49_妹と弟
「ゆかり。俺はお前の大事な兄を死にいたらしめた悪魔だ。
俺のことは放っておけばいいんだよ」
「......」
ゆかりは黙っている。
「それとも、肉体が兄のものだから、心配か。
傷だらけにしてしまった」
「違うよ、そんなんじゃない」
「ルイ......」
ゆかりは俺の手を握った。
「お兄ちゃんには、まだ会いたい。だけどルイはいつも優しくしてくれるから。
だから......」
ゆかりは俺の手を自分の頬に押し付けた。
「俺も妹が欲しくなったな」
もう一方の手でゆかりの頭をなでた。
「ルイには兄弟がいないの?」
「いるかもしれない。分からない。生まれてすぐに親と引き離される決まりだから」
「そんな」
「それが普通だから、なんとも思わない」
ゆかりは目に涙をためていた。
「ゆかりは、すぐに泣くよなぁ」
ゆかりの頬をこぼれ落ちる涙を指でぬぐってあげた。
「もう少し眠る。残念だけど、学校は休むことにする」
「私、カラスたちに餌をやってくるね」
ゆかりはそう言うと立ち上がった。
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玄関のチャイムの音がする。
もうろうとした頭で、上半身を起こす。
「もう10時か」
ひたいに乗せられていた布がパタッと落ちる。
ゆかりが乗せていてくれたのだろう。
「誰だ。チャイムを鳴らすのは!名を名乗れよ......」
ゆかりは学校に行ったようだった。
ふらふらとした足取りで1階に降り、玄関に近づく。
扉を開けるとそこに立っていたのは、グースだった。
律儀に、チャイムを鳴らして入ってくるところがグースらしい。
「ルイ!心配しました」
グースはそう言うと俺を抱きしめた。
「昨夜、あなたの痕跡が見つからなくなった。
オーラが弱いじゃないですか!なにかあったんですね?」
「グース、いつも俺を見張っていてくれたのか?」
グースは幼い頃から一緒に育ってきた。
弟のようなものだ。
人間界の妹がゆかりなら、グースは天界の弟だ。
グースをリビングに通した。
「清めの檻に閉じ込められた?やはりそうでしたか。見つからなくなるということはそれしか考えられないし」
「初めてワナにかかった。
本当にあの中では、何もできなくなるんだなぁ」
「無事でよかった。
どうやって逃げ出したんです」
「人間が助けてくれた」
「人間が!?」
リビングのソファにグースと並んで腰掛けた。
俺はグースにすべて話すことにした。
セルペリオールに言われたこと。
ミーネのこと。
あと4ヶ月で敵の本拠地をつきとめること。
ミーネが有理を狙っていること。
自分が灰になって、契約を無効にするつもりだということだけは、話せなかった。
そんなことを話せば、グースは悲しむだろう。
「ルイ。大変なことになっているじゃないですか。
だから言ったんです。人間に憑依するなんて止めたほうが良いって」
「もう、今さら遅い。運命は別の道をすすんでしまった」
「......」
グースはしばらく考え込んでいた。
「そうだ!今日は、これを持ってきたんです」
グースは麻袋から、ガラス瓶を取り出した。
「あなたが40年前に契約した魂です。
この魂は、あなたが天界にいないから、行き場をなくしていましたよ。
煉獄をさまよっていたのを、私が捕まえました」
「そうか」
俺は瓶を受け取った。
瓶に手をかざして目を閉じる。
「金持ちになりたいと言った人間だな。よくある願望だ......」
「私はこの魂の契約者ではないので、手出しができませんでした。
だから加工もできてないですけど」
グースは真剣な様子で俺を見つめた。
「ルイ。加工してない魂ですけど、別にかまわないでしょう?
早く、それを体に取り込んでください。
あなたはしばらく魂を養分にしていない。
弱ってきているのが目に見えて分かります。
そんな状態じゃ、ミーネを打ち破るなんて無理ですよ?」




