【一日目④】開幕と選択
〈 お、やっと始まったの? 〉
その一声は、今さっき聞かされたゲームの役割よりも驚かされる。
「え、男…の声?」
「うん、でも《《男の子》》のような感じですね」
「さっきのやつ以外で声を聞いたのは初めてだな……」
「同じく」
誰もが過去に聞いたことのない声は、先程までのふざけたような女の声とはまた違う印象を与えてくる。
〈 あ、そうか初めましてでしたね。 それでは改めまして…音に羽で音羽、名前は叡知の叡で『さとし』といいます。 声だけになりますが姉の『いえ』共々、よろしくお願いいたしますね 〉
「何と言うか、随分と違うな…」
「ていうか姉弟って」
「それに普通に名前出したぞ」
「…まぁ顔すら見せない相手の名前なんてどうでもいいや」
〈 ほらっ、姉さんのせいで僕まで悪く言われるんだからキチンとしてよ 〉
〈 ……ハァ、あんたね…いきなり割り込んできたと思ったら文句ばっかり。 せっかく愉しくやってたのに……冷めたから続けておいていーよ 〉
〈 全く気分屋なんだから……それでは、このまま僕が続けさせてもらいますね 〉
「その前に、君なら話が通じそうだから一つだけ教えて欲しい」
動じる様子も見せない六林が投げ掛けた。
〈 ……はい、答えられることであれば、になりますが 〉
「ああ、それでいい……聞きたいのは『そっち側にいるのは君と姉の二人だけなのか?』」
〈 ウーン……まあいいかな…そうですね運営は二人でしています 〉
「・・・そうか……すまなかった、話を続けてくれ」
〈 ……それでは、ええと確か役割名が分かったところでしたね。 では次に部屋の 〉
「え、役割の詳細は!?」
「それ聞いておかないと無理だろ」
〈 はい、それをこれからお教えいたしますね。 ですが前提として、役割の詳細はその役割に就いた人にしか分かりません 〉
「まぁ聞いたことない役割って段階でその可能性も予想できてたが……」
「六林さん……『厄介なとき程それ以上に物事を楽しみなさい!』」
少し顔を赤くしながら言う霜触に一瞬戸惑うも、すぐに何かを察知する。
「少年……?」
「ある人からの受け売りなんです……それに今回は上手くやれれば誰も犠牲にならなくていい。 だから自分は楽しもうと思います」
「……ハッハッハ、確かにそうだ。 こんなこと今後経験出来ないだろうしな」
お互いに近しいものを感じているのか、一見すると近付き難い雰囲気を持つ二人だからこそ、理解できれば打ち解ける早さはあっという間なのだろう。
そんな二人に早瀬と真中がそれぞれ寄りつく。
「六林のオッチャン、それとえっと……」
「ん? なんだ早瀬、こいつは霜触悠だぞ? まだ名前覚えていなかったのか?」
「あんたじゃあるまいし、そんなわけないでしょ」
「ん? それなら何を考えていたんだ?」
「あー…いやさ、いつまでも少年呼びより名前で呼んだ方が良いのかなぁって」
「おう、そんなことか! 構わないぞ!」
「何であんたが決めるのよ……」
「あ、お好きに呼んでもらっていいですよ」
「そぉ? じゃ~ねぇ~…」
「悠って名前なんだから悠しかないだろ?」
「あんたいい加減少し静かにして」
背後から真中の肩を叩き「お前凄いな……」と言った六林に「いや悠とはもう友達みたいなものだから」と返す。
「お、おう…そうか……」と少し戸惑った顔をする六林を周囲は憐れんだ様子で見ていた。
しかし同時に霜触君が言っていたように、彼のような人物はこれから先、必ず必要になる。
〈 あの~ お話進めても良いですかね? あまりモタモタしているとまた姉が騒ぎだしそうなので 〉
「それは面倒臭い」
「だね、今の方が断然マシ」
「大丈夫だ、このまま進めてくれ」
〈 はい分かりました。 役割は自分にしか分からないとこからでしたね、ではその役割はどう決めるのか… 〉
ガチャ! …(ウィーンウィーン)…(ズズズ)…ドサッ!
大広間の後ろの方、薄暗くなっていたためほとんどは気付いていなかったであろう本棚。
そこから一冊の本が落ちた。
〈 えーっと、すいませんが誰か今落ちた本を取りに行ってもらえますか? 〉
「・・・」
誰も動こうとしない。
当たり前の反応だろう。
〈 まぁそうなりますよね。 ですがあれがないと説明進まないまま、このまま終わってしまいますので 〉
その優しい口調で話された「終わってしまいます」の言い方は明らかに冷たさを感じさせた。
「よし、俺が取ってこよう」
「ま、真中さん流石に危険ですよ」
「あたしも着いていくから大丈夫だよ」
「早瀬さんまで!?」
「あ、あのっ、取りに行く物は何なのか教えてもらえますか」
霜触はどうにか考えるだけの時間を稼ぐかのようにスピーカーに話す。
〈 え? 見たままですよ? あそこにうっすらと見える本棚から落ちた物を取ってきてもらいたいだけです 〉
未だ誰が取りに行くか考えあぐねている中で、小声で早瀬に声をかける一人の女性。
「あの……早瀬さん…でしたよね? 少しいいですか? 出来れば小声で」
「ん? はいよ……それで…えーっとあんたは」
「本庄 有子です」
「おっけ、で、あたしに何か?」
「ちょっと手をかしてもらえますか?」
「何か手伝えってこと?」
「あ、いえそう言う意味ではなく、手のひらをこう…」
「んー、こうゆうこと?」
早瀬は手のひらを上に向け本庄に差し出す。
失礼しますと言うと早瀬の手に何かしている。
「・・・・・・・」
「へぇ~それでか……あたしでも気付かなかったのに、スゴいじゃん……じゃあついでだからちょっと頼まれてくれる?」
〈 さて、そろそろ誰か…… 〉
「あたしがいく」
「お、おい、早瀬が行くなら代わりに俺が」
「いや真中は悠の傍にいてやんなよ」
「いや、だけど」
「その代わり六林のオッチャン連れてくから」
「え!?」と真中よりも驚きを見せた六林が早瀬に近付きながら言う。
「なんで俺なんだ、他にも」
「え?嘘だけど?」
「行くのはあたし一人で大丈夫だよ」
そう言いきるとジャージのポケットに両手を突っ込み暗がりへと歩き始める。
道中何事もなくすんなりと本棚の前に着いた早瀬。
本棚を上から下へと見ていき足元に落ちている物を見ながら、しばらくそのままの姿勢で動きを止めている。
そうしていると急に周辺を見るように頭を左右に振り、再び前を向くと勢いよくしゃがんだ。
遠目で背後からのため、自然と彼女自身で隠すような格好になっている。
そのため何をしているのかは分からないが、ただ拾うにしては明らかに時間がかかっている。
〈 拾ったらこちらに持ってきてください 〉
「いや~ごめん、ちょっと足がつっちゃってさ」足を気にするように歩き戻ってくる彼女の手には本が掴まれている。
「これでいいんでしょ」そう言いながら本を持っている腕を軽くあげ強調している。
〈 ……はい、そうです。 ありがとうございます 〉
「で、これどうす…」と発する言葉は急に途切れ、次の瞬間「うわぁっ」と声をあげながら前方に倒れこんでくる。
手にしていた本は、鳥が羽ばたくが如くバサバサと音をたて宙を舞いながら、何かを撒き散らしながら地面に落ちた。
倒れた彼女よりも本から出てきたそれに皆は釘付けになる。
「これは……トランプか?」
「そうだと思いますが…」
「いや~有子の足に躓いちゃったみたい……ダイジョブだった?」
「いえ、私こそ足元を気にしていなくてすいませんでした」
「(……)」
「あたしがばら蒔いちゃったからすぐ拾うね」
〈 ……いえそれは誰か他の方にお任せしますので、少しそこで休んでいて下さい 〉
「……あ、そう? じゃあお言葉に甘えて」
〈 では、そうですね……これまで一言も喋らなかった海老名くん、お願いします 〉
「僕ですか…」
「おい悠、あの子お前より小さいよな?」
「……見た目的にはそうですね」
「確か最後の優勝者だったな」
「一年前か……いくつの時にゲームさせてんだよっ」
「真中さん…」
「真中さ、あんたもゲームしたんだから分かるでしょ。 容姿や理想、まして運とかでは勝てないって。 あんたのイラつきは分かるけど、今のあたし達にとっては心強いって割り切ったほうがいいんじゃない?」
「……スゥーー…ハァーーー。 そうだな、早瀬の言う通りだ。 過去は変えられないしな……けど皆がいればきっと未来は変えられる!」
「……ったく、本当に真っ直ぐなやつだな」
「そう言う六林さんも」
「こんな暑苦しいやつと一緒にするな」
「……拾い終わりましたけど」
〈 はい、ありがとうございます。 そうしましたら裏返しにしてシャッフルしてください 〉
言われた通りのことを淡々とこなす子供を黙って見ていることしか出来ないのが歯痒いのか、明らかにイライラしている空気を出している者が数人いる。
「これでいいですか?」
〈 はい、そうしたら裏向きのまま誰からでも良いので一枚ずつ引いてください 〉
皆が子供の周りに集まる。
「誰から引く?」
「何も分からないからな…」
「適当でいいんじゃない?」
「じゃあ自分から引きますよ」
「悠…」
「ただカード引くだけだから大丈夫ですって。 引いたカードは見せても良いんですか?」
〈 はい、大丈夫ですよ 〉
「6ですね」
「じゃあ次は俺が…8」
「はぁ……じゃあ俺もさっさと終わらせるか…4か」
「…じゃああたしも引く!」
「早瀬、急に大声だすな、びっくりするだろ」
「アハハハ ごめんごめん、オッチャンにつられて」
「いや俺はうるさくなかっただろ」
「シッ、カード引くんだから静かにしててね」
「・・・」
〈 ・・・ 〉
「とりゃっ」
「何でこいつはこんなに気合い入ってるんだ」
「フフフ……どうだっ見てみろ、1だ」
「それは良いのか?」
「さぁ~ね」
その後適当に皆がカードを引き終わる。
〈 では皆さん引き終わったようなので…これより第12回 殺人ゲームを開始します 〉
「殺しちゃいけないって言われてる殺人ゲームって」
「まぁ一人でも死ぬことになれば全員死ぬんだ、ある意味殺人ゲームだろ」
〈 では早速ですが、大広間を出て右手に進んでもらうと、1から11までの数字が割り振られた部屋がありますので、先程引いたカードの番号順にお好きな部屋を選んで入って下さい 〉
「……そういうことか」
「はい、部屋を選ぶ イコール 役割が決まるってことですね」
「なるほど、だから早瀬がカードをばら蒔いても見られても関係なかったのか」
「……そうだな。 けど…ならなぜ」
「何かあるんですかね? 本拾う前も何かしてた感じしましたし」
「まだ初日だが、早めに分かっておかないといけないことが増えたな」
〈 では早瀬さんから開始してもらいましょう。 他の方は、前の人が部屋に入ると大広間入り口にある赤いランプが青くなりますので、そうしたら部屋に向かって下さい。 以降それを繰り返して下さい 〉
「説明は終わりですか?」
〈 はい、説明は以上になります。 あとは部屋に置かれているルールブックに基本的なことは記載されてますので、確認して下さい 〉
「わかりました」
「悠、話しはもういいかな?」
「はい、あの早瀬さん……無理しないように」
「なーに言ってんのさ、あたしは適当人間だからね、あんたのようなお子様に心配されるようなことはしないって」
「……はい、お気をつけて」
背を向け歩いていく早瀬。
片手はポケットに、片手はヒラヒラと手を振り迷いなく進んでいった。
「悠、早瀬なら大丈夫だ」
「え?」
「さっき言ってただろ、適当人間って」
「はい」
「自分で自分を適当という者は、自分の実力と相対するものとの力の差が解っている者だからな」
「おぉ、真中がえらく真っ当っぽいことを言ってて驚いた……だが、これには俺も半分同意だ」
「半分……ですか?」
「適当でいいと考えた時、肝心なのはどう動くかだ」
「どういう意味だ?」
「それに相応しく動くのか、デタラメに動いていればいいのか、ってことだ。 その点でいえば早瀬は前者だろうしな」
早瀬は001と書かれた部屋の前で立ち止まっていた。
「さて、何かしらヒントでもあれば儲け物なんだけどねぇ」
各部屋の扉を見ながら奥へ奥へと進んでいく。
「うーん……流石にそう簡単には見付かる分けないかぁ…」
011の部屋の前で数秒考えつつ、今歩いてきた通路を見る。
「さて、どうしようかな……とりあえず最初の部屋に…ん?あれって……」
ガチャ……パタン…。
「見た感じは特におかしなところは……あーやっぱりカメラはあるよね…これが一番最悪だわ…極力トイレは使わない! うん!」
自分と聴いている誰かに対して大声で言う。
「で、なんかルールブックがあるんだっけ……」
無機質な、なんの機能も持たない只の机に置かれた数枚の紙の束。
「どれどれ……はぁ? マジかぁ……ミスってるじゃん…説明されなくても唯一何となく分かるやつじゃん、厳しいでしょこれ…」
表紙をめくった一枚目に目を通し、最後に書かれていた役割に頭を抱える。
「……いや違う…今回は違うんだ。 考えろ~考えろ~……あれ? あたしさっき何て言ったっけ…?」
「そうだよ…! 何となく分かるのはこれしかなかった。 あたしが分かるなら最低でも3人か4人には伝わるはず……」
「となると、ここはある意味当たり……問題は他の役割と…追加される過去のゲームか…」
改めて最後に書かれている一文を見る。
【あなたの役割 は 狼少年 です】




