2_闇の主にして魂の破壊者
あの少女と出会ってからというもの彼女の様子を見守ることが、すっかり習慣になっていた。
彼女の名前は北条有理
弟は元気に走り回っている。
障がいを引き受けた彼女は、つねに足を引きずって歩いている。
ある朝起きると、弟の足は治っており、
その代わりに姉の足がおかしくなっていた。
医者に行っても、原因不明。
母親は困惑していた。
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有理は強い子どもだった。
小学校の運動会でクラスメイトに
「有理のせいで、うちのクラスはリレーで負けた」
と言われた。
でも有理は
「あたしは死ぬ気で走った。みんなはどうなんだ」
と同級生に言い返していた。
中学校ではいじめられている同級生をかばっていた。
「仲間はずれはダメだ」
と叫んだ。
有理はとにかく正義感が強いのだ。
彼女は障がい者となった。
しかし、彼女はしっかりと前を向いて生きていた。
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有理は高校生になっていた。
彼女はアルバイトをしていて、いつも帰りが遅かった。
その夜、俺は占いの結果と自分の予感に従い、「何かが起きる」と予想した。
有理を見張った。
有理の運勢が非常に悪かった。
予想通り。
彼女は夜の公園でガラの悪い連中に絡まれていた。
連中は足の悪い彼女に乱暴する気だった。
有理は懸命に男の腕に噛みつき抵抗していた。
俺は震えた。
有理が大変な目にあっている。
もう見ていられなかった。
人間界に降り立った。
俺は、実体化した。
人間たちと闘うためだ。
「お前たち、やめておけ」
有理を背中に隠して奴らから、かばった。
「何だお前、外人か?どこから現れた?」
一人が驚いて俺を見る。
「俺は闇の主にして魂の破壊者セルパン。
その名もルイだ。覚えておけ。
お前らの死後、その魂を見つけ出し必ずや破壊する」
奴らに向かって指をさす。
俺の決めゼリフだった。
「なに言ってんだコイツ、中二病か?」
奴らは俺を指さして大笑いした。
なぜ奴らは笑う?
何がおかしいのか、分からなかった。
「やんのか?今なら面白さに免じて見逃してやるけど?」
一人が俺に尋ねた。
人間同士が素手で目玉をえぐり合うような、血なまぐさい戦をしていたころから、俺は生きている。
戦乱のなかで依頼者と何度も、やりとりをしてきた。
さらに俺には、攻撃力を増大させる特殊能力があった。
以前に、古武道の達人の魂を養分にしたときに、たまたま身についた能力だ。
だからケンカは得意中の得意だった。
「お前たちこそ、生きながらにして地獄を見ることになるぞ?」
「笑わせんな」
奴らは、なにか叫びながら、俺に飛びかかってきた。
相手の前蹴りを手でしなやかに払う。
すると相手は受け流された勢いで、俺に背中を向けた。
すばやく後ろから首を絞めながら、接近してきたもう一人に目打ちする。
首締めした相手が気を失ったので、地面に転がし
目打ちをした相手に、顔にパンチを打つフェイントからの金的蹴り。
それから、もうひとりの回し蹴りを余裕で避けて、相手の耳を掌底で叩き、思い切りひっぱる。
耳と目は人間にとってけっこうな弱点なのだ。
ナイフを出して飛びかかってきたバカがいた。
攻撃を腕で阻止しながら、相手の側面に入ることで自分の正中線を守る。
ナイフを握った手を小手返し。
相手を転がし、みぞおちを踏みつけた。
かなりのダメージを与えた。
4人の男はうずくまって戦意を喪失した。
「二度とこの子に手を出すな」
有理の手を握る。
「走れるか」
「大丈夫。この人たち」
有理は襲われたのに相手の心配をする。
「死なないし障がいも残らない。
だけど逃げずに、これ以上闘うなら、手加減は難しい」
俺と有理は、逃げた。
彼女に合わせてゆっくりと走った。
「足痛まないか?」
人通りが多い駅前で、有理に聞いた。
有理は質問には答えず、俺の顔を覗き込んだ。
「ありがとう。助かった。名前はルイ?」
「もう暗い道を一人で歩くな」
俺も彼女の質問に答えなかった。
有理との会話はまったく噛み合っていなかった。
だけど俺は有理と言葉が交わせてすごく幸せだった。




