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室田 剛志 side
俺は、物心がついた頃には虐待を受けていた。
父はストレスの発散に躾だと言って俺を殴り付け、母は俺を放置した。
近所の人の通報で九死に一生を得たらしいが、よく覚えていない。
そして施設へやって来た。
そこで草太と出会ったんだ。
俺はそれまで家の外へは出してもらえず、家の中だけが俺の世界だった。
その世界で俺は、最小で最弱だった。
しかし、施設にやって来てからは、俺よりも小さい草太がいた。
友達もいなかった俺は、嬉しくなって草太を引っ張って外に遊びに行こうとした。
しかし草太は胸を押さえて苦しみだした。
すぐに施設の人が来て、事なきを得たが、俺はショックだった。そして草太は永く生きられないことを教えられる。
俺よりも弱い奴がいる、俺が守らないといけない奴がいる。
俺はそれから草太といつも一緒にいて、懸命に世話をした。
だけど思い返せば、世話をされていたのは俺の方だったな!
そして俺は草太の頭の良さ、人間の良さを知る。
あいつの言う通りにすると、何もかもがうまくいくのだ。
草太は廻りの人のやってほしい事、やってほしくない事を見極めるのが上手かった。
だけど、それを利用しようとはしない。本当に心のこもった対応をする。
だから、いつも廻りの人に好かれるのだ。
俺はもう、草太のいない世界は考えられなくなっていた。
俺と草太の努力のかいもあって草太は、寿命を延ばしていった。
俺は草太がずうっと生きていられる、と思うようになっていた。
しかし現実は違う。
たまに軽い発作を起こす草太を医者は、そう永くない、と言ったらしい。
施設の先生から覚悟しておくように言われた。
それからだ、「ありがとな」と挨拶の後で言うようになったのは。
友達でいてくれてありがと、俺を導いてくれてありがと、いつも一緒にいてくれてありがと、言いだしたらきりがない。
それをすべて詰め込んでの「ありがとな」だった。
もし、俺がいない時に草太が発作で亡くなったりしたら、後悔しないようにと施設の先生が勧めてくれた。
そして中三の夏休み、あの世界へ行った。
あっちの世界でも草太の活躍は凄まじかった。
俺はすごく鼻が高くなったよ!
だけど俺はへまをしてしまった。
ジョニー・カーラントの銃弾を受けてしまった。
朦朧として頭が回らない中、草太がしきりにいつもの挨拶を言えと言う。
「お前、起きたら説教だからな、分かったよ、おやすみ、そして、ありがとな」
そして俺は眠りについた。
起きたらすべてが終わっていた。
夜のトンネルの中で、目を覚ました俺は最初、ここがどこだかわからなかった。
二十八人のクラスメート達みんなが、泣いている。
それから浩幸から草太がやったことを聞いて、腹が立った。
「どうして止めなかった、浩幸、どうしてだ!」
浩幸は泣いて、小さく呟いた。
「俺だって止めたんだ、でも・・・・そうしなきゃ、お前が死んでいたんだ」
「俺の事はいいんだよ、なんで止めなかったんだ」
「お前だって覚悟してただろうが!」
いきなり将が俺の襟首をつかみ、言い寄った。
「お前、眠る前に何て言った?「ありがとな」はその時の為の言葉じゃないのかよ」
と言いながら涙を流している。
俺はへたり込んでしまった。
そしてそのまま、泣きじゃくってしまった。
「草太~、なんでだよ、なんでだよ・・・・」
それしか言葉が出なくなってしまった。
しばらくすると、トンネルを通りかかったドライバーが通報してくれて、俺達は保護された。
それからしばらくは、俺達は世間の注目を集めた。
一ヶ月間どこに行っていたのか、散々聞かれた。
本当の事を言っても誰も信じてくれなかった。
しかし時間がたつと、それも忘れさられていった。
俺はその後、近くの工業高校に進学した。
最初、中学校を卒業したら働くつもりだった。
俺は、草太と同じ高校に行こうと、かなり勉強は頑張っていた。
そのお陰で成績はいい方だった。
学校の先生がもったいないと、授業料が免除になるシステムを教えてもらったり、さらに奨学金をもらったりして、高校に進学した。
工業高校にしたのは、高卒でも就職に有利だからだ。
その後、高校を卒業して地元の建設会社に入った。
今も、あの時の中学のクラスメートとは親交がある。
俺と宮本は、何かよくわからない関係になっていた。
付き合っているのか付き合っていないのか、ついたり離れたり、を繰り返している。
宮本が俺の事を想っているのは、なんとなくわかっていた。だけど草太のいる手前、あまり近付かなかった。
しかしあの後、宮本が草太から頼まれたと、学校以外はよく一緒にいるようになった。
そして俺は、宮本の事を「まどか」と呼ぶようになっていた。
そしてあれから、十年がたった。
夏の暑い日にあの時のトンネルに来ている。
今までの十年間、毎年この日だけは学校に通っているときも、社会人になってからも、必ず休んで来ている。
俺以外も、将、浩幸、植村、西村、そしてまどかも来ている。
あ、西村は姓が変わったんだ。
今は松田になっている。
あいつら成人したらすぐに結婚しやがった。
びっくりだ!
結婚式は行ったが、付き合っていたとの報告はいまだに無い。
将も高校、大学と行って普通の会社に就職している。
出世したのは、浩幸だ。
高校は難関の有名学校に進み、その後、誰もが知っている有名大学に入った。
そして今は、一流商社の会社員だ。
しかし、まだ彼女は出来ないらしい。
今日来ているのは、俺達六人だけだが、他のクラスメート達も休みの日に来ているようだ。
トンネルの片隅に花束が置いてあった。
俺達も花束を持ち、トンネルの片隅に献花をする。
そして黙祷をささげる。
いつもガヤガヤと五月蠅い浩幸もこの時だけは静かだ。
あれから十年、俺は何か変わっただろうか?
いや、変らないといけない!今日の目的はもう一つあるんだ。
俺は、あの日から魂が抜けたようになった。
俺は心の底から笑えることが出来なくなった。たとえ、笑ったとしても愛想笑いだ。
しかし、廻りのみんなが助けてくれた。
一番助けてくれたのは、まどかだ。
彼女は本当に美しくなった。
昔から草太が言うように美人だと思っていたが、その通りだった。
でも俺は、まどかを見るとどうしても草太の顔がよぎるんだ。
だから態度がよそよそしくなってしまう。
でもそんなんじゃダメだ。
俺の事をこんなに想っている女がいるのに!
だから俺は、草太の前で変わるんだ!
黙祷が終わった後、まどかに声を掛ける。
「まどか、待ってくれ、あのな、え~とな、あのな、え~と・・・・・「おい、勇気出せ剛志!」」
浩幸が応援してくれた。
こう言うところは、昔から変らない。
俺は浩幸に向かって黙って頷く。
「まどか、俺と結婚してくれ!」
と言って、指輪の入った小さな箱を前に出す。
「え、私でいいの?私といると辛いんじゃない?
いつも草太君の事、思い出しているでしょ?」
まどかが、戸惑いの声をあげる。
「ああ、お前といるとどうしても草太の事が頭をよぎる。
でもな、それで嫌になったら草太が可哀想だろ!
俺は草太の事を良いこととして思い出したいんだ!
お前といて草太の事を誇りとして思い出したい。
だから、お前じゃなきゃ、まどかじゃなきゃ駄目なんだ・・・・・・俺と一緒になってくれ!」
まどかは、少し黙った後「うん、・・・ありがとう」と俺のプロポーズを受け入れてくれた。
まどかは、目に涙を溜めていた。
「お、やったな剛志!やっとお前ら引っ付いたな!
と、言うことで、瞳ちゃん、俺との関係も進展させない?」
浩幸が相変わらずの軽さで、植村にアタックする、
が、
「う~ん、私、最近欲しいバックがあるんだけど、それを買ってくれたら考えようかな!」
浩幸の要求を自分の物欲に変換して、植村が答える。
「うん、わかった、買う買う、今から行く?」
何のためらいも無く、浩幸が返した。
「おい、マジか、すげえな!去年は靴じゃなかったか?」
と将が言うと
「その前は、ウン十万のネックレスだったよ!」
とまどかが追加する。
たかる方もすごいが、貢ぐ方もすごい。
「でもね、浩幸君が買ってくれた物は、何でも大切にしてるよ、瞳は!」
と西村じゃなくて松田 菜穂が新たな情報を教える。
「え、マジか?じゃあ、結構、脈があるのか?」
俺が問うと
「う~ん、後、ニ三年はこのまま引っ張るんじゃない?」
と菜穂が言う。
そうか、後、ニ三年の辛抱だ!頑張れよ、浩幸!
そんな話しを言い合いながらトンネルを出る。
近くに車を停めているのだが、そこに移動中だ。
相変わらずの浩幸の軽さで笑いあっている。
トンネルを出るとかなり暑い。
そして蝉の大合唱だった。
そう言えば、あの日も蝉の大合唱だったな。
草太、俺、笑えてるぜ!
そして俺は、まどかと手を繋ぎ、蝉時雨の中を歩いて行った。
終わり
今まで読んでいただきありがとうございました。




