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ドレスの謎

いても立ってもいられなくなった私は、イザベラと別れると、その日の内にドレスの仕立て屋へと向かった。


特注のドレスを同時に2着準備するなど、仕立て屋にしかできない芸当だ。


グランデ公爵家御用達の高級仕立店には、数人のデザイナーや縫製職人たちがいる。

その中でも、私のドレスを担当した衣装デザイナーは、レイという業界では有名な男だった。


「まあ何ですの? 急に押しかけて私を呼び出すなんて。ここは平民が来るような店ではありませんわよ」

レイは普段から派手な服を着ており、両手いっぱいに指輪を付けているような男だった。


「私はアリアと申します。ミランダ王妃の使いできました」


「ミランダ王妃ですって!」

レイがジロジロと私を見た。


「ここにおられるアリア様は、ミランダ王妃と懇意にしている魔法使いである。名前ぐらいは聞いたことがあるだろう」

隣に立つゼノンが、レイに負けないほどの上から目線で言い放った。


「そういえば王妃の命を助けた魔法使いの名前が、確かアリアだったような……」

急にレイの態度がしおらしくなった。

「アリア様、失礼をお詫び致しますわ。今日はドレスをお考えでしょうか?」


「いえ違います」

私は率直に聞いた。

「アメリア様のドレスについてお尋ねしたいのです」


「アメリア様のドレスですって?」

レイの顔が曇った。


「アメリア様のオートクチュールドレスを、2点作った記憶はありませんか?」


「えっ」

レイは私たちからすぐに視線を外した。明らかに動揺している。


「作ったのですね?」


「そんなこと……、するわけ……」


ゼノンが口を挟んだ

「私たちは、ミランダ王妃に毒を盛った真犯人を探しています。もしレイさんが、嘘をついたりごまかしたりするのなら、あなた自身も罪に問われることになりますよ」


「……」


「さあ、本当のことを言ってください」


「私を脅そうとしてもダメですわ。私にだって自分を守る権利はくらいあるのですから」


「レイさんは、王妃と犯罪者のどちらにつくつもりなのですか?」


レイは黙り込み、じっと私の胸元を見た。


「まあ、なんて素敵なルビーなの……」


レイは吸い寄せられるような目で、私のネックレスを見つめていた。

「でしたら……、そのネックレスをいただけるなら、本当のことを話してあげてもいいわよ」


アレクシオ王子に「さよなら」を言われてから、私はずっとこのルビーのネックレスを身につけていた。


そんな大切なものを、渡せというの……。


でも……、これは……、王子のことを吹っ切るいい機会なのかもしれない。


「いいわ、本当のことを話してくれるなら差し上げます」


私は首から王家秘宝のネックレスを外し、カウンターに置いた。

すると、レイは置かれたネックレスをすぐ手に取った。

そして、それを自分の首にかけると、すぐに自分の姿を鏡に映した。

レイの目はうっとりとしていて、これ以上ないぐらい幸せそうな顔をしている。


しばらくの間、首にかけた大粒のルビーを手で触りながら、じっとその輝きを見つめ続けていたレイは、おもむろにこう言った。


「聖女セレナ様よ」


「えっ? セレナ本人がドレスを注文したの?」


「注文をしたのは、見たこともない女性だったわ。でも、その女をそっとつけたの。すると女は、出来上がったドレスをセレナ様に渡したのよ」


「本当なのですね」


「間違いないわよ」


「そのことをミランダ王妃に話してもらってもいいですか」


「ええ、いいわよ。それだけの物を貰いましたもの」

レイはまだ、王家秘宝のルビーに見とれている。


「では、さっそく今からエルフィンド城へ向かいましょう」


「今日は駄目よ。これから大切なお客様が来るんだから」


「でしたら、明日の朝一番でどうですか?」


「わかったわ」


私はレイと握手を交わし、店を出た。

外に出ると、私は夕方の涼しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


ついに、潔白を証明できる時が来た。


今まで逃げ回っていた私の生活も、これで終わりになる。


やっとこれで、斬首刑に向かって進んでいるストーリーを書き換えることができる……。


  ※ ※ ※


朝がくるのが待ち遠しくて、私はほとんど眠ることができなかった。


日が昇り、いつものようにゼノンと軽い朝食を済ませると、さっそく2人で仕立店へと向かった。


ゼノンは魔法学校があるのだが、今日も休んで私についてきてくれている。


早くこの問題に決着をつけなければ……。


いつまでもゼノンに迷惑をかけるわけにはいかない。

彼を普通の生活に戻してあげないと……。


店に着くと不思議なことが起こっていた。

周囲に人だかりができていたのだ。


「どうしたのですか?」


私は、近くに立つ人に尋ねた。


「デザイナーが1人殺されていたらしいよ」


「えっ」

悪い予感しかしなかった。

「何という名前のデザイナーですか?」


「レイという名前らしいよ。毒殺されたそうだ」


毒殺……。

証拠を消すために、暗殺されたということなの?


「いったい誰がこんなことを……」


一瞬にして目の前が真っ暗になってしまった。

やっと私の無罪が証明されて、死刑へのシナリオが書き換わると思ったのに……。

結局、運命を変えるなんて、無理だということなのだろうか……。


そして、ある重要なことに気がついた。


レイは、私が渡したルビーのネックレスを首にかけていた。

あれは王家伝承の秘宝で、2つとして同じ物などない。


ということは……。


そんなルビーが死人の首に巻かれていたら、私がレイと会っていた証拠になってしまう。


このままでは、王妃の事件だけでなく、今回の事件までも、私が犯人とされてしまうのでは……。


これでは死刑執行を免れるどころか、ますます死刑が近づいてきているではないか……。


どんなにあがいても、死刑へのシナリオは変わらないのだろうか……。


私はその場でぼう然と立ち尽くすことしかできなかった。


仕立店に集まる人々からそっと離れて家に帰ろうとした時、思いもよらない人物に出くわした。

赤い服を身に纏ったセレナが、取り巻きたちを引き連れ、道を塞ぐようにして立っていたのだ。

手には何かを持っている。


「アリアさん、面白い本を見つけたのよ」

セレナは、目を細めながら嫌な笑い方をした。


私は彼女が持っている本を見て愕然とした。

彼女が大事そうに手に抱えていたのは、私が老け顔に変装するための方法が書かれているあの本だったからだ。


「ここに変わったメイク術が載っていたわ」


「……」


「このメイク術を使ってメガネをかけ髪色を変えたら全く別の老けた人間になれるそうよ」


「……」


「アリアさんも、このことをご存知ですよね」


「……知りません」

私はそう答えるのが精一杯だった。


様子を見ていたゼノンが、会話を遮るように声をかけてきた。


「姉さん、行きましょう!」


ゼノンが私の手を引き、聖女セレナの横を通り過ぎようとした。


「待ちなさい!」

セレナが手を広げ、私たちの行く手を阻んだ。

「グランデ公爵家は、代々聖女が生まれている家系よね。アリアさんも、グランデ家の人なのかしら?」


「私は……、グランデ公爵家の者ではありません」


「さあ姉さん、行きましょう!」


ゼノンがセレナの手を振り払った。


「まだ、姉さんなんて言っているのね」


通り過ぎる私たちに向かって、セレナは楽しそうにこう告げた。


「アリアさんの化けの皮が剥がれてしまうのも、時間の問題ですわ」


私はゼノンに連れられ、逃げるようにして家へと向かったのだった。


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