死神レポーター2
カルチェとアティカは、次の取材先を聞くため、今まで書いた記事をほっぽらかして再度編集長の元へ向かった。
「おや新人君かい? 名前は?」
「カルチェと言うのでふ。いつもお姉ちゃんがお世話になっていますでふ」
「なるほど、そこの妄想レポーターとは違って礼儀は出来ているみたいだな」
編集長はアティカの方を向いて言った。
「……私、そんなに礼儀ができていませんか?」
「それはともかく。えっと、次の取材先は……まだ決まってないようだな」
「な……だ、だって毎日死者は数万数億と発生しているじゃないですか! だから1人くらいは……」
「人間のレポーターは競争が激しいからね。毎日君に仕事があるくらい人間が死んでたんじゃあ、人間はとっくに滅びてるよ。昆虫全部だとわかんないけどね。昆虫の取材でもしてくるかい?」
「あうぅ、それは……」
死者界には人間だけでなく、昆虫たちの魂もやってくる。当然昆虫の魂にもレポートできるが、そんな人間レポーターあまりいない。もちろん他の動物へインタビューすることもあるが、それはそれで大きな出来事がない限りはあまりやらないことだ。大抵は種族ごとで雑誌発行を行っているので、多種族へ関与することはめったにない。
「お、新しい情報が入ってきたぞ。今日の午後4時、事故で死ぬことになっている人間がいるらしい。その人間のインタビューでもしてきなさい。場所はこの地図に書いてあるとおり……」
編集長はアティカに地図を渡し、場所を指し示した。
「あ、それと新人君……カルチェ君といったかな。君はこの新聞記事を読んで記事の書き方を勉強すること。それと、アティカ君のそばでレポートの方法を見ていること」
編集長はカルチェに死後界の新聞、"死後界プレス"を渡した。
「わかりましたでふ。勉強をかねてしっかりと姉の監視をするでふ」
「……かわいくない妹めがぁぁ!」
かくして次の仕事も決まり、アティカとカルチェは現場へ直行することになった。
死後界から地上界を見るためには、会議室にある特殊なスクリーンを用いる。
そこに見たい場所を入力すれば、その場所の様子が見れるのだ。
「えっと、日本地区の東京都OD18-F2T0B地区っと……毎回思うけど、なんでこんなややこしい番号なの」
「なるほど、これで地上界の人間の死に様が見れるというわけでふか。レポーターというのは非常に趣味が悪い仕事でふね」
「妹よ、そう言っているが今日からお前もその趣味が悪い仕事をするわけだが……」
アティカが住所を入力し終わると、日本の地図が映し出された。それが徐々に拡大され、地上界の様子が現れた。少し田舎であるようだが、交通量の多い道路の交差点の様子が映し出されている。
「なるほど、これだけ車が通っていたら事故の一つや二つは起こるわけでふね」
制限速度40キロの道路を、明らかにそれよりもスピードを出して走っている車が多い。通学路であるのか、子供たちが歩く姿がよく見られる。
「そういえば、事故で死ぬ人間って、どんな人間か知ってるでふか?」
「いや、私もしらないのよ。大体、あの編集長、誰かが死ぬことはわかるくせにその人間の特徴を教えてくれないのよ」
「そりゃまだ死んでないからでふ。そもそも誰かが死ぬのがわかっている時点でこの新聞社でなく予言会社でふ」
「この前なんか人間じゃなくて宇宙人だったのよ。それで久々にまともにインタビューして記事書いたら、『誰が宇宙人なんか信じるかぁ!』とか言われて没にされちゃったのよ。まったく、こっちはいい迷惑だわ」
「その話を聞いて捏造だと思わない人間のほうが不思議でふ」
あちこち目を光らせるが、とても事故は起こりそうに無い。そう思った瞬間、リュックを背負ったやや太めの男がふらふらと道路へ向かっているのが見えた。
「あ、あの男の人ではないでふか? きっと飛び出して事故に遭うんでふ」
「な……ま、待て、あんな一般人が死んでもまともな話は聞けん! どうせ萌え萌えフィギュアの自慢でもされるんだ!」
「さすがにそれはいいすぎでふが……まあ、お姉ちゃんの相手にそんなお偉いさんをぶつけるわけがないですし、編集長もよく分かってるでふ」
「カルチェ、あんたねぇ……」
そんな言い争いをしているうちに、男はふらふらと道路の方へ向かっていく。もちろん車は何台も走り去ってる。事故に遭うのは必死だ。
「ま、まってぇ! あなたはこんなところで死ぬような人間じゃないわ! ちょ、まだ車走ってるじゃない!早く止まりなさい! あぁ、道路に出ちゃダメ! 止まりなさい! 止まれ! お願い止まって! 止まってくれたら私の巨乳をプレゼントするから!」
「お姉ちゃん、そんなお願いは地上界に届くはずないでふ。そもそもお姉ちゃんは貧乳でふ」
毒舌を吐きながらカルチェは地上界の様子を見ていたが、ふらふらしていた男は突然立ち止まり、右方向から恐ろしいスピードで車がやってくるのに驚き、あわてて歩道に戻った。
「ふぅ、やっぱり美人の願いは通じるものね」
「どこがでふか。単にたまたまあの男の人が我に帰っただけでふ」
「いいえ、これは天の神である私が彼に与えた啓示であり……」
アティカが言いかけた瞬間、雷音かと思うほどのブレーキ音が聞こえた。
あわてて画面を見ると、道路の横で倒れておびえている少女がいた。そしてトラックが横断歩道の上で止まっている。そして、そこから少し離れた所に、見た目60代後半といった男性の姿があった。
恐らく道路に飛び出した少女を助けようと、男性が飛び込んだところをトラックにはねられたのだろう。頭から血を流して倒れている。
「……完全に死んだわね。これだけ頭蓋骨を砕かれたら私だって死んじゃうわよ。」
「あの……そちらさんはこの様子をみてなんとも思わないのでふか? あと頭蓋骨そんなにすぐ砕けるんでふか?」
「記者はそんな感情を持たないし細かいことは気にしないものよ。さて、仕事仕事。あの人のインタビュー行くわよ!」
「え、インタビューって……お姉ちゃん!」
突如走り出したアティカに驚き、あわててカルチェもついていった。




