ハリウッドデビュー
風邪引いて熱出して鼻水ジョージョー出てます。
もう自分でも何書いてるんだかわかんね。
でも大丈夫!
なぜなら、読んでる人など一人もいないからさ!HAHAHAHAHA!!
「琴蔵! 琴蔵!」
頬を軽くぺしぺしと叩かれ、意識が戻る。
「あ……慎ちゃん? なんか……おじさんになったねぇ」
両側から思いっきり頬を叩かれて、はっきりと目覚めた。痛い。
「あぁ、なんか、思い出したぁ。そっかぁ、そうだったんだぁ」
痛む両頬を手で押さえながら起き上がる。
「私、昔は当たり前に視えてたんだ。彼らと友達だったんだ」
慎二は黙って頷いている。
「思い出したよ、全部。それにしても……」
部屋を見渡す。
「お化け屋敷。なんでこんな事になってんの? よくこんなとこに住んでられるね」
部屋の至る所に霊が居る。
「あ、あそこにいるババア、私の首絞めたやつだ」
立ち上がり、老婆の前に立ち、殴った。グーで。
「きゃ~っ! 琴蔵、何してんのよ! やめなさい!」
「この足だけのやつも知ってる」
逃げ回る足を追いかけ、蹴りまくった。
「ごめんなさい、後でちゃんと片付けるから、やめたげて~! 最近忙しかったから、まとめて浄霊しようと思って溜めておいたのよぅ」
慎二は全ての霊を背後に庇いながら懇願している。
「すぐ。今すぐやって」
手を伸ばし、慎二の背後、天井から垂れている髪の毛を引っ張り、引きずり落とす。
「え~、でも今日はもうアタシも疲れちゃったから……」
しゃがんで、慎二の背後、畳から生えている黒い手を掴み、引っこ抜く。
「わかったわよ、もう! 琴蔵の鬼! 悪魔! 人でなし!」
「今度溜めたら、ボコるから。ボコってうちから追い出すから。こいつら」
ブツブツと文句を言いながらもお経を唱え始めた慎二をしばらく見ていたが、そのうち眠くなってきた。
二つ折りにした座布団を枕にして横になると、すぐに眠りに落ちてしまった。
「もう、アンタって子は! はしたない!」
突然、頭を叩かれて目が覚めた。
「んぁ?」
先程まで寒いくらいだった部屋がむちゃくちゃ暑くなっている。部屋の真ん中ではまだ火が燃え盛っている。
部屋の中はきれいになっていた。
時計を確認すると、2時間ほど眠っていたようだった。
目をこすりながら自分の恰好を改めて見てみると、片膝を立てて大股開きで腹を出し、しかもその腹をぼりぼりと掻いているところだった。
「だって暑いんだもん」
起き上がりながらと文句を言うと、更にぺしぺしと叩いて来る。
「アンタ、そんなパンツ丸出しで! これはもうセクハラよ、セクハラ! 訴えてやる!」
うるさいしめんどくさい。
「あぁ、じゃあすんません、私、未成年なんで、保護者に賠償請求おなしゃっす」
「ええもちろん、そうさせてもらうわよ! たっぷり搾り取ってやるから覚悟してなさい!」
「はぁ……、好きなだけ、どぞ」
「あれ?」とか「ん?」とか「もしかして保護者ってアタシ?」とか言っている慎二を横目に「シャワー浴びてきます」と部屋を出たが、すぐに慎二が後を追ってきた。
「アンタ、初心者だから、最初は冷たいお水をかぶって、それからお風呂で身体温めなさい」
どうして? と聞く間も無く、慎二はお風呂へ行ってしまった。
着替えを準備してリビングに行くと、慎二が「まだお湯溜まるのに時間かかるから」と、ソファーの自分が座っている隣をぽんぽんと叩いている。
なんとなくウザかったので、わざと正面のソファーに座った。
「さっきの事……なんだけど」
聞こうとすると、慎二が手を目の前に出して制した。
「それはお風呂から出てきてからね。ところで琴蔵、さっきから気になってたんだけど、あんた、毛糸のパンツ穿いてるのね」
「なにそれ、セクハラ?」
ちょっと軽蔑したような視線を送ってやったが、まるで意に介していないようだ。
「何言ってんのよ。女同士でたかだかパンツの話でセクハラも何も無いでしょう」
……。
慎二の目が、ギラギラと、ではなく、キラキラと輝いている。
「そこらへんで売ってると思うんっすけど、なんなら今度慎ちゃんの分も買ってきますか?」
更に慎二の目がキラキラと輝く。
「え、いや~ん、そう? でもアタシ、そんなかわいいの、似合うかしら~? でもそう? 琴蔵がそう言うなら……」
「慎ちゃんに似合いそうな、ショッキングピンクにスカル柄とか、黒地に赤いハート柄とかもあるっす。でもTバックの上から穿くとチクチクするんじゃないっすかね」
途端に絶望的な顔になる。マジでTバックなのかよ、と思ったところで湯船にお湯が溜まった事を知らせる電子音が鳴った。
しょんぼりしている慎二に「ストッキングの上から穿けばいんじゃないっすかね」とだけ言ってリビングを出てバスルームへ向かった。
ふと気付く。どこの部屋も、以前より明るく、空気が軽くなっている。バスルームに入る時も、今朝までのような恐怖感をまったく感じなかった。
まあ、いいか。と、シャワーを浴びて汗を流す。
「ぎゃ~~~~~っ!!」
突然、お湯が冷水になった。
給湯機の電源が切られている。点け直すが、すぐに切られる。
「琴蔵~、最初はお水で身体清めるのよ」
遠くから慎二の声が聞こえたが、震える指でボタンをひとつひとつ確認する。
あった。『お風呂優先』ボタン。これさえ押してしまえば、向こうからの操作は効かないはず!
「ポチっとな!」
押した途端、パシッと音を立てて電気が消えた。真っ暗闇だ。
「こ、こうなれば……湯船のお湯をかぶるだけ!」
手桶を掴み、カコン、と小気味良い音がバスルームに響いた途端、バスルームのドアが開く。
「みぎゃぁぁぁ~~~~~っ!!」
頭から大量の水をかけられた。
「ふん、小賢しい小娘が。もうお風呂入っていいわよ、ブレーカーも戻しておくから」
真っ暗闇の中、高笑いを残して、慎二は去って行った。
すぐに灯りは点いたが、琴子にはもう既に抗う気力は残っていなかった。
頭の上に乗った雑巾を、慎二が捨て去って行ったバケツに放り込む。
大人しく湯船に浸かり、温まってから体と髪を洗った。
お風呂から上がり、服を着てからその場に座り込み、長い髪をドライヤーで乾かす。
満身創痍で、四つん這いでリビングへ向かうと、途中でそんな状態の琴子をまったく無視した下着姿の慎二が現れた。
「アタシもシャワー浴びて来るわ」
跨がれた。
「うがーーーっ!」
本当にTバックだった、本当にTバックだった、本当にTバックだった、本当にTバックだった、本当にTバックだった!!
最後の気力を振り絞り、リビングにたどり着き、顎をソファの上に置いたところで力尽きた。
「琴蔵、起きなさい。アンタ、本当に寝相悪いわね」
目を開けて声のした方を見ると、ソファの背もたれの上に緑色の生首が置いてあった。
「ぎゃーーーーっ!」
「アンタ、うるさい。なんなの? さっきから」
生首が、喋った。
「うぎゃーーーーーっ!!」
「ホントうるさいわね。幽霊は平気で殴るくせに、アタシを見て悲鳴上げるって失礼じゃない?」
生首が宙に浮いた。と思ったら胴体が付いていた。
どうやらパックをした慎二がソファ越しに中腰でこちらを見ていただけだったらしい。
「もう夜中だけど、アタシ、基本夜型だし、明日からまたお仕事入ってるから、今日のうちに大体の事話しちゃうわよ」
頷いてソファに座る。
「長くなるから、飲み物持ってくるわね」
キッチンでしばらくガチャガチャと音を出し、お盆に何か色々と載せて慎二が戻って来た。
数種類のチーズとクラッカーの乗せられた皿、チョコレートが乗せられた皿、アイスペール、琥珀色の液体の入った瓶、赤い液体の入ったペットボトル、そしてグラスが、テーブルの上に置かれる。
慎二がグラスに氷を入れて、ペットボトルから赤い液体を注ぎ、琴子の前に置く。
ペットボトルにはウーロン茶と書いてあるが、明らかに中身が違う。
慎二は次に、琴子の目の前に置かれたグラスよりも背の低いグラスに、氷と、ほんの少しの琥珀色の液体を注ぐ。
瓶にはBOURBONと書いてある。
「ねえ、慎ちゃん、ぼうるぼんって何? お酒?」
慎二は眉毛を八の字にして琴子を見た。緑色のパックにちょっとしわが寄った。
「ウイスキーよ。兄さんは日本酒と焼酎しか飲まなかったわね。アンタのそれはローズヒップティー。酸っぱいけど、おいしいわよ。飲んでごらんなさい」
「ローズ……ヒップ? 薔薇のケツ茶! ぶはっ! 薔薇のケツ茶! うひゃひゃひゃひゃ」
慎二の緑色のパックにヒビが入る。
「アンタ、本当に昔から変わってないわね。いい加減肛門期から卒業しなさいよね」
「肛門、慎ちゃん、肛門て~! ケツだけに? うひゃひゃひゃひゃ、うまい事言って~」
「いや、あのね、琴蔵、肛門期って、そういう、ケツだの肛門だのうんこだのって言葉だけで大はしゃぎする時期の事だから。うまくもなんともないから。ちょっと落ち着いて」
「だって、だって、慎ちゃん、パックがしわだらけ、うはっ、うはははは」
「もう! 顔洗って来るわ!」
慎二が居なくなったリビングで深呼吸をする。
ローズヒップティーを一口飲む。確かにすっぱいが、爽やかな味だ。
わかってる。今の私はかなり変だ。
いきなり記憶が戻って、気持ちまでその頃に戻ってしまっている。落ち着かない。
目を瞑り、記憶を反芻する。
一番昔の記憶は、いくつの時だろう。暗闇の中。真夜中。目覚めると、横には母が眠っていた。反対側には父。
心細いような、寂しいような、そんな気持ちでいると、部屋の壁が光っていた。
不思議に思い、起き上がって壁の前に立ち、光をぺたぺたと触ってみた。
今にして思うと、あの光は、自分の影で遮られることも無かった。壁の中から光っていたのだ。
いつの間にか母が起きて隣に座っていて、壁に向かってお経を唱えていた。
それから何日か後、その壁に人の顔が浮かんでいた。
壁紙が、人の顔の形に膨らんでいたのだ。
日中の出来事だったので、その時は慎二が何か訳のわからない言葉を発しながら、指で宙に線を引くような仕草を何度か繰り返すと、壁紙が破れて、中から大量の水が出て来た。
ほんの少し開いた襖から、二つの目が覗いていた時。そう、首を傾げたような状態で、押し入れから誰かがこちらを覗いていたあの時。あの時も、母がお経を唱えていた。
父は……父はどうしていたのだろう。
居たはずだ。最初から、父は母の後ろで黙って手を合わせていた。
あれほどオカルトに否定的だった両親が、私が記憶を無くす以前は、普通にそれを信じていて、視えていたのだろうか。
記憶を辿るごとに、そう確信した。
深く息を吐く。
「お父さんとお母さんも、昔は視えていた。私が神隠しに遭った後から一転して否定派になった。そうだよね?」
顔を上げ、いつの間にか戻っていた慎二に問いかける。
頷いた慎二に、更に目で問いかける。どうして? と。
カラン、と音を立てながら、グラスを一気に飲み干し、慎二は語り始めた。
「琴蔵、うちの一族は……代々そういう血が流れているの。そういう家系なのよ」
言い辛そうに目を逸らす慎二に先を促す。
「家系って?」
「アタシの仕事、って言ったらわかるかしら」
「……オカマさん?」
「そう、実はね、アンタがお父さんだと思っているのはお母さんで、お母さんだと思っているのがお父さんだったの。アンタはお父さんから生まれたのよ。二人ともアンタが生まれてから性転換手術したから、わかんなかったでしょ。そしてね、琴蔵。アンタがそんなにぺったんこなのも、実は男だからなのよ。物心つく前にてぃんてぃんもたまたまもちょん切っちゃったから……」
「……ウソ? ウソでしょ? え? ちょ、マジで?」
「だから、アンタはこのままずっとぺったんこのままなのよ」
自分の胸を押さえながら叫んだ。
「ヤダ、え? だって……ウソ……ねえ、ウソだって言ってよ」
「ウソよ」
氷を掴んで投げつけた。いくつも、いくつも投げつけた。
氷を拾い、ソファや床に雑巾がけをしながら慎二が続ける。
「拝み屋の事よ。うちの一族は代々拝み屋だったの。アンタのお母さんが本家の一人っ子でね。本家って言っても、代を追うごとに血が薄まったのか、どんどん能力が無くなって行ってね。そんな時に分家の末席のような所に超天才のアタシが生まれたってわけ」
キッチンから新しい氷を持ってきて、またグラスにウイスキーを注ぐ。
「それで本家のジジイが、アタシとアンタのお母さんを結婚させようとしたのよ」
驚愕の事実だ。
「アタシとアンタのお母さん、一回り以上年離れてるしね。しかも、アタシが本家に引き取られたのって7歳の頃よ。結婚はアタシが18になってからでもいいから、男性機能が働くようになったらすぐに子作りしろって。冗談じゃないわよね。しかもアタシ、その頃にはもう既に目覚めてて、お隣の康平君が好きだったのに、初恋だったのに引き離されたのよ」
何と言っていいものかわからない。
「それでね、引き取られてからずっと泣いているアタシを心配して、兄さんが様子を見に来たのよ。そ・こ・で、アンタのお母さんに出会って、お互いに一目惚れして駆け落ち。素敵よねぇ」
「……あれ? じゃあもしかして、縁切っただけで、他にも親戚いるんだ? おじいちゃんとかおばあちゃんもいるの?」
慎二は首を横に振り、目を瞑り、大きなため息を吐く。
「本家のジジイが金に目が眩んでひっどい仕事を取って来たのよ。そのせいでみんな死んだわ。アタシはその仕事に反対して手を貸さなかったし、アンタの両親は関わってないし、縁を切って遠くにいたからなんとか見逃してもらったって感じね」
「みんな? みんなって何人くらい? どんな仕事だったの?」
「50人くらいかしらね。仕事内容は、最初はある大型商用施設を作るために工事をしてたら、女の子の霊が頻繁に目撃されるようになって、事故が多発するからお祓いをしてくれって話だったのよ。で、ジジイが無能どもを何人か引き連れてお祓いに行ったんだけど、帰ってきたら様子がおかしかったのよ。霊視してみたらビックリ。その女の子って、神様だったのよ。それに気付かずに悪霊としてお祓いしようとしたもんだからもう大変よ。だからその仕事断って、神様にお詫びしなさい、って助言したんだけど……」
慎二は顔をしかめて話を続けた。
「そこの工事する時に、そこらへん一帯の土地買い占めて、祠も壊しちゃったみたいなのよね。それを聞いたジジイ、施工主を脅して金額を吊り上げたのよ。で、そんな説明もせずに次々に刺客として無能な親族どもを送り込んで、最後はみんなこうよ」
首を切る仕草をする。
会った事も無い親族の話なので実感が湧かないが、なかなか壮絶な話だ。
「で、アタシはアンタの両親に引き取られたってわけ。それからアンタが生まれて、アンタ、アタシ以上にバカだけど、そっち方面でもアタシ以上の力持って生まれちゃったみたいでね、色々苦労したわ」
優しい目で見つめられる。
「アンタが神隠しに遭った時ね、アタシの力じゃどうしようもなくて、アンタを連れ戻すために、縁のあったイケ好かない神様の力をお借りしたんだけどね、その時に、アンタの能力を封じるように言われたのよ。それから、アタシは霊能者として多くの人を救えって。だから、アンタに影響与えて封印が解けるとマズいから、家を出たの。アンタの両親がオカルト嫌い装ってたのは、アンタにオカルトに興味を持たせないためよ。どんなきっかけで封印解けるかわからないし、解けたらまたアンタ、神隠しに遭っちゃうかもしれないから。でも結局アンタ、両親と弟ちゃんが憑いたせいで封印解けちゃったんだけどね。あ~、話し過ぎて喉乾いたわ」
ゴクゴクとウイスキーをラッパ飲みし始めた。グラスの中の氷はもう溶けきっている。
「お父さんお母さんと、奏は……成仏できてないの?」
「そぉ~んなわけないでしょ。まだ49日過ぎてないからここにいるけど、ちゃんと上に上げてあげるわよ、このアタシが! アタシを誰だと思ってんのよ。天下のキャサリンちゃんよ!」
酒が回って来たのか、顔を赤くしながら大きな声で慎二が言う。うるさい。
早く寝かせてあげたほうがいいのかもしれないが、まだ聞きたいことがいくつか残っている。
「その……縁のあった神様って、どんな外見だった?」
慎二はまたイヤそうな顔をする。
「幼稚園くらいの女の子でね、おかっぱで、いつもきれいな桜柄の着物を着てたわ」
頭の中で声が蘇る。
『こっちじゃ。お主に会いたがっている者がおる』
「実はね、うちの一族滅ぼそうとした神様なんだけど、アタシ、他に縁のある神様いなかったし、あれ以来ずっとお祀りしてた神様だからね。でもアタシ、拝み屋なんてやりたくなかったのよぅ。本当は華やかなショービジネスで生きて行きたいのよぅ」
メソメソと泣き始めた。泣き上戸だ。
しかし、見事なマッチポンプ。いや、ただの誘拐? 私を連れ去っておいて、身代金として慎二に職業を強制するとは。
泣いている慎二には気の毒だが、この事実は伏せておく事にした。
いざとなったらその性悪神様との取引材料になるかもしれないし。
それにほら、霊能者とか、そういう職業って、必要だよね。困ってる人助けてるんだから、いいよね。二足のわらじでちゃんとショービジネスもやってるんだし、いいよね。
「琴蔵、アンタ、今すっごい悪い顔で笑ってるけど、大丈夫?」
いつの間にか慎二は泣き止んでいたようだ。
「え、えっと、それで慎ちゃん、私はこれからどうすればいいの?」
「そうねぇ、それなんだけど、アンタももう分別のつく年齢になったんだから、自分の身は自分で守れるようになってほしいのよ。アタシも忙しいし、もう昔みたいにあんたに付きっきりってわけにいかないのよ。明日からタカと一緒に修業してちょうだい」
正直面倒臭い。
「ね、ねえ、慎ちゃん。もう一回封じてくれればいいんじゃないかな。そしたら万事解決!」
名案だ。自分を褒めてあげたくなるくらい。
でも、慎二は首を横に振る。
「子供のうちじゃないと封印できないのよ。10歳でもギリギリだったのよ」
「でも、でもでも、ねえ、私、まだ精神年齢10歳くらいじゃないかな? やればできるよ、慎ちゃんならできるよ、諦めないで! ファイト!」
一生懸命励ましたりしてみたが、慎二は首を縦には振らない。
「無理無理。ああ、それでね、アタシもさっきビックリしたんだけど、あんたってハリウッド系じゃない? それでね、いいものがあるのよ。ちょっと待ってて」
慎二が千鳥足で仕事部屋へ向かった。
ハリウッド系……言われてイヤな気はしない。慎二ほど彫りは深くないが、美人、という意味だろう。いやぁ、私ってそう? そうかなぁ、それほどでもぉ~、いや、でもそう? そうなのかも。地味顔だって言われた事はあるけれど、見る人が見ればわかるのだ、きっと。そんな事を考えて顔がほころぶ。
「これこれ。これ、アンタにあげるわ」
ニヤニヤしていると、膝の上に、緑に錆びついた何かを置かれた。
「……何これ。今これがハリウッド女優の間で大流行なの? アクセサリーにしてはでかいし汚いし重いし。なんでハリウッド系の私がこんな物持たなきゃならないの? そういう映画ってこと? そういう映画ってどういう映画? ファンタジー系? でもこれって土偶とかハニワとかと一緒に埋まってるやつっぽいよね。出土品? みすぼらしくね? 監督誰よ? ここに呼べ。ちょっと文句言ってやるわ」
「何言ってんのアンタ。意味わからないわ。それはね、三神家に代々伝わるありがたい銅剣よ。錆びてボロボロだから刃物としては使えないけど、霊験あらたかなのよ。アンタさっき幽霊に直接触れてたじゃない。日本のホラー映画と違って、ハリウッドのホラー映画って幽霊と肉弾戦したりするじゃない。真っ向から立ち向かって戦って、圧倒的な筋力や、家族の絆とか愛とか、そんなので勝利を掴み取っていくパターン。アンタはそのタイプだから、その銅剣使いなさい」
「……どんなB級映画だよ。今、私の中の全米が泣いてるわ。大号泣だわ」
銅剣を手に取り、表から裏からまじまじと観察してみる。……ボロい。大きさは果物ナイフくらい。どう見ても、鈍器としての殺傷能力も無さそうだ。
「でもね、それはなるべく使わないようにして欲しいのよ」
使えと言ったりなるべく使うなと言ったり、どうしろというのだ。
「これはアタシの主義なんだけど、アタシは生きてる人だけじゃなく、幽霊になってしまった人も助けたいの。だから、ちゃんと話をして、この世に未練があるならそれを解決してあげて、成仏させてあげたいの。ちゃんと輪廻の輪に乗せて、転生させてあげたいのよ。その剣はね、魂を消滅させてしまうものなの。だから、使うのはアンタが危ない時だけにしてちょうだい。今から自分の身を守る方法とか、霊と対話する方法を教えるから」
今から――――もう既に夜中の2時を回っている。酔っ払いだからすぐに寝るだろうと思っていたが、夜型人間を侮っていたようだ。
その後、慎二の仕事部屋で朝日が昇るまで色々とやらされた。
座禅を組んで精神統一を強要され、居眠りをしたら額に「肉」と書かれた上に棒で背中を叩かれた。
読めもしないお経を何度も読まされ、飽きてきたので途中でラップ調にしてみたら、目の前で見事なブレイクダンスを披露された。
鼻から息を吸えだの、口から息を吐けだの、「宇宙のぱぅわぁ~を吸い込むように」だの、わけのわからない事で怒られ、印の結び方とやらを教わってる最中に手がつって、代わりに早九字とやらを教わっている最中に気を失った。
今日も今日とてにゃ~に乗られています。
にゃ~。




