第二十四話 仕様変更への即時対応(ホットフィックス)と遠隔出力(リモート・アクセス)
三日間にわたる倉庫街の深夜巡回業務は、これ以上ないほど順調に終了した。
初日のデバッグ作業が功を奏し、二日目以降の害獣反応は劇的に減少。俺は『気配察知』の範囲を広げ、周辺の不審者ログ(足跡)を精査しながら、空いた時間でアイテムボックス内の在庫管理に勤しんでいた。
「……お疲れさん、ケンジ。アンタのおかげで、この三日間は損失がゼロだ。ギルドには『最高評価(Sランク)』で報告しておいたぜ」
現場責任者の男から、約束の報酬に上乗せされた銀貨の袋を受け取る。
その報告が効いたのか、ギルドに戻ると受付の女性が驚愕の表情で迎えてくれた。
「一件の依頼でこれだけの成果を出すなんて……! ケンジさん、特例ですがランクを『E』に引き上げさせていただきますね」
異例のスピード昇進。だが、俺にとってはただの「アクセス権限の拡張」に過ぎない。
俺は昇格の祝いを述べる受付の声を背に、すぐさま目的の『討伐系案件(高額報酬タスク)』へとシフトした。
新規案件:物理耐性モンスターの検出
選んだのは、街の外れにある廃鉱山に巣食う「幽霊」の群れの排除。
報酬はこれまでの比ではなく、魔石の獲得効率も高い。
俺は即座に現場へ直行し、薄暗い坑道へと足を踏み入れた。
「……出たな。物理レイヤーの干渉が効かないタイプか」
目の前に現れたのは、半透明の霧のような身体を持つ魔物。
俺は試しに、愛用のタクティカル・メイスをフルスイングで叩き込んだ。レベル35の膂力なら、大岩でも粉砕する一撃だ。
だが、メイスは手応えなくレイスの身体を通り抜けた。
【対象:シャドウ・レイス】
【特性:物理攻撃無効】
「……チッ。読み取り専用のファイルに書き込もうとしてエラーが出た気分だ」
物理攻撃が効かないわけではないが、効率が極端に悪い。
メイスに微量の魔力を纏わせることはできるが、今の俺のスペックでは「力技のハッキング」のようなもので、リソースの無駄遣いだ。
今後、亜空間宿を建てるために効率よく魔石を稼ぐなら、物理一辺倒のビルドでは限界がある。
システム拡張:『風属性魔法』の適用
俺は一旦、レイスの感知範囲外まで後退し、岩影で通販スキルのカタログを展開した。
「物理がダメなら、属性攻撃の実装だ。……火は酸素を食うし、水は湿気で装備が傷む。土は重い」
消去法で選んだのは、最も「不可視」で「高速」な属性。
俺はiPad miniを操作するような手慣れた動作で、目的のアイテムをポチった。
• 【スキルオーブ:風魔法・初級〜中級セット】
• コスト:800魔石
• 内容: 『風刃』『突風』『大気探査』を習得。
手の中に現れた緑色のオーブを砕くと、知識が脳内のデータベースに直接ダウンロードされていく。
「……なるほど。魔法とは『魔力という信号』を『現象という出力』に変換するプロセスか。概念さえ掴めば、MOSの関数を組むより簡単だ」
実証テスト:不可視の処刑
俺は再び坑道へ戻り、浮遊するレイスたちと対峙した。
指先を向け、脳内でコマンドを叩く。
「――『ウィンド・カッター(圧縮出力)』」
シュンッ!
放たれた不可視の刃は、Wi-Fi 6の高速通信のごとき速度で空間を切り裂き、レイスの核を正確に一刀両断した。
物理攻撃を透過させていた半透明の身体が、絶叫と共に霧散し、床にコロンと魔石だけが転がる。
「……いいレスポンスだ。遠隔から一方的に処理できるのは、警備的にも安全性が高い」
風魔法は俺の『気配察知』とも相性がいい。
レーダーで捉えた座標に、そのまま風の刃を「送信」するだけで、視界外の敵すらデリートできる。
俺は薄暗い坑道の奥を見据え、ニヤリと口角を上げた。
「さて、残りのバグ(魔物)を一掃して、さっさと『亜空間宿』の建築資金を貯めさせてもらうぜ」
35歳のオッサン。
物理と遠隔魔法(風)のハイブリッド仕様へとアップデートを完了。
彼の「高効率・魔石収集ロード」が、静かな風の音と共に加速し始めた。




