再会
あと1話!
その後2カ月の間に、芸能人や政治家のスキャンダルが相次ぎ、マスコミもすっかり雨ヶ丘高校に関心が無くなった頃、僕はやっと退院することができた。
琴子さんにはまだ会えていなかったが、どうやら琴子さんも、同日の、僕よりもほんの数時間前に退院したという事だ。
母はそれを運命的だとかロマンティックだとか言っているが、恐らく父か三神さんか、もしくはその双方が、マスコミのバカ騒ぎが収まるまで、カネかコネでも使って入院期間を延ばしていたのだろう。
僕はもうとっくに元通り元気になっていたし、火傷跡のほうも手術が終わり、傷跡はわかるけれども、生々しくは感じない程度にはなっていた。
暇さえあれば体を鍛えていたので、以前よりも逞しくなったくらいだ。
家に戻り、夕食の時間になると、家族会議が開かれた。
テーブルの上には母が張り切って作った、僕の好物ばかりが並べられている。
退院祝いのパーティー、兼、家族会議だ。
議題は、今後の僕の学生生活の事について。
家族でどこか遠くに引っ越し、そこで新しい生活を始めるか、それとも雨が丘高校に残るか。
全ては僕次第だと言う。
どちらにしても単位が足りないので、もう一度2年生をやらなければいけない。
僕は別にどちらでも良かったが、琴子さんは残るようだと聞いて、僕も残る事にした。
ただ、生徒のほとんどは転校してしまい、理事長も辞任し、息子に経営を任せたそうだ。
その結果、来春からはインターナショナルスクールになるという。
現在新校舎も建設中で、その場所がなんと、古森医院跡地だというのはものすごい皮肉だ。
何もかも一新して、悪いイメージを払拭しなければならないのだろうが。
それから数日後、僕はやっと琴子さんに会う事ができた。
あれが琴子さんだと言っていいものならば、だが。
その日、母は朝からソワソワしていた。
いつの間にか僕のために買ってきたスーツと、大きなバラの花束を手に、「もう、間違いなく琴子ちゃんがあんたの運命の相手なのよ! さっさとプロポーズして捕まえておきなさい!」と。
仕方なくスーツに袖を通し、恥ずかしい思いをしながら琴子さんのマンションを訪ねた。
いや、正直に言うと、久々に琴子さんに会えるという事で、僕もかなり舞い上がってその気になっていた。
玄関を開けて出迎えてくれた三神さんは、僕の姿を見て、笑うでも無く、気まずそうに目を逸らした。
そしてやっと会えた琴子さんの最初の一言が、こうだ。
「おう、カズ。どうしたんだ? その顔。随分と男前になったじゃねえか」
僕は緊張していた事もあり、その口調は気にせずに、それよりも彼女の眼帯が気になって、目をどうかしたのかと質問した。
彼女はニヤニヤ笑いながら、「封印だ」と言う。
「お前になら特別に見せてやるよ。どうだ? かっこいいだろう」
眼帯を外した彼女の瞳は、深紅だった。
カラーコンタクトなのかと思ったら、義眼だと言う。
わざわざ無理を言って深紅で作ってもらった、と。
その中二臭さで、やっと気付いたのだ。
これは琴子さんでは無く、タカだ。
僕は動揺しまくり、泣き叫びながらあちこちの部屋のドアを開け、琴子さんを探し回った。シューズクローゼットも、食器棚も、机の引き出しも開けて探しているところを、三神さんに取り押さえられた。
三神さんの話によると、琴子さんは今、主導権をタカの魂に渡した状態で、身体の中で深く眠っているという事だった。
タカも早く成仏したがっているという事もあり、タカの魂を身体から切り離そうとしてみたが、タカの魂はしっかりと琴子さんの身体と結ばれていて、切り離すことはできなかった。そして、琴子さんの魂も、三神さんの問いかけにもまったく答える事が無い、と。
僕にはよくわからない。
これが彼女の望んだ結末なのだろうか。
愛する人と共に居たい、生涯を共にしたい、と言うのは、こういう事では無いはずだ。
「あぁ、カズ、心配しなくてもいいぞ。風呂に入ったりもしてるが、筋肉とち〇こが無いってだけで、男の体と変わりないからな。こいつに変な気持ちになる事は無いから」
思わずバラの花束を投げつけて、この無神経な親友と、親友でいる事を辞めるべきか、本気で考えた。
どちらにしても、僕にできる事と言えば、ずっと彼女の側にいて、彼女の復活を信じて待ち続ける事だけなのだろう。
そう、間違い無く、僕にとっては彼女こそが、僕の運命の相手なのだから。




