメート達みんなが、泣いている。


 それから浩幸から草太がやったことを聞いて、腹が立った。


 「どうして止めなかった、浩幸、どうしてだ!」


 浩幸は泣いて、小さく呟いた。


 「俺だって止めたんだ、でも・・・・そうしなきゃ、お前が死んでいたんだ」


 「俺の事はいいんだよ、なんで止めなかったんだ」


 「お前だって覚悟してただろうが!」


 いきなり将が俺の襟首をつかみ、言い寄った。


 「お前、眠る前に何て言った?「ありがとな(・・・・・)」はその時の為の言葉じゃないのかよ」


 と言いながら涙を流している。


 俺はへたり込んでしまった。

 そしてそのまま、泣きじゃくってしまった。


 「草太~、なんでだよ、なんでだよ・・・・」


 それしか言葉が出なくなってしまった。






 しばらくすると、トンネルを通りかかったドライバーが通報してくれて、俺達は保護された。





 

 それからしばらくは、俺達は世間の注目を集めた。

 一ヶ月間どこに行っていたのか、散々聞かれた。

 本当の事を言っても誰も信じてくれなかった。


 しかし時間がたつと、それも忘れさられていった。







 俺はその後、近くの工業高校に進学した。


 最初、中学校を卒業したら働くつもりだった。


 俺は、草太と同じ高校に行こうと、かなり勉強は頑張っていた。

 そのお陰で成績はいい方だった。

 学校の先生がもったいないと、授業料が免除になるシステムを教えてもらったり、さらに奨学金をもらったりして、高校に進学した。


 工業高校にしたのは、高卒でも就職に有利だからだ。


 その後、高校を卒業して地元の建設会社に入った。


 今も、あの時の中学のクラスメートとは親交がある。





 俺と宮本は、何かよくわからない関係になっていた。

 付き合っているのか付き合っていないのか、ついたり離れたり、を繰り返している。


 宮本が俺の事を想っているのは、なんとなくわかっていた。だけど草太のいる手前、あまり近付かなかった。


 しかしあの後、宮本が草太から頼まれたと、学校以外はよく一緒にいるようになった。


 そして俺は、宮本の事を「まどか」と呼ぶようになっていた。






 そしてあれから、十年がたった。


 夏の暑い日にあの時のトンネルに来ている。


 今までの十年間、毎年この日だけは学校に通っているときも、社会人になってからも、必ず休んで来ている。


 俺以外も、将、浩幸、植村、西村、そしてまどかも来ている。


 あ、西村は姓が変わったんだ。

 今は松田になっている。


 あいつら成人したらすぐに結婚しやがった。


 びっくりだ!


 結婚式は行ったが、付き合っていたとの報告はいまだに無い。


 将も高校、大学と行って普通の会社に就職している。


 出世したのは、浩幸だ。


 高校は難関の有名学校に進み、その後、誰もが知っている有名大学に入った。

 そして今は、一流商社の会社員だ。


 しかし、まだ彼女は出来ないらしい。


 今日来ているのは、俺達六人だけだが、他のクラスメート達も休みの日に来ているようだ。


 トンネルの片隅に花束が置いてあった。


 俺達も花束を持ち、トンネルの片隅に献花をする。

 そして黙祷をささげる。


 いつもガヤガヤと五月蠅い浩幸もこの時だけは静かだ。


 あれから十年、俺は何か変わっただろうか?


 いや、変らないといけない!今日の目的はもう一つあるんだ。


 俺は、あの日から魂が抜けたようになった。


 俺は心の底から笑えることが出来なくなった。たとえ、笑ったとしても愛想笑いだ。


 しかし、廻りのみんなが助けてくれた。

 一番助けてくれたのは、まどかだ。


 彼女は本当に美しくなった。

 昔から草太が言うように美人だと思っていたが、その通りだった。


 でも俺は、まどかを見るとどうしても草太の顔がよぎるんだ。

 だから態度がよそよそしくなってしまう。


 でもそんなんじゃダメだ。

 俺の事をこんなに想っている女がいるのに!


 だから俺は、草太の前で変わるんだ!


 黙祷が終わった後、まどかに声を掛ける。


 「まどか、待ってくれ、あのな、え~とな、あのな、え~と・・・・・「おい、勇気出せ剛志!」」


 浩幸が応援してくれた。

 こう言うところは、昔から変らない。


 俺は浩幸に向かって黙って頷く。


 「まどか、俺と結婚してくれ!」


 と言って、指輪の入った小さな箱を前に出す。


 「え、私でいいの?私といると辛いんじゃない?

 いつも草太君の事、思い出しているでしょ?」


 まどかが、戸惑いの声をあげる。


 「ああ、お前といるとどうしても草太の事が頭をよぎる。

 でもな、それで嫌になったら草太が可哀想だろ!

 俺は草太の事を良いこととして思い出したいんだ!

 お前といて草太の事を誇りとして思い出したい。

 だから、お前じゃなきゃ、まどかじゃなきゃ駄目なんだ・・・・・・俺と一緒になってくれ!」


 まどかは、少し黙った後「うん、・・・ありがとう」と俺のプロポーズを受け入れてくれた。

 

 まどかは、目に涙を溜めていた。


 「お、やったな剛志!やっとお前ら引っ付いたな!

 と、言うことで、瞳ちゃん、俺との関係も進展させない?」


 浩幸が相変わらずの軽さで、植村にアタックする、


 が、


「う~ん、私、最近欲しいバックがあるんだけど、それを買ってくれたら考えようかな!」


 浩幸の要求を自分の物欲に変換して、植村が答える。


 「うん、わかった、買う買う、今から行く?」


 何のためらいも無く、浩幸が返した。


 「おい、マジか、すげえな!去年は靴じゃなかったか?」


 と将が言うと


 「その前は、ウン十万のネックレスだったよ!」


 とまどかが追加する。


 たかる方もすごいが、貢ぐ方もすごい。


 「でもね、浩幸君が買ってくれた物は、何でも大切にしてるよ、瞳は!」


 と西村じゃなくて松田 菜穂が新たな情報を教える。


 「え、マジか?じゃあ、結構、脈があるのか?」


 俺が問うと


 「う~ん、後、ニ三年はこのまま引っ張るんじゃない?」


 と菜穂が言う。


 そうか、後、ニ三年の辛抱だ!頑張れよ、浩幸!


 そんな話しを言い合いながらトンネルを出る。

 近くに車を停めているのだが、そこに移動中だ。


 相変わらずの浩幸の軽さで笑いあっている。


 トンネルを出るとかなり暑い。

 そして蝉の大合唱だった。


 そう言えば、あの日も蝉の大合唱だったな。


 草太、俺、笑えてるぜ!


 そして俺は、まどかと手を繋ぎ、蝉時雨の中を歩いて行った。








             終わり



 



今まで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ