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アビリティ・バイヤー1

 人は能力に差があって不公平だ。

 自分の能力なんて役に立たない。

 もっといろんな経験をしたかった。

 ――そう思ったこと、ありませんか?


「幸運販売代行店」では、新たに「能力」の売買も始めました。

 あなたに必要な能力を取り揃えてお待ちしています。

 新しい能力を手に入れるのに必要なものは、あなたが持っている能力や経験です。不必要な能力は買い取りもいたします。

 自分の不要な能力を売って、必要な能力を手に入れませんか?


 ****


「あなたの幸運買い取ります」


 ドアに掛けられた看板の下に、新しい看板が追加されていた。


「必要な能力そろっています」


 一見すれば、どこかの金持ちの別荘かと思えるような、自然と調和したログハウス。そこでは、「物」ではないものを売っている。初めて来た人は、ここが不思議なものを売っている「店」であるとは思わないだろう。


 今日も一人、怪しげな広告に引き寄せられ、男性客がやってきた。薄暗い森の中、外灯に照らされたドアを開けると、奥から「いらっしゃいませ」という女性の声が聞こえてくる。しばらくすると、男性と同じくらい長身の、赤いエプロンの女性が出迎えてくれた。


「あの、広告を見てきたんですけど……」


 若い男性客の手には、「必要の能力販売いたします」と書かれた握られていた。声を掛けてきた女性が「こちらへどうぞ」と招き入れると、客の男性は木製のテーブルセットに向かう。


「えっと、ここはどういったお店なのですか?」

「はい、ここでは幸運や能力といった、目に見えないもののやり取りを……あ、申し遅れました。私はオーナーのアティカ・ラックリーフと申します。普段は人の運をやり取りしていますが、このたび能力の販売を始めました」

「運や能力を……ねぇ」


 首をかしげながら男性客が椅子に座ると、奥から別の女性がトレーを持ってやってきた。先ほどの女性よりも身長は低めで、ややぽっちゃりしている。そのせいか、同じエプロンなのに、少し印象が違って見える。


「いらっしゃいでふ、せっかくなので、ゆっくりしていくでふ」


 そう言うと、その女性は男性客の前にコーヒーを差し出す。「どうも」と言いながら男性はコーヒーに口を付けた。

 するとアティカが男性客に「こちらをどうぞ」と一冊のカタログを手渡した。


「当店では、私たち『アビリティ・バイヤー』が能力や経験の売買、交換をおこなっております。本日はどのようなご用件でしょうか? 能力のご購入ですか? 買い取りですか? それとも交換ですか?」


 カタログには「能力の買い取り」や「能力の交換」という文字が目に着く。


「えっと、広告を見て来てみたんですけど、いまいちよく分からなくて……」

「ではご説明いたします。当店では、お客様が持っている能力や経験を、当店で在庫している能力や経験と入れ替えることが出来ます。また、お客様の寿命での売買も行っております」

「寿命?」

「はい、こういった目に見えないもののやりとりでお金をいただくわけにはいきませんので、寿命のやりとりをさせていただいております」

「はぁ……」


 いまいちピンと来ていないのか、男性客は首をかしげる。


「そうですね……例えば、『視力』で体験していただきましょう。あそこに書いてある文字、読めますか?」


 アティカは、奥の壁に貼っているポスターを指さす。男性は「目が悪いもので」と言って首を振った。


「では、『視力がよい人』の能力を与えますので、ポスターを見ていてください」


 そう言うと、アティカは一枚の書類をもって立ち上がる。そして近くのコピー機のような機械に向かい、操作を始めた。男性客はしばらくポスターを見ていたが、突然「おお」と声をあげた。


「いかがでしょう? 先ほどよりも視界がよくなったと思いますが」


 アティカが操作を終えて戻ると、男性客は「すごい」と感心しきりで周りを見渡していた。


「遠くの小さい文字までよく見える! 一体どうやって……」

「お客様に、『視力がよい』という能力を与えただけです。とはいえ体験用ですので、すぐに返却していただきますが」

「なるほど……ということは、同じようなことを、他の能力でも?」

「はい、他にも『記憶力が優れている』という能力であったり、『速く走れる』という能力であったり、そういったものもご準備できますよ」


 アティカは資料のうちの一つを広げ、男性客の前に差し出す。


「例えば、お客様が運動が得意でも考えるのが苦手な場合は、運動能力と知識を交換する、ということが可能です」

「なるほど、そうやって、自分の環境に合った能力を手に入れることができる、と」

「そういうことです。さて、お客様はどのような能力をお望みですか?」


 男性客は資料のページをペラペラとめくる。すると、あるページをめくったところで手が止まった。


「あ、これいいですね。私、とび職をやっていまして、体力が必要なんですよ。大学院卒なんですけれど、結局勉強したことをあまり活かせていないんです。体力が無かったので、運動はしているのですがなかなか……」

「なるほど、では大学院レベルの知力と、とび職に必要な体力の交換、でよろしいでしょうか。交換手数料として、寿命150日が必要ですが……」

「ぜひ、お願いします!」


 男性客が頭を下げると、アティカは資料を片付け、「個人識別カードをお願いします」と男性客に言った。

 アティカが男性客の個人識別カードを受け取ると、奥にある怪しげな機械に通した。コピー機ほどの大きさの、直方体に近い形をした機械で、上面にはタッチパネルが付いている。そこでいくつかの操作をすると、機械から紙が印刷された。


「こちらが契約書です。内容をよく確認して、サインをお願いします」


 印刷された紙とサインペンを男性に差し出す。内容はおよそ、「貴方の知力と在庫の体力を交換します」「交換手数料は、貴方の寿命150日です」といったことだ。男性客は一通り目を通すと、サイン欄に自らのサインをした。


「はい、これで契約成立です。もし不都合がありましたら、今日から8日間は異議申し立てと契約解除ができますので、その際はまたご来店ください」


 アティカがいくつかの書類を男性客に渡すと、男性客は一礼して店から出ていった。

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