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王子はアリアと結婚したい

王子や王妃と他愛のない会話を続けているうちに、王子はすっかり元気を取り戻した様子で、布団をよけるとベッドから足をおろし、その場で立ち上がった。


スラリと背の高い王子が、私の正面に歩み寄ってきた。


推しが私に近づいてきた……。

私は目のやり場に困り、すぐに王子から視線をそらしてしまった。


「アリアさん、一つ聞いてもいいですか?」


「何ですか?」


「失礼ですが、アリアさんは、独身だと聞いております。付き合っている男性はいるのですか?」


「はい?」


アレクシオ王子は、咳払いをして続けた。


「今、付き合っておられる男性はいるのですか?」


「い、いえ、いません」


「それなら」


王子がまっすぐ私の顔を見つめている。


「私と、お付き合いしていただけないでしょうか」


「お付き合い……」


「もちろん遊びなんかで言っているのではありません。お付き合いするからには、当然私の婚約者になっていただきます。つまり、結婚を前提として付き合ってほしいということです」


私は開いた口が塞がらなかった。

設定上だが、10歳も年上の私を……。

しかも本当の私は、王子がずっと婚約破棄したいと願っていたアメリアなのだから。


推しの王子が、真剣な顔でそんなことを言ってくれると、確かに嬉しい気にもなったが、こんな申し出を受けられるわけがない。


ただし断るにしても、相手は王子。ちゃんとした理由をつけなければ……。


「申し訳ありません。大変ありがたいお言葉なのですが、そのお話、お受けすることなど到底できません」


「どうしてですか、私のことが嫌いなのですか?」


「決してそんな……」


「では、どうして」


「私は王子よりも10歳も年上です。そんな私と婚約だなんて、ありえない話です」


「私はそんなこと、気にしておりません」


「王子は気になさらなくても、周囲のお方が……」


そう言いかけてひらめいた。

ミランダ王妃なら、この話に反対してくれるはずだ。

いくら命の恩人だからと言っても、年齢差のある平民の私を、王子の婚約者になど認めるわけにはいかないはずだ。


そう思いながら、ミランダ王妃の顔をうかがった。


ミランダ王妃はやや目を伏せながら、困惑した表情をしている。


大丈夫、王妃なら断ってくれるはず……。


「ミランダ王妃は、この話、どう思われますか?」


「私は……」


王妃は一呼吸置き、こう述べた。


「私はもちろん賛成よ」


何に賛成なのだろう……。

結婚反対に賛成するという意味なのだろうか……。


「アリアさんがアレクシオの結婚相手なら、私は大賛成よ」


「え、でも歳の差が……」


「歳の差なんて気にしなくてもいいわよ。もう時代は変わっているの。アリアさんの年齢なら、まだお世継ぎも期待できるわけだし、私は大賛成よ」


だ、大賛成?


当然私は焦った。

そして反射的にこう言ってしまった。


「申し訳ありません。本当のことを言うと、私、他に好きな人がいるのです。ですからこのお話は……」


「好きな人、ですか」


王子の声は、明らかに落ち込んでいる。


これで諦めてもらえるだろうか。


しばらく黙り込んでいた王子は、顔を上げるとこう言った。


「その好きな人というのは誰なんですか?」


「……」


「私は歪んだ心を持った人間です。どうしてもアリアさんの言葉は、私の申し出を断るための単なる口実に聞こえるのです」


……その通りです。断るための単なる口実なのです……。


「だから教えていただきたい。私の気持ちを整理するためにも、はっきりさせておきたいのです。その好きな人というのは、いったい誰なのか教えてください」


「でも、それは……」


「分かっています。その男性に迷惑をかけることなど、一切ないと誓います。だから教えてほしい」


「それでしたら……」


私はそう言いながら考えた。


一体誰のことを好きだと言えばいいのだろうか。


ゼノンは弟だし

全然関係のない人の名前を出すわけにもいかない。


すぐに答えは出なかった。


「……」


返事に時間をかけられない焦りもあった。

それで私は、とっさにこう言ってしまった。


「私の好きな人は……、実は……、シビルさんです」


「シビル?」


王子はその言葉が理解できないようで、目をパチクリさせている。


「シビルというのは、まさか補佐官のシビルのことですか?」


「はい。ご本人にはまだ伝えていないのですが、一目見た時から好きになってしまいました」


言うまでもないが、もちろん大嘘だった。

年齢的にアリアと近いと思い、ただそれだけの理由で選んだのだ。


けれど……。


私がそう話している時、控えの間から一人の男性が王子の部屋へと入ってきた。

その男性は、王子の様子が気になり、ここへ来たのだろう。


そうなのだ。

部屋に入ってきたのは、補佐官のシビルだった。


シビルは私の言葉をしっかりと聞いてしまったようで、その場で固まりながら立ち尽くしている。


目を合わせたくはなかったが、それでも私はそっとシビルの顔を見た。


するとシビルは、まんざらでもない様子で、うれしさを噛みしめた顔をしている。

そして微笑みながら私に視線を合わせてきた。


うわ、まずっ。


私は心の中でそう呟いたのだった。

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