その後の話を、少しだけ
結局、倒壊してから瓦礫を撤去したんじゃ体裁が悪いってことで、猫神しらたまにはもうちょっとだけ家を支えてもらって、翌日に熊吉親分の息がかかった解体業者が駆けつけて、解体作業を開始した。
森町の業者は思いっきり面子を潰されたかっこうだけど、こればっかりは仕方ないね。
彼らがオバケ屋敷にびびって作業を進められなかったのは事実だし。
とはいえ田舎ってのはコネ社会で、よそから業者を呼んで工事を進めた才原を面白く思わない人も当然いたんだ。
でも、それに関しても熊吉親分と奇琉々が力を貸してくれたよ。
森町に住んでるあやかしたち、ボルケーノを利用しているあやかしたちに働きかけて、口うるさい人間ども黙らせてくれたんだってさ。
どんな工作がおこなわれたのか、ちょっと怖くて訊けないよね。
「でもさ、所長。なんでみんなここまで協力的だったんだろ?」
デスクの上のウシぬいをぐにぐにしながら、丹籐寺に訊ねてみる。
べつに普段から非協力的な人たちではまったくないんだけど、今回はとくに協力的だった気がする。
頼んでもいないのに押しかけて力を貸す感じ。
しかも見返りを要求しないで。
あやかしのあり方としてどうなんだってレベルだよね。
「そりゃあ、新しい神様の誕生だからな。顔と名前を憶えてもらおうって必死になるさ」
商魂たくましいのは人間だけじゃないさと丹籐寺が笑う。
今はまだ神様見習いってポジションの猫神しらたまだけど、遅くとも百年のうちには独り立ちした神様になるんだってさ。
そのとき、修業時代に世話になった人間やあやかしには莫大な恩恵がある。
神の眷属にしてもらえるかも、というまであるそうだ。
「先行投資ってわけね。みんなたくましいなぁ」
思わず笑ってしまう。
たしかに、人間もあやかしも変わらない。
丹籐寺の言うとおりだ。
「ついでに、俺たちにも報酬があった」
「そうなの?」
才原からお金が入ってくるわけでもなく、今回の件は完全に手弁当だと思っていたから、報酬が出るのはありがたいね。
いやまあ私は普通に月給制なんだけどさ。
「六億二千二百七十万円」
「ふぁっつ!?」
思わずあやしい英語で聞き返しちゃったよ。
なにその頭おかしい金額、そして微妙に中途半端な感じは。
「日本の人口にご縁をかけたものだそうだ。新しい神様が生まれることは、国民全体に恩恵があるからな」
わけがわからなすぎる。
あと、ご縁がありますようにって、神様が語呂合わせを使うのはどうかと思うんですよ。
「さすがにそんな大金は受け取れないって断ったけどな」
「だよね」
函館駅前探偵事務所は零細企業なんだよ。
六億なんて大金が入ってきちゃったら、税務署に目をつけられちゃう。
あと、そんな大金の管理したくない。
「そしたら沖縄旅行になった。ペア七泊八日」
今回の骨折りに関しての慰労って意味らしいよ。
神様のチョイスって謎だよね。
「婚前旅行してこいってことかあぁ」
「こんでんりょこん!?」
そして真っ赤になって舌をもつれさせる丹籐寺。
いつも通りである。
さすがに同室ってことはないと思うよ。
「ていうかさ、僕は数に入ってないのかい? それ」
ちょっとだけ不満そうな紫である。
でも紫を置いていくって選択肢はない。
護衛だもの。
「ウシぬいモードでいけってことでしょ」
「ついに神様からの扱いもコレになったかぁ」
牛鬼は濡れ女でありウシぬいである。
謎の属性が認められたわけだ。
もし万が一、牛鬼がなにかの作品で描かれることがあったら、ウシぬいの姿も登場するかもね。
「というわけで、来週は事務所を閉めて旅行だ。そのつもりで左院くんも準備してくれ」
「わかった。超エッチな水着を買っておくよ」
「ばっ!? なにいって!?」
一瞬だけ正気に戻った丹籐寺をふたたび沈めておく。
超エッチなのはともかくとして、それなりに色っぽいものは用意しておこう。
男と女ですもの。
何があるか判らないからね。
「それにしても沖縄かあ、わくわくだよね。怪奇事件から離れて羽を伸ばそう」
「立った立った。フラグが立った」
ウシぬいがはやし立てる。
判ってないなぁ、わざと立ててるの。
普通に旅行するだけじゃつまらないでしょ。
私たちは、あやかし探偵なんだから。
「どんとこいでしょ」
そういって、私はぱちんとウインクした。
第1部 おわり
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