第十話 終焉のカリスマ、再降臨
光一達が奥まで進むと、景色は一変し、まるで絵にかいたような『The・魔王の城』が建てられていた。
光一が知っているものだと、東京ドームぐらいの大きさであった。
光一が周りを見れば、なんだかわざとらしい紫の霧に包まれており、何があるのかわからないようになっている。
「……何でしょう、これは?」
「オルター・エゴが、主人格をここにとどめる為のトラップ。つまりは接待でござる」
「ああ、これが都合のいい夢、か」
景久の説明から、それらしいこの世界の知識と照らし合わせ、納得する光一。
クリストフはそれに感心し、機嫌よく解説を始める。
「その通り。主人格にとって、都合のいい夢を見させる。主に、現実から目を逸らしたくなるような夢だ。そうすることで、現実世界との未練を絶たせ、オルター・エゴが主導権を握りやすくなる、というわけだな」
「最近だと、ゲームの主人公になって、好き勝手大暴れするってのが多いな。俺、いい加減ファンタジー世界飽きたわ。この『堕ちた迷い星』、作りが雑だしよ……。さっさと侵入するか」
そんな事をいいながら、ゲルグは魔王上の扉を蹴破った。
「オラァ! 根性ねじ曲がったやつはどこのどいつじゃい!」
「師匠! それはカチコミの類なのでは!?」
光一が進言するが、ゲルグはそんな事等気にせずに、づかづかと城の中に入っていく。他の者達も、それに続き中へと入る。
一行が扉をくぐると、そこは既に玉座が置かれている部屋だった。玄関や廊下などの類は一切ない。しかも、小学校の体育館ぐらいの広さである。
「……もう王の間っぽいんだが」
「オルター・エゴの想像力が足りなかったんでござろうなあ」
玉座には男が一人座っており、多くの美女に囲まれ気をよくしていた。その傍に、執事のような男が料理を運んでくる姿なども見える。
その玉座に座る男の格好は、まさしく絵にかいたような魔王のものではあるが、どうにも迫力が足りなかった。
魔王の姿をした男が光一達に気がつくと、こちらに顔を向けた。
「ようこそ! 我が城へ! 勇者共! フハハハハハハハハ!!」
「まーた変な役割振られちまってるよ。我が強いな……ん?」
ゲルグが軽口を叩こうとするが、すぐに眉を潜める。
どうしたのかと、光一が魔王の格好のした男の姿を見ると、その理由がはわかった気がした。
「……あの魔王、源蔵さんでは?」
「……うわあ……」
景久は思わず目を逸らす。その顔から、感情は読み取れなかった。
そんな景久のことなど露知らず、クリストフは冷静に分析を
「あれは恐らく、この『堕ちた迷い星』に捕らわれた主人格だ。魔王の地位、女性を侍らせる。これらから推測するに、『本当の自分はすごくて女性にもモテる』と言った願望の表れではないだろうか?」
「ここまで逃避するって、最近よっぽど嫌なことがあったんじゃないかしら?」
真希奈が景久を見ながら発言するが、景久はさっと目を逸らすだけ。
「魔王でハーレムって、相当だぜこれ。放っておくと肥大化早い奴」
そのゲルグの言葉で、景久はダラダラと汗を流し始める。
「景久、何か心辺りは無いか?」
光一の興味本位の問いかけに、景久はとても言い難そうに、口を開く。
「……春休み辺りに、奥さんの浮気が発覚した。確か、昨日離婚届を出しに行ったとかなんだとか……」
魔王の高笑い以外、誰も口を開けようとしなかった。
そんな中、光一だけが景久に言葉を投げかける。
「……帰ったら、源蔵さんに感謝の言葉を伝えような」
「うん……」
それでも空気は重かった。
「……さて! ではオルター・エゴ探しと行こうじゃないか!」
「とはいっても、化け物の様な姿はどこにも見えません。一体どうやって探せば……」
光一の困惑した顔に、クリストフは笑みを浮かべてから口を開いた。
「いかんなあ、光一君。私は教えた筈だぞ。オルター・エゴは、必要に迫られた時にしか戦闘形態を取らない。そうなるまでは、主人格の事を常に監視し、夢を調整しているのだ」
そう解説しているクリストフは、なぜかすっきりとしていた。
出来のいい生徒である光一に、
「ということは、つまり……」
光一は察したように、魔王源蔵の周辺に視線を向ける。
「つまりだ。この場合、あれだな」
そのクリストフの指先には、男の執事の姿があった。
よく見比べると、魔王源蔵を囲んでいる美女が絵に描かれているようなものに対し、執事の方は妙にリアルな顔つきだった。
魔王源蔵と執事を見比べてみると、どことなく本人の面影があった。
「それと、情報量が違う、というのも覚えておくといい」
クリストフがどこからともなく槍を取り出し、穂先を執事に向ける。
執事の方も、自分がオルター・エゴであると察せられたのがわかったのか、その姿を怪物の姿へと変えた。
「ようし、面白くなってきた! とっとと倒してしまえセバス!」
そんな事になっても、魔王源蔵は気にも留めず、偉そうに何かを言うばかり。
それもそのはず、主人格が見せられているのはただの夢。夢の中では、何が起きてもおかしくはない。
何が起きてもおかしくない。それは、現実でも同じことなのだと、光一達は思い知らされることになる。
「なッ!? 皆、伏せて――――!」
真希奈が言うや否や、突如として壁が吹き飛び、瓦礫が光一達に飛び散る。
「あーれー!?」
光一達は真希奈の言葉があって対処ができたが、魔王源蔵は漫画のように吹っ飛んでいった。
「なんだ今のは!? 源蔵さんは大丈夫なのか!?」
「落ち着くでござる。『堕ちた迷い星』であれば、余程の事が無い限り無事でござる。源蔵のような一般人でもそれは同じ」
そうは言う景久だったが、突如のアクシデントに困惑しているのは彼も同じ出会った。
壁が砕かれて中に入ってきたのは、悪魔の様な鉄仮面を付け、禍々しい鎧の様なスーツを着た男だった。
「よう、光一。元気だったか」
その姿に、クリストフは咄嗟に槍の穂先を超えの主に向けた。
「あれは、まさか……!?」
「そのまさか。あれが終焉のカリスマ――――エクス!」
自分の二つ名と名前を呼ばれると、エクスは仮面の隙間から笑みを浮かべる。
「……なぜ貴様がここにいる!?」
光一は突然の事でいっぱいいっぱいだったが、何とか言葉を絞り出した。
「戦力増強だ。こんな雑魚でも、いないよりはマシだからな」
そう言って、エクスはオルター・エゴに速やかに近づき、顔を掴んだ。
「……俺と来い。自由をくれてやる」
エクスがオルター・エゴの耳元でささやくと、オルター・エゴの身体がみるみるうちに赤く染まっていく。
何が起きているのか光一にはわからなかったが、とにかく戦わなければいけない事だけはわかっていた。
混乱する頭の中、なんとか考えを巡らせ、聖剣を握る。
「――――させるか!」
だがそうしている間にも、景久がすぐさまエクスに切りかかり、その腕を切断しようとする。
だが、エクスはそれを察知し、オルター・エゴから手を離し景久に向かい合う。
「なかなかいい剣筋だ。だが、まだ甘い」
余裕の笑みを浮かべながら、エクスは景久を蹴り飛ばす。景久は矢のように飛んでいき、そのまま扉を壊しながら外へ飛び出した。
「今のが佐々木か? 感情任せの突撃……随分と落ちたもんだな」
その瞬間、オルター・エゴに数多の手裏剣の雨が降り注ぎ、爆散した。
「甘いのはそっちも同じだぜ」
声をする方を見れば、シャンデリアの上にゲルグが座っていた。
「酷い事をするな。折角の勧誘中だったというのに」
わざとらしく溜息を吐くエクスに、ゲルグは手裏剣の雨を贈った。
「お前が言うなや。お前がオルター・エゴ連れ去っちまったら、源蔵さん死んじまうだろうが」
手裏剣が降り注ぎ爆発する中、終焉のカリスマは何事も無かったかのようにそこに佇む。
「オルター・エゴは消えてしまったようだし、俺としてももうここに用は無い。じゃあな」
わざとらしく呟き、赤い斬撃をゲルグに幾多も飛ばす。
「ちっ!」
ゲルグがそれに対処している間に、エクスは星の引力を使って飛びあがった。
「逃がすか!」
光一も星の引力を使い、エクスを噛みつくように飛びあがる。
「待て、光一! これは明らかにこれは罠だ! 行くな!」
クリストフが叫んで忠告するが、光一の意識は全てエクスに向けられており、何より冷静ではなく、その声は全くもって届いていなかった。
「俺が追いかける! ジャァッ!」
斬撃を対処し終ったゲルグが、返事も待たずにすぐさま飛びあがり、クリストフが振り向いたときには既に姿が見えなかった。
「頼んだぞゲルグ! 真希奈! 景久を頼む! 私もすぐさま追いかける!」
「回収完了済み」
「回収され済みでござる」
したり顔で、ボロ雑巾のようになった景久を掲げて見せる真希奈。
「なら行くぞ!」
「イェア!」
「あいわかった!」
真希奈が三人を掴み、瞬間移動でその場から消え去った。
◇
赤、黒、青といった三色の閃光が、星空の中でぶつかり合っていた。
赤い閃光に見えるのはエクス、黒い閃光に見えるのは光一、青い閃光に見えるのはゲルグその人だ。
光一とゲルグがエクスに猛攻を仕掛けるが、エクスは難なくそれをいなしていく。
「腕が落ちたか? それとも空中戦は苦手だったか!」
エクスが剣を掲げると、数多の数多の光線が光一とゲルグに襲い掛かる。
二人はもちろん回避行動に移るが、光線が曲がった。
追跡型と即座に判断した二人は、数多の分身を生み出し、追跡光線をかく乱する。
「面白い使い方だな」
「そうかい!」
エクスが褒めたたえた瞬間、その背後からゲルグが刀で襲い掛かった。
だが、エクスは振り向くこともせずに、その刀を自分の剣で受け止める。
「背面受け!?」
「残念だったな!」
エクスの剣が赤く光り、交戦となって近距離でゲルグに命中する。
「がぁ!?」
余程致命的な一撃だったのだろう。光線に撃ち抜かれた瞬間、分身達は忽ち消えてしまい、ゲルグは赤く光る粒子を散らせながら地上へと落ちていく。
だが、そこへ瞬間移動した真希奈達が現れ、落ちるゲルグをクリストフが受け止める。
自分達が瞬間移動する間に、ここまで戦況が変わっているのか。という驚愕が、クリストフの顔からにじみ出ていた。
「ゲルグ! しっかりしろ!」
「……悪い。深追いしすぎた。光一を、頼む」
そうゲルグとクリストフが話している間にも、戦況は進行していく。
誘導光線を分身で攪乱している光一だったが、なぜか本体の首をエクスに片手で掴まれてしまう。
「久しぶりだな。元気してたかって返事、まだだったよな?」
「貴様……!」
聖剣で切りつけようとする光一だったが、すぐさま空いている手の方で手首を掴まれてしまう。
「危ない危ない」
光一もすぐさま空いている手足で殴り蹴りを繰り返すが、エクスは意にも介さない。
「百分の一くらいになってないか? お前」
そこへ、瞬間移動した真希奈の蹴りと、景久の一太刀が襲い掛かる。
「遅い」
エクスは光一を掴みながら、二人の攻撃を回避すると、思い切り光一を地上へ投げつけた。
「お土産だ」
さらにはその無防備な光一の背中に、幾つのも赤い光弾を撃ちつける。大きな爆発と共に、光一は加速しながら地上へと落ちていく。
「くっ……!?」
引力で再び浮上しようとしていた光一だったが、その追い打ち攻撃の強烈さに上手く制御が取れないでいた。
「光一殿!」
すぐさま光一を追いかける景久。
その背中を狙おうとするエクスだったが、真希奈とクリストフの猛攻がそれを阻む。
真希奈は死角に移動続けながら光線を投げつけ、クリストフは正面から槍で襲い掛る。
「おっと、怖い怖い」
それでもなお、エクスに傷の一つを付けることも叶わない。
「どうやって光一はこれを倒した……!?」
クリストフはその事実に困惑しながらも、追撃の手を緩めることは無かった。
「さあな? わかったら俺にも教えてくれよ」
「誰が教えるもんか!」
寝言をほざくエクスに、真希奈が顔面蹴りつける。
「痒い痒い」
だが、それを喰らっても尚エクスは平然としている。
「せめて、マッサージができるぐらいにはなってくれ」
エクスは強かった。今この星空にいる、誰よりも。




