002 入学試験
午前中は筆記試験が行われ昼食休憩後から実技試験が実施される予定だ。
実技試験は五箇所の室内模擬戦室の五箇所同時進行で行われる。
これは時間短縮のほかに武器ごとに担当教官と模擬戦室を別にすることで受験生の実力をより正確に測ろうとする理由からである。
アリスは第1模擬戦室に入ると指定の位置に並ぶと周りを観察していた。
模擬戦室といいながらここは小さい闘技場と言った方が正確だろう。
アリスが並ぶ模擬戦場の周りにも観客席などが取り囲んでいる。
ここに集められた受験生は皆、剣や槍の様な近接武器を持っていた。
おそらく近接武器を使う受験生があつめられているのだろう。
数分後に模擬戦場に3人の試験官が入ってきた。
1人は筋肉が隆起する大柄、頬に傷があり白髪が目立ち始めている、腰には長い両刃の剣をぶら下げている如何にも元冒険者と言う風貌の50代近いであろう男性。
もう1人は細身だがしっかりとした身体付き、紺色のかみを短く切っている。
腰には騎士剣を帯刀している騎士風の此方は30代ぐらいの男性。
最後の1人は如何にも魔女と言うような格好のローブを羽織った女性、長い黒髪に魔女帽を被っている。
年齢は20代にみえるが実際はもっと高齢だろう。
「待たせたな、少し予定より早いが全員揃っているようなので今から実技試験の概要を説明する。」
そう言うと騎士風の試験官は説明を始めた。
試験の概要を簡単にまとめると、
1つ、受験者は男性試験官2人と1対1での模擬戦を行う。
1つ、受験者は魔力、魔術、精神術を含む自らの全てを用いて戦っても良い。ただし、闘技場を破壊する行為や試験官を確実に死にいたらしめる行動は禁止する。それらの意図的な行動は失格とする。
1つ、試験後は自由解散とする。受付にて本人確認の後帰宅すること。
ルールの大筋は大体この3つだろう。
基本的には何でも有りの実践形式の模擬戦だった。
「始める前に自己紹介をしておこうか。俺はガレス・ノールズ、元冒険者だ。現役の頃は【剛剣】の二つ名で呼ばれていた。よろしく。」
そう言う大柄の試験官、周りからは「あの人が剛剣!?」、「あれが元Aランク冒険者の、」などと聞こえてくる。
やはり試験官などしているのがおかしいほどの実力ある人物らしい。
「次は私ですね。私はアルメリア王国近衛騎士団所属、コリス・ノーブルです。今は王国の方針でこの学園で教育に携わらせていただいています。よろしく。」
アルメリア王国近衛騎士団と言えば末端よ騎士でさえ冒険者で言えばB級レベルの精鋭の中の精鋭部隊だ。
現役の近衛と戦えると興奮する受験生たち。
「最後は私ね。【癒しの魔女】カリス・アイマス、元冒険者よ。今日は試験官兼医務班としているからよろしくね。」
癒しの魔女と言えば元Aランク冒険者で今は、国お抱えの医療魔術師になっていたはずである。
(いくら国が学園に力を入れていてもおかしくない?はぁー、師匠が学園を進めた時点で気付くべきだった。コレは厄介事だ、確実に何かしらの事件、陰謀なりが絡んでるな。)
周りの受験生が大物試験官に興奮する中、厄介事の予感を確信し大分憂鬱になっていたアリス。
しかし事ここに至っては試験を受けるしかないのである、諦めて厄介事は気付いた時に対処する事にしたのだった。
試験が始まりそろそろ終盤に差し掛かった頃、
「アイリス・アダマス!」
「はい。」
コリスにそう呼ばれ前に出たのは長い銀髪を流し、銀色の鎧をまとい騎士剣を腰には下げる少女だった。
その銀色の瞳は美しく同性であるアリスも思わず見惚れてしまうほどの美少女だ。
前に出る瞬間一瞬だけアリスを見つめるアイリス。
ドキッとするが特に面識がある訳でもないので気のせいかと思い直す。
剣を抜き放ち構える2人。
コリスは云うに及ばずアイリスの剣も相当な業物だろう。
「いつでもいいぞ、かかってこい!」
「はい、ては行きます。」
そう言うと同時にアイリスは地面を蹴りコリスに肉迫し、気上段から剣を振り下ろす。
(速い!凄い練度の精神術、身体強化に淀みが無い。けど、)
「速いが、単調だよ!」
その上段から振り下ろされた剣はコリスに最小限の動きで回避される。
振り下ろされた隙をつきコリスが剣を横に薙ぐが、すんでの所で剣による防御が間に合い流れに身を任せるように後ろへと自ら吹き飛び衝撃を緩和する。
その勢いのままコリスへと飛び込む。
その行動を予測して居たようにタイミングを合わせコリスが切り込むが剣の間合いギリギリでアイリスは急停止していた。
「なっ!?」
完全に人体の構造を無視した急停止を前にコリスの身体が流れ、一瞬のスキを生んでしまう。
アイリスはその隙を見逃さずコリスの首筋に剣を突きつける。
「ははっ、凄いな。コレは僕の負けだね。お見事だ。」
乾いた笑みを浮かべながら素直にコリスは負けを認めた。
「ありがとうございます。」
当然の結果の様に堂々と待機場に戻っていくアイリス。
(凄かったわね今のは。最初に真っ直ぐ突っ込んだのは、コリス試験官を油断させると同時に、2度目の突進の時にカウンターを合わせさせる為の布石か。それと最後の急停止の時一瞬だけど下に構えた剣と両足に銀色の炎を纏ってたわね。多分、逆噴射で急ブレーキを掛けたんだわ。)
その一瞬の力のコントロールによる戦闘技能に驚愕するアリス。
よもや自分と同世代にここまで出来る人が居るとは思っても見なかった。
それと同時に入学を進めた師匠の意図も厄介事以外にもしっかりと有った事に安堵する。
(私も、ここでもっと強くなってきっと、)
「アリス・カルミア、前へ!」
「はい!」
ガレスが太い声でアリスの名前を叫び、アリスも負けじと大きい声で返事を返す。
「ほぅ。君が噂の【黄金姫】か。」
そう言うとガレスは両刃の長剣を両手で構えた。
「よろしくお願いします!」
アリスは右手に刀を持ち脱力した姿勢で立ち呼吸を整える。
「ゆくぞ!」
掛け声と同時にガレスが上段から切り込む。
それをアリスは、1歩分右脚をずらし回避する。
それだけでは終わらずガレスからの嵐のような連撃が続いたがその全てを回避か、刀ですべていなしてみせる。
体格によるリーチが違い過ぎる為、今のアリスの刀ではガレスには届かず回避されてしまうので回避と観察に全力をそそいでいた。
一旦ガレスの間合い1歩外の距離に離し仕切り直しが行われる。
(入学前で俺の連撃を全ていなすか。それに連撃の合間にスキを作っているのだか手を出してこないな。しかもこの相手を観察し見透かすような目、実戦なら絶対に相手にしたくないな。)
そんな思考を打ち切り、ガレスはまた切り込む構えで踏み込んだその瞬間、アリスも同時に踏み込んでいた。
その瞬間、そこはアリスの間合いにはいる。
アリスの1歩では届かない距離だがガレスの踏み込みとタイミングを合わせることでアリスの間合いに詰める事に成功した。
(なっ!?ここまで完璧に呼吸を読まれていたか!)
(これで攻撃が届く!)
アリスの横薙ぎの一閃を予期しガレスが剣を割って入れる。
アリスが放つ殺気と剣気におされ無理矢理ガードの姿勢に入ったのだ。
その瞬間ガレスは完全に横薙ぎの一撃を意識するが余り攻撃を幻視する。
「【幻視一刀 水面月】 」
「なっ!?」
首筋に走る衝撃によりガレスの意識は完全に絶たれた。
「カリス試験官、治療をお願いします。峰打ちですので直ぐに意識は戻ると思います。」
「まさかガレスを倒してしまうなんて、今年は聞いていた通り荒れる年になりそうね。」
カリスは心底驚いた様子でガレスを治療した。
流石は元Aランク冒険者と言うべきか、ガレスは起きて、笑いながら
「はっはっはっ、まさかこの俺が負けて1本とられるとは流石は【黄金姫】。まいった、まいった!」
「いえ、ガレス試験官は精神術のみで魔力はつかって居なかったじゃないですか。実戦なら分かりませんよ。」
「謙遜はよせアリス。魔力を使っていなかったのはお前も一緒だろう?なら俺の負けだ!胸をはっていろ。」
そう言うと直ぐに残りの試験に戻っていくガレス。
「気絶してたんですから少し休憩しては!?」
「気絶させた本人が何をいう?それに力加減は完璧だったからもう大丈夫だ!」
「そう言う問題では、って分かりました。気を付けて下さい。」
そんな会話で周りが呆れる中、
(これほどなの、アリス・カルミア!私は絶対にトップに居なければいけないのに。絶対に負けない!)
無意識にアリスを睨みつけるアイリスだったがアリスの視線がこちらに向いた瞬間目をそらす。
(このままではいけないわ、このままでは。)
その後はなんのトラブルも無く順調に試験が続いていった。
アリスも何の問題も無く帰宅する事になった。
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その部屋には5つのモニターとその正面に1人の妖艶な美女が立っていた。
モニターにはそれぞれに玉座とそれに坐す王達、その護衛が映し出されている。
美女はモニターに映る王達に今回の入学試験について細かく説明していった。
「という事で今回は例年より優秀な生徒が数多く入学いたしましたわ。」
金髪をなびかせる人間の王が口をひらく。
「これも全て【英華の世代】を、集めるのに協力して頂いた皆のおかげだ、礼を言う。」
これにエルフの王が答える。
「何を言うこれは最早我ら人類の存続をかけた計画だ。礼などは不要だ、これからも我ら人類は協力して行かなければならなのだからな。」
この言葉にドワーフ、魔人族、竜人族の王達も同意する。
それは世界的な危機に五大国の王が遠慮し合っている場合では無いと言う前代未聞ともいう共通認識の上に成り立つ信頼関係であった。
「しかし、苦労するのはこれからだぞ【原初の魔女】よ。」
魔女は妖艶な笑みを浮かべながら丁寧に答える。
「分かっております。ここから私たちを超える、時代を変える英雄の中の英雄を生み出すのですから!」
そこには王達にすら引くことをしない、魔女としての覇気を確かにまとった女性の姿があった。
それを見た王達は、すまぬと謝りながら。
「分かっているなら良い。これからもよろしく頼むぞ。」
「はい、それが私の使命ですので。」
画面が一つづつ消え部屋が暗闇につつまれていく。
魔女は思いをはせる。
永遠に続くこの戦いの時代に終止符をうつ英雄に。
この学園の本懐を遂げる為に最後の世代に希望をのせる。




