隣国の聖女と会う
翌日の昼過ぎ、ゼノンは魔法学校に行っており、私が一人で部屋にいる時だった。
外が騒がしいと思ったら、王宮からの馬車が家の前に到着していた。
「アリア様はおられますか?」
アレクシオ王子の補佐官であるシビルの声だった。
やっぱり、この時が来てしまった……。
私がネリ公国出身ではないと聖女セレナに指摘され、近々王宮から聞き取りや取り調べが行われるだろうと思っていたが……。
予想より早い王宮からの呼び出しだったが、こんなこともあろうことかと、すでに私はアリアに扮している。
そして、指には母からもらった魔道具の指輪を付けていた。
「魔力から、いろいろな情報を読み取る力を持った魔法使いがいます。アメリア様の身を守るためにも変装後も指輪をお付けになったほうが……」
魔法学校首席のゼノンの言葉に、私は素直に従ったのだ。
馬車で揺られている時、補佐官のシビルが話しかけてきた。
「実は隣国から聖女様が来られています。もともと隣国の聖女様はミランダ王妃と仲が良く、回復祝いに駆けつけてくださったのです」
「隣国の聖女様というと……」
「はい。ネリ公国のミレーヌ聖女様でございます」
シビルの言葉ですべてを理解した。
私は、ミレーヌ聖女の知り合いだと嘘をついている。
なので、実際にミレーヌ聖女と私を会わせ、私がネリ公国の者なのかどうかはっきりさせようとしているのだ。
もう、嘘が暴かれてしまうのは、時間の問題だった。
そして私が、王妃毒殺の罪を着せられているアメリアだということも、きっとバレてしまうことだろう……。
※ ※ ※
王宮広間には、グランデ王国とネリ公国の要人たちが集まっている。
二国の要人が乱れることなく整列している先に、アレクシオ王子とミランダ王妃、それに聖女セレナの姿もあった。
「アレクシオ王子、アリア様をお連れしました」
私は要人たちの間を通り、一段高くなっている応接広間へと通された。
ミランダ王妃の横に、王妃と年齢が同じくらいの女性が立っていた。
見たことはないが、おそらくあの方がネリ公国のミレーヌ聖女なのだろう。
ミレーヌ聖女は楽しそうに王妃と話しをしていた。
「昔はよく三人で遊んだものよね」
「そうですね。王妃と私、それとソフィアの三人で……」
またしても、母の名前が出てきた。
王妃は、公爵令嬢の母と仲が良かった。
なので、ミレーヌ聖女が話すソフィアとは、母のことに間違いない。
「やあアリアさん、来たんだね」
アレクシオ王子が私の姿を見るなり、すぐさま話しかけてきた。
気軽な口調だったが、私には取調官のように思えた。
じっと鋭い視線で、聖女セレナが私に注目している。私を疑い、観察している目だった。
そんな中、ミランダ王妃が私に声を掛けてきた。
「アリアさん、こちらに来て」
言われるままに、王妃とミレーヌ聖女が並ぶ前まで進んだ。
「ミレーヌ聖女、こちら、私の命の恩人のアリアさんよ」
「こんにちわ」
ミレーヌ聖女が声をかけてきた。
「……こんにちわ」
はじめまして、とは挨拶できなかった。
「アリアさんはネリ公国のお人なのよ。ミレーヌ聖女ともお知り合いだと聞いているわ」
私は目をつぶりながら、そんな王妃の言葉を聞いていた。
「まあ、ネリ公国の……、アリアさんね……。お顔を上げていただいてもいいかしら」
もう駄目だ。
そう思いながら、そっと目を開け、ミレーヌ聖女に顔を向けた。
「ミレーヌ聖女、どうですか? アリアさんと聖女はお知り合いなのですか?」
口をはさんできたのはセレナだった。
「知り合い? 以前お会いしたことがあるのかしら……」
「やっぱりそうだわ! アリアはネリ公国の人ではないわ! この女は、王妃や王子を騙しているのよ!」
セレナの勝ち誇った声が響いた。
「ミレーヌ聖女は、アリアさんとお会いしたことはないのですか?」
アレクシオ王子の声も聞こえてきた。
「ええ、会ったことないはずよ……」
ミレーヌ聖女は、じっと私の顔を見つめてきた。
もう終わりだわ。私はそう覚悟した。
ミレーヌ聖女が、私の服装や、足、指の先までもを見つめ始めた。
そして、その視点がある位置で止まると、ミレーヌ聖女の目がパッと見開いた
「それは何かしら?」
「え?」
「あなたの指に付けている指輪よ。あなたの左手の小指につけてる指輪は?」
「あ、はい」
「その指輪と同じものをつけていた人を、私は知ってるわ。あなた、その指輪をどうしたの?」
私は正直に答えた。
「母から譲り受けたものです」
「お母様から……」
ミレーヌ聖女は、何かを考えているのか、私の顔をじっと見ながら黙り込んでしまった。
そして、しばらく経つと、ミレーヌ聖女は明るい声でこう言った。
「思い出しました。ここにいるアリアは、間違いなく私の知り合いですわ!」
私は、予想外の言葉に口をぽかんと開けてしまっていた。
「アリア、久しぶりね。雰囲気が変わったから、見違えたわよ!」
ミレーヌ聖女は、皆に聞こえるように、あえて大きめの声で話しているようだった。
「私はアリアの親友です。こうして会えるなんて本当に嬉しいわ!」
「やっぱり、お知り合いだったのね」
ミランダ王妃が、にっこりと微笑んだ。
「そんな!」
セレナの不満そうな声だった。
「私の調査では、ネリ公国にアリアなどという魔法使いはいませんでした!」
セレナは頬を引きつらせながら、私をにらみつけている。
けれど、そんなセレナに、ミレーヌは穏やかに応じた。
「アリアは間違いなくネリ公国の魔法使いです。セレナさんは、私の言葉が信用できませんか?」
「……」
「セレナ、もういい。私の思った通りだろう。アリアさんは嘘などついていないんだ。そんなこと、はじめからわかっていたことだけれどね」
アレクシオ王子はそう言ってくれたが、私の中ではほんの少し、複雑な思いが残った。
王子、はじめからわかっていたと言われてますが、明らかに疑っていましたよね……。
もちろん私は、そんな言葉を口にすることはなかった。
「くっ!」
セレナだけは険しい顔をし、まだ私を睨み続けている。
ただ、セレナ以外の人たちの間には、すでに安堵の空気が漂い始めていた。
そんな中……。
「ゴホ、ゴホ、ゴホ」
アレクシオ王子が急に咳き込み始め、その場で片膝をついたのだった。
「王子、大丈夫ですか?」
慌てた声で、補佐官のシビルがすぐに駆けつけてきた。
王子はしばらく咳き込んでいたが、咳がおさまると、ついていた片膝を伸ばし、元のように立ち上がった。
「大丈夫だ、最近ちょっと喉の調子がおかしいだけだ。たいしたことはない」
「そうですか」
補佐官のシビルはホッとした顔で、高官たちが控える列へと戻って行った。




