新しい友人たち
2時限目はなんだかやたらと熱い和人の視線を感じながら授業を受けた。
無視して授業に集中したが、集中してみても授業内容はさっぱり理解できない。
休み時間になり、またワラワラと寄って来た女生徒を押しのけて貴史の席行った。
「よっ!」
声を掛けると、貴史は面倒くさそうに「おう」と返す。
「同じクラスだから、これからもよろしく」と言うと、やはり「おう」と返す。
不愛想だが、律儀なやつだ。
席に戻ると、女生徒達が何か言いたげに待っている。
「・・・・・・何? もしかしてあいつも変態なの?」
声を潜めて聞くと、みんな首を傾げて「いやぁ、そういうわけじゃないんだけど」と、微妙な反応をする。
後ろの方にやたらと目をキラキラさせている子がいたので、その子に問いかける意味で首を傾げて見せた。
「ちょっと待っててほしいでござる!」
・・・・・・ござる?
その子は手の平を前に突き出してから自分の席に戻り、鞄から何か取り出して戻って来ると、薄いソレを琴子に差し出した。
その薄いモノは、数枚のA4の用紙で構成されており、表紙にはフリフリの服をはだけた男二人が華美な絵で描かれている。
どう見ても和人と貴史だ。
パラパラとページを捲り、赤面して薄い本を閉じる。
「あの・・・・・・これ、借りていい?」
その子はヘヴィメタバンドのライブのように頭を上下に激しく振った。
「それ、拙者の妄想でござる。拙者には3次元は荷が重い上に、佐々木殿の首輪引くのも、工藤殿の毒舌にも中二病にもガラスのハートが耐えられないでござる。しからばカップリングなどしてみてはいかがかと、試しに描いてみたら、大好評でござった」
みんな頷いている。「そうそう」「こういう楽しみ方があったなんてねぇ」等と言っている。
琴子は声をいっそう落として囁いた。
「実は私もね、あの二人に初めて会った時に、こんな妄想しちゃったんだよね。てか、うちの叔父と、他にもガチムチヒゲオヤジがいて、修羅場かと思っちゃって」
「え、なにそれ、詳しく!」
周りのkwskコールに我に返った。
「あ、ごめん、プライバシーに関わるから、詳しくは言えない」
慎二の事を勝手に言うわけにはいかない。
「なによそれ、誘い受けってやつですの?」
「そこまで言っておいてそれはないわ~」
みんなが琴子の席に前のめりに詰めかけ、クラスのほとんどの女子の体重を一気に引き受けた机の足は、力無くグニャリと曲がった。
机の手前は後部からの圧迫がほぼ無かったため、板面が前に向かって見事なまでの傾斜を描いていた。
「あんたの体重が!」とか「あんたの怪力で!」とか言っている女子達を押しのけて、貴史が割り込んできた。
折れ曲がった机の足を触り、「ふむ、少し熱を持っているな。ということはこの中にPK能力者がいるのか」等とつぶやいている。
あぁ、なるほど、この二人、和人と貴史は・・・・・・
「残念だね」
琴子のつぶやきに、女生徒が一斉に頷き返す。
だが、残念男子達のおかげで思ったよりも早くクラスに溶け込む事ができた。
3時限目、国語担当の教師が入って来るなり言った。
「イジメ、かっこわるい。クラス委員は・・・・・・佐々木と躑躅森か。転入生に新しい机を持ってきてあげなさい」
3時限目の休み時間は、職員室に呼ばれ、担任にイジメの有無を聞かれた。国語教師がチクったのだろう。
なんとか誤解を解いて、4時限目の途中で教室に入る。
4時限目の授業内容もさっぱりわからず、昼休みになった。
クラス委員だという女生徒に、一緒にお弁当を食べませんか、と誘われる。
その席には、薄い本を貸してくれた女の子もいた。
「三神殿、改めまして、拙者、村崎緑でござる。趣味はBL、特技はBL、好きな言葉はBL。マン研所属でござる。以後、お見知りおきを」
「あっしぃ、植尾愛。英語で自己紹介とかしたくないから。つらお。ちゃけばはよ結婚して名字変えてぇ。所属はGHQ。よろたん」
言っている事が何一つ理解できなかった。
「あたしは躑躅森櫻子。ちなみにこんな字にゃ。中学校に上がるまで自分の名前、漢字で書けなかったにゃん、てへっ。クラス委員で新聞部所属、琴子ちゃん、よろしくにゃん!」
かわいらしい名刺を渡される。つつじもりさくらこ、とフリガナが振ってある。確かにこれは書けないだろう。読めないし。
「にゃんついてるわ」と植尾が言ったが、確かに語尾に「にゃん」がついている。「にゃんついてる」とはそういう意味か。
「あたくしは八城小路環奈。櫻子の親友ですの。新聞部所属ですわ。仲良くしてさしあげてもよろしくてよ、ヲホホホホ」
お嬢様キターーーーッ! 縦ロールも麗しい、わざとらしいくらいにいかにもお嬢様だ。
「佐東七緒」
続きを待ったが、最後の一人はそれ以上は話す気は無いようだ。
「私は三神琴子。琴子って呼んで。北海道生まれの北海道育ち。まだこっちに来たばっかだから、色々教えてね」
微笑みかけると、佐東以外は全員、琴子に笑い掛け、背中をバンバン叩いたりもした。
「ところで、ごめん、私、人の名前覚えるの苦手なんだよね。あだ名とかつけてもいい?」
みんな目を輝かせて頷いた。佐東以外は。
「そういうの久々でござる」「バイブスぶちあげ」「楽しみにゃん!」「よろしくてよ!」
「じゃあ、あんたは拙者ちゃんとドドメちゃんとどっちがいい?」
村崎は見るからにしょんぼりとした。
「琴子殿、拙者ちゃんはまだわかるとして、ドドメちゃんとは何でござるか?」
「や、なんかほら、色んな色混ぜたらドドメ色になりそうだから」
「拙者の事は、緑と呼んでくだされ。お願い申す」
場の雰囲気が暗くなった。
「わかった。ミドリね。じゃあ次、えっと、あんたは・・・・・・アイウエオ!」
植尾は思い切り琴子の後頭部をひっぱたいた。
「フルネーム覚えてんじゃねえかよ! 意味不! TBS! おままじFK! ショッキングピーポーマックス! 愛って呼べ、これ命令!」
何を言っているのかやはりわからないが、なんだか怒っているという事だけはわかった。
「わ、わかった。アイね。アイ。おっけ。えっと、じゃあ次、あんたは・・・・・・難しい漢字の人。ムズちゃ」
「あたしの事は櫻子って呼んでにゃん」
被せてきた。
横に目を移すと、八城小路と目が合った。
「ドリル!」
「八城小路様とお呼びなさい!」
ほぼ同時に叫んでいた。
「環奈ちゃん、八城小路様は無いと思うにゃ。せめて環奈さん、くらいで手を打つといいにゃ」
「櫻子がそう言うなら仕方がございませんわね。琴子、あたくしの事は環奈さん、と呼んでもよろしくてよ」
櫻子の助けで、なんとか様付けは回避できた。あとは・・・・・・。
「・・・・・・佐東・・・・・・さん」
佐東は黙って頷いた。
「じゃ、お弁当食べようか。お腹すいた」
机の上にお弁当箱を出して蓋を開ける。
「み、三神殿!」「ちょ、マジありえんてぃー、超レシーブ」「みぎゃ~!」「ヲホホホホ」「・・・・・・」
教室の全員がこちらを見ていた。琴子の弁当は、カレー弁当。1段目にご飯、2段目にはカレーを入れていた。
「琴子ちゃん、これはあんまりだにゃん。お弁当用のレトルトカレーならまだしも、こんなにたぷんたぷんに・・・・・・」
「私、これしか作れないから」
「琴子殿の手作りでござったか。いや、しかし拙者、この得も言われぬ香りには逆らえないでござる。琴子殿、拙者のこの唐揚げとカレーを一掬い、交換してくださらぬか?」
「た~か~し~。あっしも卵焼きと交換して~!」
「そ、そう言われるとあたしも食べたいにゃん。タコさんウインナーでいいかにゃん?」
「フォアグラのテリーヌと交換してさしあげますわ」
それぞれのお弁当のご飯に一掬いずつ、カレーをかける。佐東にだけは拒否された。
「にゃ~~~、冷え冷えで油が固まってて、、やっぱりまずいにゃ~~~」
「はげど」
「いや、拙者はなかなか、B級感がクセになり申す」
「庶民の食べ物はこんなもんじゃございませんの?」
なかなか好評のようだった。
5時限目、6時限目が終わり、放課後になるとランチメンバーがわらわらと寄ってきた。
どうやら誰とランチを食べるかによってグループは決まるようで、他の女生徒は、目が合うと遠くから手を振るくらいだった。
「琴ぴっぴ、あっしこれからオケるんだけど、一緒する?」
とりあえずよくわからないので断った。Noと言える日本人。かっけー。
「琴子殿、もしよろしければ、我がマン研にいらっしゃるとよかろう。薄い本がたくさんござるぞ。でゅふふふふ」
心が揺らいだ。
「あ、抜け駆け~! 琴子ちゃん、新聞部においでにゃん」
「勉強になりましてよ。ヲホホホホ」
「・・・・・・」
「あ、佐東さんも新聞部なんだ?」
佐東が黙って櫻子と環奈の後ろに立っていたので聞いてみたが、返事は無い。
「違うにゃん、佐東さんは愛ぽんと同じ帰宅部だにゃん」
「あ、そうなんだ、ふーん」
愛の所属はCIAだかFBIだか言ってた気がしたが、それも部活でできるような物とは思えないので、恐らく勘違いだろう。
それにしても、このグループは不自然だ。
他のグループは皆、同種の生徒で形成されている。緑のようなオタク女生徒だらけのグループ、愛のような派手なグループ、環奈のようなお嬢様だらけのお上品なグループ。櫻子はかわいいし明るいし活発だし、どのグループにでも入れそうだ。
佐東は……、佐東だけは、他のどのグループにも入れそうになかった。
他の子は、今日知り合ったばかりの琴子を名前で呼んでいるのに、佐東にだけは名字で、さん付けで呼んでいる。
本人が望んでそうしているのだろうか? 等と考えていると、突然、和人が割り込んできた。
「悪いけど、琴子さんはオカルト研究会で売約済み。他を当たってくれないかな」
初耳だった。どういう事か問いただそうとしたが、それより先に櫻子が口を開く。
「なるほど、そっち繋がりって事かにゃ~」
「繋がりって言うか、総本山?」
和人がわけのわからない事を言う。
「ああぁ、三神にゃ! 名字も名前も上から読んでも下から読んでも同じって事に気を取られてましたにゃ~。しかも顔が平らっぽいので尚更気付きませんでしたにゃ。キャサリン三神さんの血縁ですにゃ? それならば是非、我が校の新聞の占い欄を担当して欲しいですにゃ!」
櫻子がサラッとひどい事を言う。
「いや、私、占いとかできないから」
気分を害しながら断ると、櫻子は意外とあっさりと引き下がり、部活へと向かった。
当然ついて行くと思っていた佐東がその場に残り、琴子に近付いてきて耳打ちする。
「呪いのやり方、知ってる?」
ハリウッド系らしく両手を広げて肩をすくめると、佐東は忌々し気な一瞥を投げ、教室を出て行った。
元より呪いの方法など知らないが、佐東が自分の知識をひけらかすための振りだと思ったのが間違いだったようだ。
そのすぐ後に、緑が琴子に近付いてきて耳打ちした。
「琴子殿、やおい穴、ご存じですかの? でゅふふ」
左手を右脇に置き、右手の親指と人差し指でVの字を作り、あごに当てる。
「もちろんだ、緑」
緑は残念そうに視線を斜め下に向け、教室を出て行った。
失敗。こちらは知識をひけらかしたかったようだ。
東京でうまくやっていけるのか、不安になる。




