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もしも運命の人に出会えたら  作者: 柳瀬光輝
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部活動

ふふふ、今日はにゃーが膝の上にいないんだぜ!

「じゃあ琴子さん、オカ研、案内するよ。ついて来て」

 とても気が進まなかったので、椅子の背もたれにダラッともたれかかり「ぼぇ~」と言ってみた。

「ダメだよ。三神さんの命令だからね。琴子さんにはオカ研に所属してもらうから。ほら、立って立って」

 いつの間にそんな密約が交わされていたのか。

 和人に半ば引きずられるようにして校舎の一階の端の部屋に連れて来られた。

 倉庫として使われている場所らしく、壁際に段ボールが大量に積み上げられている。

 奥にはドアがもう一つ。準備室的な何かだったのだろう。

 手前には細長い会議テーブルが四脚と、折りたたみ椅子が左右に四脚ずつ。

 奥のお誕生日席の一脚。

 そのお誕生日席には、貴史が偉そうにふんぞり返ってラノベを読んでいた。

 琴子が「お邪魔しま~す」と声をかけると、チラリとこちらを見ただけで何も言わずにまたラノベに目を落とす。

 奥の部屋も確認してみたが、貴史と和人以外の人間はいない。

「ねえ、ほかの部員の人はまだ来てないの?」

 琴子の疑問に、和人が答える。

「会員、ね。人数が足りなくて部としては認められていないんだ。他に会員はいないよ。入れるつもりも無いから。わからないことがあったら何でも聞いて」

 和人が差し出した入会届にイヤイヤ名前を書きながら、世間話程度にどうでもいい事を質問する。

「部じゃないのにこんな部屋割り当てられてるの?」

「まあ、三神さんの口利きでね」

「部費出ないんだよね?」

「三神さんが寄付してくれるから、他のどんな部よりも資金は潤沢だね」

「過干渉?」

「いや、僕らが手に負えないような事は全部三神さんとこ紹介してるから、ギブアンドテイクかな」

 ……営業活動の一環だった。

 しかし、手に負えないような事、とは。そもそも、――――オカ研って何するの?

 重要なことを知りもせずに署名してしまった入部届は、既に和人の手の中にある。

 いざとなったら首の後ろを手刀でトン、とやって気を失わせて、アレを奪えば……。

 いや、首トンではどんな達人でも実際は気を失わせる事などできないと聞いたことがある。

 もしかすると達人以上に修行すれば習得する事もできるのかもしれない。だが今はその時間が無い。

 先日、和人を血の海に沈めた時に見切った。和人の弱点は、あの細いアゴだ。

 横から顎に強い力を加える事によって脳を揺らし、脳震盪を誘発すればいい。

 そんな事を考えながら、実行する前に、和人の顎を凝視しながら一応確認する。

「てか、オカ研って何するところなの? 魔方陣描いてなんか呼び出したり? 廃墟凸とか? 占いとかだったら興味あるんだけど、他のはちょっとねぇ」

「基本は心霊相談だよ。まあ、滅多に相談者なんて来ないけどね。相談者は教師が80%くらいかな。家を買うとか、建てるとか、引っ越す時なんかにも家相や方位を見てほしいとかね。結婚相手との相性を見てほしいなんてのもあるね」

 それは心霊相談と言うよりは、占い寄りの事だろう。

 結構興味があったので、和人の顎から視線を外した。


 タイミング良く、ドアがノックされる。

 そろそろとドアが開き、リボンの色が違う、おそらく新一年生と思われるかわいい女の子達が数名、顔を出す。

「あのぉ~、すみません、ここ、オカ研の部室ですよね?」

「そうですよ。ご相談ですか?」

 和人がにこやかに対応する。

 貴史は女の子を一瞥しただけでまたラノベに目を落とした。

 琴子はなんとなくぺこりと頭を下げる。

「あの、私達、こないだコックリさんやったんですけど、それからなんか変な事ばかり起きるので、視てほしくて」

「あ~、コックリさんかぁ」

 和人が貴史をチラ見すると、貴史はやる気なさげに「カズ、よろしく」と言った後で大あくびをした。

「じゃあ話聞くので、中に入って、適当に座ってください」

 和人が会議机の琴子の座っている側を指したので、琴子は席を立ち、反対側の、和人が座っていた椅子の隣に移動した。

「おじゃまします」

 女の子がおずおずと部室に入って来る。


 3人目、最後の一人を見て、琴子は、今まさに座ろうとしていたパイプ椅子から転げ落ち、M字開脚になった。

 最後に入って来た子の腰に、男がしがみついている。

 両腕でガッシリと女の子の腰にしがみつき、下半身は力が入っておらず、足の裏を上に向けて、ズルズルと女の子に引きずられている。

 貴史は慌てて立ち上がり、和人は何故か赤くなって琴子から目を逸らした。

「あの、センパイ、大丈夫ですか? パンツ丸見えですよ」

 女の子が心配そうに琴子に駆け寄って来る。男を引きずったままで。

 琴子は尻餅をついたまま、高速で後ずさる。

 琴子と女の子の間に、貴史が割って入った。

 チラリと琴子を振り返り、「ふむ。白か。大変よろしい」とつぶやいた後で、テキパキと指示を出す。

「カズ、その二人お説教。キミは一緒にこっち来て」

 女の子を連れて隣の準備室の扉を開ける。

 思い出したように琴子を振り返り、また一言。

「お前もこっち来るか?」と。

 琴子がふるふると首を横に振ると、小馬鹿にしたようにニヤリと笑ってドアを閉めた。

 気を取り直し、立ち上がって和人の隣に座りなおす。

「君達、高校生にもなってコックリさんなんて……それは降霊術……だから……それで……」


 肩を揺さぶられて気が付いた。

 和人の話があまりにも長かったので寝てしまっていたようだ。

 そっと差し出されたティッシュで、口元と机に垂れてしまったよだれを拭く。

 そうこうしている間に、貴史と女の子が出て来た。

 女の子は泣きながら貴史にお礼を言っているが、もう男を引きずってはいなかった。

 思わず拍手すると、貴史は、ニヤリと笑う。

 彼女達が何度もお礼を言いながら部室を出た後、和人と琴子は同時に口を開いた。

「琴子さんも何か視えたの? どんなだった? 視えてないの僕だけかぁ。僕も視てみたいなぁ」

「タカ、あれって何? コックリさんやって憑いちゃったの? 怖っ!」

 二人が興奮してごちゃごちゃと喋っているのを手で制し、貴史は二人に対して説明を始める。

「コックリさんは関係ない。あれはあの子がどっかから拾ってきた色情霊。よく視えなかったけど、多分結構歳いったオヤジ。そもそもコックリさんやったって、霊が降りて来る事なんて滅多に無いからな」

 そうなのかぁ、と感心しながら「私、コックリさんってやった事無いからなぁ」と言うと、貴史が得意気に「本物の降霊術ってやつを見せてやるよ」と、引出しからA4用紙を取り出し、いろはにほへと、と五十音、紙を取り巻くように記入し、数字、はい、いいえ、真ん中に鳥居のマークを書き込んでいく。

 窓を開け、「本当は割り箸やお猪口のほうがいいんだが、今日は略式でな」と、財布から10円玉を取り出し、紙の上に置く。

 二人が10円玉に右手の人差指を軽く乗せ、琴子の方を見るので、琴子も恐る恐る二人に倣って指を置いてみた。

「コックリさんコックリさん、おいでになりましたら、『はい』へお進み下さい」

 3度繰り返すと、10円玉が動き出す。

「うわ、すごい! 本当に動いた!」

 琴子の目の前で、10円玉が軽やかに動く。

『はい』を示してから、ひらがなの方へ。

『は、゛、か、お、ん、な』

 ……ばかおんな……バカ女?!

 目を丸くしていると隣で貴史が「ぷくくっ」と吹き出す。

 こいつの仕業だ。

 琴子は指先に力を入れ、10円玉を動かした。

『ち、ゆ、う、に、ひ、゛、よ、う』

 貴史の顔から笑みが消え、また10円玉が動き出す。

『た、い、ら、む、ね』

 負けずに琴子も動かす。

『む、つ、つ、り、す、け、へ、゛』

「ちょっと、二人ともいい加減に」

 和人が仲裁に入るが、琴子はそれを無視して、10円玉を動かされないように、力いっぱい押さえつける。

「ふぐぐぐぐ」

「くそっ、このバカ女」

 琴子が力を緩めると、10円玉はポーンと、窓の外に飛んで行った。

「俺様が本物の降霊術を見せてくださるんじゃなかったのかしら?」

 じろりと貴史を睨むと、貴史は何事も無かったように「さて、コックリさんも自力でお帰りになった事だし、今日はもう相談者も来ないだろう。慎二さんの所に行くか」と席を立つ。

 和人は「まったくもう」と笑っていた。


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