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絶海の無人島に転移したけど、ステータスが「通販」スキルしかなかった件 ~女に貢ぐより魔石を稼いでレベルを上げろ~  作者: ナマ


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プロローグ:二つのレベルと、残高ゼロの絶望

俺の名前は高木賢治たかぎ・けんじ、35歳。職業は警備員。

 日々の業務で培った「周囲の異変を察知する能力」と「リスク管理能力」だけは、同年代のサラリーマンよりは高い自信がある。

 だが、そんな俺でも、とあるリスクだけは防ぐことができなかった。


 それは、女だ。


 二十代の頃、俺は典型的な「貢ぎ体質」だった。惚れた女に請われれば、生活費を削ってまでブランドバッグを買い、消費者金融に駆け込んでまで旅行代を捻出した。


 結果として残ったのは、空っぽの預金通帳と、別の男の車に乗り込んでいく彼女(だった女)の冷ややかな背中だけ。

 それ以来、俺は特定の女性と深い関係になることを放棄した。

 

 もちろん男としての性欲はある。だからこそ、俺は「プロ」で遊ぶことにしている。

 一対一で遊び、明朗会計な料金体型で彼女たちは完璧な安らぎを提供してくれる。そこにはドロドロとした裏切りも、将来への不安も介在しない。

 週に一度、自分へのご褒美として風俗へ通い、残りの時間は趣味の読書と自宅のネットワーク環境を最適化することに費やす。そんな、誰にも邪魔されない生活が、俺にとっての完成形だった。


 そのはずだった。


 ある日、俺は馴染みの店で極上のサービスを受け、足取りも軽く帰路についていた。

 いつも通り、裏路地のショートカットを通ろうとした瞬間——視界がぐにゃりと歪んだ。

 

 平衡感覚を失い、俺は地面に膝をつく。

 硬いアスファルトの感触を予想していたが、手のひらに伝わってきたのは、湿った土と、むせ返るような草木の匂いだった。


「……え?」


 顔を上げると、そこには見渡す限りの原生林が広がっていた。

 頭上には、東京の空では絶対に見ることのできない、禍々しいほど大きな二つの月が浮かんでいる。


「これって……まさか」


 WEB小説を読み漁るのが趣味の俺にとって、この状況は既視感しかなかった。

 異世界転移。

 心臓が早鐘を打つ。35歳、独身。日本での生活に未練はない。もし、ここで物語の主人公のような「チート能力」が手に入るのなら、これほど面白いことはない。

 俺は震える声で、その「起動ワード」を口にした。


「ステータス、オープン!」


 刹那、目の前に鮮やかな光が収束し、半透明のウィンドウが現れた。

 その画面は、俺が愛用している8インチのタブレット端末のように精細で、洗練されたインターフェースをしていた。


「……きたッ! 本当にきたぞ!」


 俺は興奮を抑えきれず、表示された文字を食い入るように見つめた。


====================

【名前】 高木 賢治

【現在地】 絶海の名もなき無人島

【レベル】 1

【固有スキル】

・通販:Lv.1

====================


「……ん?」


 まず、とても不穏な文字列に目が行った。


『絶海の名もなき無人島』


 どう見ても、始まりの街や王城ではない。俺は転移直後から、極限のサバイバルを強いられているらしい。警備員としてのリスクマネジメント脳が、警報を鳴らし始める。

 そして、ステータスの項目だ。

 HPやMP、攻撃力や守備力といった数値が一切存在しない。

 あるのは、「レベル」と「スキルのレベル」という、二つの階梯だけ。

 俺は画面に触れて、その詳細を確認した。


【レベル(Global Level)】

個体の生命強度を示す。レベルが上がるごとに筋力、敏捷、耐久力といった肉体スペックが底上げされる。


【通販(Skill Level)】

異世界の物品、あるいは現代日本の物資を購入できる。スキルレベルが上がるごとに「カタログ」が拡張され、購入可能な品目が増える。


「なるほど……。レベルを上げれば超人になれるし、スキルのレベルを上げれば、より強力なアイテムをポチれるようになるってわけか」


 一見、非の打ち所がない最強のセットアップだ。

 現代日本の物資が手に入るなら、無人島なんてただのキャンプ場にすぎない。

 俺はすぐさま、空中に浮かぶ『通販:Lv.1』の項目をタップした。

 画面が切り替わり、見慣れた大手ショッピングサイトのような商品リストが表示される。

 

・500mlの天然水

・保存食(パン缶)

・使い捨てライター

・サバイバルナイフ

・粗末な木の棒


「よし、まずは水と火だ。それから護身用のナイフを——」


 俺は「サバイバルナイフ」を選択し、『購入ボタン』を押そうとした。

 だが、その指は空を切った。

 ボタンがグレーアウトしており、その横には赤字で警告が表示されていたのだ。


【購入条件:魔石×5 が不足しています】


「……魔石?」


 円でも、ポイントでもない。

 画面の右上、財布のアイコンの横には、冷酷なまでに『0』という数字が刻まれている。

 俺は必死に画面をスクロールし、ヘルプ項目を探し当てた。


【支払いについて】

本スキルでの決済は、すべて「魔石(魔物の体内から抽出されるエネルギー結晶)」で行われます。


「……ふざけんな」

 膝の力が抜け、俺はその場にへたり込んだ。

 警備員として、最悪の事態を想定するのは常だが、これはその斜め上を行く「詰み」の状況だ。

 レベルを上げれば肉体は強くなるが、今はレベル1。

 スキルを使えば強力な武器が買えるが、そのためには魔石がいる。

 魔石を手に入れるには、魔物を倒さなければならない。

 武器もない、レベル1の、ただの35歳男が。


「結局……これかよ」


 俺の脳裏に、かつて俺の金を目当てに寄ってきた女たちの顔がよぎる。

 甘い言葉をささやき、期待を持たせ、財布が空になった瞬間にポイ捨てする。

 この『ステータス』というシステムも、本質はあの女たちと同じだった。

 最強の夢を見せておきながら、現実は「まずは金(魔石)を持ってこい」という冷酷な要求。


「どいつもこいつも、俺をATMとしか思ってねえ……!」


 絶望が怒りに変わった、その時だ。

 ガサリ、と。

 背後の茂みが、重々しく揺れた。

 

 深夜の警備巡回で、不審者を見つけた時のような冷たい汗が背筋を伝う。

 ゆっくりと振り返ると、そこには体長2メートルを超える、巨大な狼のような獣がいた。

 その目は、獲物を品定めするようにギラついた光を放っている。


「グルルルル……」


 獣のよだれが、地面の枯れ葉を濡らす。

 俺には武器もなければ、魔法もない。あるのは、一円も引き出せない残高ゼロの『通販』画面だけ。


「ハハ……笑わせるぜ」


 俺は、無意識に地面に落ちていた「尖った石」を拾い上げた。

 

 女に騙され、社会に使い潰され、異世界のシステムにまでハシゴを外された。

 だが、ここで食われて終わるほど、俺の人生は安くない。

 

 魔石がなきゃ買えない?

 だったら、奪い取ってやるよ。

 

 女も、ステータスも、他人は信じない。

 俺が信じるのは、自分の力で手に入れた「魔石」と、それによって拡張される「カタログ」だけだ。


「来いよ、駄犬。お前が俺の……最初の『商品代金』だ」


 35歳、女不信の警備員。

 魔石ゼロからの、血生臭い「通販サバイバル」がここから始まった。

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