Ⅶ章 名もない御伽噺
三十二話 旧伊勢街道・旧中山道越え 誰かさんの紡ぐ物語
「…は?」
すっとんきょうな声が出る。今こいつ、なんつった?
Numner.81だと?ということはつまり…
「…舞さん?」
俺は目を開ける。自分の体を凝視する。拳銃の弾で抉ったあとらしき傷はなかった。だとすると…
「わりい。遅くなったな」
Number.81―――もとい葉月舞さんは俺―――いや。
僕──Number.2に向かってウインクする。…ウインクするなんて、この人も変わったな。
「…相変わらず、無鉄砲ですね。」
「それが王牙と私の長所なんでね」
舞さんは敵に拳を叩き込む。愉しそうだなあの人…こういうところは変わってるはずないか…少し期待した僕を呪う。
「あ…悪魔!」
敵が叫ぶ。…ははは、舞さん、死神じゃなくなって良かったですね
「死神も悪魔も同じだぞ、疾風」
「…貴方、死神でも悪魔でもなく、サトリ妖怪なのでは…」
マジでサトリだろこの先輩君
「お前…ほんっと王牙に似てるよな。」
「それなら光栄です」
「…マジで似てるなお前ら…」
舞さんは嘆息する。…そんなに似てるか?僕ら。王牙さんと同じにされるとなんか照れるなあ…深雪さん?どうしてそんなに驚いてるんだい?そういやこの人どうしてここがわかったんだ?
「細かい話は後ででいいか?」
手刀を敵の首筋に叩き込みながら舞さんが言う。
「戦場での軽口は死を…ッ!?」
何かを言った男の鳩尾に右手をぶち込む。…まじで殺し屋だな…つよッ。
「悪いな。こんなんじゃ戦場じゃあねえんだよ。」
拳をひっこめる。ぶち込まれた男はその場で倒れる。残りの敵は舞さんの強さに怯えてすくみあがっている
「…もう終わりか…失せろ」
舞さんが静かに言い放つ。残りの敵は悲鳴をあげながら逃げていった。…いやはやさすがである。拍手をする。
「…生意気な後輩君だ。そうだ、お前も気絶させてやるよ」
「そんな笑顔で言われても…何する気ですか?!」
「大丈夫だ、優しくしてやるよ」
マジで何する気だこの人。死ぬ未来しか見えない。
「…なん、で、貴方が…?」
今まで地に寝ていた深雪が起きて舞さんに問う。…舞さん、その話、僕も気になるんですが?
「…説明してもらいましょうかあ…舞さん。王牙さん」
『なんで僕が通話越しに聞いてるのがバレたし!』
通話越しに叫ぶ王牙さんバレバレですよ王牙さん?そんなに怖がらなくても…痛くはしませんよ?
「さあ白状してもらいましょう…」
『僕なんかしたッ?!』
「冗句ですよ」
『…怖い。僕の部下が怖い!』
怯えたように言う王牙さん。アハハ、怖くありませんよ愛しの王牙さん。僕は飛び切りの笑顔をする
「…怖すぎるだろお前」
心を読むあなたも充分怖いですって
「…あの…私、どうなるんですか…」
中学生のような幼い声が聞こえる。…深雪。君もはや空気じゃん
「ああ、Numberで働いてもらうよ。もう一度。そして、何度でも」
僕は振り返らずそう告げる。この答え以外ないのに…なぜ聞いたんだろう。
「…はあ、話すからしっかり聞けよ?」
そう言って舞さんは話し始めた。
「諏訪遠征って…それ僕が諏訪に着くまでに攻められてるのでは?」
「…私は車で来た。それでお前に諏訪に行ってもらう。深雪にもだ。」
この人…ほんとにいい性格してるよな。つくづく思うがこの人も王牙さんに似てるよな
『…舞も疾風が心配なだk』
ブツッと通話を切る音。…容赦ねえなこの人…
「…心配してくれたんですね」
僕は嬉しかった。この人は、感情は読めないものの、自分の心に真っすぐな人だ。…なんか殴られそう…けんかっぱやいからなあこの人。少し怖い。それとぷるるるるとなっている着信音も怖い。
「ま…まあ、な…」
舞さんは照れくさそうに頬をかく。…変わってねえな。この人も。僕も。
「そういや皆元気ですか?」
僕はふとそう思った。舞さんは一転いつもの調子に戻る。…ポーカーフェイス上手い人だよな…でも
「あれれ、いつもの調子に戻ったんですね…僕はさっきの舞さんのほうがs」
「それ以上言ったら殺す。」
もいっかいからかおうと思ったらナイフを首に突き付けられる。…舞さん、顔赤いですよ?え?うるさいって?かわいいですよ?
「…お前、ほんと、無礼過ぎないか?」
舞さんはナイフをひっこめる。怖かった…
安堵感におぼれて息をつく。
「まあ舞さん、時間がないですから、早めに諏訪に向かいましょう」
僕は手で地面を押して腰をあげ、立ち上がる。
「…ほんとお前なあ…」
舞さんはため息をつく。
「…しかし合理的だ。早く行くぞ。」
舞さんはあたまが回るため、僕の意向、もとい言質をすぐさま理解してくれた。舞さん、
やっぱりけっこう優しいよなあ…こういうところが統率力が高いんだよなあ…この人についていく人が多いのはそういう理由なんだろう。
「…たった今、人の心を読む特技を呪った」
「褒めてるんですよ。さ、深雪」
僕は微笑んで深雪の手を掴む。
「…え」
深雪はきょとんとする。僕は首をかしげる。…立ち上がってくれよ、深雪
「…どこへ、行くんですか?」
深雪は怯えたように聞いてくる。僕は恐怖を植え付けないように微笑みを浮かべる。
「そんなに怯えなくてもいいんだよ?」
「…あのねえ」
僕は呆れる。…この子はこんなだっけか。もう少し冷静だった気がする。舞さんに関して言えばもはやキレ気味である。
「…先程言っただろう。お前は私たちのところでもう一度働くんだよ。」
舞さんがズバッという。…流石だなあ。この人、こういうところを強く言ってくれる。僕に無いものを持っている。…王牙さんとお似合いなだけはある。少し微笑む。
「…わた、しが?」
深雪は困惑したような口調で言う。…まったく。変わったな。深雪も。
「君にしかこんなに言えないよ。」
僕は隠してすらいなかった、しかし彼女には理解できなかったであろう本音を晒す。
「…私にしか?」
「そう。君にしか」
僕は困惑し続けている深雪に一拍置いて言う。僕たちの本音を―――静かに告げる
「僕は君だけに後輩になってもらいたい。目標にまっすぐな、君だけに。」
深雪は沈黙をする。長い時間が流れる。舞さんが口を開きかけるが、手で制す。…彼女の本音を聞きたい。
「…組織を裏切るのは辛いだろう。でも、僕は君の本音を聞きたいんだ。」
長い。長い、本当に長い時間が流れた。空模様がだんだん怪しくなってきた。
そして、雨が降ってきた。勢いがついた雨粒が、僕たちを問答無用でうちつける。
そうして。僕たちにとっておそろしいほど長い時間が流れて、深雪がすごく重い口を開いた。その口から流れてきた言葉には――――とても硬い決意が込められていた。
「―――わかりました。私―――天ノ川深雪は、Numberに戻ります…本当に、申し訳ありませんでした…二度と、Dreamerに味方しません。」
舞さんは笑顔を見せた。僕も顔をほころばせる。
「決まりだな」
舞さんは手をたたく。僕も首を縦に振って同意する。
「さ、深雪。行くよ」
僕は深雪に声をかける。深雪は昔のように淡々と返事してきた。
「Yes, your will(御意に)」
三十三話 誰かが隣にいること
「車って便利ですよねほんっと」
僕は手を組んで腕を伸ばす。。その姿勢のまま窓の外を眺める。早めのスピード(120km/時間)を出して高速道路を走り抜ける日産セ○ナのぼんやりした車窓が次々とスクロールされていく。
「…人の車を使うやつの台詞か?」
舞さんが呆れたような口調で言う。心底呆れてるような声だ。
「ハハハ、先輩のよしみじゃないですか」
「それ言うならあなたも私に車を貸してくれませんか?」
軽口を言うと、深雪が冷静に突っ込んでくる。
「無い袖は振れないさ、ハハハ」
僕は乾いた笑いをする。深雪は苦笑する。…深雪もよく笑うようになった。いいことだ。
昔は笑顔のえすらなかったのにねえ…
「…なんですか先輩」
まじまじと見つめてしまったため深雪がけげんそうな顔をする。…百面相?
「いや、深雪も笑うようになったなあ、って」
少し照れてしまう。深雪がまじまじと見つめかえしてくる。僕は吹き出してしまった
「…何が面白いんですか」
深雪が少し顔をしかめる。…こういう顔の深雪って面白いな。この子、いつ変わったのだろうな…百面相なんて、前は見せてくれなかったのにねえ
「お前女に対してマジで失礼過ぎないか?」
「貴方も少し気を使ってくださいよ…」
心の底にしまっていた本音を出す。マジでプライバシーもくそもなく人の心読んでくるのは勘弁してほしい
「…愁に全部言ってやろうかな」
舞さんが何かを呟く。…愁、だけは聞こえた。愁に何する気だよこの人
「ていうかそろそろ旧伊勢街道越えるぞ」
「歩きとは偉い差ですね」
ほんとうに車は使いやすい。高速道路は便利である。まあ僕はバイクしか持ってないけど。
「…ほんっとお前失礼だよな。」
舞さんが正大なため息をつく。…そんなに失礼か?
僕心当たりない(とは言ってない)ですよ、舞さん。
「まあそこは先輩として広い心で妥協してくださいよぉ~」
「猫なで声で言っても無駄だぞ。」
「ひ、酷い!」
舞さんが辛辣な言葉を吐いてきたため、思わず絶叫してしまう。窓が少し開いているため、外にダダ漏れである。隣の車のドライバーの視線が痛い。腕をひっこめる。
冷たい風が頬を撫でた。冷たいというより、この季節なので寒い。北風が音を立てて空中を走り抜ける。熱い頭が冷えていく。…少々寒すぎるな。
「深雪、そこの窓を閉めてもらえる?」
「イエッサー」
僕が指示を出すと、深雪は即僕の言ったことを実行する。マジで早すぎ。…でも、僕側の窓を閉めると熱くなる(頭が)可能性がある。僕は完全には閉めずに、少し開いている、というようにしておいた。一気に風が入り込まなくなる。おかげで少し車内温度は上がった。…ジャンパー脱ぐか…
僕は黒いジャンパーを脱ぐことにした。チャックを開け、腕を引き抜いていく。置き場所がないため、しぶしぶ抱えることにした。
「…私が持ちましょうか?」
深雪が抑揚のない声で聞いてくる。
「おお!ありがたやわが後輩よ!」
深雪の素晴らしい提案に僕は乗っかることにした。僕は深雪の膝の上にジャンパーを乗っける。深雪が少々意味ありげな顔をする。…不快だったかな?ちょっと申し訳なくなる。
「ほんっとお前さあ…もういいや」
運転席から声が聞こえるが、無視する。ハハハ、どうしたんですか
「…先輩、少し遠慮というのを覚えてくださいよ。」
深雪がめんどうくさそうに言う。…僕そんなに失礼かな?姉さんに聞いてみよう。…あれ、そういえば
「舞さん、姉さんに僕のせいぞ」
「そろそろ長野にはいるぞ。」
舞さんはとぼけたように言う。…はぐらかされてしまった。今度絞めるか…
「…やっと長野ですか。」
深雪が嘆息する。顔には疲労がにじみ出ている。お疲れさん。
「わりい、ガソリンがきれそうだから、サービスエリアによるぞ。」
ああ、まあ神奈川から来たんですし、まあガソリン切れはしますよねえ。仕方ないのであろう。なんか襲撃されそうではあるが。
「何もないといいんですがええ」
僕は一人ごちる。フラグの立った音がした気もしなくはないが…
「フラグをたてるな…」
舞さんがサービスエリアの中のガソリンスタンドに車を入れていく。後ろにいたのだろう、赤い車が僕たちの乗る車を横切る。何故か視線を感じた。駐車し終わった車から舞さんが降りる。ガソリンを入れる口を開く。ポンッという音がする。舞さんがモニターを操作する。ハイオクのノズルを注射口にさしこむ。…ようやく旅の中間点である。ちょっとお腹がすいてきたため、なにか買ってくることにした。
「何か買ってくるよ。何がいい?」
ぼけっとしている深雪に僕はたずねる。
「…アイスクリームのバニラ味を」
深雪は顔色を変えずに言ってくる。しかし、深雪の雰囲気からして、お腹がすいてくることはわかる。
「意外だね。深雪って甘いもの好きなんだね」
「…なにか悪いですかね」
深雪はむすっとした顔で答える。あ、ちょっとかわいい。なーんてね。
「ふふ。深雪はからかうと面白いね。」
「…早く買ってきてくださいよ。」
またからかうと、またもやむすっとした顔で言ってきた。僕はパシリじゃないんだけどな?ま、少しは先輩らしく、後輩に奉仕してあげないとね。
「わかった。行ってくるよ。」
僕は車のドアを開ける。
「アイス、私のも買ってきてくれ。」
ガソリンをいれている舞さんがしれっと要求してくる。僕は軽く手を振る。
「…アイス二個持ちってこんなつらいの かね」
両手にアイスをもった状態で歩く。正直に言って辛い。両手が塞がっているって、すごい不便なんだよ?あの人達は僕に苦労をおしつけて愉しいのだろうか。いや、僕が持ち掛けた話だから文句言えないけどね。
…腕に掛けているアメリカンホットドッグの入った袋はどうしようかな…
そんなことを考えていると
「先輩!」
深雪が叫びながらこちらにかけよってくる。何事…?
深雪が走ってくる方向を向くと
僕たちの乗っていた、
車が―――燃えていた
三十四話 Numberの奮闘
「……は?」
アイスを落とす。グチャっと言う音を立てて周りにバニラが飛び散る。ああもったいねえ……
僕は燃えている車をまじまじと見つめる。遠くからではよく見えない。しかし──
少しは見える。深雪もこっちに向かってるんだ。
状況を把握する。
車を襲撃してるのは、黒服姿の大男達。……Dreamerの残党だろうか。
そして深雪の周りに同じく大男が二人。──舞さんには、大男が八人付いていた。
十対三。どう考えても分が悪い。ただ、奇襲はできそうだ。
バニラを踏まないように地を蹴る。アメリカンホットドッグを咥えながら深雪を囲む大男の一人を蹴り飛ばす。
「きゃっ……」
珍しく深雪の可愛らしい声が聞こえる。どうやらぶっとんだ大男に巻き込まれたらしい。ごめんよ
「……さーて。タイマン張りましょ。大男さん?」
僕はホットドッグを噛みちぎって宣言する。目の前の大男は見た目に反してふるえている。
「な……Number.2……」
すり足で少しずつ大男が後退する。
僕は一撃必殺の構えをする。そのまますり足で近づく
ホットドッグをもう一度口に咥える。ケチャップのかかっていないソーセージの味がやけに甘く感じる。
地を蹴る。刹那、大男は深雪と共に倒れている(深雪が抑えている)大男の方へ向かう。
深雪と大男は取っ組み合いをしていた。──まさか
逃げ出した大男は手にナイフを所持。あー深雪を人質にするのね。
……拳銃は車のジャンパーの中だ。最悪の状況。靴の燃料は……ダメだこれじゃあ間に合わない。
最大級の速さで走り抜ける。走り幅跳びの要領でドロップキックをする。目標は──
「ちょ先p…きゃああああ!!!」
ちょ、ごめんて、あとでお土産あげるから許して……
僕が狙ったのは深雪。可愛らしい悲鳴、二度目。
深雪は意識を保っているが……深雪の下敷きになっていた男は当然失神。血は出てないから死にはしないだろ。多分。
「く……来るなぁ!」
ナイフを構えたまま動けないでいる大男に僕はすり足で近づく。爆発音が聞こえる。……時間が無い。始末した方がよいだろうか?
「……先輩、行ってくだ……さい」
後方から声。……もう立ち上がれるのか。僕のキックを背中に喰らっても。
「……悪いね。頼んだよ!」
僕は足の方向を車に向け、地を蹴ったのであった。
「……チッ」
後ろで爆発が起きた。炎が背の後ろに上がる
私は舌打ちする。八対一。分が悪いとかいう次元を超えている。私はそこらへんの異世界転生ものの主人公ではない。能力も無ければ、強い得物もない。あるのは己の拳銃と拳のみ。
何が問題か?それは相手の拳銃と長い得物だ。拳銃八個。もうこの時点で辛いのに相手はさらに得物を持っている。
得物は、リーチの短いナイフくらいである。その程度。それで相手の持つナタなどに勝つなど────到底無理だ。今までの経験がそう語る。ましては数的不利。勝ち目は薄い。
……こんな状況でよそ見するのもあれだが、疾風がどこにいるか視線を一瞬さ迷わせる。……あっ、深雪のところだ。希望は薄いか……
仕方がない。残りの弾が少ないこの拳銃で戦うか?
足元でナタが振るわれる。一瞬でジャンプし、ナタを避ける。刹那頭付近に日本刀が迫る。姿勢をかがめる。避けきれたが────相手は姿勢が整っていて、私は整っていない。立ち直りの速さで圧倒的に負けている。しかし──
「動きが遅いな……」
私は立ち直りの速さではなく、攻撃発生の速さで勝負することにした。尻ポケットに隠してあるナイフを取り出し、低い体勢のまま、地を蹴る。男は慌てて、ナタを振ろうとしたが、悲しいことに、長い得物をすぐさま繰り出すのは難しい。ナイフで刺してしまうと、ナタで切り裂かれることは目に見えているため、頭突きで相手の腹を抉る。血を吐くような音が聞こえた。ナタは──飛んだな。私はナイフで男の両方の手首を切る。少し出血させただけだが、ナタを操れなくするためには充分だろう。周りの男共は口を開けて絶句している。ハハ、その程度か。しかし、口を開けている男が、心做しか、六人に見える。……残りのひとりは?
違和感。背中を逆撫でられるような感触。本能が私に避けろ、と支持する。私は地を蹴り、体勢を低くし、地面と体が平行になるように体勢を整える。
「……チッ。流石Number.81……」
受け身の姿勢で手首から着地し、前転しながら立ち上がる。後ろにはナタをぶん回した跡がある男が居た。
「…もう少し殺意を消したらどうだ?」
しゃべりながら、後ろでナイフを左右に薙ぎ払う。悲鳴が聞こえる。大男が眉をひそめる。
「しゃべりながら俺の仲間を殺すとは…ほめてやろう。しかし」
大男が不敵な笑みを浮かべる。気持ちが悪い
そこからはにらみ合いが続いた。逃げ出そうとするものも居たため、二人斬り伏せておいた。
…王牙が戦えたのならば…こんな窮地にも満たない状況なら既に乗り越えてただろう。そんなことを考えていた刹那、殺気を感じる。野生の勘が働いて、私は地を蹴って大男の懐に潜りこむ。たあんと銃声が響く。
「…勘のいい奴は嫌いだ」
大男は後ろに跳躍する。お前も勘がいいな。
「殺気を隠せ。敵に塩送ってやってんだからありがたく受け取れよ」
嘲笑する。笑える状況ではないが、相手のアホさに笑えて来る。もうなんか、塩だけじゃなくて、米も送りたくなるような感じだ。狙撃部隊が居ることはわかった。いや。さっき取り逃した男どもが狙撃を始めたのか。…と、言うことは。
「…三人が私を狙っているのか…」
まあ、この短時間に足音を立てずに五人が移動するのは不可能だ。周りを見渡す。前髪がはねた。本能の指し示すまま私は幅跳びの要領で飛ぶ。その直後、側転。側転し終えた先でバク転。ナイフを眼前で薙ぎ払う。この間に鳴った銃声、四回
「…ほんと、勘が冴えてるな。」
大男が後ずさる音がする。その余裕そうな声音は徐々に余裕が失われている。…私も体力的にキツい。多分だが、このまま続けた場合、五分も経たずにこちらがジリ貧になる。今この大男も襲ってきている状況。まあ辛い。私の神経もすり減らしての戦闘だ。大男がナタを振るう。…まずい。さっきの避けゲーから一分は経った。…弾補充は済んでいるはずだ。一瞬の隙。大男はそれを見逃さなかった。顔がほころぶ。勝利を確信した、愚かな顔。…いつもなら、だが
ナタを避けようと跳んだ瞬間に銃声。…わき腹に激痛。その場にたおれこむ。最後に見たのは、遠目に見ても優しそうな男の顔だった。…任せたぞ。
私の意識は闇に堕ちた。
「あらら。深雪にも治療できるか…いや、車に応急処置のためのものあるよね。うん。」
疑問を自己完結する。目の前には安らかそうに、でも苦しそうな顔。…舞さんも、なにかに耐えている。痛みという敵に。爆発音が再び聞こえる。…時間も無いか。敵の方に歩き始める
「な、Number.2…」
大男は仰天するが無視してつぶやきを零す。
「さ。死にたいヤツはかかってこい!」
僕は走り出した。
――建物の影に。
「ヒッ」
怯えたような声とともに銃声が三回同時に響く。気が動転したのだろう。全弾外れる。いやまあ、僕が今煙の中を爆走してて姿が見えないからかな。舞さんに危害が加えられてないか、後ろを振り向いて確認する。大男も気が動転したのか、舞さんなんてそっちのけでこっちに走ってきている。ナタの射程距離まで距離を詰められてしまえば―――まずい。スピードをあげる。もう三発銃声。また全て外れる。三人が隠れてるとふんだ建物の影を見る。ビンゴ。
三人とも首根っこを掴んで引っ張り出す。奴らの持っていた銃を拾い、三人の頭に振り下ろす。気絶したかも確認せず、炎と煙に紛れる陰に向かって銃を投げる。見事に大男に命中。悲鳴が聞こえる。即駆け寄って拾っていたもう一本で殴る。鮮血が飛び散る。声になっていない叫び。勝ったな。
安心する。胸をなで下ろした。舞さんは…良かった。深雪が介護している。
…舞さん。お疲れさまでした。
これからもおねがいしますね?尊敬してますよ。
「葉月先輩」
呟いた瞬間、舞さんが笑顔になった気がした。
幕間
リア友「早くホモのやつ書けよ」
萩「え…今この本編の投稿スピードで…?」
リア友「関係ない。やれ」
萩「ぎゃああああああ!!!」
35話 Numberにとって、たいせつなこと
「うう…」
「あ、気づきましたか」
隣で私服姿の女性の唸り声が聞こえる。…うなされてたのかね。辛そうな顔してたし、汗がすごい。隣の深雪が舞さんの体を拭いている。
あのあと、僕たちは最低限の荷物(主に僕のジャンパー)を回収したあと、一応病院に搬送された。舞さんは傷を塞いでもらった。しかし、また襲撃される可能性を考えて、病院に居ては病院が襲撃されると判断し、救急箱をもらっただけで、さっさと退散した。
しっかしまあ、よく一日で復活したな。これほどの再生力。さすが舞さんといったところだろう。
舞さんは再生力がすごい。姉さんを上回る体力と再生力を持ち合わせている。
舞さんが倒れ、相手がやった、と思ったら舞さんは立ち上がっている。体力レースでは負け無し。恐ろしい人だ。
体力、精神力、回復力、再生力。そしてパワー。すべてを兼ね備えた、Number最強と言われし人だ。
「…すまない。私の力及ばず、お前らに迷惑をかけた。」
舞さんが本当にすまなそうに言う。
「…いいえ。あなたは悪くありません。全部、全部私の…」
「深雪」
深雪を制止する。話がややこしくなりそうだからだ。
「…あなたは何も悪くありません。舞さんがいなきゃ…僕達は死んでいたかもしれません。」
舞さんに水を飲ませる。こぼれた水が舞さんの服にかかる。
「…大丈夫だ。大丈夫…」
一通り水を飲んだ舞さんが体を起こそうとする。
「けほっ…」
刹那舞さんが咳き込む。たおれかけたため、深雪が体を支えてゆっくり寝かせる。
「…頼みます。安静にしててください」
「しかし」
「舞さん」
深雪が辛そうな声で舞さんに訴える。
「…あなたは私の恩人です。死なれたら困ります。恩を返せてないし、何より、報いることができませんから…」
深雪の独白を聞いてなのか、舞さんは深雪に支えられながらも自ら寝そべった。
最近良く思う。
深雪がなぜNumberを裏切ったのか。なぜこんなにも優しい子が裏切ったんだ?
「…舞さん。もう少しの辛抱です。それまで休んでいてください。」
思考を巡らせながら僕は舞さんに言葉をかけるのだった
〈一方その頃Dreamerでは〉
「なぜだ!なぜNumber.2が未だに生きているんだ!」
前リストラになった副総長にかわり、新しくなった副総長くんが机をドンッ、と叩いて勢いよく立ち上がる。
「落ち着いて。Number.2は精鋭とは言え、八人じゃ勝てないことは、君たちにもわかっているだろう?」
副総長を諭す。納得はしていないといった様子で椅子に座る。
『Number.2、Number.81、および天ノ川深雪が無傷生還、送り込んだ精鋭部隊の全滅』
こんな知らせを上官に言う眼の前の情報部の子はさぞかし辛いだろう。しかし予想通りの展開だったため、僕は冷静だった。
「持久戦は僕たちの得意分野だ。数は僕たちが勝ってるんだ。じわじわと追い詰めていこう。」
僕の言葉に落ち着きを取り戻したのか、副総長は腑に落ちたようにうなずく。
「果報は寝て待てというだろ?もうNumber.81は機能しない。もうやつは重症。Number.2と天ノ川も負傷状態のはず。Number。81がそんな早く復活するはずない。そろそろやつらの位置は特定されるでしょ」
僕の話にみんな腑に落ちた様子だ。うんうん、と首を縦に振っている。
「…そうですね。総長のおかげで落ち着きました。」
副総長は椅子に座った。…これでいい。
「…では、私はこれにて」
今まで情報を提供していた情報部の子が去っていく。
「頼りにしてると、君たちのリーダーに伝えておきなさい。」
情報部の子がドアを開ける寸前、僕はそう伝えた。情報部の子がびっくりした様子で振り返る。
「…はい!」
元気よく返事をし、ドアの向こうへ消えていく。
僕は知っている。Number.2が負傷していないことを。僕は知っている。Number.81の頑丈さを。
さっきはああいったものの――あれは嘘だ。
でも、あれが嘘なんて言ったら――みんなは絶望するだろう。だからこそ、僕は嘘をつく。
ぷるるる、とうるさい固定電話の着信音が響く。受話器を取る。
「もしもし」
「こちら調査部。例の3人の居場所がわかりました!」
通話越しに聞こえる歓喜の声。
「よくやった。居場所は?」
調査部の一員が正確な居場所を伝えてくる。…木曽山脈、ね
「了解。引き続き調査を頼むよ」
僕は受話器を置く。
「三人の居場所がわかったんですね!」
響く副総長の歓喜の声。
「うん。」
僕は覚悟を決める。総長の部屋のドアへ向かう
「どちらへ参るのですか?車を出しましょうか?」
「いや、その必要はないよ。」
「なぜ?」
僕はドアの前にかかっている黒いコートを羽織る。変装用のサングラスをかけて、こう伝えた。
「僕一人で十分だ―――」
「尾行されてますねこれ」
「僕もそう思うよ」
呆れた声を出す深雪と、同調する僕。…Dreamer君、しつこいなあ…
舞さんが落ちそうになっていたため、支え直す。すうすう、と寝息を立てて寝ている。
「…ほんと、しつこいですね。…昔っから」
最後の方はあまり聞こえなかったが、内容は理解できた。珍しく暗い顔をしている。
「まったく。どこまでしつこいんだか…」
ためいきをつく。
少々の沈黙が流れる。重い空気に耐えられなかったので、僕から話すことにした。
「そういえば、さ」
「はい?」
あるきながら僕は深雪に質問する。地雷を踏むかもしれなかったが、もう話すことも無いので続けることにした。
「…どうして、君みたいな優しい子が、僕、というかNumberを――」
「ッ―――」
質問をなげかけた瞬間、深雪は耳を塞いだ。しまった、と思ったときにはすでに遅かった。
「み、深雪」
「こないで…」
心配になって深雪に話しかけると、深雪はだんだん距離をとっていく。
「ひっ…」
そのまま全力で走り去っていく。足がすくんでしまって、その後ろ姿を、ただ傍観することしかできなかった。
北風が、僕の背中を走った。
「バカが」
後ろから声が聞こえる。一瞬誰の声かわからなくて僕は前に飛び、戦闘態勢をとる。
「あっぶねえな疾風。私をおんぶしてたの忘れたか?」
目の前には微笑んでいる舞さん。舞さんの言葉にハッとする。僕はそうとう気が動転したようだ。舞さんのことをすっかり忘れていた。
「…すみません」
「ははは。本当にバカだな、お前。さっきの見てたが、ほんとアホとしか言えない。」
舞さんは僕の謝罪をガン無視して笑いながら僕に辛辣な言葉を投げかける。
「…見られてたんですか。ええ、自分がバカで、アホなのはわかります。何も気を使わないで、あんなこと言っちゃって───」
「そうじゃないだろう」
舞さんはさっきとは裏腹に低い声で言いながら僕に近づいてくる。僕と手を伸ばしあえば届く距離のところまで来た。そして──
「セイッ」
「ひゃぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ?!?!?!??!?!??!?!??!」
僕の顔面に回し蹴りを叩き込んできた。いつもは出ない声が出てしまった。
「あーすっきりした。…いいか。私が言ってるのはそうじゃあないんだ」
痛みで悶絶している僕を尻目に語っていく。
「…どういう、」
ことですか、と言おうとしたが、さっきの回し蹴りが響いて舌が回らなかった。やっぱ強すぎるよ、この人。少しくらい容赦して下さい。大先輩様。
「いいか疾風。ミスしたら殺されるのは裏社会だけだ。しかも個人の小さなミスだ。ミスは取り戻せる。」
「……舞さんがいいたいことはなんとなくわかりました」
まだ痛む顔を抑えながら言う。
「よし。わかったならすぐに行動に移せ。すぐにだ。」
舞さんはほほえみながら言う。僕はメイレイをすぐに実行に移すべく走り出した。
「それでいい。Number.2。ミスくらい取り戻せ。…っていうか、これは深雪の過去を暴くために必要なのかもな。ま、ごたごたしてもしゃーないし、私も行くとするかあ…」
「深雪ー!おーい!居るなら返事してー!」
僕は深雪が走り去っていった山の中で叫ぶ。しかし返事は無い。…深雪がもうここに居ないのか、それとも落ちたのか───
気になるのは舞さんと合流できてないっていうのと、ところどころ聞こえる悲鳴と物音だ。
「ぎゃああああああ!!!」
…そして悲鳴の量が増えて、大きくなってきたということだ。まあこれでわかるのは、深雪以外の人間が誰かと交戦中、ってことか。…なんかやばい予感がするが無視しよう
とりあえず迎撃態勢を整えることにした。ポケットから愛銃コルトパイソンに近いリボルバー、駿河を取り出す。(作ったのは姉さん)セーフティはかけてある。しかし、物音と悲鳴が多く、大きくなってきているため、念の為セーフティを外す。ちなみにこのリボルバーの一度の装弾数は8。多分乱戦状態であるため、いちいち撃鉄落とすのは「隙」が生まれる。なら、近接戦闘に持ち込んだほうがいいのでは───
と考えていると、物音──もとい銃声と金属同士がぶつかる音がすぐ近くに迫る。今は、約5M先だ。悲鳴が聞こえたため、もう僕と交戦するのも──
「どわっ!?!?!?」
そう考えた瞬間、後ろから攻撃が来た。すぐさま振り向き、なんとかそれに反応することができた僕は駿河で攻撃を防ぐ。ガキィンと金属同士の衝突音が山一帯に響く。
「…え?」
僕は今攻撃してきた者の顔を見て、絶句する。その一瞬の隙を突かれてしまい、一撃をもらいかける。ぎりぎりで回避することはできたものの、二撃目をもらいかける。
「…………………」
目の前の敵は黙ったまま連撃を放ってくる。
「…まさかの展開、ね」
僕はだんだん冷静になってきた。二連目はしっかりと避ける。
「…まったく。いつも先輩に迷惑かけちゃって…」
戦闘中にも関わらず微笑んでしまう。目の前の敵は一瞬動きを止める。
そう。この相手の顔は深雪とそっくり。と、いうかもう深雪だ。攻撃の仕方などは少々違うが。
「ふっ…来な、深雪」
さっきの隙の間に出したナイフで応戦する。
「…………」
無言で間合いを詰められる。
ナイフを払う。深雪が後ろに退く。僕の攻撃は確実に深雪の位置にヒットしていた。
僕は駿河を握る。引き金に手をかける。深雪は僕の指を注視する。フェイントをかけることにした。指に少し力をかける。すると深雪は右に移動する。かかったな?僕は銃身を右にずらす。そのときだった。腹に激痛が走った。
なにが起きたかわからなかった。視線を下にずらす。深雪が僕に拳を叩き込んでいた。…一本取られたか。
僕は銃身を下に向けようとするが───まあ、そんなこと読まれていたわけで。銃を握っている左手はがっちり掴まれる。というか、ここで負ける気もするのだが。とりあえず腹痛は耐えれそうなので、どうしようか考える。まあ、
「これが一番か」
結果、膝蹴りを叩き込むことにした。左手を掴んでいる右腕を蹴る。割と痛かったらしく左手は開放される。そして駿河を下に向ける。深雪は退避しに行った。そして。僕は引き金を引いた。もちろん避けられる前提の行動だ。そして深雪が避けた方向に地を蹴る。肘を構えながら。
「がはっ…」
肘鉄は深雪の整った顔に叩き込まれていた。深雪は倒れる。
「…先、輩?」
最後に正気を取り戻した様子だった。よかったぁ…
…深雪が武器を持っていなかったのが幸いだった。割と深雪が凶器を持っていたら、わんちゃん死んでたかもしれない。
「…まあでも、相打ちか…」
僕の意識は飛んだ
「これでお疲れ様で締めくくるとでも思うか?」
「「すみませんでした」」
意識を取り戻し、舞さんに安全な場所へ移してもらった僕らは平謝りする。…なんで僕が怒られてるの…?
「深雪が暴走したのお前のせいだろ」
「…そのとおりです」
図星です。ハイ。
「…いいえ、悪いのは───」
「いや。僕です」
僕は頭を下げた。
「深雪も…ごめんね」
僕は頭を上げ、深雪に向かっても頭を下げる。
「…すみません、私情でめいわくをかけてしまって」
深雪も謝ってくる。
「…はあ、お前らで解決したんならいいわ。もういいから、さっさと山越えるぞ」
舞さんはため息をつき、歩き始める。
「…そうですね。先輩、行きましょう」
深雪も行こうとする。…しかし、僕は一つ引っかかっていたことがある。
「…深雪」
「なんですか?」
「君は、僕を殺したかった───?」
そう聞くと、深雪は、
「…なに言ってるんですか先輩。早く行きますよ」
「いや、なんでもない。ごめんね」
深雪は振り返って呆れた顔をして言い、そのまま向きを戻してすたすた歩いていった。僕もその背中を追ってあるき出す。
これでわかった。
深雪は多重人格者だ─────




