2人で逃げましょう
(アメリアside)
絶体絶命のピンチに陥ってしまった。
アレクシア王子の言葉が私の頭から離れない。
「アリアさん、あなたは本当にネリ公国の人なのですか?」
とっさについてしまった嘘だったが、やはり簡単に見破られてしまう時がきた。
この先、私がアリアではなくアメリアだと暴かれてしまうのも、時間の問題だ。
王子と聖女セレナのダンスシーンが変わったぐらいで、私のストーリーは書き換えられないのだ。
ただ単に、物語の細かい部分が変わっているだけで、結局私は斬首刑に処せられる運命なのだ。
そして、斬首刑が執行されるまでの時間は……。
もうすぐそこまで来ているような気がする。
舞踏会を終え、宮廷から戻った私は、フラフラになりながらベッドに横たわった。
ずっと心配して家で待ってくれていたゼノンには、ろくに挨拶もしないまま部屋に入ってしまった。だからだろう、後からゼノンが部屋まで追いかけてきて、心配した顔で尋ねてきた。
「アメリア様、お城で何かあったのですね」
「もう駄目だわ」
「事情を説明してください」
私は舞踏会で起こった出来事をゼノンに伝えた。
聖女セレナの嘘を暴こうとしたら、逆に私の嘘が暴かれそうになってしまったことを。
「アレクシオ王子が、直々に私のことを調べるらしいの。もう終わりだわ……」
「そんな、終わりだなんて……、まだ出身国を誤魔化していると思われているだけです」
「でも、もう駄目よ。疑われた時点で終わりよ。すぐに正体が暴かれてしまうわ」
「まだ大丈夫です。対策を考えましょう」
ゼノンは私を安心させたいのたろう。前向きな意見を言ってくれている。
けれど……。
「これ以上、ゼノンに迷惑はかけられない。明日から私は、別の場所で身を隠します」
「別の場所って……」
ゼノンは一度口ごもってから、言葉を続けた。
「お一人で逃げるなんて、良い案には思えません。姿を隠せば、それこそ疑いは深まってしまいます」
「でも、ここにいても」
「僕は、どんな事があってもアメリア様をお守りします。本当にどうしようもなくなったときは、一人ではなく、僕と二人で逃げましょう」
「ありがとう。でも……」
「でも、なんて言葉は、もういいです。僕がアメリア様を助けてみせます」
17歳の真っ直ぐな気持ちが伝わってきた。
「ありがとう」
そう答えてから、ゼノンのために何かできることはないかと考えた。
いくらゼノンが助けると言ってくれても、それで簡単に私の運命が変わるとは思えない。
もう、ゼノンとも会えなくなるような気がしたので、感謝の意を込めて、彼に何かしてあげたいと思ったのだ。
「ゼノン、お腹すいていない?」
「え? あ、はい」
「夕ご飯食べていないのでしょ。今から私が作ってあげる」
「アメリア様が……、料理など、お出来になるのですか?」
「できるわよ。期待していてね」
私は、終始明るく振る舞いながら、晩御飯の支度をはじめた。
もともと日本で暮らしていたときから、料理と掃除は得意だったのだから。
今の私には、この位の事しかゼノンにしてあげられない……。
男の子の家の貯蔵庫に入っている食材などたいしたことないはずと、あまり期待していなかったが、数種類の野菜とベーコンを見つけることができた。
これだけあれば、なんとかなる。
本当はブイヨンがあれば、すごく美味しくなるんだけれども、そんなものはもちろんこの世界にはない。
旨味は、玉ねぎを黒くなるまでゆっくりと炒めて……。
ベーコンや野菜からも、おいしい出汁は出てくるはず。
あとは、塩コショウで味を整える。
そうして出来上がった野菜スープと黒パンを、テーブルに並べた。
「簡単に作ったものだけど、食べましょう」
「わあ、すごく美味しそうな匂いがしています」
「そう? 食べてみて」
小さなテーブルの向かい側に座るゼノンは、スープをスプーンですくい、それを口に運んだ。
じっと黙り込んでしまった。
あまり口に合わなかったのだろうか……。
「……美味しいです」
「ええ?」
「ものすごく美味しいです!」
ゼノンは目を見開きながら驚いた顔をしている。
「こんな美味しいスープ、食べたことがありません!」
ゼノンの顔を見ていると、お世辞ではなく本心で褒めてくれているのがよくわかる。
「ありがとう、そう言ってもらえると作ったかいがあるわ」
「アメリア様は、料理の天才ですね」
「それは褒めすぎよ」
自然と、食卓に笑顔があふれてきた。
料理を作り、それを美味しそうに食べてくれる人がいると、なぜか気持ちが晴れてきた。
さっきのゼノンの言葉も、力になっているのかも……。
「僕がアメリア様を助けてみせます」だなんて……。
映画でしか聞けないようなセリフを言われてしまった……。
まだ、死刑が執行されたわけではない。
可能な限り、運命を変える努力は続けていこう。
そのために、ゼノンの言葉に甘えて、もう少しここで暮らすことにしよう。
いつの間にか私は、そう思うようになっていた。




