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捨子の嫁ぎ先  作者: ちゃろの助
本編
12/16

○花嫁 ー 10

よろしくお願いいたします!!


夕食を問題なく食べ終わって、私は私室のベッドにダイブした。


今でもはしゃぐ気持ちが抑えられない。



彼との婚約。



夢にまでみたことが、現実となっていることは、今でも信じ難い。



陛下の私室での一連の流れを思い出し、自然と笑みが漏れた。




⋯⋯と、そこで、私ははっとする。


思わず身を起こし、顔を手で覆った。





───キスを、してしまった。





もちろん先程も、キスしてしまったことへの恥ずかしさや嬉しさはあった。

しかし、そうではなくて。




何回もの軽い口付けと、一回の情熱的な口付け。




恐怖と気持ちよさから始まり、あまりの嬉しさに停止していた思考が、やっと動きはじめた気がした。



──淑女たるもの、あんなふうに声を上げてはならない。

──陛下を引き止めるのは、不敬である。

──抱きしめるなんて、もってのほかだ。



さぁっと、血の気が引くのが分かった。




⋯⋯どうしよう。




彼との婚約を破棄されたら。

この城に居るなと追い出されたら。

この国から出ていけと言われたら。



私は生きていけない。



慌てて身だしなみを整えた。


陛下に謝罪しなければ。

婚約はともかく、せめて国から追放されぬよう。

あわよくば、城に残らせてほしいと。



夕食の時の彼の様子は、どうだっただろう。

別段不機嫌な感じはしなかったけれど、実はとても怒っていたかもしれない。



「ローラ!」


名前を呼んですぐさまここに来てもらうと、早速、


「陛下に、これからお時間があるか、お聞きして」


そう言った。


「かしこまりました⋯⋯が、どうかしましたか?」


心配そうに首を傾げる彼女を見て、「ううん、謝罪をしたいだけ」。そう言い安心してもらおうとする。


しかし、それは逆効果だったようだ。


「しゃ、謝罪!?まさか、婚約を断ったり⋯⋯っ?」


そんなはずは、いやでも、とぶつぶつ言いながら、うろうろするローラはいつになく落ち着きがない。


「婚約、断わるわけないじゃない。逆だよ、逆」


苦笑しながら、そう言った。


「逆⋯⋯?」


ぽかんとした様子のローラは、瞳を揺らして、


「と、とりあえず、陛下にお伝えしてきますね」


駆け出していった。


⋯⋯城を追い出されて、もう二度と会えなくなるかもしれない。

寂しさを抱えて、またもやベッドに横になる。


こんなことも、淑女としてはいけないことなんだろうな、と思いながら。









────ダンダンダン、と、扉を叩く音がした。


「おい、入るからな」


そう言って入ってきたのは、まぎれもない王。

アルヴィルトだった。



「え⋯⋯っ!?」



ぱちくり、と瞬きをする。

なぜ、彼がここに?


私は単に、お時間があるかどうかを聞いてほしかっただけなのだが。



───もう、ローラ、どうしてここに陛下がきているの⋯⋯っ!?



ああぁ、と内心頭を抱えながら、


「陛下、お手間をとらせてしまい申し訳ありません。どうぞお座り下さい」



そう促した。


うんともすんとも言わずに、陛下はソファに座る。


心臓がばくばくと、うるさく鳴っていた。


まず、一日の会話量が、今日だけ尋常ではない。

陛下とはこの一年間、まともな会話をしていなかったというのに。


「なんの用だ」


そう言い私に向けられた目は、少々の不機嫌さを滲ませていた。


「も、申し訳ありません。謝罪を、させて頂きたく思い⋯⋯っ!?」



最後まで言い終わるのを待たず、陛下は私の腕を掴んで引き寄せた。


「なにについての謝罪だ?」


確かな苛立ちを隠そうとせず、眉間に皺を寄せる陛下は、それでも美しい顔をしている。


「そ、その、食事の前にありました、陛下の私室での行動につきまして⋯⋯」


おずおずと言うと、更に眉間の皺が濃くなっていた。

不機嫌さは増すばかりだ。


「それがなんだ。まさか、婚約を破棄したいなどとほざくわけではないだろうな?」


ぐ、と掴む手に力が入る。

痛みに顔を歪めれば、そのまま私を、自分の胸へと引き寄せた。


「おまえのことは離さないと、先も言っただろう。二度も言わせるつもりなのか」


耳元でそう言われると、息が耳にかかり、心地良い低音が直に聞こえる。

ぞくりと背筋を震わせると、面白そうにくつくつと笑った。


「なあ。おまえはこの城に、俺に縛られるんだ。逃げられると思うな」


首に熱いものが触れたと思いきや、ちりっとした痛みが走る。


「っ!」


その熱いものが、陛下の、彼の唇と気づいたのは、私が赤面すると同時。

真っ赤になった私を見て、もう一度彼は笑った。

そして、


「ゆっくり寝ろ。明日も食事は共にする」



その言葉を残して、部屋を出ていった。





⋯⋯信じられない。

あの、あの彼が。


私に無関心で、冷たかった彼が。

私にゆっくり寝ろだなんて。


それに、婚約も破棄されなかった。




『この城に、俺に縛られるんだ。逃げられると思うな』




縛られる?

とっくに縛られている。

逃げられると思うな?

逃げなどしない。



私はあなたから、離れられないから。

離れたら、生きていけないから。



涙が零れたのは、国から追い出されず安心したからだろうか。


それとも、この想いを彼がいまだ分かってくれず⋯⋯

哀しかったからだろうか。



ありがとうございました!!

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